多摩急行
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多摩急行(たまきゅうこう 英語表記:Tama Express)は、小田急電鉄の列車種別(急行列車)の一種である。2002年3月23日に登場した。
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[編集] 背景・概要
- この列車の運行の背景としては、以下の要因が挙げられる。
- 小田急小田原線における複々線化工事の進捗により、昼間時については必ずしも千代田線直通の準急列車を相模大野駅方面に向かわせる必要が無くなったこと。
- 千代田線乗り入れの主たる目的である、「多摩ニュータウン地区と都心地域との連絡路線」という目的に振り向ける余裕が出来たこと。
- 小田急多摩線を結ぶ急行列車や(新宿駅発ではあるが)特急「ホームウェイ」をラッシュ時に運行したところ好評であったこと。
- これまで、小田急が所要時間や乗り換えの利便性等で圧倒的に不利だった多摩ニュータウン地区対都心地域の輸送で、競合する京王電鉄相模原線・都営地下鉄新宿線に対抗し、そのシェアを奪うことで新たな旅客を獲得すること。
- また、表面的な理由とはされていないものの、以下の様な理由もあるのでは、と指摘される事がある。
方向幕・列車案内板の表示は、LED式の表示器に限り「多摩急行」のように「多摩」が緑色で「急行」が赤色と、複数の色を混用した珍しい表記になっている(英語表記も同様)。LED 式ではない方向幕や小田急のフルカラーLEDでは列車案内板ではピンク地に白字で「多摩急行」と書かれている。
[編集] 運転形態
- 小田急電鉄の車両が小田急多摩線唐木田駅から小田急小田原線を経由して東京地下鉄千代田線綾瀬駅まで運行されている。
- 東京地下鉄の車両が小田急多摩線唐木田駅から小田急小田原線を経由して東京地下鉄綾瀬駅、及び東日本旅客鉄道(JR東日本)常磐緩行線松戸駅・柏駅・我孫子駅・取手駅まで運行されている(ただし、土休日には松戸駅発着の運用はない)。
- 綾瀬から先の駅(JR線)へは小田急1000形が直通することができないため、綾瀬発着の列車は小田急の車両による運用が多くなっている。
- 朝から深夜まで、1時間2本程度運転している。土休日の夕方以降1時間に1本程度になる。早朝の運転はない。
- 全て10両編成での運転。
- 唐木田方面の電車は綾瀬駅で種別が変更され、常磐緩行線内ではこの名称は使用されない(但し女性専用車を知らせるポスターの時刻表では多摩急行・準急の表記がある)。また、取手方面は代々木上原駅で種別が変更されるため、東京地下鉄線内およびJR線内では使用されない(下記参照)。
- 設定当初は、多くが湘南急行の直後(下り)または急行の直後(上り)に運行されるダイヤ編成で列車間隔が不均等だったため、特に(急行・湘南急行が通過する経堂駅以外の)小田原線内の利用者が少なかった。しかし、2004年12月11日のダイヤ改正より、長距離輸送の速達性を重視した快速急行の新設に伴い減便された急行停車駅利用者の補完作用も果たすこととなり、小田原線内でも急行の一翼を担うこととなった。裏を返せば、多摩急行の存在が快速急行の下北沢駅~新百合ヶ丘駅間無停車運行を実現させたともいえよう。なお、運行範囲外の小田原線優等列車とは代々木上原駅・新百合ヶ丘駅で連絡している場合が多く、その為新宿駅との所要時間は急行とほとんど変わらない。
- 現在もラッシュ時の混雑率は最大で100%(夕・夜間)~150%(夕・夜間)程度で、他の急行ほどの激しい混雑が見られず、座れる可能性も高いため、小田急の優等列車の中では貴重な穴場的な存在となっている。この原因としては、元々新宿駅の利用客が多いことと、前述の代々木上原駅・新百合ヶ丘駅での接続を積極的にアナウンスしていないことが挙げられる(このため必然的に後発の急行の利用者が増え、多摩急行の利用者との差が現れる。また、多摩急行に接続する新宿駅発の区間準急が地下ホーム発車であることも遠因の1つであろう)。
- ダイヤが乱れたときには、代々木上原駅の留置線数の都合上多少の遅延であっても千代田線の発車順序が入れ替えられることも少なくない。また、上りの行き先が新宿に変更されることがある。
[編集] 使用車両
共に、相互乗り入れを前提としているため、地下鉄乗り入れ車両が充当されている。
- 小田急電鉄
- 東京地下鉄
[編集] 千代田線~小田急線直通列車について
- 1978年3月31日、営団地下鉄(当時)千代田線全線開業に伴い千代田線~小田急線相互乗入開始。当時は乗り入れ対応車両が6編成しかなかったため1日上下とも僅かに14本、平日の朝夕のみの乗り入れであった。小田急線内は準急として設定され、折返設備上の問題から全て本厚木駅発着となる。なお、経堂駅はホームの長さが8両編成分しかなかったため、10両編成の直通電車は例外的に通過となった。
- その後、休日の乗り入れや経堂駅停車が実現したものの、直通電車の本数は微増にとどまり、2000年12月のダイヤ改正までは、朝夕が中心で日中はほとんど運転されなかった。
