避妊
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避妊(ひにん、birth control, contraception)とは、技術や方法、避妊具などの道具、避妊薬などの薬、手術など、さまざまな手段を用い、受精もしくは受精卵の着床を妨げて、起こりうる妊娠、望まぬ妊娠を避けることの総称である。
人間は生殖以外に親愛の情からも性行為を行うが、倫理的・経済的・社会的理由から無制限な妊娠・出産は負担になることが多い。また、性器の結合や射精・オーガズムなどの官能的快楽の欲求を満たすためだけに性交を行う場合が最も多く、妊娠を避けながら性行為を行う手段「避妊」が必要とされる。
避妊は様々な方法があり、それぞれ程度の差はあるが、完全な避妊法は存在しない。卵管結紮やパイプカット等の手術でも妊娠の可能性はわずかながら存在する。このため、いくつかの方法を併用することが推奨されている。
古くから行われているが、第二次世界大戦以前までは、避妊の知識も少なく確実性も低かった。日本では戦後に普及し始め、教育機関では性教育の一環として避妊を教える所もあるが、これには賛否両論がある。
アフリカなどでは、児童就労を目的とした出産や、医療の進歩、戦争や部族間の抗争が減っているが、避妊知識や避妊具の普及が遅れているため、人口の急激な増加の原因のひとつになっている。望まない出産の増加は貧困を助長し、出産後すぐ子供を自ら死に追いやったりするなどの社会問題が起きている。また、アフリカではもとより貧困家庭が多く避妊具は高価であり、その普及を遅らせている要因の一つになっている。
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[編集] パールインデックス
完全な避妊法は存在しないが、そこで議論されるのが避妊の効果である。パールインデックス(PI)は、それを示す一般的な方法である。
パールインデックスとは、ある避妊法を一年間用いた場合に、避妊に失敗する確率(厳密な定義ではないが、妊娠する確率ともいえる)をパーセントで示したものである。例えば、ある避妊法のパールインデックスが3パーセントの場合、その避妊法のみを一年間使った女性のうち3パーセントの人数が妊娠するということになる。
避妊をしなかった場合のパールインデックスは85パーセント程度といわれており、これは、避妊を全くしなかった(もしくは妊娠を望んでいる)カップルの女性が一年後に妊娠している率が85パーセント程度であることを示す。
[編集] PIの計算法
パールインデックス(PI)は「100人の女性が1年間避妊」または「10人の女性が10年間避妊」した場合の「100女性年」を用いて算出される。PIはあくまで避妊方法を数値化し、各々の避妊効果を比較するための数値であり、避妊効果自体を算出するものではない。
PIの算出には3つの数値が必要である。
(1)何ヶ月間避妊検証が行われたか、又は避妊中の月経回数。
(2)妊娠回数。
(3)検証完了理由(妊娠が0、その他が1。下記Bを参照)。
PIの算出には2つの方法がある:
(ア)妊娠回数を避妊検証の合計月で割り、1200で掛ける。
(イ)妊娠回数を月経回数で割り、1300で掛ける。
※(イ)で、1300で掛けるのは、月経の平均的期間が28日間、年間13回ほどだからである。
一般的に検証結果には2つのPIが表示される:
(A)実使用例:全ての妊娠回数と検証期間が含まれる。
(B)完璧使用例:検証中避妊方法を誤り、妊娠してしまった例は除外して計算。
[編集] 信憑性
統計的にPIは0〜100の間ではあるものの、科学的に「実験失敗」の確率を含めると、PIはパーセントで表せない数値であることがわかる。避妊方法の検証に参加した女性達が皆1ヶ月目で妊娠してしまったら、PIは1200~1300のパーフェクトな数値となってしまう。これはPIがパーセントで表すPearl Rate(パール率)からそうでないPearl Index(パール指数)と呼ばれる様になった由来でもある。
また、避妊実験を行う被験者の国柄、人種、年齢、学歴などにより、避妊失敗率は激変し、PIにも大きく影響する。もちろん、健康的で妊娠しやすいカップルから妊娠し、不健康で不毛なカップルは避妊しなくても妊娠できないこと、避妊道具は使用方法を練習するほど効果が上がること、などは数値化されていない。さらには、避妊方法への不満、妊娠願望、避妊方法の副作用、後日検証に現れない被験者などはPIに反映することができない。
だからといってPIに信憑性がなくなるわけではなく、逆に科学的根拠にだけ基づいた指数であり、避妊検証実験の状況によりPIをどれだけ重視するかが発表者にゆだねられる。
[編集] 避妊方法
[編集] 性行為の制限
性行為を全く行なわないことは、一番確実な避妊方法である。
当然、妊娠、性感染症、薬剤使用による副作用や薬害、避妊具使用による化学物質の人体への悪影響等のリスクを完全に回避できる。また、性行為の回数等を制限することにより、他の避妊方法によるリスクは低減化される。
[編集] 膣外射精
