高等専門学校
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高等専門学校(こうとうせんもんがっこう)は、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする(学校教育法第70条の2)日本の学校である。
後期中等教育から高等教育を一貫して行い、高専(こうせん)と略される。
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[編集] 概要
中学校卒業者を対象に、主に技術系の人材の育成を目的とする学校である。高等学校と短期大学に相当する年次の5年制で、技術系に特化した教育を行う。大雑把に高校(工業高校)から4年制大学の工学部レベルの教育を5年間で行うため、週の総授業時間はかなり多い。
大半は独立行政法人国立高等専門学校機構が設置する国立工業高等専門学校で、1つの都道府県に1校から複数校設置されている(未設置県は埼玉県、神奈川県、山梨県、滋賀県、佐賀県。)。
制度の開始が1962年と、学制としては比較的新しいため、2006年現在でも産業界や技術者以外には認知度、理解度が低く、特に受験生である中学生にもあまり知られていない。専門課程を置く専修学校が称することができる専門学校と混同されることもあるが、全く別の学校である。
英語ではCollege of technologyと表記し、高等教育機関に分類される。
[編集] 学校数・生徒数
2005年5月1日現在で学校教育法に基づく高等専門学校は63校あり、その内、国立55校、公立5校、私立3校。在校生は男子4万9325人、女子9835人[1]。
[編集] 歴史
高等専門学校の制度は、第二次世界大戦降伏後の学制改革によって廃止された旧制工業専門学校を卒業した者に相当する中堅技術者を養成する学校として創設された。当初、専科大学として、国会に上程したが、短期大学の恒久化問題と合い重なり、廃案となってしまったため、新たに高等専門学校制度を創設し、国会を通した。
戦後の6-3-3-4制単線教育制度の中で、1962年6-3-5となる高専制度が始まり、1960年代終盤以降現在まで毎年約10,000名の卒業生を送り出している。
私立、公立の高専については大学に改組するなどの異動があったが、国立の、特に工業高専では、制度発足直後の数年で大部分の高専が設立され、それらはみな現在も存続している。また、大部分の高専はまったくの新設であり、前身校を持たない。
[編集] 入学
中学校を卒業した者または中等教育学校の前期課程を修了した者を対象とし、高等学校の入学試験と同じ時期に入学試験が行われる。学力試験は全国の国立高専では同時に同一の問題で行われる。通常、複数の学科やコースがあり、受験時に希望を出す。学力検査や面接の結果などを考慮した上で合否が決定される。また、入学志願者は、第3(2)希望までの学科・コースなどを提出して、提出した学科・コースなどの中から順に決定される学校もある。中学校の課程や中等教育学校の前期課程を修了した者だけでなく、高等学校や中等教育学校を卒業した者を対象に、4年次への編入学制度も設けられている。 総合選抜地区では、高等専門学校は総合選抜の対象とならないため、進学校化する場合がある。
制度が開始された1960年代には、いわゆる「団塊の世代」の高校受験に重なったことと、高度経済成長時期にみられた科学技術や工業化の発展による影響から、20倍や30倍を超えた時もあった。しかしバブル景気以後は深刻な理系離れや四年制大学志向が強まった影響で、全体的に若干偏差値は落ちてはいるが、依然、都道府県内では難関校の常連になっている。
- ただ、学力の高い生徒のほとんどは、一般的な進学校と言われる高校から、偏差値が高いとされる難関一流大学といわれる4年制大学を目指すため、一般的なメインルートの学制(6-3-3-4)から外れ、裏街道(サブルート)的な学制でもある5年制高専を目指す人は、かなり特殊な人が多い。あるいは、高校から入学するよりも比較的入りやすいといわれる大学への編入学を目的としている場合もある。
[編集] 教育
高等専門学校の修業年限(卒業までに教育を受ける期間)は5年(ただし、商船に関する学科については、5年6月)とされ(学校教育法第70条の4)、 その学齢は高等学校の3年間と短期大学の2年間に相当する。卒業すると準学士と称することができる。
