金田一耕助
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金田一 耕助(きんだいち こうすけ)は横溝正史の推理小説に登場する架空の探偵。
ボサボサ頭にお釜帽(ソフト帽)をかぶり、セルの袴といった姿が印象的である。
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[編集] プロフィール
生涯独身であり、その生涯で愛した女性は数人程度であったとされるが、女癖が悪いことなどもあるために諸説ある。作品中で金田一耕助が思いを寄せた女性は二人。「獄門島」の鬼頭早苗と「女怪」の持田虹子である。
何度か映画やテレビドラマの題材として使用され、彼を演じた俳優は石坂浩二、古谷一行、片岡鶴太郎など幅広い。異色なものでは、渥美清の、帽子をチューリップハットから麦わら帽子に変えた金田一や、片岡千恵蔵のスーツ姿にソフト帽の金田一、岡譲司の金田一になってはキッチリとスーツを着こなし拳銃を自由に操る金田一など原作からは想像できない姿で映像化されている(これ以降の河津清三郎や池部良もスーツ姿である)。また意外なようだが中尾彬、高倉健も映画で金田一を演じたことがある。 最もハマリ役だった金田一俳優は現在のところ映画版の石坂、ドラマ版の古谷といった評価が一般的なようだ。前者は繊細で透明感のある金田一、後者は骨太で温かみのある金田一を演じ、各々映画の大ヒットやドラマシリーズの高視聴率で人気を博した。1990年代の作品では豊川悦司、もっとも最近では稲垣吾郎が金田一を演じており、新たな金田一像は今も模索され続けている。彼らの金田一の演技に関しては賛否両論分かれるところではある。
作者のエッセイ「金田一耕助誕生記」によれば、風体は劇作家の菊田一夫がモデルであり、名前も当初は「菊田一○○」と付けようとしていたという。だがこれは菊田に失礼だろうということで取り止めた。そこで作者は、疎開前に住んでいた吉祥寺でたまたま隣組に言語学者の金田一京助の弟がいたことから“菊田一”に近い苗字である“金田一”を取り、名前も“京助”を捩って“耕助”と付けたという経緯がある。また耕助の興奮すると頭を掻く癖は作者自身の癖を誇張したものだそうである。
[編集] 経歴
- 身長は五尺四寸(163.6cm位)、体重は十四貫(52.5kg位)を割るだろうという。蝙蝠に似ているといわれている。
- 4月、地元の中学を卒業後18歳で同窓生の風間俊六と共に上京し、神田で下宿しながら私立大学(日本大学予科の薬学系という説がある)に籍を置く。中学時代の先輩の大学生の紹介で歌舞伎役者・佐野川鶴之助を中心とする丹頂会に入会。また、この時期に映画女優・紅葉照子のファンになる。
昭和7年、渡米。
- 映画俳優・ジャック安川と知り合う。皿洗いなどを経験しながら一時は麻薬の悪癖に溺れるが、19歳のときにサンフランシスコで殺人事件を解決する。このとき在留日本人会の席上で出会った岡山県の果樹園主、久保銀造に学資を援助してもらい、また当人も夜間は病院に勤務して看護士の見習いをしながらカレッジに通う。
- カレッジを卒業して帰国。久保銀蔵から5千円の援助を受けて探偵事務所を開設。立て続けに大きな事件を解決して、“名探偵・金田一耕助”の名を世に知らしめた。また、この時期に同窓生だった風間俊六と再会している。
ちなみに、クイズ番組「クイズ$ミリオネア」では「金田一耕助が最初に探偵事務所を開いた場所は日本橋」とされたが、東京で事務所を開設したことは間違いないが、それが「日本橋」であるとの記載はどこにもない。
- 8月25日、稲妻座の歌舞伎役者失踪事件。
