噂
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噂(うわさ)とは、世間で言い交わされている話の事。内容が事実かどうかは問わない。噂のうち根拠のないものを流言(りゅうげん)、流言のうち、政治的意図をもって扇動的に宣伝流布されるものをデマと呼び、これはデマゴーグ(demagogue)から来た言葉である。デマは単に流言と同じ意味で使用される事もある。
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[編集] 飛語
飛語(蜚語・ひご)も、根拠のない無責任な噂を意味する言葉で、流言と合わせて流言飛語(流言蜚語)という四字熟語を構成する。
[編集] ゴシップ
ゴシップ(gossip)とは、巷で伝聞される興味本位の噂話の事を指すが、特にマスメディアにおいては芸能人などのゴシップを、不祥事や醜聞の意味であるスキャンダル(scandal)という表現で伝える事が多い。
[編集] 流言
流言は、明確に知識や情報が得られずに広まる噂。風説、流説の事。ある一部での話が連鎖的に広まり、それがやがて全体に広がっていく形態を取る。以下に有名な流言の事件を記す。
[編集] トイレットペーパー騒動
日本国内で最も広範に広まった流言に、オイルショックによるトイレットペーパー騒動がある。
1973年10月16日、産油国が原油価格を70%引き上げることを決定したため、当時の通産大臣中曽根康弘が「紙節約の呼びかけ」を10月19日に発表した。 このため10月下旬には「紙がなくなる」という噂が流れはじめ、1973年11月1日午後1時半ごろ、大阪千里ニュータウンの大丸ピーコックストアの宣伝用の特売広告に、(激安の販売によって)「紙がなくなる!」と書いたところ、突然300人近い主婦の列ができ、2時間のうちにトイレットペーパー500個が売り切れたことから始まった。 その後に来店した客が広告の品物がないことに苦情をつけたため、店では特売品でないトイレットペーパーを並べたところ、それもたちまち売り切れ、噂を聞いた新聞社は「あっと言う間に値段は二倍」と書いたため、さらに騒ぎは大きくなった。
当時は石油ショックという背景もあり、原油の高騰により紙が本当に無くなるかもしれないという不安心理から、各地で噂が飛び火し、行列が発生したため、マスコミにも大きく取り上げられ、パニックは全国に連鎖的に急速に拡大した。高度経済成長で大量消費に慣れていた人たちが、初めて「物不足の恐怖」に直面したために起こったパニックとも言われている。パニックの火付け役は新聞の投書だとする説もある。
ただ、この当時、日本の紙生産は安定しており、実際には生産量自体は同流言飛語が全国的に広まるまで、ほとんど変わっておらず、パニックが発生した後は、むしろ生産量増加も行っていた模様である。
マスコミ報道や流言飛語によって不安に駆られ、高値でたくさんのトイレットペーパーを買った消費者は、トイレに山積み保管していた。
それまでトイレットペーパーは主に特売用商品(消費者を商店に足を向けさせ、客足の増加を見込む)として扱われていたが、この当時は一変して定価どころか倍の値段をつけても売れる程だったという。このため商店は在庫確保に奔走し、結果として問屋在庫すら空になる程だったとされている。
このような連鎖的現象により、最初の内こそ楽観視していた人までもが、実際に店頭からトイレットペーパーが消えたため確保に走ったといい、小売店では、店頭にトイレットペーパーが並ぶや否や客が押し掛け、商品を奪い合って殴る蹴るの喧嘩を始める人すら見られた(後年の漫画『オバタリアン』と同様の情景が展開されたであろう)。デパートでは余りの混雑振りに、トイレットペーパー販売のたびに迷子も多数発生したという。
[編集] 豊川信用金庫の流言事件
1973年、豊川市のあるところに高校生達が自分達の就職先の話をしていて、「豊川信用金庫」が就職先としてどうであるのかという話で盛り上がっていた。内容は、他の高校生がただからかうだけで「豊川信用金庫は危ないよ(銀行強盗による物理的な危険性を指しての発言だったらしい。なお、その時点では豊川信用金庫は経営的には安定していた)」と話していた。この女子高校生の話を本当に鵜呑みしてしまった高校生が、親に就職の相談を持ちかけ、親は豊川信用金庫に預金があったため、急いで預金をおろす準備をした。そして、その行動が豊川市中に広がり、豊川信用金庫は全体として17億円が引き出されて活動が不可能になってしまった。
[編集] 関東大震災における流言
1923年9月1日の関東大震災発生後、朝鮮人の略奪や暴徒化などの流言が流れた。当時は、報道手段が新聞や出版程度しかないために、一般市民が最新情報を入手しにくく、流言が広がりやすい環境下にあった。詳細は関東大震災の項を参照。
[編集] 流言の発生条件
流言の発生は、「情報の重要さ」と「情報の不確かさ」(嘘と本当の間に極大値を持つ)の積で与えられるとされる。
- どうでもいいこと(重要性低)が嘘に決まっているあるいは本当に決まっている(不確かさ極小)なら、流言発生はない。
- 大切なこと(重要性高)が嘘に決まっているあるいは本当に決まっている(不確かさ極小)なら、流言発生は噂話や伝言に留まる。
- 大切なこと(重要性高)が嘘か本当か分からない(不確かさ極大)ときに、流言が発生する。
更に、流言が発生するにはある条件を満たしているとより広がりやすくなる傾向がある。