高等専門学校では、普通教育とともに、細分化された学科ごとに専門教育が行われる。また、多くの高等専門学校は、学校内に学生寮を設置している。以前は全寮制を敷く学校もあったが、そういったところでも1990年代以降は、自宅からの通学を広範に認める学校も多い。
[編集] 卒業後の進路
就職率の高さが特長である。各高専によって若干異なるが基本的に高校生と同じように学校が学生と話し合って受験企業を一社に絞って受けさせる「一人一社制」によって就職活動を行う場合がほとんどであるが、大学生と同じように企業が高専卒採用枠を設けてインターネットなどで採用情報を公開し、全国の高専生を対象とした選考をすることもある。また、少数の企業ではあるが大学卒と同一の採用枠、試験枠となる場合や、企業によっては現役生として考えると同じ年齢である短大・専門学校卒業対象となることもある。採用後についても高専卒用のモデル昇進ルートを設計する企業はない。待遇は概ね短大卒~大卒程度である。また、卒業してから、技術科学大学を始めとする、大学の3年次に編入学できる制度もあり、高等専門学校に設けられた専攻科への進学とあわせて進学の幅も増えている。高等専門学校の専攻科のうち2年制のものを修了すると、大学評価・学位授与機構から学士の学位の授与を受けることができる場合が多い。また、高等専門学校の第3学年を修了すると大学への入学資格が生じ、第3学年を修了した後に高等専門学校を退学して、大学に入学する人もいる。
- 就職
- 大学進学率が急増する中で、技術者供給源としての高専の価値は相対的に低下している。ただし、そのことで、就職試験を受ける機会が減っているということはない。
- 工業高専は高校レベルの基礎学力から大学工学部レベルの高度な知識を背景にした工業技術を学ぶため、産業界からは高い評価をうけている。戦後最悪の失業率を記録した平成不況のときでも最低2~3倍の求人倍率を誇り、団塊の世代の大量退職(2007年問題)が始まる2007年度採用の求人倍率で10倍を上回る倍率を記録する工業高専もみられた。
- 進学
- 大学へのアクセスは、能力に応じて公平に平等にと言われてきているが実際のところ、大学側の受け入れ能力は大変限定されている。その範囲で、高専卒は大変受け入れやすい。工学部の側から見れば専門教育の立場から高専卒は、楽である。工業高校卒に対しては多くの場合、受け入れる体制がほとんど整っておらず、入学試験ではしばしば普通高校並みの理数知識を要求し、入学後も彼らの学んだ経験を活かしきれない構造となっている。
- ここ数年で進学する者が増えている。高専によって異なるが多くて6割程度進学する場合もある。
- 高専で進学する場合は専攻科に進学するか、大学の3学年に編入学する場合がほとんどである。(専攻分野が異なる場合など、大学のカリキュラム編成によっては2年次編入学になる場合もある。)
- ほぼすべての国公立大学で定員を設けて高専からの編入を実施しており、高専卒業生の受け入れを主目的の一つとして創立された国立の工業大学である豊橋技術科学大学や長岡技術科学大学をはじめ、その他の国公立大学工学部に編入する場合が多い。また、少子化の中、理工系に限らず編入学定員を設ける私立大学も多くなっている。
- 最近では工学部に限らず理学部に編入学する場合や、文系学部に編入学する場合もある。
- 通常、高校→大学コースよりも高専→編入学コースの方が大学に入りやすいといわれている。
- また、推薦編入学制度を持つところもあり、高専で上位であれば無試験(面接のみ)で入学できる。その場合も1クラス内での順位である場合が多いため、比較的容易に推薦で編入学できる場合が多い
[編集] 専門分野
高等専門学校のうち、工業高等専門学校(工業高専)の数が最も多く、工業高等専門学校には、機械、電気・電子、制御情報、物質(化学系)、環境都市、建築、デザイン等の学科がある。工業高等専門学校(工業高専)は、工専と略されることもあるが、旧制の工専(工業専門学校)と混同される可能性があり、一般的には高専と略す。そのほか、商船高等専門学校(商船高専)、電波工業高等専門学校(電波高専)、航空工業高等専門学校(航空高専)などがある。
商船高等専門学校、電波工業高等専門学校は国立の商船高等学校(3年制)や電波高等学校(3年制)を5年制の高等専門学校に改組したもので、大半の工業高等専門学校とは出自が異なる。商船高等専門学校は商専とも略される。以前は工業と商船(海員養成)の分野しか認められていなかったが、平成3年、高等専門学校設置基準の改正で工業と商船に限った専門分野の縛りがなくなり、北海道に芸術系の高等専門学校が創設された(札幌市立高等専門学校、但し、2006年4月に札幌市立大学へ組織変更されるため、廃校になることが決まっている。)。しかし旧制七年制高等学校のような、教養教育系の高等専門学校は、いまだに設置された事例がない。