- 11月27日~29日「本陣殺人事件」を解決。この事件で岡山県警の磯川常次郎警部と知り合う。
- 応召して中国大陸へ。
- 転戦を重ね、ニューギニアのウエワクまで南下。川地謙三、鬼頭千万太と知り合う。
- 8月15日、ウエワクで終戦を迎える。
昭和21年復員。
- 戦友の依頼により「百日紅の下にて(9月初旬)」「獄門島(9月下旬~10月上旬)」「車井戸はなぜ軋る」などの事件を解決。「獄門島事件」にて鬼頭早苗と知り合い、懸想するも振られる。
- 10月上旬に岡山の横溝正史を訪ね、伝記作家として親交を持つ。また、帰郷する汽車の中で風間俊六と再会。この頃に京橋裏(銀座裏)の三角ビル5階に「金田一耕助探偵事務所」を開設する。
- 10月上旬・中旬、11月1日~3日「死仮面」
- 11月中旬「黒蘭姫」「蝙蝠と蛞蝓」解決。
- 三ヶ月ばかりで事務所を閉めてしまい、風間の二号(愛人)節子の営む大森の割烹旅館『松月』の離れに転がり込む。
- 3月下旬「暗闇の中にひそむ猫」
- 3月26日、28日~30日「黒猫亭事件(原題「黒猫」)」
- 4月中旬~26日「殺人鬼」
- 9月28日~10月11日「悪魔が来りて笛を吹く」を解決。またこの時、警視庁の等々力大志警部と知り合う。
- 「夜歩く(5月5日~9日)」「八つ墓村(5月中旬~9月初旬)」の事件を解決し、多額の金をふところにした金田一耕助は、探偵作家・横溝正史と伊豆へ旅行する。
- 9月初旬、10月初旬・中旬、12月、翌年1月「女怪」解決。「女怪事件」の犯人・持田虹子に懸想するも、金田一の推理によって虹子は自殺。
- 10月18日~12月15日「犬神家の一族」事件を解決している。
- 10月18日~20日、11月25日「迷路荘の惨劇」解決。
- 3月下旬「仮面城」
- 4月上旬「大迷宮」
- 5月上旬、17日~31日、6月6日~中旬「女王蜂」
- 7月上旬・中旬「金色の魔術師」
- 7月下旬「灯台島の怪」
- 9月1日~7日、13日、10月中旬「黄金の指紋(原題「皇帝の燭台」)」解決。
- 6月9日、中旬「花園の悪魔」
- 9月3日、15日「生ける死仮面」解決。
- 3月24日、25日、4月25日、5月3日~下旬「幽霊男」
- 5月12日、24日、28日「堕ちたる天女」
- 5月末「廃園の鬼」
- 6月中旬~10月中旬「迷路の花嫁」
- 8月下旬「蜃気楼島の情熱」
- 10月23日、24日「首」を解決。
- 3月5日~中旬「蝋美人」
- 3月8日、15日「毒の矢」
- 3月中旬、4月5日「黒い翼」
- 3月下旬、4月中旬・下旬「死神の矢」
- 7月29日、30日「夢の中の女」
- 8月初旬~下旬「鏡が浦の殺人」
- 8月末「傘の中の女」「七つの仮面」
- 秋に「華やかな野獣」
- 11月7日、12月10日「霧の中の女」
- 11月24日~30日、12月5日「トランプ台上の首」
- 秋から12月20日~26日、翌年1月末「女の決闘(原題「憑かれた女」)」を解決。
- 1月中旬、『松月』の離れから世田谷区緑ヶ丘町の高級アパート・緑ヶ丘荘の二階三号室に転居する。
- 3月2日、4日~上旬「泥の中の女(原題「泥の中の顔」)」
- 3月20日、25日「洞の中の女」
- 4月5日、12日、5月5日「鞄の中の女」
- 5月上旬、16日、18日「鏡の中の女」
- 6月上旬「貸しボート十三号」
- 7月末~8月6日「赤の中の女」
- 8月20日~25日、9月18日、20日、10月上旬「支那扇の女」
- 秋に「檻の中の女」
- 12月20日、25日、翌年1月下旬「悪魔の降誕祭」解決。
- 3月18日、25日「柩の中の女」
- 5月19日~21日、28日「火の十字架」
