アンシェヌマン
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アンシェヌマン(enchaînement)はフランス語において複数の語が連鎖した場合に、語末子音が直後の語頭母音と結びつき、一体化して発音される調音現象。一体化した語末子音と語頭母音は一音節を構成するので、語の区切りと音節の区切りが一致しなくなる。 リエゾン、エリジオン(エリズィヨン)とともに、フランス語の発音において非常に重要なルール。
例えば、動詞 "avoir"(英語の have に相当)の直説法現在三人称単数の活用 "il a" および "elle a" は、「イル・ア」「エル・ア」ではなく「イラ」「エラ」と発音される。同様に、名詞 "amie"(女性の友人)に不定冠詞 "une" を付した "une amie" は、「ユヌ・アミ」ではなく「ユナミ」と発音される。
複合語においてもアンシェヌマンが行われる。例えば、"arc-en-ciel"(虹)は、「アルク・アン・シエル」ではなく、「アルカンシエル」と発音される。また、"Aix-en-Provence"は「エクス=アン=プロヴァンス」ではなく、「エクサンプロヴァンス」と発音される。
アンシェヌマンは基本的に発音のしやすさに貢献する調音規則であり、英語において「in a box」が「イナボックス」と発音されるのと同じ現象であると考えられる(このような現象は他の多くの言語にも見られるが、英語の場合は音節の移動は起こらない)。したがって、上記の例は義務的なアンシェヌマンであるが、任意でのアンシェヌマンも多く行われる。
日本語にはアンシェヌマンはない(例えば「せんえん」(千円)が「せねん」になることはない)が、リエゾンに相当する連声(天王寺を「てんのうじ」と言うなど)はある。
リエゾンは古い時代におけるアンシェヌマンの名残だろうと考えられている。しかし、リエゾンが単なる発音上の規則にとどまらず、多用すれば荘重な、格式ある、書き言葉的な印象を与え得る点で、アンシェヌマンとは異なっている。