国鉄119系電車

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国鉄119系電車
営業最高速度	100km/h
設計最高速度	100km/h
起動加速度	2.8km/h/s(全M) 1.6km/h/s(1M1T) ＊限流値「減」の場合
減速度	3.5km/h/s（通常） 5.0km/h/s（非常）
全長／全幅／全高	20,000mm／2,832mm／3,935mm
軌間	1,067mm（狭軌）
電気方式	直流1,500V（架空電車線方式）
モーター出力	110kW(MT55A形)×4=440kW
歯車比	15:91=1:6.07
制御装置	永久直列抵抗制御・弱め界磁制御・ノッチ戻し制御付き(CS54形)
駆動装置	中空軸平行カルダン撓み継手方式
ブレーキ方式	発電ブレーキ抑速ブレーキ電磁直通ブレーキハンドブレーキ
保安装置	ATS-ST形

国鉄119系電車（こくてつ119けいでんしゃ）は、日本国有鉄道（国鉄）が1982年（昭和57年）から製造した直流近郊形電車の系列である。

[編集] 概要

1980年代、吊掛駆動方式を用いたいわゆる「旧形国電」の代替を進めていく中で開発された電車の形式の一つで、長大な閑散ローカル線である飯田線の旧形電車を置換えるために製造された。1987年（昭和62年）の国鉄分割民営化後は、全車が東海旅客鉄道（JR東海）に引継がれた。

[編集] 製造の目的

中部地方の山岳地帯を通る電化ローカル線である身延線・大糸線・飯田線では、戦前製のものも含まれる旧形国電が1980年代に入っても使われていた。いずれも勾配の多い路線であり、身延線と大糸線は勾配抑速ブレーキ付きの115系電車を投入して置換えたが、飯田線は駅間距離が短いことや2両編成での運行があることなど、身延・大糸線とは異なる輸送事情があり、このうち80系については、一部が165系を用いて置換えが開始されたものの、性能的には先に中国地方の電化ローカル線で使用していた、旧形国電の取替えのために製造された通勤形電車の105系のほうが115系よりも好都合であった。しかし105系は勾配抑速ブレーキがない上に車内がロングシートで長距離輸送に適さないことから山岳長大ローカル線の飯田線には使えないので、105系をベースにして飯田線に適合した設備を備える本系列が開発された。

[編集] 構造

上述のように本系列は105系をベースにしたもので、105系の特徴である、高速性能よりも加速力を重視した走行特性と、短い編成を組むのに適した機器構成を保ちつつ、連続急勾配を走行するための設備を付加し、長時間乗車に適した車内設備とした。特殊な性格を持つ路線である飯田線の路線条件への最適化を図ったもので、国鉄電車の中でも特異な存在である。

コストダウンのため、全体に簡素な構造を採用すると共に、機器の一部には廃車発生部品を再利用している。

なお、1986年（昭和61年）には一部の編成が改造を受け、東海道本線静岡近郊のシャトル列車運用（愛称「するがシャトル」）に用いられていたことがある。これについては本項で記さず、下記「運用」の項で記す。

[編集] 車体

車体は20m級の普通鋼製両開3扉仕様で、前頭部には貫通扉を備える。コストダウンのため、通常の近郊形電車のような裾絞りのある幅広車体は用いておらず、簡素な構造である。山間部の寒冷地域を運行する事から扉の半自動扱機能も備えている。前面形状は高運転台で前面窓周りを黒く塗装する105系のデザインを踏襲している。

塗装は製造当初は飯田線に並行する天竜川にちなんで、水色（青22号）塗装に淡灰色（灰色9号）の帯の塩ビ製シートを貼ったものであったが、JR東海に承継後、同社の一般形車両の標準塗装であるベージュ色（クリーム10号）地にオレンジと緑の2色帯に改められた。なお、クモハ119-27+クハ118-19は、「するがシャトル」運用時代に一度試験塗装車として211系のカラーテープを用いて塗装が変更された。帯色が若干薄く、正面は帯の幅が広い。また、窓上にもオレンジの帯が入るなど、相違点が多々見られた。前述の「するがシャトル」用車両は別の塗装に変更されていた。

