MU-2
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| 概要 | |
| 分類 | 多用途機 |
| 定員 | 7～9（用途別） |
| 製造者 | 三菱重工業 |
| 寸法 | |
| 全長 | 胴長12.03m、胴短10.13m |
| 全幅 | 11.95m |
| 全高 | 胴長4.17m、胴短3.9m |
| 翼面積 | ? |
| 重量 | |
| 自重 | 3.2t （種別により多岐） |
| 最大離陸重量 | 5250kg （種別により多岐） |
| 機関 | |
| エンジン | ギャレットTPE331-10-501M ×2 |
| 出力 | ? |
| 性能 | |
| 最大速度 | 571km/h |
| 航続距離 | 2780km |
| 実用上昇限度 | m |
| 初飛行 | 1963年9月14日 |
MU-2は日本の三菱重工業が製造した多目的小型ビジネス飛行機で、双発のプロペラ機。1963年初飛行。
目次 |
[編集] 経緯
[編集] 日本初のビジネス飛行機
三菱から多数出向していた日本航空機製造でYS-11を開発していた頃である1960年（昭和35）ごろから開発計画が始まった。次期主力戦闘機の調査団として参加した三菱の池田研爾課長は、アメリカで多数の小型ビジネス機を目撃し、「この程度なら三菱でもできるのでは」と考えて、帰国すると早速、若手技術者らに自分の見たものを説明し、独自に計画を進めた。
コンセプトとしては、軍民両用の小型ターボプロッププロペラ機で、市場はアメリカ合衆国の社用・自家用のビジネス向けとした。また日本の現状を考えて、技術的にも経営的にも背伸びしないもの、欧米その他、海外に輸出可能なものとして設計を進めた。
なるべく欧米の真似ではなく、三菱らしさを前面に出すため、基礎技術など以外はほとんど独自に設計を行った。参考として役立ったのが、三菱が保管してきた戦前戦中の軍用機図面で、若手技術者は陸軍の「キ83」試作遠距離双発戦闘機を参考にしたほか、アメリカの航空雑誌の断片記事のコピーで勉強したという。
当時の小型飛行機は、戦前のレシプロエンジンをそのままターボプロップに載せ変えているだけという場合が多く、全く最初から設計した三菱は、それだけで注目を集め、有利だと考えた。
1963年（昭和38）9月14日に試作1号機（JA8620）が初飛行したが、いろいろと不具合が見つかり、また量産方式に不慣れな点があったことから、ライセンス生産していたF-86Fの生産を参考にした。1965年（昭和40）2月19日にMU-2Aが運輸省（現国土交通省）航空局の形式証明を取得し、9月には米国向けにギャレットエンジンに転換したMU-2Bも取得、11月にアメリカの連邦航空局（FAA）の形式証明も取得でき、翌1966年（昭和41）に発売を開始した。
形式証明に先立って、1964年（昭和39）に西ドイツ・ハノーバーでの航空ショーに出品、「ゼロ戦を作った三菱のビジネス機」として注目を集め、昭和40年からは欧米各地へデモフライトを行い、前宣伝を行ってきた。日本国内では陸上自衛隊と航空自衛隊、そして毎日新聞社が社機として採用を決定、これも相当な宣伝になった。
[編集] アメリカでの販売
また、三菱は北米に販売網を持たないため、販売とアフターサービスを小型機業界4位のムーニ社に委託して、三菱は機体を半完成状態で輸出し、ムーニでアメリカ製の装備品調達と最終組み立てを行うことになった。
万全の体制で販売に臨んだはずであったが、ムーニが販売開始間もなく、MU-2には関係ないところで経理上の問題を起こして急速に経営難に陥り、倒産寸前となってしまった。三菱は余波を避けるために1967年（昭和42）、ムーニのあるテキサス州サンアンジェロ市に、三菱重工が8、三菱商事が2の割合で出資した現地法人三菱アメリカ･インダストリー（MAI）を設立し、直後、ムーニが倒産したので、ムーニのサンアンジェロ工場を購入し、ムーニの業務を全て引き受けた。販売には航空機セールスマンクラブで人材を探し、全てアメリカ人に営業をさせることで、未知の民間機業界に乗り込んだ。同時に機体のファミリー化を図り、胴長形や出力増強型を販売し、顧客のニーズに応えられるようになった。