- 5月25日「薔薇の別荘」
- 5月28日「瞳の中の女」
- 6月29日、7月25日、26日、8月15日、16日、9月4日、5日、10日、18日、10月下旬「悪魔の寵児」
- 8月16日、17日「香水心中」
- 9月中旬「霧の山荘」
- 10月5日~12日、18日、23日、25日~28日「迷宮の扉」解決。
- 3月上旬~4月上旬は関西方面へ。
- 4月5日、26日~28日「壺中美人」
- 7月25日、26日、8月5日「スペードの女王」
- 12月22日~24日、28日「扉の影の女(原題「扉のかげの女」」解決。
- 6月5日、8日「猫館」
- 6月22日~25日、7月22日、8月12日「悪魔の百唇譜」
- 8月5日、7日、9日、15日「雌蛭」
- 8月14日~16日「仮面舞踏会」
- 9月27日、10月1日、11月3日「日時計の中の女」
- 10月11日、30日~11月1日、4日、6日「白と黒」
- 11月25日、26日、12月3日、5日、6日、24日~27日、翌年1月23日、24日「夜の黒豹」解決。
「雌蛭事件」では『鼠色のズボンに派手なチェックのアロハ、ベレー型のハンチングにべっ甲縁の眼鏡』という妙な格好の金田一を見る事ができる。
- 2月19日、23日「蝙蝠男」解決。
- 6月23日~7月14日「悪霊島」解決。
- 最後の事件(「病院坂の首縊りの家」4月1日、8日~15日、23日、30日)の解決後にロサンゼルスへ。関係者が八方手を尽くして捜したが消息不明であった。しかし、実は昭和50年に帰国しており、余生は日本で送ったようだ。
[編集] 登場作品リスト
[編集] 長編
- 本陣殺人事件
- 獄門島
- 夜歩く
- 八つ墓村
- 犬神家の一族
- 迷路荘の惨劇
- 悪魔が来りて笛を吹く
- 女王蜂
- 不死蝶
- 吸血蛾
- 幽霊男
- 三つ首塔
- 悪魔の手毬唄
- 悪魔の寵児
- 悪魔の百唇譜
- 悪魔の降誕祭
- 仮面舞踏会
- 白と黒
- 悪霊島
- 病院坂の首縊りの家
[編集] 短編
- 百日紅の下にて
- 車井戸はなぜ軋る
- 蝙蝠と蛞蝓
- 黒猫亭事件
- 殺人鬼
- 黒蘭姫
- 死仮面
- 女怪
- 鴉
- 幽霊座
- 睡れる花嫁
- 湖泥
- 花園の悪魔
- 生ける死仮面
- 迷路の花嫁
- 首
- 廃園の鬼
- 毒の矢
- 蝋美人
- 黒い翼
- 死神の矢
- 魔女の暦
- 暗闇の中の猫
- 夢の中の女
- 七つの仮面
- 華やかな野獣
- トランプ台上の首
- 霧の中の女
- 女の決闘
- 泥の中の女
- 鞄の中の女
- 鏡の中の女
- 傘の中の女
- 檻の中の女
- 鏡が浦の殺人
- 貸しボート十三号
- 壺中美人
- 支那扇の女
- スペードの女王
- 扉の影の女
- 洞の中の女
- 柩の中の女
- 火の十字架
- 赤の中の女
- 瞳の中の女
- 薔薇の別荘
- 香水心中
- 霧の山荘
- 人面瘡
- 雌蛭
- 日時計の中の女
- 猟奇の始末書
- 夜の黒豹
- 猫館
- 蝙蝠男
[編集] ジュヴナイル作品
- 大迷宮
- 仮面城
- 黄金の指紋
- 金色の魔術師
- 燈台島の怪
- 迷宮の扉
- 黄金の花びら
[編集] その他
[編集] パスティシュ
[編集] 他作品への登場
有名な探偵なので、多くの作家の作品に金田一耕助は登場している。
[編集] 殺人防御率
