川島令三
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
川島 令三(かわしま りょうぞう、1950年 - )は、鉄道評論家。兵庫県芦屋市出身、山梨県上野原市在住。
鉄道に関する著作多数。中でも『全国鉄道事情大研究』は10年以上続くシリーズとして現在も続刊中。
目次 |
[編集] 略歴
兵庫県立芦屋高等学校、東海大学を経て、『鉄道ピクトリアル』編集部に勤務。その後鉄道専門出版社「ジェー・アール・アール」設立に参画。鉄道事故などの際、テレビ番組にコメンテーターとして出演することも多い。鉄道アナリストと自称し、著述活動を主に活動している。現在早稲田大学政治経済学部特別講師(交通経済学)、鉄道友の会会員、全国鉄道利用者会議会員。
内田百閒や宮脇俊三、徳田耕一のような紀行文学や種村直樹のような乗車記録とその感想、所澤秀樹のような雑学的なものとは異なり、鉄道に関する評論家として「利用する側に立った辛口の感想と改善への具体的提案」を文章で書くスタイルを確立したパイオニア的存在といえる。ただし、最近は雑学的内容の著書も多い。
提言・提案の中には鉄道事業者によって実現したものも散見される。しかしながら、提言する前から計画されている場合もあり、川島の影響は不明である。提言の中にはコストを度外視したものも多く、その評価は賛否が分かれる。ある意味で過激といえる提言が目立つため見過ごされやすいが、あくまで川島が目指すところは「鉄道の復権」(関西に関しては「民鉄復権」も含む)である。
[編集] 主な特徴
[編集] 主張・提言
鉄道の利便性向上を目的として、設備、ダイヤ、車両などに関する改良案を提起することを主体に活動している。著作は都市圏輸送や都市間輸送を担う路線を扱うものが主体である。主張は理想論に近く、コスト的・経営的・理論的な視点は比較的薄い。それゆえに提言の実現可能性が低いことは本人も自覚しており、一部でも実現すればよいと考えているようである。基本的には「もっと速ければいい」「もっと本数が多ければいい」「乗り換えが便利だったらいい」といった、利用者がふと思う願望の視点から述べられていることが多く、日頃混雑した通勤電車に揺られたり乗り継ぎの悪さに苛立っている人にしてみれば、実現性・発展性はともかく魅力的に写る内容が多い。
鉄道は他の輸送機関と比較して定時輸送・大量輸送に適していると主張しており、著作でも車の至便性を挙げた上で鉄道の優位性を述べる内容の記述が見られる。輸送量が多い場合には鉄道整備の方がコストが安いとし、道路整備に重点を置く行政に少々批判的である。なお、鉄道好きで車嫌いかというとそうでもなく、地方の取材などでは車を足に使っている。
以前は活字媒体以外にはあまり登場しなかったが、2000年の中目黒駅における帝都高速度交通営団(当時)日比谷線の列車衝突事故以降、大規模な鉄道事故などの際には「鉄道アナリスト(分析専門家)」という肩書きでテレビにも顔を出してコメントしており、日比谷線の事故で、初めて川島の顔を見たという鉄道ファンも多い。以降川島のマスコミへの露出は増加し、2005年のJR福知山線脱線事故の際にも数多くのマスメディアに登場した。なお、川島は他の工学博士や運転実務者に比べて客観的・総合的な発言には定評があったとも言われるが、著作の中で JR西日本を賛美していた手前もあり、言葉を濁す場面も見受けられた。
また福知山線の事故に際しては、マスメディアにおいて事故原因や分析に用いられた用語等に誤りがある、として『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』を出版した。この中で原因の一つに207系電車に使用されているボルスタレス台車の構造があるとし、「鉄道業界にはボルスタレス台車を推進していた手前危険と言いにくい雰囲気があったが、台車メーカーや一部関係者から危険である旨の証言を得た」と述べている。しかし、この書は航空・鉄道事故調査委員会の中間発表すら出ていない時期に出版されており、同じ鉄道評論家(交通研究家)の久保田博によるこの指摘に関する反論・批判に対しても再反論は提出されていない。
[編集] 文章の性格
文中で「べき(である)」や「具体化していない」、「どうかしている」といった表現を多用する。「べき」「どうかしている」という表現の使用頻度が200回を超えた著作もある。ただし最近はこのような表現は少なくなっており、「……する必要がある」「……してもらいたいものである」というように語調を弱めている。知人から「決め付けるような言い方は控えた方がいい」と忠告され意識していると噂されるが、「文章的個性」「著書を面白くするために」と出版社はむしろ以前のような強い表現を求めているともいわれる。
文体はきわめて真面目である。しかし、エンターテイメント性に欠けるとの批判があることを気にしてか、本題とは関係無い話題に突然脱線することがある。研究書と題するには余計であり不適当な記述とも受け取れるが、逆にこれも彼らしさとも考えられる。
