水平対向エンジン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
![スバル・アルシオーネSVX用3.3リッター水平対向6気筒エンジン](../../../upload/thumb/c/c0/Subaru_EG33.jpg/300px-Subaru_EG33.jpg)
水平対向エンジン(すいへいたいこうエンジン)とは、偶数シリンダーの多気筒エンジンで、シリンダーとピストンを気筒毎交互に2つグループに分け向き合うように水平に配置しているエンジン。 向かい合うシリンダーのクランクの位相が180度の場合は、ピストンの動きをボクシングのパンチになぞらえ、「ボクサー(BOXER)エンジン」とも呼ばれている。 また、向かい合うシリンダーのクランクの位相が同位相の場合は、V型180度エンジンと言う事がある。
水平対向にピストンを配置することにより、上下方向の振動が少なくできる・重心を低くできる、などの利点がある。欠点はストローク(シリンダー)を伸ばすとエンジン本体の横幅が大きくなり車体幅を広げる必要があるのでトルクを出しやすいロングストロークエンジンが作りにくいことである。そのため、ショートストロークのエンジンが主流である。
目次 |
[編集] ボクサーエンジンと180°V型エンジン
水平対向エンジンは、外見はバンク角が180°のV型エンジンの一種であるとも言える。英語では単に「flat engine」、つまり「水平なエンジン」と呼ぶことが多い。しかしながら180°V型エンジンが左右シリンダーのクランクピンが共通なのに対し、多くの6気筒以下の水平対向エンジンは左右のバンクで位相を180°ずらしたクランクシャフトを採用することに起因する。このことを明確化した英単語は「boxer engine」または「horizontally opposed engine」であり、後者を訳すと「水平で向かい合ったエンジン」となる。
なお富士重工業では、レガシィより前の水平対向エンジンの英訳は「flat engine」という和製英語で、レオーネのエンジンの愛称は、消滅まで「FLAT-4」である。余談だがスバル車同様水平対向エンジンを搭載していた古いフォルクスワーゲンのカスタムショップにもFLAT-4がある。(http://www.flat4.co.jp/)
水平対向エンジンは位相をずらしたクランクシャフトによって、V型エンジンに比較して振動を抑えることが容易であることが特徴である。一方、バンク角が180°のエンジンのうちクランクピンを左右のバンクのピストンで共有しているエンジンのことを本来の水平対向エンジンと区別して「180°V型エンジン」と呼ぶことがある。これは特に12気筒エンジンで例が見られる。12気筒エンジンの場合、片方のバンクで一次振動、二次振動ともバランスするためにあえてクランクの複雑なボクサーにせず、V型エンジンによく見られるクランクピンを共有した形式のものが見られる。特にフェラーリの12気筒モデルが有名である。
[編集] ベアリングの数
直列4気筒エンジンの場合、クランクシャフトを支えるベアリングは両端と気筒の間、合計5つという例が多い。V型4気筒の場合は両端とVの間、合計3つである。 水平対向4気筒の場合はいくつかバリエーションがある。かつてのフォルクスワーゲン・ビートルの例ではベアリングは両端と中央の3つであった。富士重工の水平対向4気筒は直列4気筒と同じくベアリングは5つである。そのためクランクシャフトが長くなりボアピッチも大きくなりボアの大きいエンジンとなっている。 かつてのフェラーリのF1カー、フェラーリ312Bのエンジンは水平対向12気筒であったがベアリングは両端の2つと片バンク2気筒に付き1つの合計4つであった。この方式の利点はベアリングで仕切られた4気筒のクランクケース内の容積が一定になり圧力の損失が最小限になるということであった。
[編集] 自動車および二輪車用
かつてはレース界においても活躍し、フェラーリやアルファ・ロメオがF1用エンジンを開発していたが、グランド・エフェクト・カー時代になるとコンパクトなV型エンジンが必要となり主流は移行。1990年代にスバルがF1に12気筒エンジンを供給した時代もあるが、現在F1レース仕様の水平対向エンジンを開発しているメーカーはない。
日本におけるナショナルフォーミュラーカテゴリーFJ1600では既に乗用車向けとしては生産されていないEA71型を使用する。富士重工業はFJ1600のためにEA71型をサポートし続けている。
[編集] 現行搭載車種
- スバル・レガシィ、インプレッサ、フォレスター
- ホンダ・ゴールドウイング(二輪、1980年のGL1100より米国で生産)
- ポルシェ
- BMW・Rシリーズ(二輪)
- 第二次世界大戦中(大戦前?)のBMWのコピー
- ロシア(旧ソ連)・ウラル(サイドカー)
- 中国・長江(サイドカー)
[編集] 過去の搭載車種
- トヨタ自動車・パブリカ、スポーツ800、ミニエース
- ゼネラルモーターズ・シボレー・コルベア
- 富士重工業・スバル1000、レオーネ、アルシオーネ、アルシオーネSVX
- タッカー・トーピード
- フェラーリ・テスタロッサ、512TR
- フォルクスワーゲン・ビートル
- シトロエン・2CV、ディアーヌ、アミ、シトロエン・GS
- 日野自動車・RA100/900P(高速路線バス)
- ダイハツ・Bee(三輪乗用車)
- ランチア・ガンマ、フラビア
- アルファロメオ・アルファスッド、アルファ33、アルナ
- ライラック・R92、マグナム500、マグナムエレクトラ500(二輪)
- ホンダ・ジュノオM80、M85(スクーター)、ワルキューレ(二輪)
- 愛知機械工業・ヂャイアント・コンドル(オート三輪)
- その他・ジオット・キャスピタ(プロトタイプに搭載。市販化は実現していない)
[編集] 鉄道車両用
![国鉄キハ183系気動車のDML30HSI:水平対向12気筒エンジン](../../../upload/thumb/7/7f/Dml30hsi.jpg/300px-Dml30hsi.jpg)
鉄道車両、特に気動車の場合はレールと車体の台枠の間という狭い空間にエンジンを収めなければならず、更に近年は低重心化・低床化のニーズが高まっていることから、直列エンジンでもかつては縦型は存在したが現在はシリンダーを寝かせた横型が主流となっている。そのため水平対向型はその高出力バージョンという位置づけで開発された。
国鉄で初めての特急気動車となったキハ80系では当時の標準エンジンだったDMH17H(直列8気筒、予燃焼室式)を2基(先頭車は1基)搭載していたが、エンジン単体の最高出力が180馬力で2基搭載した中間車でも360馬力と特急用としては力不足だった。そこで新型気動車の試作車としてキハ90系を開発、そのうちのひとつ、キハ91には500馬力のターボ付き水平対向式12気筒エンジンDML30HSAが搭載された。なお並行して開発された派生エンジンとしてDML30HS系の片バンク6気筒分をなくした直列6気筒のDMF15HS系があり、12系客車と14系客車の発電機用エンジン(DMF15HS-GおよびHZ-G)やキハ40系、キハ183系の初期型に採用された。
国鉄民営化後は直接噴射化とインタークーラーを装着したキハ183系のDML30HZ(660馬力)を最後に水平対向エンジンの採用は打ち切られ、以降の新型車では車体の軽量化や省エネルギー化、多段トランスミッションの採用などでインタークーラーターボ付き直接噴射式直列6気筒エンジン(排気量11~14リットル級)が主流となっている。
[編集] DML30HS/HZ系を搭載した気動車
[編集] 航空用
現代の小型飛行機が装備する航空用ピストンエンジンは、ほとんどすべて空冷の水平対向型である。エンジンのパーツナンバには対向型(Opposed)を表すO-が付く。