シャリーア
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シャリーア (شريعة Shari'a) は、イスラーム教における宗教に基づく法体系。(世俗法的規定も含むため、単なる宗教法という説明は不正確)。イスラーム法、イスラーム聖法などとも呼ばれる。原義は「水場へいたる道」。シャルウともいう。
シャリーアは宗教によって定められる法ではあるが、その内容は宗教的規定にとどまらず民法、刑法、訴訟法、行政法、支配者論、国家論、国際法、戦争法にまでおよぶ幅広いものである。シャリーアのうち主に宗教に関わる部分をイバーダート(儀礼的規範)、世俗的生活に関わる部分をムアーマラート(法的規範)と称する。イバーダートは個々人と神との関係を規定した垂直的な規範、ムアーマラートは社会における諸個人間の関係を規定した水平的な規範と位置づけられる。
ムスリムにとっては、シャリーアは人間ではなく神が定めた絶対の掟であり、人間としての正しい生き方を具体的に示すものと見なされる。したがってシャリーアは全てのムスリムが守るべき普遍的規範であり、その意味でシャリーアへの服従はイスラームへの信仰と同義であるといってよい。また、ウンマ(イスラーム共同体)は、このシャリーアの理念の地上的表現としての意味を持つ。
主な法源(ウスール・ル=フィクフ)は、
の4つ。(詳細はスンニ派を参照)
学派によって違いがあるが、基本的にはこれら諸法源に基づいて、イスラーム国家の運営からムスリム諸個人の行為にいたるまでの広範な法解釈が行われる。
一般に、上記四法源のうち上にあるものがより優先される。すなわちクルアーンによる法的判断が最優先され、クルアーンのみで判断ができない場合にスンナが参照され、スンナでも判断ができない場合にイジュマーやキヤースが行われる。ただし学派によってはイジュマーやキヤースを認めなかったり、その方法および効力に一定の制限を加えている場合もある。
なお、シーア派法学では一般にイマームのみがシャリーアを正しく解釈する能力を持つとされ、法学者を含む一般信徒による解釈は否定される。そのためシーア派法学では歴代イマームの言行も重要な法源として扱われる。
運用にあたっては属人主義による。すなわちムスリムであれば世界のどこへ行ってもシャリーアが適用される(ただしハナフィー派のみは別解釈をとる)一方、非ムスリムであれば、たとえイスラーム圏(ダール・アル=イスラーム)に滞在・居住していたとしても、直接にシャリーアを課されることはない。ただ、非ムスリムとムスリムのあいだに生じた何らかの関係や問題についてシャリーアが適用されることはある。またシャリーアはイスラーム圏における非ムスリムの地位についての規定を含む。
シャリーア運用上のもうひとつの特徴は客観主義である。すなわち行為者の意思よりもその行為の外形に注目して判定を下す。これは、ある人間の意思を正確に忖度することは神にしかできないという考えによる。
近代以前のイスラーム世界ではシャリーアが法体系の根幹とされたが、現実には支配者の定めた世俗法(カーヌーン)や地方的慣習(アーダ、またはウルフ)も併用されていた。近代に入ると西洋法系の流入によりシャリーアの運用範囲が狭められ、その権威が低下した。現在イスラーム圏のほとんどの国では、実際にシャリーアが適用されるのは、宗教的規範を除けば家族法などわずかな分野だけである。