著書の記述には事実や公式発表と整合性が取れていないなどのミスが散見され、誤字脱字、文脈の乱れのある文章も多い。単なる記述誤りや誤植とも考えられるが、結果として著者の意見に対する信頼性・信憑性を損ね、批判を生む一因となっている。
[編集] 鉄道事業者に対する姿勢
概して旧・日本国有鉄道への評価は厳しい。中でも103系電車には非常に手厳しく、同時期の私鉄の車両と比較して空気バネ台車等を採用していない為に乗り心地が悪い、運転性能が大幅に劣る、回生ブレーキを装備していないなどといった点を批判している。また低性能の103系を常磐快速線などの中長距離運用にまで混用した国鉄の方針に対する批判も大きい。対して国鉄末期に作られた211系電車の評価は高く、起動加速度がやや低いとする一方で座り心地のよさ、快適性、ドア幅の広さなどを評価し、後に同じ線区に投入された E231系電車を座席の固さや乗り心地の観点から批判している。なお、関西の国鉄は他の地域に比べ格段に良好であったが、当時の関西私鉄の質がそれ以上であったために評価が低かったとも述べている。
東日本の鉄道事業者への評価は全般的に辛口で、特に東日本旅客鉄道(JR東日本)を盛んに批判している。理由はロングシート主体の車両を中長距離運用や東北地方の路線にまで使用していること、転換クロスシートをあまり採用しないこと(ただし混雑路線に対しても導入を主張しており暴論とも言われる)、速度向上にあまり熱心でないこと、パターンダイヤの導入に熱心でないこと、ダイヤに余裕をとりすぎて表定速度が全般的に低いことなど、他の交通機関への対抗意識が弱い面が多いからだとされる。一方で、東日本の事業者でも京浜急行電鉄に関しては賛美する事が多い。関東で唯一の転換クロスシート導入(ただし川島によると手動転換ができないため価値が半減)、速達列車中心のダイヤ設定、関東に多いステンレス・アルミ無塗装車を採用せずアルミ車を含む全車両に車体塗装を行うなど、関西私鉄と同水準の施策を行っている事が理由といわれる(もっとも、車体に関しては個人の嗜好の問題と言える)。また、京王電鉄についてもスピードアップに意欲的なこと、運賃値下げをしたことなどから好意的に評価されている。
対して西日本旅客鉄道(JR西日本)への評価はかなり大甘である。それは、アーバンネットワーク内の高速化やひかりレールスターといった顧客に目を向けた新列車を登場させるなど、JR 各社の中では積極的な施策を行っている面が多いからだとされる。またこれに限らず、他の地区に比べて旧国鉄・私鉄ともに質が良いものが多かったと、関西全般の鉄道施策を賞賛することも多く、同地区の施策を見習うべきとの提言につながっている。(高速・高頻度運転、パターンダイヤ、転換クロスシートなど)その上で不十分な安全についての施策は最近はようやく苦言を呈するようにはなってきた。だが最近では競合私鉄に対して JR が優勢になり、関西の大手私鉄の施策にはかなり手厳しい発言が見受けられる。例えば優等列車の停車駅を増やすなど、JR との競争においてどちらかといえば守りの姿勢に入ってきているからである。川島は更なるスピードアップを行い都市間の利用者増を計るべきだ論じている。
[編集] 川島による造語
- 近畿日本鉄道の特急車輌である12400系の愛称「サニーカー」。
- 優等列車の停車駅を列車種別を増やして分散することで列車を増発する方式「千鳥式運転」。
- 駅構造について、2面3線で島式・単式ホームの複合型(プラットホーム「配置の例」の「単式と島式の複合型(2面3線)」を参照)を「JR型(国鉄型)配線」。
[編集] 主要著作
- 東京圏通勤電車事情大研究(草思社、1986年)
- 関西圏通勤電車事情大研究(草思社、1987年)
- 新幹線事情大研究 (草思社、1988年)
- これでいいのか、特急列車(寺本光照との共著、中央書院、1989年)
- 新東京圏通勤電車事情大研究(草思社、1990年)
- 日本「鉄道」改造論(中央書院、1991年)
- 「ライバル鉄道」徹底研究(中央書院、1992年)
- 全国鉄道事情大研究(草思社) 斜体は品切。
- 私の戦後「電車」史(PHP研究所、1995年) …後に『私の電車史』(2001年)として、同社から増補修正の上文庫化。
- 幻の鉄路を追う(中央書院、1996年) …後に『幻の鉄道路線を追う』(2003年)として、PHP研究所から増補修正の上文庫化。
- 鉄道はクルマに勝てるか(中央書院、1998年)
- 三大都市圏の鉄道計画はこうだった(産調出版、1999年)
- 新幹線はもっと速くできる(中央書院、1999年)
- 通勤電車なるほど雑学事典(編著 PHP研究所、2000年)
- 鉄道未来地図(東京書籍、2001年)
- 私鉄王国の凋落(草思社、2001年)
- 鉄道再生論(中央書院、2002年)
- 関西圏通勤電車徹底批評 上・下(草思社、2004年)
- なぜ福知山線脱線事故は起こったのか(草思社、2005年)
- 贅沢な出張 全国鉄道ガイド(角川書店、2006年)
- 東京圏通勤電車 どの路線が速くて便利か(草思社、2006年)