同位体
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同位体(どういたい、Isotope、アイソトープ)とは、同じ原子番号を持つ元素の原子において、原子核の中性子数(つまりその原子の質量数)が異なるものをいう。
同位体の表記は、元素名に続けて質量数を示すか、元素記号の左肩に質量を付記し、例えば炭素14あるいは 14C のように表す。ただし英語の頭文字から、重水素 (Deuterium) は D または d、三重水素 (Tritium) は T とのみ表記することがある。例えば重水の化学式は D2O と表す。
同位体には電子・陽子・中性子を放出して原子番号が変わる放射性同位体 (Radioisotope) と自然界中で一定の割合をもつ安定同位体 (Stable Isotope) の2種類が存在する。同じ化学種の同位体同士の化学的性質は、非常に似通っている。これは、電子状態が同位体同士でほぼ同じであるためである。ただし原子の質量が異なるため、結合、あるいは解離反応の速度に差があらわれる(詳しくは速度論的同位体効果を参照)。特に、軽水素と重水素、そして三重水素では、質量が2倍差、3倍差となるために、軽水と重水のような顕著な物性差として現れることもある。
化学的性質がほとんど同じである同一原子の同位体同士であっても、原子核の性質は異なる。例えば、原子核の核スピンの値や、中性子吸収断面積は同位体核種により大きく異なる。
安定同位体種が最も多い元素はスズで、10種類ある。最重安定同位体は鉛208である。21世紀初頭まではビスマス209が最重安定同位体と考えられていた(項目:ビスマス参照)。
放射性物質の影響、および同位体効果を除くと、太陽系内の安定同位体の存在比(同位対比)は極めて一様である。これは太陽系誕生時に、物質が高温で熱せられ拡散したことにより、それ以前に各物質が保有したいた固有の同位体比が平均化されたためと考えられている。
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[編集] 利用方法
- ポジトロン断層法(PET診断) — ガン診断に用いられるポジトロン断層法の試薬には、放射性同位体フッ素18(半減期約108分)で標識した18F-FDGが用いられている。またその原料として、酸素の安定同位体、酸素18原子で標識した水-18O (H218O) が製造されている。
- NMR構造解析 — 同一原子であっても同位体核種により核スピンが異なる。このことを利用して、高分子のタンパク質のNMR構造解析には、安定同位体で標識したアミノ酸や溶媒の利用が欠かせない。重水素、炭素13、窒素15などの安定同位体が用いられている。
- 地球科学 — 地球科学の研究分野では、物質の同位体比を質量分析器で測定する事により、物質の起源、変遷の解析や、年代測定を行う事ができる。そこから、地球の古環境やマントルなどの地球深部の物質の移動などが解き明かされてきた。また極微量ながら、保持する希ガスなどの同位体比が太陽系物質ではありえない粒子が、原始的な隕石から発見されている。その同位体比から超新星爆発や赤色巨星星周など太陽系外に起源を持ち、原始太陽系の高温時代を生き残った粒子だと考えられている。
- 呼気検査 — 体内に13Cで標識した化合物や重水、H218Oを投入すると、一定時間経過後、体内で代謝が進むことにより、呼気から二酸化炭素-13C (13CO2)や、H218O、重水を含有した水蒸気が分析できる。この呼気の同位体比を測定する事により、胃内に存在するピロリ菌の診断や、肥満科学やスポーツ科学などで体内の代謝測定に応用されている。
- ホウ素中性子補足療法 (BNCT) — ホウ素の同位体10Bの原子核に中性子を照射すると、核反応により高エネルギーのリチウムの同位体7Li原子核とヘリウム4He原子核を放出する。そこで、このホウ素10を特定の化合物に標識しガン細胞に選択的に取り込ませると、ガン細胞を選択的に中性子照射により破壊することができる。このガン治療法をホウ素中性子補足療法 (Boron Neutron Capture Therapy, BNCT) といい、日本国内では京都大学と日本原子力研究開発機構の2箇所にこの治療法が行える原子炉が存在する。
- 超伝導 — 同位体同士で性質が異なる場合として、格子振動(フォノン)の振動数が異なる点が挙げられる。特に、超伝導においては、この同位体による超伝導転移温度の違い(同位体効果)は重要とされる。
- 同位体ケイ素 — ケイ素の主要安定同位体28Siは、同位体純度を99atom%以上にすると、通常の単体ケイ素よりも熱伝導率が3割程度上昇する。この同位体ケイ素が工業化されれば、熱放射率の高い半導体に応用できる。
[編集] 製造
同位体の製造は、核合成により同位体核種を直接合成する方法と、同位体同士を天然中の物質から分離する方法(同位体分離)で行われる。特にkg単位以上で同位体を製造する場合は、同位体分離で行われる事がほとんどである。
同位体分離は、同位体同士の蒸気圧などの微小な物性差や質量差を利用して行われる。同位体分離には、蒸留分離、拡散分離、遠心分離、レーザー分離といった方法がある。重水素を採取する場合は、水の電気分解の速度差が利用されている。
日本国内では、ホウ素10、ホウ素11、炭素13、窒素15、酸素18が民間企業(東京ガス、大陽日酸など)において製造されている。
[編集] 入手方法
- 安定同位体 — 日本国内での、安定同位体および安定同位体標識化合物で市販されているものは、一般試薬と同等の法規で入手可能である。
- 放射性同位体 — 日本国内での、放射性同位体および放射性同位体標識化合物は、民間企業から販売されているものもある。ただし、購入者に専用の施設および資格の保有が必要な場合がある。