紀州弁
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紀州弁(きしゅうべん)は、主に和歌山県・三重県南部、すなわち紀伊国(紀州)で使われる方言。いわゆる関西弁の一つであり、関西弁が方言のベースとなっている。京阪式アクセント。一括りに紀州弁といっても地域によって語彙や用法がやや異なり、地域によってさらに細分化されている。
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[編集] 和歌山弁(紀ノ川流域地域)
紀州弁を代表するもので、主に和歌山市から橋本市に至る紀ノ川筋で使われている。アクセントは京阪式。
最近では通勤や通学で大阪市との結びつきが強い和歌山市周辺や橋本市を中心に大阪弁と同化しており、和歌山弁との区別がつけ難くなっている。しかし完全に同化しているわけではなく、細部では大阪弁とはやはり異なる。この同化傾向は近畿地方の各方言が関西弁として纏まりつつあることを示す一例であるといえる。感覚的には、もはや和歌山弁という区分ではなく関西弁(大阪弁)であると理解するほうが良いのかもしれない(和歌山の関西弁なり関西弁和歌山なまりという理解が分かりやすいかもしれない)。
いづれにせよ若い世代ほど和歌山弁は大阪弁と同化しており、和歌山弁を知らないと言っても過言ではないレベルにまできている。現時点では若い世代にもまだ和歌山弁的な言い回しもみられるが、基本的には大阪弁の一部に和歌山弁的表現が混ざっている(同化し切れずに残っている)という認識であり、今後さらに消えていくものと思われる。このように和歌山弁の個性は一部を除いて急速に失われつつあり、特に若年層においてその傾向は顕著である。また中年層においても子供の影響等により和歌山弁的表現が忘れ去られつつある。実際まともに和歌山弁を喋ることが出来るのは6、70歳以上であり、通常の会話の中で和歌山弁を使う機会は余りないのも事実である。この傾向は今後も続くものと思われ、和歌山弁の特徴はほとんど失われてしまうものと考えて間違いない。
一般的に言われる特徴としては「ざ、じ、ず、ぜ、ぞ」と「だ、でぃ、どぅ、で、ど」が混同されることがあげられる。しかし前記のようにこの特徴はだんだんと薄れつつあり、必ずみられる特徴ではなくなっている。
[編集] 田辺弁(紀南地域)
和歌山県の中南部の中心都市である田辺市周辺地域の方言。特徴として「ざだら変換」が挙げられ、これは「ざじずぜぞ・らりるれろ」が発音時に「だぢづでど」になるというものである。田辺弁も最近では和歌山弁同様、若者を中心にこの傾向が見られなくなっており、同化が進んでいる。
- 例
- ぜんぜん(全然)→でんでん
- ぞうきん(雑巾)→どうきん
- からだ(体)→かだら
また、アホ馬鹿に当たる言葉として「うとい」が使われる。
[編集] 新宮弁(熊野地域)
新宮市周辺は、明治期まで陸路での交通よりも海路交通の方が発達していた。それゆえ海路でつながっていた江戸の影響を受けており、江戸言葉の影響が大きい。またもともと京阪神に近い和歌山県北部の方言とは差異があり、同化は目立って進んでいない。アクセントも東京式と京阪式の中間アクセントでり、そのため若い世代を中心に共通語アクセントに移行しつつある。
[編集] 敬語
紀州弁(特に田辺・新宮弁)には他の方言に見られる敬語に値する言葉がが少ない(あるいは存在しない)事が特徴である。極端に言えば年長者・若輩者、先輩・後輩、会社の上司・部下の関係であっても、格下の人物が各上の人物に対して敬語を使用しない事が当然の慣習として了解されており、それが容認されていると云う事である。これは全国的に見ても土佐弁等数例しか見られない稀有な傾向であり、紀州では古来より上下関係の無い平等の思想が確立されていた証明として言語学上でも貴重な事例とされている。(小説家の司馬遼太郎はこの事例を上げて、紀州・土佐で自由民権運動が起こった事が、敬語が存在しない。つまりは上下関係が少なく皆平等の思想が古い時代から根付いていたとして肯定的に評価している)。また古い尊称である『御前(おまえ)』を二人称として使用される事も多く、古い時代の尊称が現在でも残っている紀州弁の特徴として挙げられる事もある。但し今日では『御前』と云う言葉が愚称とされているので、他県出身者に対しても紀州出身者に話す感覚で用いて誤解を受ける事も多く、さらに先述の様に敬語を使用する感覚が少ない地域の傾向により、他府県に移住した紀州出身者は会話に苦労するという。近年では義務教育の広まりや和歌山弁が他の関西弁(特に大阪弁)と同化している傾向に伴い、標準語・関西弁式敬語を使い分ける紀州出身者も多くなってきている。
[編集] 紀州弁の一例
- 「○○のし~」・「○○のら~」=「○○ですね」「○○ですよね」
- 「あで~」=「あらまあ」
- 「てき」・「てきゃら」=「あなた」・「あなた達・彼ら達」
- 「○○もて」=「○○しながら」
- 「いこら」=「行きましょう}
- 「○○いけんご~」=「○○いけますよ(出来ますよ)」
- 「うとさく」=「馬鹿」あるいは「阿呆」
- 「うたとい」=「鬱陶しい」あるいは「面倒くさい」
- 「ジテコ」=「自転車」
- 「さいら」=「秋刀魚」
- (和歌山市周辺)「きいそば」=「ラーメン」
- 「~やん」=否定の意味で使われる。例:「できやん」=「できない(can not)」
- 「7時」=「ななじ」(「しちじ」ではない)
[編集] 関連項目
- 関西弁
- 南紀応援隊~秀介がゆく(紀南ローカルラジオ番組)