本の雑誌編集部編「活字探偵団」によれば、金田一耕助は事件に乗り出してから、次の犠牲者がでるのを防ぐ「防御率」の一番低い探偵ということになっている。防御率の算出方法は、「主要10作品を選定し、探偵が事件に関与してから、解決するまでに起きた殺人件数を作品で割る」というもの。ただし、「八つ墓村」「三つ首塔」「悪魔が来りて笛を吹く」等の大量殺人が含まれているために、防御率が低くなるのも当然といえるだろう。ちなみに、対象を全77作品で算出した結果は1.5であり、一概に「防御率が低い」とはいえないのである。ちなみにこの事に関して直接的なものとはいえないが、爆笑問題の太田光は探偵の話題で金田一の防御率に関する話題になった際に「俺は事件が起きて『しまった~』なんていう探偵には絶対に依頼しない」と自身の書籍で語っていた。
[編集] 漫画作品への登場
『名探偵コナン』で「探偵が犯人を追い詰めてみすみす死なせては殺人者と同じ」という趣旨の発言をした(させた)主人公の工藤新一および作者の青山剛昌は直接的でないにせよ、金田一のように犯人が死んでしまうことの多い探偵を根本的に否定していると思われる。一方、犯人が自殺してしまうことについて、某事件で等々力警部が、「・・・これが金田一耕助流のヒューマニズムとでもいうのかね。おかげで事件は解決できるが、ホシは逃がしてしまうということがちょくちょくあるよ。つまり、そのためにこのひとは、最後の瞬間までわれわれに手のうちをみせないんだからね。・・・」と述べていることから、金田一耕助は、犯人が自ら罪を償う機会を与えていると言える。
なお、漫画の『金田一少年の事件簿』の主人公金田一一(はじめ)は、彼の孫という設定となっている。が、作品を描く際に横溝の遺族の承認を取っていなかったため、連載中期以降はこの設定が控えられがちとなった。
正式な漫画化作品としては影丸穣也の『八つ墓村』、JETの『本陣殺人事件』『犬神家の一族』『八つ墓村』『獄門島』『悪霊島』『悪魔の手毬唄』『悪魔が来りて笛を吹く』『悪魔の寵児』『睡れる花嫁』等が刊行されている(いずれも角川あすかコミックス)。JET本人もかなりの金田一ファンだと言う事もあってか非常に完成度は高い。また、たまいまきこも『悪霊島』を漫画化している。
[編集] 演じた俳優
[編集] 映画版
- 片岡千恵蔵
- (「三本指の男(本陣殺人事件)/昭和22年」
- 「獄門島(前後編)/昭和24年」
- 「八ッ墓村/昭和26年」
- 「悪魔が来りて笛を吹く/昭和29年」
- 「犬神家の謎・悪魔は踊る(犬神家の一族)/昭和29年」
- 「三つ首塔/昭和31年」
- いずれも製作は東横映画(現東映)。監督は松田定次)
- 岡譲司(「女王蜂/昭和27年/田中重雄監督/大映」)(岡譲二はこの作品から譲司と改名)
- 河津清三郎(「幽霊男/昭和29年/小田基義監督/東宝」)
- 池部良(「吸血蛾/昭和31年/中川信夫監督/東宝」)
- 高倉健(「悪魔の手毬唄/昭和41年/渡辺邦男監督/東映」)
- 中尾彬(「本陣殺人事件/昭和50年/高林陽一監督/ATG」)
- 石坂浩二
- 渥美清(「八つ墓村/昭和52年/野村芳太郎監督/松竹」)
- 西田敏行(「悪魔が来りて笛を吹く/昭和53年/斉藤光正監督/東映・角川」)
- 古谷一行(「金田一耕助の冒険/昭和54年/大林宣彦監督/角川映画」)
- 鹿賀丈史(「悪霊島/昭和56年/篠田正浩監督/東映・角川」)
- 豊川悦司(「八つ墓村/平成8年/市川崑監督/東宝・フジテレビ」)
[編集] テレビドラマ版
[編集] 番外篇ドラマ
[編集] TVCM
[編集] 舞台版
[編集] ラジオドラマ版
[編集] カセット文庫版
[編集] 金田一耕助の助手
東映、東横映画の作品では、金田一耕助の助手として白木静子が登場する。
- 原節子(三本指の男)
- 喜多川千鶴(獄門島、犬神家の謎・悪魔は踊る)
- 相馬千恵子(八つ墓村)
- 千原しのぶ(悪魔が来りて笛を吹く)
- 高千穂ひずる(三つ首塔)
- 北原しげみ(悪魔の手毬唄)