原子炉圧力容器
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原子炉圧力容器とは、炉心の容器である。
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[編集] 概要
圧力容器は炉心の入れ物であり、概ね円筒状をした鋼鉄の構造物である。より端的には原子炉容器と呼ばれることもある。上部は原子炉容器蓋(上蓋)となっており、圧力容器本体(容器胴)とはボルトによって結合されており、取り外すことができる。圧力容器内の核燃料の廻りに冷却材を循環させることで崩壊熱を取り出す。圧力容器内には燃料集合体を支える為の支持機構、冷却材の流路などの炉内構造物が設けられている。
使用する材料には、高温および高圧に耐えること、耐食性に優れ、冷却材との化学反応を起こさないこと等が要求される。圧力容器の耐圧設計は、沸騰水型でおよそ90気圧、加圧水型でおよそ175気圧以上となっており、厚さ15~30cmの鋼鉄製の容器が使用されている。形状は原子炉によって様々であるが、縦長のカプセル状のものが多い。輸送手段が鉄道である場合、圧力容器の形状は通常よりも縦長となる。代表的な例に、VVER型の原子炉がある。これは貨物の幅が鉄道貨車の幅を超えられないためである。
同じ軽水炉でも沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)では圧力容器の設計が異なる。
[編集] BWRの圧力容器
現在の100万kw級沸騰水型原子炉の圧力容器は、高さ約22m、内径約6.4m。BWRでは圧力容器内部で蒸気が発生するため、上部には蒸気関連設備が設けられ、制御棒は圧力容器の下側から炉心に挿入されている。
圧力容器内の設備は、上部に気水分離器と蒸気乾燥器が設けられ、中央部には炉心とその周囲を取り囲む円筒の構造物(炉心シュラウド、または炉心槽)、及びジェットポンプと呼ばれるパイプ状の構造物が設けられている。炉心シュラウドは気水分離器と蒸気乾燥器の支持機構を兼ねる。圧力容器下部は制御棒ガイド、制御棒ハウジング、炉内核計装ハウジングなどが設けられている。
圧力容器側面の給水配管から圧力容器内部に供給された冷却材と、再循環ポンプから供給された原子炉循環水は、ジェットポンプによって周囲の冷却水と共に混合され、炉心シュラウドの外側を通って圧力容器下側に達し、方向を上向きに変えて炉心シュラウド内側の炉心に流れ込み、蒸気を発生させる。発生した蒸気は気水分離器、蒸気乾燥器を経由して圧力容器上部の蒸気出口から蒸気タービンに供給される。タービンを回した蒸気は復水器で冷却されて液体に戻り、給水ポンプによって再び原子炉へ供給される。蒸気にならなかった冷却材は再循環ポンプを経由して再び圧力容器内に吹きこまれる。
[編集] ABWRの圧力容器
改良型沸騰軽水冷却水炉(ABWR)ではインターナルポンプの採用により、再循環ポンプとジェットポンプが廃止されている。
[編集] PWRの圧力容器
現在の100万kw級加圧水型原子炉の圧力容器は、高さ約13m、内径約4.4m。PWRでは蒸気は蒸気発生器(SG)で発生するため、蒸気関連設備はSGに設けられている。そのため圧力容器内には炉心と炉心を囲む炉心槽、炉心バッフル、燃料集合体の支持機構しかない。制御棒は圧力容器の上部から炉心に挿入されるので、上蓋には制御棒ハウジングが取りつけられている。
上部側面の入口ノズルから圧力容器内部に供給された一次冷却材は、炉心バッフルの外側を通って圧力容器下側に達し、方向を上向きに変えて炉心に流れ込み、炉心の熱を受け取って圧力容器上部の出口ノズルからSGに供給される。二次冷却水と熱交換した一次冷却水は冷却材循環ポンプによって、再び原子炉へ供給される。一次冷却水は加圧器によって全流路で液体の状態を保つよう圧力がかけられている。
[編集] その他の原子炉
圧力容器の形状がカプセル状になっていない原子炉には、東海発電所のガス冷却炉(球型)がある。
[編集] 圧力管型原子炉
圧力管型原子炉は、炉心を大きな容器に一括して納めるのではなく、個々の燃料集合体を圧力管(燃料チャンネル)と呼ばれるパイプ内に設置し、この圧力管を多数集合させて炉心とする形式の原子炉である。個々の圧力管がそれぞれ圧力容器に相当する。この形式の利点は圧力管の本数を増やすだけで原子炉を大型化できること、及び原子炉運転中に燃料交換が行えることで、圧力容器型原子炉では原子炉を止めて上蓋を開けない限り燃料交換はできないが、圧力管型なら燃料を交換する圧力管への冷却材供給を止めれば交換可能となる。原子炉全体を止める必要が無いため稼動率(設備利用率)が向上する。一方で、多数の圧力管の製作、保守にかかるコストは高く、圧力容器型に比べた場合の欠点となっている。
この型の原子炉としては、冷却材の流れが水平方向のCANDU炉(重水減速重水冷却加圧水型原子炉)、圧力管がカランドリアタンク(重水を納めたレンコン状のタンク)を上下に貫通する新型転換炉(ふげん)(重水減速軽水冷却沸騰水型原子炉)、ロシア型黒鉛炉(RBMK-1000)(黒鉛減速軽水冷却沸騰水炉)などがある。
[編集] 核防護
圧力容器のもう一つの役割は、原子炉の炉心で発生した放射能および放射線が外部に漏洩することを防ぐ為に設けられる障壁で、5重の壁の一つである。