プレカリアート
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プレカリアート(英precariat、仏précariat、伊precariato)とは、「不安定な」(英precarious、伊precario)という形容詞に由来する語句で、新自由主義経済下の不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者および失業者の総称(国籍・年齢・婚姻関係に制限されることなくパートタイマー、アルバイト、フリーター、派遣労働者、契約社員、委託労働者、移住労働者、失業者等を包括するカテゴリー)。また、貧困を強いられる零細自営業者・農業従事者等を含めることも。ただし、互いの生を貶めあう際限なき生き残り競争へ駆り立てる新自由主義経済下、自らの不安定な「生」を強いられながらも、その競争への参加を「放棄」する人々は、上記のカテゴリーにとらわれることなく包摂されうる。プロレタリアートと語呂を合わせることで、新自由主義における新貧困層の現実との向き合い方を示している。イタリアでの落書きから始まった言葉と言われる[1]。
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[編集] 歴史
失業や貧困による社会不安から第二次世界大戦という悲劇が生まれたことを反省して、欧米諸国や日本などでは戦後ケインズ的な政策を採用することにより完全雇用の達成を目指した。しかし、機械化により1970年代頃から単純労働力への需要が減少し、また高学歴化が必ずしも経済界の求める人材の養成につながらなかったこともあり、失業率が増大するようになった。さらに1980年代以降グローバリゼーションが進展すると、大企業はより安い労働力を求めて先進国から発展途上国へと工場を移すようになり、正規雇用がますます減少する結果となった。このため、正規雇用を獲得できない層が増加しており、社会問題化している。
[編集] 問題点
失業者よりは非正規雇用でも就業しているだけましではないかという議論も散見されるが、将来に常に不安をかかえた生活を余儀なくされる点では大差がない。特に日本やアメリカ合衆国など社会保障の割合が小さく、自己責任の割合が大きな社会では、最低限の生活水準さえも保障が期待できないことが少なくない。この結果として、以下のような問題が発生する。
- 所得格差の拡大(非正規雇用はその多くが低賃金であるため)
- 結婚や出産の減少、離婚の増加(子育てする資金的な目処が立たないため) > 少子高齢化
- 中流階級の没落により、高等教育を受けられない層の増加
- 階級の固定化
- 不満の捌け口としての極右(ドイツのネオナチやフランスのジャン=マリー・ルペン、イタリアの北部同盟、イギリスのナショナル・フロント(国民戦線)、アメリカの宗教右翼、日本のネット右翼など)の台頭
[編集] 関連項目
[編集] 註
- ↑ ロナルド・ドーア (Ronald P. Dore) 著, 石塚雅彦訳『働くということ --- グローバル化と労働の新しい意味』 (原題 New forms and meanings of work in an increasingly globalized world), pp.107-108. 2005年4月 中央公論社刊. ISBN4-12-101793-5.
[編集] 外部リンク
- Génération Précaire(フランス語)