[編集] 国立高専の独立行政法人化
国立大学の独立行政法人化に伴い、国立の高等専門学校の設置者も同様に、すべての国立の高等専門学校の設置に関しては、国の直接設置から「独立行政法人国立高等専門学校機構」に変更された。これにより、国が直接設置する学校ではなくなったが、国立高等専門学校機構もまた国が設けたものであるため、学校教育法の第2条により国立高等専門学校機構が設置する学校も国立学校とされている。
独立行政法人化したことにより、国から、文部科学大臣が定めた中期目標による指示があり、それに対して中期目標を達成するための中期計画(5年)、年度計画(1年)が機構による作成・実行が義務付けられた。達成度によっては国からの予算(運営費交付金)が減らされることもあり得るため、55の各国立高等専門学校は、日々、中期計画に沿うように、学生サービスの向上、事務の効率化など努力している。中には、地域の企業と連携して技術研究や商品開発などを行い、利益を上げる事で穴埋めしようとする学校もある。
主な中期計画は次のとおりである。
- 中学生が国立高等専門学校の学習内容を体験できるような入学説明会、体験入学、オープンキャンパス等の充実を支援する。
- 入学者の学力水準の維持に努めるとともに、入学志願者の減少率を歳人口の減少率よりも低い5%程度に抑え、中期目標の最終年度においても全体として人以上の入学志願者を維持する。
- 公私立高等専門学校と協力して、スポーツなどの全国的な競技会やロボットコンテストなどの全国的なコンテストを実施する。
- 図書館の充実や寄宿舎の改修などの計画的な整備を図る。
- 教員の研究分野や共同研究・受託研究の成果などの情報を印刷物、データベース、ホームページなど多様な媒体を用いて企業や地域社会に分かりやすく伝えられるよう各学校の広報体制を充実する。
[編集] 学生生活
[編集] クラブ活動
[編集] 運動部
高校や大学に準じるクラブ活動を行なっていて、国公立の場合は全て全国高等専門学校総合体育協会に所属しており、各競技の専門部により年1回に全運動部の競技種目を対象に高等専門学校総合体育大会(高専大会)としてが実施されている。
但し競技種目や学校によっては任意で、高専大会にも参加する一方で、部内の学年構成を高等学校に相当する1~3年は高体連や高野連と、一般の短期大学に相当する4~5年では学連や社会人連盟などに分けて、それぞれ高校の競技連盟や大学、社会人の競技連盟に参加している場合もある。
[編集] ロボコン
NHKの「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」の優勝目指して日夜励んでいるといわれる。これに参加するために入学する者も多く、その性質から電気・電子・機械系の独壇場である。名目上として、全学的に取り組んでいる場合が多い。高専在学中にロボコン参加した者が、卒業後に進学等をして学位取得後に再度教員として高専へ戻り、ロボコンを指導している場合もあり、近年はより高度な戦いとなっている。
[編集] 高専特有の諸問題
[編集] 高専生活
- ほとんどの高専は国立や公立であるため、学費が安く済んでしまうことや、就職・進学率の高さから「親に勧められたから」とか「就職が良いから」という安易な志望動機で特別に専門科目に興味のない学生が入学してくるケースが徐々に増えていると言われている。また、高校や大学へ進学したかつての同級生と比較して女子学生が少なく、他高校との交流も少ないため、青春時代の恋愛がほとんどない状態の高専が多いことや、授業時間数が多いことに不満を感じている学生も見られる。その結果として、授業中の居眠りや、専門科目での実習レポートを他人の(特に優秀な学生の)レポートから盗作したりすることがしばしば見られることがある。
- また、最近ではコミュニケーション能力が低い若者が増えていると言われるが、数々の優秀な学生を送り出してきた高専も例外ではない。高等教育機関であるがゆえに入学時からいきなり大学と同じ肩書きを持っている教員(教授、助教授など)と接することになり、大学の感覚で授業や生活指導をするような年少者への指導力が乏しい教員とコミュニケーション能力が低い低学年の学生が巡り合ってしまうと、入学後すぐに不登校となってしまう場合が増えていると言われる。教員自身にとっても、自らを大学教員と同じ研究者であるとみなしている場合が多い。そのような教員にとっては、高等学校と同じように学生指導や部活動などに時間を取られ、研究が十分にできないことが不満と感じられる。
