静岡鉄道駿遠線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
駿遠線（すんえんせん）は、かつて静岡県中部、藤枝市の大手駅から東海道本線藤枝駅を経由し（駿遠線は新藤枝駅）、駿河湾西岸、御前崎付近及び遠州灘北東岸を回って袋井市の東海道本線袋井駅（駿遠線は新袋井駅）を結んでいた静岡鉄道の鉄道路線。軌間762mmの軽便鉄道。線名は駿河国と遠江国を結ぶことから付いた。なお、大手～新藤枝間を大手線として区別することもある。
元は藤枝からの藤相鉄道と袋井からの中遠鉄道が、静岡電気鉄道（後の静鉄静岡清水線）など他の運輸事業者と戦時統合して静岡鉄道となり、戦後に藤相・中遠両鉄道の末端部をつないで一本の路線としたものである。その結果、大手～新藤枝～新袋井は全長64.6kmと、軽便鉄道としては日本最長規模になった。
その複雑な生い立ちと長大さから、使用される車両も静岡鉄道自社製を中心に種々雑多で、鉄道ファンには人気の高い路線だったが、モータリゼーションの荒波に抗し切れず、また老朽化した大井川橋梁の架け替えに多額の費用を要することから、全通からわずか16年後の1964年（昭和39年）より区間廃止が始まり、1970年（昭和45年）8月1日付けで全線廃止された。
目次 |
[編集] 路線データ
※駿遠線全通時のデータ
[編集] 歴史
[編集] 構想
藤枝は東海道五十三次以来の宿場町であったが、明治に入って開通した東海道本線の駅は街外れに設置されることとなった。加えて、当時東海道本線の乗り入れで活況を呈しはじめた焼津から南下して相良、遠州横須賀を経由し中泉（現・磐田市）に至る軽便鉄道「駿遠鉄道」の構想があり、交通要所からの転落に焦る藤枝にとって、この構想に打ち勝つことは正に焦眉の急であった。そこで駿遠鉄道に対抗すべく出願されたのが、藤枝と相良方面を結ぶ「藤相鉄道」である。同時期に中遠南部でも、焼津の資本が進出してくることに危機感を覚えた地元住民により、袋井からの「中遠鉄道」を発起した。藤相・中遠とも、起点を駿遠鉄道計画の焼津に対して藤枝、磐田に対して袋井と換えている。
[編集] 実現されなかったルート
袋井駅から袋井市旧浅羽町の諸井、富里を通り、磐田市旧福田町の中野、福田へ行くルートも計画されたが、実現されなかった。
- その後、静岡鉄道（現:しずてつジャストライン）が袋井駅～福田間をバス路線として運行したが、1986年(?)前後に廃止された。そのため、磐田市福田、豊浜地区から袋井駅へ行くには、遠鉄バスで磐田駅へ行き、そこから東海道線に乗って行くというかなり遠回りしなければならなくなった。2006年4月に、1日3往復程度だが袋井市営バス（メローバス）が袋井駅まで延長したため、磐田市豊浜から袋井駅まで直通で行けるようになった。しかし、1時間かかるのが欠点である。
[編集] 開業と延長
藤相鉄道の測量・工事は順調に進んだ。一方で駿遠鉄道は、かなり藤相鉄道と競り合ったものの社内の内紛などもあって測量もろくに行われず、結局は会社自体が消滅することになる。藤相鉄道がまず手掛けたのは、藤枝駅と藤枝市街を結ぶ「大手線」区間で、これは1913年に開業した。続く路線は東海道本線をオーヴァークロスし、大井川に迫るが、渡河予定地点は大井川河口に近く、川幅は約1kmあり、すぐの架橋は費用の上で困難だった。このため取り敢えず大井川南岸の大幡～細江を1915年5月に先行開業し、大井川は徒歩連絡とした。その半年後には大井川区間を人車軌道で「仮開業」する、との苦肉の策を打ち出している。大井川架橋が難航する間にも、大井川南岸での路線延長ははかどり、遠州川崎町（後に榛原町）へ、相良へと区間開業を重ねた。大井川の鉄道架橋が正式に開業したのは、大正も末の1924年のことである。ガーターは鉄製だが、橋脚は木製だった。
同じ頃、中遠鉄道も新袋井～新横須賀を開業させているが、こちらは沿線に越えるべき大河もなく、工事はスムーズであった。この後しばらく中遠鉄道の延長は途絶えるが、大正末期に南大坂へ延長し、また新袋井での国鉄との連絡を改善している。昭和に入って1927年、新三俣まで延長され、戦前の中遠鉄道線は全通した。藤相鉄道も1年前に地頭方まで延長しており、両鉄道の末端同士は15.3kmにまで迫った。
[編集] 戦時統合
