新自由主義
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新自由主義(しんじゆうしゅぎ、英:neoliberalism、ネオリベラリズム)とは、国家によるサービスの縮小(小さな政府、民営化)と、大幅な規制緩和、市場原理主義の重視を特徴とする経済思想。資本移動を自由化するグローバル資本主義は新自由主義を一国のみならず世界まで広げたものと言ってよい。18世紀イギリスの思想家アダム・スミスが『国富論』で主張し、20世紀に入って理論的代表者にフリードリヒ・ハイエクがいる。
国家による富の再分配を主張する自由主義(英:liberalism、リベラリズム)や社会民主主義(英:Social Democracy)と対立する。
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[編集] 変遷
第二次世界大戦後、1970年代頃まで、先進諸国の経済政策はリベラリズム(ケインジアン)が主流であった。これは、伝統的な自由放任主義に内在する市場の失敗と呼ばれる欠陥が世界恐慌を引き起こしたとする認識のもと、年金、失業保険、医療保険等の社会保障の拡充、公共事業による景気の調整、主要産業の国有化などを推進し、国家が経済に積極的に介入して個人の社会権(実質的な自由)を保障すべきであるという考え方である。
このような、大きな政府、福祉国家と呼ばれる路線は、1970年代に入り石油危機に陥るとマネタリストやサプライサイダー(供給重視の経済学)からの批判にさらされる。当時、英国は英国病と揶揄された慢性的な不況に陥って財政赤字が拡大し、米国でもスタグフレーションが進行し失業率が増大した。こうした行き詰まりの状況を生み出した責任が、国家による経済への恣意的な介入と政府部門の肥大化にあるという主張である。
こうして1980年代に登場したのが新自由主義である(ハイエクの新自由主義論:1986年)。その代表例が、英国のマーガレット・サッチャー政権によるサッチャリズム、米国のロナルド・レーガン政権によるレーガノミクスと呼ばれる経済政策であった。サッチャー政権は、電話、石炭、航空などの各種国営企業の民営化、労働法制に至るまでの規制緩和、社会保障制度の見直し、金融ビッグバンなどを実施。グローバル資本主義を自国に適用して外国資本を導入、労働者を擁護する多くの制度・思想を一掃した。レーガン政権も規制緩和や大幅な減税を実施し、民間経済の活性化を図った。同時期、日本においても中曽根康弘政権によって電話、鉄道などの民営化が行われた。
1990年代に入ると、日本では小沢一郎が、著書「日本改造計画」で、新自由主義の思想を集約した。「日本改造計画」では、小選挙区制の導入、市町村の全廃と300市への収斂などが述べられている(ただし、現在では小沢一郎も新自由主義に反対の立場を明確にしている)。又、ビル・クリントン政権の経済政策、いわゆるワシントン・コンセンサスに基づくグローバリゼーションは、新自由主義の典型と言われた。1990年代以後に現れた、韓国の金大中政権や、日本の小泉純一郎政権の政策も、新自由主義の典型である。
20世紀末の西ヨーロッパでは、新自由主義の台頭を受け、イギリス労働党のトニー・ブレアが唱え、公正と公共サービスの復興を訴える第三の道に代表される「新しい社会民主主義」と呼ばれる中道左派政党を含む政権が台頭した。
フランスではインターネットに代表されるグローバリゼーションの功績を認めた上、アルテルモンディアリスムの試みが進められている。
中南米では左傾化が覆い尽す勢いで、アルゼンチンのキルチネル政権、チリのバチェレ政権、ブラジルのルラ政権、ウルグアイのバスケス政権、エクアドルのガルシア政権、ペルーのガルシア政権などの中道左派ばかりか、ベネズエラ、ニカラグア、ボリビアで反米左派政権が誕生し、アメリカ合衆国との経済統合に難色を示している。
[編集] 評価