性交時の射精を膣外で行うこと。精子は射精時の精液だけでなく、前段階で分泌されるカウパー腺液中にも僅かに存在する場合があるため確率の高い避妊法とは言えず通常は避妊法としてカウントされない(PIは4-19%程度)が、一定程度広く行われていると考えられる。
[編集] 肛門性交
膣ではなく肛門への挿入による性行為のこと。 かなり高い避妊となるが、性行為後の精液による妊娠がありうる。
- その他の問題については肛門性交を参照。
[編集] オギノ式
女性の月経の周期に基いて妊娠可能な期間を計算・予測し、その期間を避けて性行為を行う方法。周期法とも呼ぶ。簡便な方法であるが、排卵の乱れなどで予測を失敗して妊娠してしまう可能性もある(PI:9%程度)。不妊治療のため日本人産婦人科医・荻野久作が発見した月経周期に関する「荻野学説」が、避妊法に流用されたものである。
なお、荻野久作本人は、自分の学説が避妊法として利用されることについては、より確実な避妊法が存在するゆえ、中絶の増加につながるとして、大いに反対していた。「迷惑だ。むしろ不妊治療に役立つ学説だ」と主張しつづけたと言う。
[編集] 基礎体温法
女性の月経の周期のうち、基礎体温を計測して低温相から高温相に変わった日(排卵日)を知り、それから4日目以降に性行為を行う方法(PI:3%程度)。毎日基礎体温を測りつづける必要がある。
[編集] その他の方法
このほか、子宮頚管粘液の状態で排卵日を確認する頚管粘液法もある(PI 2%程度としているが、詳しく検証されているかなど不明である)。
[編集] 避妊具の使用
[編集] コンドーム
- 詳細はコンドームを参照。
コンドームはラテックスやポリウレタンの薄膜をサック状にした避妊具で、膣に挿入する前に勃起した状態のペニスにかぶせて使用する。
[編集] ペッサリー
もともとは、子宮の位置を直すための道具である。現在では殆ど使われていない。膣より挿入するゴム状の避妊具。子宮口にかぶせるように指で挿入する。精子が膣内に入っても子宮に達せず避妊することができる。
装着状態が見えないため正しく装着するのが難しい。装着方法については指導が必要であり、避妊の確率もあまり高くなく(PI:6-20%程度)最近ではあまり使用されない。
また、人によって適したサイズ・形状などが異なるため、薬局などでは販売されていない。入手するためには、産婦人科の診察を受ける必要がある。
[編集] 子宮内避妊用具(IUD)
子宮内避妊用具にはリング状・ループ状・コイル状など様々な形がある。これを病院において子宮内に挿入しておくと、体機能としての異物排除機能が働き、受精卵の着床を妨げることで妊娠を防ぐ。避妊の確率はあまり高くなかったが、近年の改良により避妊の確率は高くなっている。日本では単純タイプに加え、銅付加タイプ(PI:0.6-0.8%程度)が認められている。Intra-uterine (Contraceptive) Deviceの頭文字をとってIUD(あるいはIUCD)とも呼ばれる。日本ではリング状のものが早くから普及したため「避妊リング」と呼ばれることも多い。
ただし、月経の出血量増加や期間延長、下腹痛、不正性器出血が起きる場合があるほか、月経中自然にIUDが体外に出てしまうこと(自然脱出)もまれに起こる。また普通の妊娠は防げても、子宮外妊娠は防げない。定期検診と、数年に一度の取替えが必要だとされている。
[編集] 薬品の使用
[編集] ピル(避妊用ピル)
避妊用女性ホルモン剤のこと。経口避妊薬(OC)とも呼ばれる。これを女性が服用することにより人工的に妊娠中と同様な内分泌状態を持続させることで排卵を停止させる。正しく服用した場合の避妊の確率は非常に高い(PI:0.1-5%程度)。
避妊以外にも、生理時期の調整や月経困難症(生理に伴う重い症状)の緩和、子宮内膜症の治療などに使われるが、人により血栓症、肥満などの副作用が出る場合もあるので注意を要する。
かつては中用量ピルが用いられていたが、副作用のリスクの低減を目的として低用量ピル、超低用量ピルなどが開発され、海外では主流となっている。日本では治療目的の中用量ピルが認可されており、1998年に避妊目的の低用量ピルが認可されたが、超低用量ピルは未認可のため、避妊用としては低用量ピルが主流になっている。
副作用がありうるので、医師の指導のもとに服用することが望ましい。→詳しくはピルを参照。
- モーニングアフターピル
- モーニングアフターピルは、「受精卵の着床を妨げる」ために性交後に服用するピルのこと。「事後ピル」または「緊急避妊薬」とも呼ばれる経口のホルモン剤で、性交後72時間以内に1回目を服用し、その12時間後にもう一度服用する(ヤッペ法)。
[編集] 殺精子剤
その名の通り、精子を殺す作用のある薬剤を性交の一定時間前に膣内に挿入し、避妊を行う。薬剤は時間が経つと溶け、精子が侵入しても死滅してしまう。効果のある時間は決まっているので、射精のタイミングにより失敗することがある。
自然に性交のできる方法であるが、避妊の確率はあまり高くない(PI: 6 - 26 % 程度)。そのため、他の避妊方法との併用が好ましい。
以下の三種類のタイプが存在するが、2006年現在、薬局での取り扱いはかなり限られている。
- 錠剤
- ネオサンプーン ループ錠(商品名) 発売/エーザイ