大正末期から日本各地ではバスの進出が著しく、蒸気機関車に頼っていた中小鉄道は苦境に立たされた。藤相・中遠両鉄道も例外ではなく、特に中遠鉄道は深刻であった。このため両社は相次いでガソリンカーを導入、速度の向上で業績好転を図った。しかし1929年の世界恐慌後は両社とも業績が下降、やがて大東亜戦争下の1943年に打ち出された戦時統制により、藤相・中遠両鉄道は、静岡電気鉄道、静岡乗合自動車、静岡交通自動車とともに戦時統合の対象となり、「静岡鉄道」が誕生する。旧・藤相鉄道は同社の藤相線、旧・中遠鉄道は同社中遠線となった。
[編集] 戦後の混乱と駿遠線全通
終戦後、両線沿線部には都市部からの買出し客が殺到した。元々農漁業とも盛んな地域のため、食糧を仕入れるには絶好だったのである。戦前の苦境が嘘のように、両線は超満員が続いた。両線とも空襲の被害を受けなかったことから、車輌は確保されていたが、それでも総動員体制だったといわれる。
この頃から、両線を結ぶ構想が持ち上がった。形を変えた「駿遠鉄道」の実現である。両線とも軽便鉄道であり、規格もそう違わないことから話は進み、区間開業を経て1948年に両線は結ばれ、新たに「駿遠線」と呼ばれることになった。なお旧・藤相鉄道は、1925年に大手から北東へ伸びて駿河岡部（現・岡部町域）に達する延長を行ったが、同区間は11年間運行しただけで戦時合併前に廃止されているため、駿河岡部～大手と大手～新藤枝～地頭方～新袋井は、同時には存在していない。
[編集] 衰退と終焉
戦後の混乱が明け、日本の高度経済成長が始まると同時に、モータリゼーションが鉄道に襲いかかった。特に鉄道の利点である大量・高速輸送の点で欠陥を持つ軽便鉄道は脆く、1950年代後半から1960年代にかけ、次々に姿を消していった。
駿遠線の場合は、最後に開通した区間の沿線人口が少なく、また藤枝～袋井では遠回りな線形で時間もかかることから、乗り通す客は鉄道ファン以外まず居ない状況で、旅客需要よりは貨物や車輌の遣り繰りを考えての延長であった。ところが、貨物輸送がトラックへ移行し、また車輌の件を考慮しても全線保持は採算に合わなくなっていった。このため、まず1964年に藤枝市街区間の大手線と、ほぼ戦後開通区間と重なる堀野新田～新三俣が廃され、駿遠線全通時代は16年間で幕を閉じた。その3年後には新三俣以西が全廃となり、旧・中遠鉄道の区間は完全に消えた。相前後して駿遠線では、軽便鉄道の新しい形を模索しようと、軽便では異例の大きさと出力を誇るディーゼル機関車、DD501を1965年に自社新造するなどしたが、もはや趨勢を押し戻すことはできず、この機関車も1輌のみの製造に終わり、しかもわずか5年の生涯であった。
またこの頃、架橋から40年余を経た大井川橋梁の架け替え問題が浮上する。時代柄、新しい橋をも木製橋脚にはできないことから、費用面でもめた末、結局は1968年、大井川以南を一気に廃止、残るはわずか6.3kmとなった（老朽橋脚の架け替え問題から廃止になった鉄道には、他に北陸鉄道金名線などがある）。駿遠線は大井川以南の区間からの利用者が多かったこと、そしてここまで小路線となったことで存在意義は失われ、遂に1970年7月31日を限りとして、静岡県最後のナローゲージは終焉を迎えた。
[編集] 年表
Tは藤相鉄道、Cは中遠鉄道についての記事
- T 1911年（明治44年）8月 藤相鉄道、蒸気動力で免許取得、設立
- C 1911年（明治44年）10月 中遠鉄道、蒸気動力で免許取得
- C 1912年（大正元年）8月 中遠鉄道設立
- T 1913年（大正2年）11月16日 大手～藤枝新（後に新藤枝） 間 3.9kmが開業
- C 1914年（大正3年）1月12日 新袋井～新横須賀 間 10.3kmが開業
- T 1914年（大正3年）9月3日 藤枝新～大井川 間 6.3kmが開業
- T 1915年（大正4年）5月1日 大幡～細江 間 6.4kmが開業
- T 1915年（大正4年）9月18日 細江～遠州川崎町 間 1.8kmが開業
- T 1915年（大正4年）11月 大井川～大幡 間 が仮開業
- T 1918年（大正7年）5月16日 遠州川崎町～相良 間 6.0kmが開業
- T 1924年（大正13年）4月4日 大井川～大幡 間 1.6kmが正式に開業
- T 1925年（大正14年）1月16日 駿河岡部～大手 間 4.8kmが開業
- C 1925年（大正14年）4月7日 新横須賀～南大坂 間 6.0kmが開業