「社会といったものはないThere is no such thing as society」と説き、国家に対する責任転嫁をいましめたサッチャーの下、自助の精神が取り戻されたという評価や、以下の各国に共通した双子の赤字の課題を残しつつも、英国が英国病を克服したこと、米国が石油危機に端を発するスタグフレーションを脱し、1990年代にはクリントン政権下でインターネットなどの新産業が勃興して産業競争力を回復したこと、南米ではブラジルが1990年代までの深刻なインフレの制圧に成功しブラジル通貨危機までの安定成長を遂げていることなどは、グローバル資本主義、新自由主義の功績であると評価する説がある。
この立場においては、日本でも、小泉政権の下、国・地方の借金が1000兆円を超えるような状況のなか、結果として国債残高が381兆円から626兆円に拡大したものの、なるべく国の関与を減らしていく新自由主義的な政策が避けられなかったとされ、また新自由主義的な政策の成果として経済の供給面が強化され、円安による輸出部門の好調の下、2002年以降の高い経済成長率につながったとされる評価が大勢を占めている[要出典]。
[編集] 批判
[編集] 各国での批判
以下、グローバル資本主義は米国多国籍企業による世界経済支配を拡大させたとの批判がある。労働者に対する責任転嫁は格差社会を拡大したとの批判もあり、また新自由主義的な政策で国民経済が回復した国は存在しないとする説もある。債務国の再建策として新自由主義的な経済政策を推し進めていたIMFも、2005年にその理論的な誤りを認めている。
南米では、1990年代初頭から米国主導による新自由主義の導入が積極的に行われ、貧富差が拡大、犯罪多発や麻薬汚染、経済危機といった社会問題が頻発、ストリートチルドレンの増加やアルゼンチンの財政破綻が起こった。また、ベネズエラのチャべス政権のような左派政権を南米で相次いで誕生する原因にもなった。
韓国では、金大中政権下で20万人以上もの人々が失業し、事実上「刑死」(失業による自殺)に追い込まれた者も多い。「左派新自由主義」を自称する盧武鉉政権でも、格差が更に広がり、経済が回復しても、正規雇用が増えずに非正規雇用が増加する「両極化」が大きな社会問題とされている。
世界で最初に新自由主義を始めたイギリスでは、サッチャー政権のもと、失業率と所得格差が増大し、保守党 (イギリス)党首デービッド・キャメロン党首が、サッチャリズムを自己批判し、第三の道への政策転換を表明した。
[編集] 民営化批判
国営事業の民営化は、貧困層の排斥とサービス低下などをもたらすとの批判がある。たとえば、南アフリカ共和国においては、巨大な貧困層を抱えるのにも係わらず水道料金が上昇したために水道料金を払えない世帯が続出、アトランタ市(米国)においては、水道管の点検と交換がままならなくなり、銹びた水が噴出して、ペットボトルが必需品となったといわれる。ニュージーランドにおいては、一旦郵便・電力・航空事業の民営化が行われたものの、再国営化が行われた業種(郵便貯金)もある。イギリスにおいては、英国鉄道は利益を優先し施設管理への投資を怠ったため、多くの重大な鉄道事故を引き起こし、経営も悪化し2002年に倒産、再国有化・非営利法人化などが検討されている。
また「国民の生存権の保障」を「営利事業」に変えたとの批判がある。従来官が担っていた準公共財の供給事業が「民(=大企業)」に開放され、ことに障害者をサービスを受ける「消費者」と見なしている(2005年10月6日、参議院厚生労働委員会、中村秀一厚生労働省社会・援護局長答弁)との指摘がある。
尚、新自由主義における自助の強調は、無政府資本主義に接近するとの指摘がある。
[編集] 関連項目
- 資本主義
- 自由主義
- 新保守主義
- リバタリアニズム
- アナキズム
- 反共主義
- グローバル資本主義
- 帝国主義論
- 労働運動
- 社会ダーウィン主義
- 格差社会
- アルテルモンディアリスム
- 旧自由党
- 小沢一郎
- 小泉純一郎
- 竹中平蔵
- ヒルズ族
- 光クラブ事件
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