- さらに、専門科目に特化した教育を少人数で行うため、1学科1クラスの場合も少なくなく、寮生活をしている学生も多いため、一度いじめが発生してしまうとクラス替えによって当事者を引き離す手段が取れず、解決するのが難しくなってしまう。しかし、1学科1クラスでクラス替えがない学校は地方の小中学校では当たり前であり、高専ならではの問題ではないという考えもある。
これらを解決する手段として、共通科目の比率が多い1、2年の間は学力に応じた学科混成のクラス編成を採用している高専もあるが、必ずしも成功しているとは限らない。
[編集] 学力問題
- 専門科目に特化した教育が高専のメリットであるが逆に専門科目に重点を置きすぎているため、文系科目(特に英語力)が苦手であっても大半の高校生が経験する大学受験での英語力では考えられない難関大学への編入が比較的容易にできてしまう。そのため、高専に精通した中学校の先生は理系大学進学を目指しているが英語力が低い生徒に対して高専を勧めるケースもあるという。近年のグローバリゼーション化した社会と逆行した教育になってしまい、同年代の高校生・大学生に比べて低い英語力がネックとなって大学編入後や就職後になって苦労するケースがあると言う。そのため、各高専ともJABEEやTOEICなどの外部評価を取り入れている高専が多い。また、資格試験の取得も奨励されており、危険物取扱者や情報処理技術者などの試験を受けるように指導している場合が多く、取得を促すために資格によっては単位認定することも認めている高専もある。
- 以上のように、設立以来いわゆるエリートな技術者を多く送り出してきた高専も認知度の低さや中途半端な学歴で容易に大学へ進学できる時代に合わない部分も見受けられるようになってきた。特に、都心部で「専門学校」と混同する場合が多い(高専が無くなって久しい神奈川県では、特にその傾向が強い)。認知度に関して現実的に言えることは山口女子高専生殺害事件の報道ニュースのときにアナウンサーが「高等専門学校」という正式名称を理解していない部分があちこちに見られた(よくないことではあるが、この事件がきっかけで高等専門学校という正式名称が広まったという考えもできる)。しかし、依然として専門的な技術者を育成するためには非常に恵まれた環境である学校であることは変わりなく、高等専門学校への進学を目指している中学生は「技術のスペシャリストになるぞ」という強い志を持って受験すれば、充実した学生生活が送れるはずである。
[編集] 外部リンク
- 高等専門学校のホームページ (国立高等専門学校協会 広報専門部会)
- 独立行政法人国立高等専門学校機構
[編集] 高等専門学校を題材にした映画、コミック、アニメ、ゲーム等
- ロボコン (映画)
- ふたつのスピカ (コミックおよびアニメ。話中に出てくる「国立東京宇宙学校」が高等専門学校である。)
- 野蛮の園 (コミック。西川魯介・著 白泉社ジェッツコミックス)
- BREAK-AGE (コミック。馬頭ちーめい+STUDIOねむ・著 アスキーファミ通文庫)
- ロボットボーイズ(コミック。原作七月鏡一+作画上川敦志 小学館少年サンデー。作中では高校が舞台。)
- すくらっぷ・ブック(コミック。小山田いく著 秋田書店少年チャンピオンコミックス。中学生の主要登場人物が高専を目指す。作者本人は高専出身である。)
- 星のローカス(コミック。小山田いく著 秋田書店少年チャンピオンコミックス。上記作者による、上記作品との並行連載作品。)
- 「THE ロボットつくろうぜっ!- 激闘!ロボットバトル- 」(ゲーム。ディースリー・パブリッシャー)
[編集] 関連項目
- 高等教育
- 電波高等専門学校(電波高専)
- 商船高等専門学校(商船高専)
- 日本の高等専門学校一覧
- アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト - ロボット競技
- 全国高等専門学校プログラミングコンテスト
[編集] 脚注
- ↑ 出典:総務省『青少年白書』平成18年版
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高等専門学校 5年制 15歳以上から5年間 |
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同段階の学校 | ||
注1: 高等専門学校の専攻科は含まない。 |