- T 1926年（大正15年）4月27日 相良～地頭方 間 5.9kmが開業
- C 1927年（昭和2年）4月1日 南大坂～新三俣 間 1.0kmが開業
- C 1929年（昭和4年）4月 中遠鉄道、内燃動力併用認可を取得
- T 1931年（昭和6年）12月 藤相鉄道、内燃動力併用認可を取得
- T 1936年（昭和11年）6月25日 駿河岡部～大手 間 4.8kmを廃止
以下、静岡鉄道についての記事
- 1943年（昭和18年）5月15日 藤相鉄道、中遠鉄道、静岡電気鉄道などが戦時統合して静岡鉄道となる
- 1948年（昭和23年）1月20日 新三俣～池新田（後に浜岡町） 間 8.2kmが開業
- 1948年（昭和23年）9月8日 地頭方～池新田 間 7.1kmが開業。大手～新藤枝～新袋井全通に伴い、藤相線及び中遠線を併せて駿遠線と改称
- 1964年（昭和39年）9月27日 大手～新藤枝 間 3.9km及び堀野新田～新三俣 間 13.1kmを廃止
- 1965年（昭和40年） BB型のディーゼル機関車、DD501を新製
- 1967年（昭和42年）8月28日 新袋井～ 新三俣間 17.4kmを廃止。旧・中遠鉄道区間全廃
- 1968年（昭和43年）8月22日 大井川～堀野新田 間 23.9kmを廃止
- 1970年（昭和45年）8月1日 新藤枝～大井川 間 6.3kmを廃止。全線廃止
[編集] 使用車両
- キハD8 日本車輌製
- キハD17 静岡鉄道製 両端式の二枚窓車
- DB601 静岡鉄道製 蒸気機関車改造のディーゼル機関車で、「蒙古の戦車」と称された 前進4段後進1段の機械式変速機を搭載していたが逆転機を持たなかったので、終端では蒸汽時代からのターンテーブルを使用して転回していた。一方向にしか走れないため、「イノシシ機関車」とも呼ばれた
- DD501 静岡鉄道製 軽便鉄道では珍しいBB型ディーゼル機関車で、大きさも最大級 出力188馬力のいすずDH100TP型ディーゼルエンジンに新潟コンバータ製DB115型液体変速機（DF115の後継機）を搭載した液体式DLだった 廃車後、エンジンは漁船に転用された
[編集] 駅一覧
- 大手駅 - 慶全寺前駅 - 藤枝本町駅 - 瀬戸川駅 - 新藤枝駅 - 高洲駅 - 大洲駅 - 上新田駅 - 大井川駅 - 遠州神戸駅 - 上吉田駅 - 根松駅 - 細江駅 - 静波駅 - 榛原町駅 - 片浜駅 - 太田浜駅 - 相良駅 - 新相良駅 - 波津駅 - 須々木駅 - 落居駅 - 地頭方駅 - 堀野新田駅 - 玄保駅 - 遠州佐倉駅 - 桜ヶ池駅 - 浜岡町駅 - 塩原新田駅 - 合戸駅 - 千浜駅 - 国安海岸駅 - 西千浜駅 - 新三俣駅 - 南大坂駅 - 谷口駅 - 野賀駅 - 野中駅 - 河原町駅 - 新横須賀駅 - 七軒町駅 - 石津駅 - 新三輪駅 - 新岡崎駅 - 五十岡駅 - 浅名駅 - 芝駅 - 諸井駅 - 柳原駅 - 袋井駅
藤相鉄道時代の廃止区間
- 駿河岡部駅 - 構内駅 - 八幡橋駅 - 水守駅 - 農学校前駅 - 大手駅
[編集] 接続路線
[編集] かつて駿遠線が通っていた自治体
2005年10月現在。運行当時の自治体名とは必ずしも一致しない。
[編集] 廃線跡
- 旧藤相鉄道区間の路盤跡の多くは、静岡県道375号静岡御前崎自転車道線の一部として転用されている。
- 旧中遠鉄道区間については、袋井駅からしばらくは県道の拡幅用地とされている。袋井駅の線路敷自体は駐車場となり、往時をしのばせる。
- 新幹線が県道をまたぐ地点には「駿遠線架道橋」と名前がつけられている（路線廃止前に建設されたため、新幹線とすれ違う姿も見られた）。
- 旧浅羽町区域では、袋井市浅羽支所付近まで自転車道として整備されている。ところどころに、廃線跡であることを示すプレートが埋められている。
- 浅羽支所より先は、同じく自転車道として整備されているが、こちらはただアスファルト舗装しただけとなっている。
- 五十岡駅、石津駅のホームが残っている。近年まで新三輪駅のホームも残っていたようだが、堤防改修時に撤去された模様である。
[編集] 外部リンク
書籍
 |
この「静岡鉄道駿遠線」は、鉄道に関連した書きかけ項目です。 この記事を加筆・訂正などして下さる協力者を求めています。（ポータル 鉄道/ウィキプロジェクト 鉄道） |