[編集] 台車・機器

101系以降の国鉄の新性能電車が電動車に2両ユニット方式を用いてきた通例を破り、小単位運転に適するよう、電動車1両（単行）で運行が可能な1M方式を採用している。

台車（DT33形）、主電動機（MT55A形、端子電圧375Vで定格出力110kW）、歯車比などは通勤形電車の103系と共通化し、またクハ118形の台車（DT21T形）や電動発電機、空気圧縮機等機器の一部は廃車された101系から転用している。本来8個1組で使用するMT55系主電動機を4個で用いる必要から、制御システムは主電動機4個永久直列の単純な抵抗制御方式である。また飯田線には連続急勾配が存在するため、これに対応して抑速ブレーキとノッチ戻し制御を装備する。その関係で主抵抗器は105系より増強、大型化されている。

103系とほぼ共通の走行システムを持つ本系列は、急勾配が介在し、駅間距離が極端に短く、最高運転速度も低い飯田線での普通列車運用に最適化されているため、駅間の長い本線での高速走行には不向きである。「するがシャトル」運用が短期間に終わったのもこれが原因である。

[編集] 車内設備

105系と異なり、本系列は長時間乗車に配慮するため座席は扉間を対面式固定クロスシート、扉周りをロングシートとするセミクロスシート方式が採用された。このため105系が通勤形に分類されているのに対して、本系列は近郊形電車に分類されている。クロスシート部は113系2000番台等と同等であるが、ロングシート部は豊橋側のラッシュ輸送に対応するため、あえて103系初期車と同レベルの寸法である。またカラースキームは201系等に準拠した暖色系である。

製造当初は冷房装置が搭載されていなかったが、まず1986年から1987年にかけて、「するがシャトル」への転用改造対象車に対して取付が開始された。国鉄標準型の集中型のAU75系冷房装置を用い、電源は食堂車の廃車発生品である70kVA電動発電機をクハ118形に装備した。「するがシャトル」に転用されなかった車両に対しては、国鉄分割民営化後の1989年（平成元年）からDC-DCコンバータ給電、インバータ制御、集約分散型のC-AU711A形2基が設置され、1991年（平成3年）までに完了した。後者による施工車は車番に5000が加えられた。

制御車にはトイレが設けられた。トイレは1990年代の中頃まで垂流し式であったが、1997年までに全車に対して循環式汚物処理装置の設置工事が施された。

[編集] 運用

クモハ119形（100番台）

クモハ119形制御電動車（Mc）33両とクハ118形制御車（Tc'）24両の計57両が製造され、Mc-Mc-Tc'の3両編成またはMc-Tc'の2両編成で使用された。これにより飯田線に残っていた80系を始めとする旧形電車が全廃された。

国鉄が分割・民営化されJR東海に移管された後の1988年以降は、3両編成9本を2両編成とし、編成から抜いた9両のクモハ119形を、1両（単行）で運行ができるように運転台を増設の上、100番台（のちに冷房を搭載の上5100番台）に改番した。2両編成のうち8本は、1999年（平成11年）から翌年にかけておよび2005年（平成17年）にワンマン運転対応車（5300番台）に改造されており、その際に半自動ドアをボタン操作式に変更しており、一部の戸袋窓が埋込まれている。

新製当初は豊橋機関区（現・豊橋運輸区　静トヨ）に配置された。その後、「するがシャトル」用に改造された車両が1986年に静岡運転所（現・静岡車両区　静シス）に転属したのに続き、飯田線用も車両配置区所の統合にともなって、1988年に静岡運転所に移った。2002年（平成14年）3月、大垣車両区（海カキ）に移管されているが、運用の関係上、原則として豊橋運輸区に常駐している。

[編集] するがシャトル

1986年（昭和61年）11月1日のダイヤ改正で、東海道本線静岡近郊のシャトル列車運用「するがシャトル」に使用していた113系を他地域に転用し、代わりに本系列のうち2両編成8本を「するがシャトル」に転用した。この転用を前に改造工事が施され、車体は白色地（クリーム10号）に濃い赤色（赤1号）のラインが入り正面貫通扉に富士山をイメージした3本線が、側面に「SS」のロゴが入った新塗装に改められ、パンタグラフを狭小限界トンネル対策形のPS23A形から一般形のPS16形に交換し、先述のように冷房改造が実施された。なお飯田線では119系の穴埋めに、急行列車の廃止で捻出した165系を追加投入した。

しかし速度性能の特性から駅間距離の長い東海道本線には向かず、2年余りで113系・115系・211系などの他系列に置換えられ、飯田線での運用に戻った。