三億円事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
三億円事件(さんおくえんじけん)とは、
- 東京都府中市で1968年12月10日に発生した、日本史始まって以来の巨額の現金が奪われた事件である。三億円強奪事件とも呼ばれるが、後述するとおり、刑法上の「強奪」ではない。以下、本稿にて記述する。
- 東京都有楽町で1986年11月25日に発生した、現金強奪事件。「有楽町三億円強奪事件」、「有楽町三億円事件」とも呼ばれる。
目次 |
[編集] 犯行
1968年(昭和43年)12月10日午前9時30分頃、日本信託銀行(後の三菱UFJ信託銀行)国分寺支店(現存せず)から東京芝浦電気(後の東芝)府中工場へ、工場従業員のボーナス約3億円(正確には2億9430万7500円)を輸送中の現金輸送車が、府中刑務所裏の府中市栄町、学園通りと通称される通りに差し掛かった。
そこへ警官に変装して擬装白バイに乗った犯人が、バイクを隠していたと思われるカバーを引っ掛けた状態のまま輸送車を追いかけ、輸送車の前を塞ぐようにして停車した。 現金輸送車の運転手が窓を開け「どうしたのか」と聞くと、「貴方の銀行の支店長宅が爆破され、この輸送車にもダイナマイトが仕掛けられているという連絡があったので調べさせてくれ」と言って行員を輸送車から降ろさせた。
実はこの4日前に、支店長宛ての脅迫状が送り付けられていた為、その雰囲気に行員たちは呑まれてしまっていた。犯人は、輸送車の車体に潜り込み爆弾を捜すふりをして、隠し持っていた発炎筒に点火。「爆発するぞ! 早く逃げろ」と避難させた直後に輸送車を運転し、白バイをその場に残したまま逃走した。この時行員は、警察官(犯人)が爆弾を遠ざけるために輸送車を運転したと勘違いし、「勇敢な人だ」と思ったという。
この出来事の目撃者には銀行員のほか府中刑務所の職員、近くにいた航空自衛隊員などがいた。しかし、これらの目撃者の証言は曖昧だったり勘違いだったりすることもあった。
[編集] 物的証拠
犯人が残した遺留品が120点もあったことにより、犯人検挙に向けて楽観ムードがあった。ところが遺留品はどれも普通のもので、大量生産時代の障害に突き当たってしまった。各遺留品を手掛かりに捜査しても大量の生産量で全国に出回っているとすれば、現実的に犯人に行き着く事は無理であった。(遺留品の一つメガホン(拡声器)は製造番号から5台が出回っていることが分かり、4台まで所在を確かめた。残る1台は盗難に遭っており、この最後の1台が犯行に使用された物と思われる。)
メガホンは白ペンキで2度塗装されていた。捜査に行き詰まっていたある日、上の塗装がはがれた部分に4mmほどの新聞紙の紙片が付着しているのを発見。地道に新聞紙を調べたところ、1968年12月6日の産経新聞朝刊婦人欄の「食品情報」という見出しの「品」の字の右下部分の一部であることが判明した。紙片の分析の結果、紙は愛媛県伊予三島市の大王製紙の工場で作られた物と判明。インクの具合、印刷状況から輪転機を特定し、その新聞が配達されたのが三多摩地区であることまで絞り込めた。配部数は13,485部、販売所数は12ヶ所。住民の転出入が激しかったことや、新聞を購読する家が頻繁に変わっていたことから捜査は難航し、2年掛かりでやっと販売所を特定できたが、時すでに遅く配達先の住所録は処分された後であり、この方面での捜査は徒労に終わった。
また、ジュラルミンケースに付着していた泥を精密検査した結果、現場から4km離れた国分寺市恋ヶ窪の雑木林の土壌と酷似していた。この為この付近にアジトがあると見て、徹底的に捜索したが成果は出なかった。
[編集] 容疑者
公表されたモンタージュ写真は、事件とは無関係の既に死亡している人物の写真を用いたものだった。容疑者リストに載ったのは実に11万人、捜査した警官延べ17万人という空前の捜査だったが結局、犯人を検挙できずに事件は時効を迎えた。
発生から1年後、捜査線上に浮かんだ地元在住のある人物が重要参考人として三鷹署に呼び出され、新聞各社も「容疑者聴取へ」などと実名入りで書き立てたが、アリバイが証明され翌日釈放された。報道による人権侵害の最たる例であり、この月の縮刷版・当日のマイクロフィルム紙面は現在各社共封印している。
本来“このような顔”であるべきモンタージュ写真を“犯人の本当の顔”と思い込んだ人が多く、そのために犯人を取り逃がしたのではないかという説もある。
[編集] その他
現場となった三多摩地区に学生が多く住んでいたことから、一帯にアパートローラーを掛けることによって、当時 先鋭化しつつあった学生運動を壊滅させるための警視庁公安部による謀略だったとする説もある。