- 2000年12月のダイヤ改正から直通準急が日中時間帯で30分おきになった。但し、それまで日中に30分間隔で運転されていた新宿発着の準急を千代田線直通に変更しての設定であり、またそのほとんどが相模大野止まりになった。
- 2002年3月のダイヤ改正で、それまでの準急(登戸以西で各駅に停車する)の朝夕ラッシュ時を除く電車を置き換える形で、多摩急行が新設された。なお、この時点では営団地下鉄の車両によるJR線からの直通準急の設定があった(平日我孫子19時24分発相模大野行、土休日我孫子17時18分発本厚木行。前者は本厚木行から変更)。
- 2003年3月29日、営団地下鉄(現東京地下鉄)の車両を用いた直通準急は、全て多摩線直通の急行又は多摩急行に格上げとなった(上記の準急も多摩急行唐木田行に変更になったほか、土休日柏18時16分発を多摩急行唐木田行に変更された)。
- 2004年12月のダイヤ改正より、運転時間帯が夜間まで拡大されると共に、乗り入れ先の車庫での停泊も行われるようになった。
- JR線内では他の電車同様種別表示無し(これは多摩急行登場以前の準急も同様)。唐木田行の種別は綾瀬駅で多摩急行に変更され、小田急からの直通電車は代々木上原駅から各駅停車(後述の通り種別名は表示しない)に変更される。JR線内発の電車の場合、「千代田線・小田急線直通唐木田行き」とアナウンスされることが多く、そのあとに補足として「千代田線内代々木上原まで各駅停車」であること、「小田急線内多摩急行」であることを付け加えることもある(綾瀬駅到着前のアナウンスで多摩急行唐木田行きということは比較的多くある)。
- 小田急の車両が千代田線内で各駅停車の運用となる場合(千代田線内のみの運転及び小田急線からの直通列車での代々木上原から先)は種別用の幕は各駅停車の青文字の幕ではなく、文字の書かれていない黒い幕となる。
- 平日の朝、唐木田始発の電車に限り、直通の急行も運転されている。なおこの急行は、所定の停車駅に基づくため新宿発着の急行と同様に向ヶ丘遊園駅に停車し、また、朝ラッシュ時であるので経堂駅は通過する。
- 「唐木田」という行先はJR線沿線に馴染みが薄く、「綾瀬」「松戸」「柏」「我孫子」「取手」という行先は小田急沿線にそれぞれ馴染みが薄いため、遠ければ遠いほどこの電車がどこに行くものなのかが分からず乗車に戸惑うと言う光景が時折見られる。
- 余談だが、小田急は小田急線~千代田線~JR線(代々木上原、北千住連絡)の3社連絡の定期券を発売している。
[編集] 「多摩急行」と「多摩市」「多摩区」との関係
多摩急行登場により、小田急多摩線沿線から都心へのアクセスは飛躍的に向上した、と言われる反面、あまり表面には出ないものの、準急を振替える形での設定、また、スピードアップを目的にかつては多くの急行列車が停車駅としていた向ヶ丘遊園駅を通過とした点等で、登戸駅を除く川崎市多摩区の各駅を中心に、以下の様なデメリットももたらす事となり、解決すべき問題も多い、という点も同区の住民を中心に指摘されている。「多摩急行」は「多摩線」(または多摩急行は多摩市内全駅に停車することから「多摩市」)に優しく「多摩区」に冷たい、と揶揄される事もある。
- 現在(2004年12月11日改正時点)も本厚木駅~綾瀬駅間での準急は存続しているが本数は少ない(朝のみの運転で、特に千代田線側から直通してくる準急は平日朝の2本しかない)。多摩急行登場の一方で、それ以前は準急の恩恵を受けていた、生田駅など登戸以西の急行通過駅利用者は準急の希少化によって割りを食う形となり、都心へ向かう際に乗換がほぼ必須となった上、急行・多摩急行と各停の乗換時、接続が悪化している事から都心への所要時間も伸びており、根強い不満が残っている。
- 特に向ヶ丘遊園駅は遊園地営業当時の厚遇から一転、閉園後は専修大学・明治大学・聖マリアンナ医科大学や多摩区役所の最寄り駅でありながら、多摩急行の通過駅となった事で利用者から改善を求める声も多い(これに加え2004年12月改正で湘南急行が廃止、同改正で新設の快速急行も通過となった為、更に拍車がかかっている)。
- 向ヶ丘遊園駅を通過とした理由について、小田急は「距離の短い登戸駅と向ヶ丘遊園駅(両駅間は600mしかない)を連続して停車させると時間のロスが大きく、スピードアップの支障になるから」と説明しているが、もともと交通至便な駅、という位置づけから同駅近くに多摩区役所が建設された経緯があるだけに、多摩区はこの主張に反発している。ちなみに、路線図にある登戸-新百合ヶ丘間の標準所要時間は、急行が9分(登戸-向ヶ丘遊園間2分、向ヶ丘遊園-新百合ヶ丘間7分)に対し多摩急行は7分となっており、更に昼間時下りの新百合ヶ丘駅での多摩急行から快速急行への連絡時間が2分しかないことを考えると、向ヶ丘遊園駅への停車は運転に支障を来す恐れがあり、通過せざるを得ないのもまた事実である。
[編集] 停車駅
基本的には、小田急電鉄が定めた列車種別であり、乗り入れ相手先である千代田線・常磐緩行線内(代々木上原~取手間)は全ての駅に停車する。