動詞
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動詞(どうし)は、品詞のひとつで、おもに動作や状態を表す単語のことをいう。
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[編集] 動詞の一般的性質
動詞は名詞とならんでほぼ全ての自然言語が持つとされる基本的な品詞である。「走る」「消える」のように動作や変化を表すほか、「ある」「違う」「匹敵する」のように静的な状態を表すものも含まれる。
通常、動詞は主語、目的語などの項を伴って文を形成する。多くの言語で動詞は態(ヴォイス)、相(アスペクト)、時制(テンス)などによって形態が変化する。また、主語の性・数・人称などとの一致現象を見せる言語も多い。
多くの言語で辞書形の語尾が決まっており、日本語ではう段の文字で終わる。英語や中国語のように語尾が決まっていない言語は少ない。
[編集] 動詞の分類
[編集] 結合価による分類
動詞はそれがとる項の数によって分類される。
- 自動詞: 主語のみをとる動詞。日本語では「立つ」「落ちる」など。
- 他動詞: 主語および目的語をとる動詞。「読む」「壊す」など。
- 二重他動詞: 主語、直接目的語、間接目的語の3つをとる動詞。「渡す」「入れる」など。
このほか項をまったく取らない動詞(たとえば「雨が降る」を意味するイタリア語の"Piove."やスペイン語のllueveなど)や、3つ以上の項をとる動詞も考えられる。
- 再帰動詞: 本来他動詞または二重他動詞であるが、直接目的語または間接目的語が主語と同じである場合、項が1つ減ることになる(意味的にも自動詞と考えられるものも多い)。再帰代名詞(英語の-self)を動詞につけた形で、ロマンス語で特によく用いられる。
- 能格動詞: 他動詞と、他動詞の場合の目的語=内項を主語に据えた自動詞(他動詞の場合の主語=外項を消した表現)のいずれにも、同じ形のまま使える動詞。日本語の「開く」、英語のopenなど。
[編集] 相(アスペクト)による分類
動詞の相(アスペクト)の特性から動詞を分類することができる。動作の持続する時間に基づいた継続動詞/瞬間動詞、ある状態への変化を意味するかどうかに基づいた目標動詞/非目標動詞などいくつかの観点からの分類が可能である。ヴェンドラーによる次の4分類がよく知られている。
- 状態動詞(state): 原形のまま状態を表し、進行形をとらない。like,live,haveなど。
- 活動動詞(action): 進行形で動作の継続を表し、着点や結果や動作の限界点をもたない。runなど。
- 到達動詞(achievement): ある状態が実現される瞬間的な出来事を表す。動作の過程は表さない。arriveなど。
- 達成動詞(accomplishment): 継続的な動作の結果、ある状態を実現することを表す。makeなど。
日本語に関しては、同様の視点による金田一春彦の4分類(状態動詞、継続動詞、瞬間動詞、第四種の動詞)がある。金田一とヴェンドラーの違いは、ヴェンドラーが進行形(V-ing)に基づいて分類しているのに対して、金田一は動詞を「~ている」に基づいて分類している点である。なお、金田一の分類はヴェンドラーに先駆けて提案されており、また、ヴェンドラーと同様の分類はアリストテレスが行っているという。
[編集] 意志による分類
- 意志動詞(volitional verb) - 人間などの意志による動作を表す動詞。希望・可能・命令・禁止などの形をとれる。
- 無意志動詞(non-volitional verb) - 意志によらない動作などを表す動詞。希望・可能・命令・禁止などの形態をもたない。
[編集] 視点による分類
- 主体動作動詞 - 主体の動作をとらえている動詞。書く・食べる…など。自動詞も他動詞もある。「いる」をつけると動作の進行を表す。
- 主体変化動詞 - 主体の変化をとらえている動詞。立つ・結婚する・開く・壊れる…など。ほとんどが自動詞である。「いる」をつけると結果の持続を表す。
- 主体動作・客体変化動詞 - 主体からは動作を、客体からは変化をとらえている動詞。すべて他動詞である。開ける・壊す…など。能動態と受動態に対立があり、「いる」を能動態につけると動作の進行を表し、受動態につけると、結果の残存を表す。
[編集] 日本語の動詞
日本語動詞の活用の種類 | |
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文語 | 口語 |
四段活用 ナ行変格活用 ラ行変格活用 下一段活用 |
五段活用 |
下二段活用 | 下一段活用 |
上一段活用 上二段活用 |
上一段活用 |
カ行変格活用 | |
サ行変格活用 |
学校文法では活用のパターンに応じて、五段活用、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用に分類される。
[編集] 動詞の活用形
[編集] 補助動詞
一般的な動詞のほかに、他の文節に続いて述部などを構成する補助動詞がある。分類の項に示した相・視点などと関係した文法的機能を担う。以下は補助動詞の例。
- 資料を調べてみる。
- 自転車に乗ってくる。
- いま探しているところだ。
- そこに傘が置いてある。
普通はこのように「て」で終わる文節に続くものを補助動詞というが、次の複合動詞の中の後項動詞を含めることもある。
[編集] 複合動詞
「押し続ける」「作り上げる」のように2つの動詞を結合したものを複合動詞という。前の動詞(連用形)を前項動詞、後続の動詞を後項動詞という。
意味的には、「切り倒す」「ふりかける」のように2つの動詞の意味をほぼ対等に結合した複合動詞もあるが、上例のように前項動詞が基本的な意味を担い、後項動詞が主として文法機能を果たす複合動詞も多い。
特に前項動詞の種類に対する制限の少ない後項動詞「始める」、「続ける」、「尽くす」、「過ぎる(前に形容詞・形容動詞の語幹もとれる)」、「お・・・する(謙譲語)」などは補助動詞としても扱われ、「押され続ける」のように2つの動詞の間に助動詞が介入できることもある。中には「かねる(不可能などを表す)」のように、独自の意味を失いほぼ文法機能のみを担う、助動詞的な後項動詞もある(丁寧の助動詞「ます」も後項動詞形式の補助動詞「参らする」に由来する)。
[編集] 学校文法以外
以上は日本人が義務教育で習う文法であるが、これが唯一ではない。文法とはその言語の母語話者がおおむね共有する「この文は正しい/おかしい」という感覚からその背後にある規則を逆算したものなので、結論はおおむね一つであるにしてもその結論に至る道筋は複数有り得る。
例えば、外国人に日本語を教えるときに使う文法は教科書ごとにまちまちだが、傾向として、
- 上一段活用と下一段活用を区別しない
- 接続助詞「て」に接続した形(音便を伴う)を独立した活用形として扱う
ことが多い。この違いは、学校文法が平安時代の日本語を基礎とした文語の文法の入門編としての意味もあるのに対し、外国人向けの文法は現代日本語の理解のみを目的とするためである。
[編集] 英語の動詞
英語では、補語を伴って状態を表すbe動詞 (SVC) とそれのみで動作を表したり副詞句を伴ったりする自動詞 (SV) と目的語や目的格補語を伴う他動詞 (SVOO, SVOC) がある。また"give up"(諦める<上へ与える)や"take care of"(世話する<注意を取る)のように副詞や前置詞、名詞などを伴い句動詞となることもある。
[編集] 朝鮮語の動詞
最敬体、過去形などの変化をする。また日本語同様に文末に用いられることが多い。活用形態から形容詞が動詞の一種とされることがある。