時制
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文法カテゴリー |
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性 gens / 名詞クラス |
数 numero |
格 casus |
定性 definitas |
法/ 法性 |
態 vox |
時制 tempus |
人称 persona |
相(体)aspectus |
時制(じせい)とは言語学の用語で、述語(主に動詞)によって言及される出来事などが、主に発話時点からみて現在・過去・未来のどれにあたるかといった時間的関係を表現する形式をいう。日本語の動詞では「‐た」によって過去が表示され、現在・未来は終止形(辞書の見出しになっている形)によって表示される。
注目している時点において動作が継続中か、完了しているかなどを表す要素である相と区別される。しかし現実の言語では相や法の概念と組み合わせられた形で用いられることが多い。
「きょうは結婚記念日だった」「あっ、あった」などの例(確認を示す)を根拠に、日本語の「‐た」は過去を表すのではなく、日本語には時制はないとする意見がある。歴史的にも日本語の「‐た」は テアリ > タリ > タ と変化して成立したものであり、「あり」という存続の意味が原義である。しかし、段落冒頭のような慣用的例外はあるものの、近代の日本語においては概ね過去/現在の対立で「‐た」と非「‐た」の形が使い分けられており、その意味では時制があると見ることもできる。
言語教育の場では相との組み合わせを含めて「時制」と称することがある。この場合の時制の数は少なく数えようとするか多く数えようとするかで大きく違ってくる。たとえば英語の時制を、動詞自体の語尾変化による現在時制(原型)と過去時制(-ed形)のみとし、他の形は助動詞と組み合わせた慣用表現に過ぎないとする考え方もできる。実際、日本語における「~テイル」「~テアル」などは補助動詞と組み合わせた慣用表現と考えるのが一般的なので、他の言語について同様に考えていけない理由はない。
一方、日本語の時制について、
- 現在時制(原型)
- 現在存続時制(~テイル)
- 未来準備時制(~テオク)
- 過去準備時制(~テオイタ)
- 現在起点進行時制(~テイク)
- 現在終点進行時制(~テクル)
のように多数に分類することもできる。
ここで英語の時制を少なく数える例と日本語の時制を多く数える例を挙げたのは、数え方によって時制の数は多くも少なくもなることを示すために両極端な例を挙げたに過ぎず、上記の数え方が正しいという主張ではないことに注意されたい。
相の概念を含んだ時制の形態をもつ言語も多い。たとえばロマンス語の「半過去」または「線過去」(本来の呼び名は「未完了」)は、過去時制と非完了相の組み合わせ(だいたい過去進行形に相当)を表現する。またロマンス語のほか多くのヨーロッパ言語では、現在において進行中のことと反復的・習慣的なことをいずれも現在形で表すが、英語や日本語では現在進行形を区別する。
また日本語の文語体では過去を表す助動詞に「き」と「けり」の2つがあり(その他に過去推量の「けむ」、完了の「たり」などもある)、「き」は自らの経験を語る過去、「けり」は伝聞または現在の判断に基づく過去とされる。この区別は事実性に関する判断、つまり文法的にはモダリティの範疇に入ると考えられる。これに類する過去時制の区別は世界的に見てそれほど珍しいものではない(トルコ語にも類似の区別があり、朝鮮語の「回想過去」[相としては未完了を表す]も主として経験を表現する)。
[編集] 時制の一致
複文において、主節と従属節の各述語の時制の間の相互関係には、言語によって異なる規則がある。日本語では、主節に表現される時点から見た時制を従属節に表現する。
それに対し英語(直説法)では、主節の述語動詞が過去時制の場合、従属節(名詞節)の述語動詞も過去に属する時制となり、さらに主節に表現される時点を基準として詳細な時制が決定される。これを時制の一致(Sequence of tenses)という。
例:
- 私は彼が病気だと思う:I think he is sick.
- 私は彼が病気だったと思う:I think he was sick.
- 私は彼が病気だと思った:I thought he was sick.
主節に表現される時点から見て従属節に表現される時点が過去であれば、従属節は過去完了形(大過去)で示される。
- 私は彼が病気だったと思った:I thought he had been sick.
Willなどで示される、いわゆる未来時制も、現在時制と同様に扱われ、主節が過去となれば従属節のwillは過去形のwould(正確には仮定法)となる。
- 私は彼が成功するだろうと思う:I think he will succeed.
- 私は彼が成功するだろうと思った:I thought he would succeed.
また、*I thought he is sick. という言い方はないが、
- 私は彼が病気になるだろうと思った:I thought he would be sick.
とは言える。
次のように、時制の一致が適用されない例外もある:
- 一般的な、または歴史的な事実を従属節に述べる場合。
- 従属節がas、thanに導かれ比較を表現する場合。
- 従属節が仮定法の場合。
- このほかに話者の気持ちを表現するために時制の一致が起こらないこともある。
時制の一致は話法の区別において重要である。間接話法を用いる場合は上の各例と同じように時制の一致が起こるが、直接話法は人の談話をそのまま伝えるものなので、時制の一致が起こらない。