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- ネオサンプーンの成分はメンフェゴールである。
- ゼリー
- FP ゼリー 発売/日本家族計画協会(製造/第一薬品産業株式会社)
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- FP ゼリーの成分はポリオキシエチレンノニルフェニールエーテルである。
- フィルム
- マイルーラ(商品名、2001年3月以降製造中止)が有名
- マイルーラ(商品名、2001年3月以降製造中止)が有名
[編集] 外科的手法
[編集] 不妊手術
不妊手術(sterilization)とは、卵管、または精管を外科手術によって縛り(結紮)、卵子や精子の通過を止めることによって避妊する方法である。一度この手術を行ってしまうと、自然妊娠のためには再度手術を行わねばならず、この手術には十分な注意が必要である。
- パイプカット
- 正式な医学用語では両側精管結紮切除術という。男性の睾丸から精嚢への管を外科手術的に閉塞する方法で、これを行うと精嚢腺に精子が貯蔵されなくなり精嚢腺と前立腺から分泌される精液に精子が存在しなくなる。パイプカットを行っても精液自体は無くならず射精も可能であるし、睾丸で造られる男性ホルモンは睾丸に血流があればその分泌は衰えない。避妊の効果は完璧に近い(PI:0.10-0.15%程度)が、必要に応じて随時行えるものではないことや、長期にわたると睾丸の精子生成機能が退化するため、再接続手術で受精機能を回復することは確実には望めず、採用には大きな決意を求められる方法である。また誰でもできるというものではなく、母体保護法に基づいて行われるため基本的には子供が複数いて子育ても一通り終わり、配偶者の同意がある既婚男性でなければいけない。
- 卵管結紮
- 女性に全身麻酔をかけ腹部に小切開を施し、卵管を結紮する外科手術。膣式卵管結紮術も日本では行われている。帝王切開及び普通分娩直後に行うことも可能。永久避妊を望む成人女性に向く。ごく稀に、卵管がつながって妊娠することもある(PI:0.5%程度)。
[編集] その他
日本の江戸時代の遊郭の女郎の避妊方法としては、膣に和紙を詰めるなどの方法で、精液の注入を妨げて受精を防ぐという、ペッサリー/リングに共通するような方法を取っていたが、失敗率は高く闇で中絶や出産してすぐ遺棄されるなどの例は多かったという。
[編集] 緊急避妊
緊急避妊の必要が生じた場合はすぐに医師に相談する。医療機関によってはモーニングアフターピルが処方される。IUDの挿入という方法が採られることもある。
アメリカ、フランスなどでは強姦被害者などに緊急避難的にモーニングアフターピルが処方されてきた。できるだけ早いほうが高い避妊効果が期待できるが、実際には 100~120時間くらいまで効果が得られるという調査結果がある。ただし中容量ピルあるいは低用量ピルを通常服用量の数倍量飲むことにも相当し、吐き気などの副作用が強く出る可能性がある。[1][2][3] また受精卵の着床を阻止することは、命(受精卵)を強制的に殺すこと、つまり中絶であり、この薬は『人工妊娠中絶薬』(子おろし薬)であるとして使用を非難する人々も存在する。
[編集] 避妊論争
避妊を強く非難する意見や、逆に積極的に広めようとする意見があり、論争が続いている。
避妊とは、言うなれば生殖という生物学的な由来を捨て去り、完全に個人の快楽のための性行為を可能にする手段であると言える。性を罪悪視する人々にとっては、これは「性行為を認めるべき唯一の理由(生殖)」が欠けたということであり、彼らは避妊を伴う性行為を否定している。教義上「産み繁殖すること」が奨励される宗教も存在し、それらの信者にとっては避妊は忌むべきものである。カトリックでは夫婦愛の姿として性を捉え、快楽の為の避妊は否定している。
一方で避妊とは、女性のみに妊娠という母体に負担を掛けることから解放して自由度を高め、男女が平等に性を謳歌することを可能とする手段とも言え、フェミニストの中には賛成する声も多い。また、性的快楽を是としてあまり罪悪視しなかったりする人々にとっても、避妊は積極的に使用したい物となっている。
[編集] 関連項目
- 中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(中ピ連)
- 性科学(親分野)
[編集] 外部リンク
- 男性用コンドーム・女性用コンドーム(性の健康医学財団)
- 避妊法(Woman's MediNavi)
- 避妊法(リプロヘルス情報センター)
- Perimon - Free Software for Natural Birth Control
- 緊急避妊を処方する医療機関の紹介ホットライン(日本家族計画協会(JFPA))
- the Emergency Contraception Website(Office of Population Research at Princeton University and by the Association of Reproductive Health Professionals)