犯人が暴力に訴えず計略だけで強奪に成功している事と、被害金額2億9430万7500円の語呂から“憎しみのない強盗”のあだ名もある(正確には、“強奪”ではなく“窃盗”である)。
またこの事件の教訓から、多額の現金輸送の危険性を考慮して、給料等の現金支給から口座振込みを普及させる一因となった。
ちなみに容疑者リストの中には、事件現場前に在る都立府中高校に在籍した高田純次や布施明の名前も入っていた。高田や布施を含む、十数万人が容疑者としてリストアップされていたが、二人とも事件とは無関係である。
なお、3億円に対しての保険には外国の再保険が掛けられていたために、事件の翌日には社員にボーナスが支給された。
[編集] 事件を扱った作品
[編集] 小説
- 『小説三億円事件』 佐野洋(講談社 1970年) ISBN 4061833847
- 『時効成立―全完結』 清水一行(角川書店 1979年) ISBN 404146305X
- 『死者よ静かに眠れ』 新都達也(三交社 1987年)ISBN 4879198021
- 『三億の郷愁』 清水義範(ソノラマ文庫NEXT 1999年)
- 『真犯人―「三億円事件」31年目の真実』 風間薫(徳間書店 1999年)ISBN 4198609764
- 『三億円事件~20世紀最後の謎』 一橋文哉(新潮社 1999年)
- 『事件「三億円」』 竹野衆星(文芸社 2001年)ISBN 4835521056
- 『トップランド1980 紳士エピソード1』 清涼院流水(幻冬舎 2002年)
- 『初恋』 中原みすず(リトル・モア 2002年)
- 『父と子の炎』 小林久三(角川文庫)
[編集] 漫画
- 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 秋本治
- 12巻「ボーナスはまだか!?の巻」(1978年)。その他、7巻「ポラロイド!?の巻」(1978年)にもこの事件の犯人を匂わせる記述の人物がいる。
- 『サイボーグ009対三億円犯人』
- 001が超能力で犯人を探し出し、009が犯人の自宅に乗り込んで怒る(だけ)。
- 『スケバン刑事』 和田慎二
- 麻宮サキが最初に担当したのが、この事件と同日に別の場所で起きていた一億円強奪事件。時効も同日だったが、寸前で解決した。
- 『金田一少年の事件簿』 原作: 金成陽三郎・漫画: さとうふみや
- 「FILE 12 蝋人形城殺人事件」(テレビドラマ化、アニメ化の際には、“四億円事件”に変更されている。)(1995年)
[編集] 映画
- 『喜劇 三億円大作戦』(東宝 1971年)
- 『実録三億円事件 時効成立』(東映、1975年)
- 『初恋』(ギャガ・コミュニケーションズ、2006年)
[編集] テレビドラマ
- 『悪魔のようなあいつ』(TBS、1975年)- 脚本: 長谷川和彦。主演: 沢田研二
- 『新説・三億円事件』(フジテレビ、1991年)- 脚本: 岩間芳樹。主演: 織田裕二
- 『三億円事件~20世紀最後の謎~』(フジテレビ、2000年)- 原作: 一橋文哉、脚本: 矢島正雄。主演: ビートたけし
- 『時空警察2』(日本テレビ、2002年)-脚本: 大森寿美男。主演: 陣内孝則
[編集] パロディ
- 『時効警察』(テレビ朝日、2006年)
- 第7話「主婦が裸足になる理由をみんなで考えよう!」に三億円事件をパロディ化した平成三億円事件が登場する
- 『水10!』-この子誰の子(フジテレビ、2006年)
- 直接三億円事件という言葉は出ていないが、「三億円事件」を連想させる台詞が登場する
[編集] 音楽
[編集] 事件のモデルになったと言われた作品
[編集] 参考文献
- 『大捜査3億円事件』(読売新聞社会部編 1975年)
- 『戦後史開封』(産経新聞戦後史開封取材班編 1994年、後に扶桑文庫) ISBN 459402694X
- 『死者よ静かに眠れ 府中三億円強奪事件』
- 『三億円事件の謎』 三好徹 文藝春秋 ISBN 4167121042
- 『三億円事件』 松平健史 木実書房
- 『三億円事件』 一橋文哉 新潮社 ISBN 4101426228
- 『君が犯人だ!―三億円強奪事件 告発』 有川正志 共栄書房 ISBN 476340122X
- 『俺が真犯人だ―府中 三億円事件』 猫屋犬平 日本図書刊行会 ISBN 4773320443
- 『三億円事件を今…』 平岡浩一 文芸社 ISBN 4835525698
- 『刑事一代〜平塚八兵衛の昭和事件史』佐々木嘉信著・産経新聞社編、新潮社 ISBN 101151717