ところで、アメリカには国内で飛ばす航空機は、その50パーセント以上を米国製の部品で作られていなければならないという決まりがあり、そのためにムーニに現地委託して部品を調達してもらったのであったが、三菱が自らやらねばならなくなった。しかし部品企業は、民間航空機事業を初めて行う三菱を信用せず、なかなか調達できなかったり、できても異常に値を吊り上げられてしまう有様だった。そこで、三菱はそれまでの日本人ではなく、アメリカ人セールスマンに買い付けに行かせると、それだけで部品価格が下がったという。
三菱が販売を開始した昭和42年、ようやく5機の受注を受けて以降、安定性の高い飛行機として評判が広がり、年産40機から50機にまで成長した。ところが、ベトナム戦争によって米政府は財政赤字に苦しんでいた。1971年（昭和46）、米政府はドル防衛策として円の固定相場制を変動為替に移行すると発表した。いわゆるニクソンショック、ドルショックであった。円は急速に値上がりし、輸出するだけで高い利益を得ていた日本経済は大打撃をこうむった。MU-2も、アメリカに輸出という形をとっていたため、採算割れを起こしてしまい赤字が増大（航空機は初期投資が膨大なため、多少の売上では黒字にならない）、コストダウンを迫られた。それでも1972年（昭和47）は月産6機、1973年（昭和48）には月産8機を維持し、赤字だったが販売は好調だった。この様子は、米国に挑戦する日本企業として注目を浴び、CBSは特別番組を制作するほどだった。
[編集] 生産中止
だが、1973年（昭和48）秋に起きた中東戦争は、世界的なオイルショックをもたらし、原材料や人件費が暴騰して、急激なインフレーションが起こった。燃料費の高騰によってエアラインは軒並み経営不振となり、また、販売を委託していた北米の各社も経営不振に陥って、MU-2の受注が急減した。そこで、委託販売を止めて再びMAIが直接販売を開始したが、売れ行きは伸び悩んだ。
1987年（昭和62）、新型機MU-300に販売を集中するため、MU-2の生産を終了した。総生産数は762機、世界27カ国で販売され、世界の小型機の中でもベストセラーであった。三菱はその後もMU-2のプロダクトサポートを担当していたが、一度MU-300と共にビーチクラフトに移管された。1998年（平成10）に再度三菱に移管され、名古屋航空宇宙システム製作所から業務の拠点とするダラスへ社員2名が派遣され、現地社員と共にサポートを行った。2002年（平成14）と2005年（平成17）には米国航空雑誌として著名な『アビエーション・インターナショナル・ニュース』誌で、自家用機プロダクトサポートのターボプロップ部門において第1位の評価を得た。
自衛隊では退役が進んでいるが、海外の民間機としては当分使われると思われる。
[編集] 機体
外見は高翼・エンジン双発の常識的なものであるが、構造や技術には独自のものを取り入れた。最大の特徴である主翼全翼に渡るダブル・スロッテッド・フラップは、同型機に比べて5割程度翼面荷重を大きくし、強力な短距離離着陸（STOL）特性を保っている。このフラップによって、通常の補助翼は使用できず、横方向の操縦にはスポイラーを使用する。主翼を小型化したことで、尾翼も小さくなり、機体の軽量化によって、高性能低価格の飛行機を実現した。
エンジンは、試作・試験機であるMU-2Aは仏・ツルボメカ社のアスタズII K（715馬力）を採用していたが、主たる輸出先であるアメリカ合衆国向けの量産機は、米国製ギャレット・エアリサーチTPE331とした。このため、A型は試作2機・量産1機の3機で生産中止となっている。
[編集] 自衛隊での運用
MU-2販売当時の日本ではビジネス機の市場が小さかったため、民間ではそれほどの売上にはつながらず、専ら自衛隊への納入となった。
[編集] 航空自衛隊
[編集] MU-2S
航空自衛隊では、三菱がMU-2Dを自衛隊仕様にしたMU-2Eを、1967年（昭和42）にMU-2S救難捜索機（遭難した機体や船舶の乗員を捜索する機体）として採用し、1987年（昭和62）までに29機を導入した。機体は与圧キャビンの廃止、航法・通信装備の強化、救命具・マーカーのラック設置、投下用スライドドアの増設など、多岐の改造点があるが、外見の特徴は機首に搭載されたドップラーレーダーで、通常より50cmほど長くなっている。