- 一つに“話をする人”が挙げられる。その人に信用がある、又は情報をよく知っているなどの条件が重なれば聞き手はそれが本当であると思い(検証せずに鵜呑みにしてしまう)、次々と伝播してゆく。さらに、「これはためになる」と思い込む事から、良かれと思って(=善意で)自分の周囲の人や知人に広く伝播させてしまう傾向が強い。パソコン通信時代、「LHAにウイルスが混入」「○○地方から当たり屋グループが」などといった書き込みが伝播したこともある。いずれも善意の情報を装ったものであり、のちのチェーンメールのプロトタイプとも言える。
- 社会的情勢が不安定であれば噂は広がってゆく。石油ショック・不況といった何らかの社会情勢の危機、大地震などといった天変地異、伝染病の流行などがその引き金になる。人は誰しもそういった危機に不安を持ち、それに対する自己防衛本能を持っている為、最悪の場合を想定してそれに備えようとするものである。大地震の起こった地域で様々な流言・デマが飛び交うのはこのためである。中西輝政がVOICE2004年3月号「日本の国防力が目覚める時」で、阪神・淡路大震災の際に一部で流れた「倒壊した某朝鮮人宅の地下に武器庫、中には大量の銃と重火器」なる噂をまことしやかに(データとしての扱いではなく)紹介し、「大災害を奇貨に朝鮮人が武装蜂起するかもしれない」とまで述べたが、これは関東大震災における「朝鮮人暴動情報」並みに悪質な例と言えるだろう。
[編集] 過去に流れた流言とデマ
日本でのデマの古い歴史は1600年ごろまでさかのぼる。以下流れたデマ(流言)
- 1631年 館林城下において領主大須賀忠次が領土、地位を剥奪された説。発生源は僧侶。
- 1719年1月? 大坂にて夜までに蕪を食べないと死ぬ説。蕪が売れに売れ騒ぎに。
- 1813年 江戸にてそばを食べると死ぬ説。蕎麦屋が困る。
- 1873年11月28日から発布された徴兵制の文の中の血税の意味の勘違いから血税騒ぎ(徴兵制度に対する暴動)が起こる。各地で警察と衝突し流血の惨事が起こる。
- 1891年 西郷隆盛生存説。いるいない派で騒ぎに。鍬、カマで切りかかる事件まで発生、後の大津事件の遠因の一つともいわれている。
- 1910年 ハレー彗星有毒説。自転車のチューブが爆発的に売れる。このことは漫画『ドラえもん』にネタとして使用されている。
- 1923年9月(関東大震災直後) 朝鮮人暴動の噂。内務省警保局の在日朝鮮人に対する警戒電報を報道機関が報じたのがきっかけ。関東にて発生。朝鮮人、琉球人、中国人、社会・共産主義者への暴行・殺人事件へと発展する。ただし、実際に混乱に乗じて凶悪犯罪を犯す者も(朝鮮人に限らず)おり、その為警察官もしくは憲兵によって逮捕・射殺された者もいる。死傷者は在日本大韓民国民団によると6000人以上、国側は、朝鮮総督府による弔慰金の人員から830人としている。
- 1968年 ポール・マッカートニー死亡説
- 1973年12月 豊川信用金庫事件。発生源は高校生。
- 1973年 オイルショックでトイレットペーパー、ティッシュの買い付け騒ぎ。
- 1980年代 イラン人(中東系人種)グループによる日本人夫婦襲撃・レイプと被害者自殺の噂。
- 1986年 『ドラえもん』が「実は全て植物人間である野比のび太が見た夢だった」という内容の最終回を迎えるという噂が流れる。
- 1995年1月19日前後(阪神・淡路大震災直後) 関西で亀岡市を震源地とする震度7の地震が起こるとの噂。
- 1995年 全国で『サザエさん』が終わるという話が流れる。
- 1996年9月 志村けん死亡説。
- 1998年 インターネット上に公開されていた「僕が考えたドラえもんの最終回」という創作小説がチェーンメールなどを通じて事実上の最終回であると称され、次々にデマが広がった。
- 2002年 昼の人気ドラマに主演していた子役が交通事故死したというデマが流れた。
- 2003年 佐賀銀行倒産メール事件。
- 2004年 新潟の地震の後福井でも地震が起きるという噂
- 2005年 福岡県で地震が起きるというチェーンメールが出回り、ニュースでデマに惑わされないよう呼びかけられるという事態にまで発展した。
- 2005年 フィリピンで旧日本兵の生存者が発見されたとの噂が流れ、マスコミ各社が報じた。大半のマスコミは未確認情報として慎重な扱いに終始したが、中には本人の手書きメモが存在するとの噂を掲載した新聞もあった。
[編集] その他
- 「噂」はコンピュータプログラムの動作不良の原因となる文字(通称「ダメ文字」)の一つ。¥記号参照。
- 証券取引法に風説の流布での処罰規定がある。
- 戦前の日本では国家を揺るがすような噂をしたものは法により処罰された。現在では中華人民共和国など一部の国家のみで処罰の対象となるのみである。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書
- 広井脩 『流言とデマの社会学』 文春新書 文藝春秋 ISBN 416660189X
- 川上善郎 『うわさが走る』情報伝播の社会心理 セレクション社会心理学 (16) サイエンス社 ISBN 4781908403
- 早川洋行 『流言の社会学』形式社会学からの接近 青弓社ライブラリー 青弓社 ISBN 4787232088
- 佐藤達哉 『流言、うわさ、そして情報』うわさの研究集大成 現代のエスプリ別冊 至文堂 ISBN 4784360123