老朽化のため、1995年（平成7）からU-125Aに順次交代している。2005年（平成17）4月に墜落事故が発生し、乗員4名が死亡したため、7月末まで全機が運用停止となった。
- 機体概要
- 全長10.7m
- 全幅11.9m
- 全高3.9m
- 自重3.6t
- 最大離陸重量4.6t
- TPE331-25AB ターボプロップ2基搭載（605shp ×2）
- 最大速度460km/h
- 航続距離1750km
- 配備部隊
2005年（平成17）時点で以下の部隊に配備されている。
- 小牧救難教育隊
- 浜松救難隊
- 新潟救難隊
[編集] MU-2J
1975年（昭和50）には胴長のMU-2GをMU-2J飛行点検機として採用、36機導入したが、老朽化のため、1994年（平成6）12月にU-125に交代し用途廃止となった。
[編集] 陸上自衛隊
陸上自衛隊ではMU-2Cを連絡偵察機（基地間の連絡輸送と偵察を行う機体）LR-1として採用した。1号機は1967年（昭和42）5月11日に初飛行、1969年（昭和44）から量産2号機以降が引き渡され、1984年（昭和59）までに20機を導入した。機体は空自のMU-2Sと同様にキャビン与圧を廃止し、乗員2席・乗客5席とした。偵察時は JKA-30A カメラ2基と12.7mm機銃2丁を装備できる。
老朽化したため、2000年（平成12）から後継機レイセオン製ビーチ350キングエアをLR-2として輸入、順次交代されている。
- 機体概要
- 全長12.0m
- 全幅10.1m
- 全高3.9m
- TPE331-6A-251M ターボプロップ2基を搭載（715shp×2）
- 最大離陸重量4750kg
- 最大速度539km/h
- 巡航速度440km/h
- 航続距離2000km
- 配備部隊
- 北部方面航空隊 本部付隊（丘珠駐屯地）
- 西部方面航空隊 本部付隊（高遊原駐屯地）
- 第1混成団 第101飛行隊（那覇駐屯地）
- 第1ヘリコプター団 偵察連絡飛行隊（木更津駐屯地）
- 航空学校 宇都宮分校（北宇都宮駐屯地）
[編集] 派生型
- MU-2A - 最初の生産型。仏チュルボメカ「アスタズ-II」Kエンジン（562馬力）を搭載。
- MU-2B - アメリカ合衆国向けにエンジンをエアリサーチ/ギャレットTPE331-25A（705馬力）に変更。
- MU-2C - 防衛庁向け。Bの陸上自衛隊使用。制式LR-1。
- MU-2D - 防衛庁向けにBを出力増強したもの。三菱社内呼称。
- MU-2E - 防衛庁向け。Dの航空自衛隊仕様。
- MU-2F - Dを出力増強・胴長（ストレッチ）化したもの。
- MU-2G - Fの胴長タイプ。胴体下部に脚バルジを設けて車輪を格納した。乗員2名・乗客4～12名。
- MU-2J - Fを出力増強したもの。
- MU-2K - Jの胴長タイプ。
- MU-2L - Jを出力増強したもの。
- MU-2M - Lの胴長タイプ。
- MU-2N - Lを出力増強したもの。最終生産型。
- MU-2P - Nの胴長タイプ。
[編集] ティルトローター試作機案
アメリカ陸軍では、1971年（昭和46）にティルトローター機の開発検討を開始し、翌1972年（昭和47）春にV/STOL・テイルトローター計画をNASAと共同で発表した。これに対して4社が仕様書を提出し、その中でベルエアクラフト案の「モデル300」とボーイング・バートル案の「モデル222」が選定された。この「モデル222」は、研究開発費を低減させる為に、「MU-2Jの胴体・尾部・降着装置を利用する」と明記していた。1973年（昭和48）4月にはベル案が採用されることが決定し、MU-2Jの利用は無くなったが、XV-15と名づけられた「モデル300」の胴体形状はMU-2に類似しており、XV-15はMU-2を利用していると言う俗説も生まれた。ベルの説明書などには、MU-2について一切書かれていない。
[編集] 参考文献
- 月刊『JWings』各号 - イカロス出版
- 『国産旅客機が世界の空を飛ぶ日』 - 前間孝則（講談社）ISBN 4-06-212040-2
