ヴァイオリン
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ヴァイオリン(バイオリンとも表記) (独:Violine,Geige/ 英:Violin/ 伊:Violino/ 中:(小)提琴) は代表的な弦楽器であり、クラシック音楽ではピアノに並んで非常にポピュラーな楽器である。4本の弦を弓でこすることによって演奏される。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] ヴァイオリンの誕生まで
![絵画に描かれたリュート カラヴァッジォ(ミケランジェロ・メリージ)の「リュート奏者」 (Suonatore di liuto) (1595~1596年)。机の上にはヴァイオリンとよく似た楽器が弓と共に横たわっている](../../../upload/shared/thumb/6/6a/Michelangelo_Caravaggio_020.jpg/200px-Michelangelo_Caravaggio_020.jpg)
ヴァイオリンの起源については諸説あるが、はっきりしたことはいまだにわかっていない。そもそもヴァイオリン黎明期である16世紀当時において「ヴァイオリン」や「ヴィオール」という言葉が何を指すのかに関してもあいまいな点がある。祖先としてはキタラ、ルバーブ、レベック、リュートなどが考えられているが、何らかの形でヴィオール属の影響を受けている可能性が高い。
ヴァイオリンが世に登場してきたのは16世紀初頭と考えられている。現存する最古の楽器は16世紀後半のものだが、それ以前にも北イタリアをはじめヨーロッパ各地の絵画や文献でヴァイオリンが描写されている。最初期の製作者としてはアンドレア・アマティ、ガスパロ・ディ・ベルトロッティ(ガスパロ・ダ・サロとも)、ガスパール・ティーフェンブルッカーが有名である。当時は舞踏の伴奏など、世俗音楽用の楽器として考えられていた。
17~18世紀にはニコロ・アマティ、ヤコプ・シュタイナー、アントニオ・ストラディヴァリ、グァルネリ一族など著名な製作者が続出した。特に卓越していたのがストラディヴァリで、ヴァイオリンの形態は彼の研究によってほぼ完成に至る。
前身であるヴィオール族とはいくつかの相違点が挙げられるが(詳細はヴィオール族の項目を参照)、力学的に改良が施されて音量・音の張りに大きく向上が見られた。音楽文化の中心が宮廷サロンから劇場・ホールに移るにつれ、弦楽器においてこれまでになく大きな響きを持つヴァイオリンは西洋クラシック音楽を形作る中心となっていく。
[編集] その後の改良
弓が現在のような形になったのは本体よりもう少し遅く、18世紀末である。最初は半円形、つまり武器の弓に似た形状であったが、技術的要請から徐々に改良され、フランソワ・トルテ(タート)によって完成を見る。
本体も多少の変化を迎えている。まず、演奏される曲の音域が増加するのに伴い指板は延長された。また、より高いピッチに対応するためネックが後ろに反り、駒がより高くなった。18世紀以前に作られた楽器のほとんどは現在そのように改良されており、これらを「モダン・ヴァイオリン」、修理を受けず原形を保っているものを「バロック・ヴァイオリン」という。しかし、現代においてつくられたヴァイオリンであっても「バロック・ヴァイオリン」の形であればそう呼ばれる。
[編集] 各民族音楽におけるヴァイオリン
ヴァイオリンは多様な表現性を持っているため、各地の民族音楽にも使われた。特に東欧、アイルランド、アメリカのものが有名である。詳しくはフィドルの項を参照。また、インドには独特のヴァイオリンの用法がある。
[編集] 日本におけるヴァイオリンの歴史
16世紀中頃にはすでにヴィオラ・ダ・ブラッチョが日本に伝わっていたようである。当時ポルトガル修道士がミサでの演奏用として日本の子供に教えたことが、フロイスの「日本史」に書かれている。
しかし日本人が本格的にヴァイオリンを扱うのは明治以降と言っていいだろう。1880年音楽取調掛の教師として来日したアメリカ人ルーサー・ホワイティング・メーソンが手ほどきをしたのが始めである。ドイツ系を主とした外国人教師によって奏者が養成され、ヴァイオリンは少しずつ広まっていった。また大正時代にはジンバリスト、ハイフェッツ、クライスラー、プルメスター、エルマンといった名演奏家が続々来日し、大きな影響を与えている。
戦後になると各種の教則本が普及し、幼児教育も盛んになって、技術水準が飛躍的に上がっていった。現在では世界で活躍する日本人奏者も多数いる一方、アマチュアとしての愛好家もピアノに次いで幅広く存在する。
[編集] 音楽
この項では西欧クラシック音楽におけるヴァイオリン音楽の形成について説明しています。他地域におけるヴァイオリン音楽については各民族音楽の項を参照してください。
ヴァイオリンの出現当初はリュートやヴィオールに比べて華美な音質が敬遠され、芸術音楽にはあまり使用されなかった。一方で舞踏の伴奏など庶民には早くから親しまれていた。
しかし製作技術の発達や音楽の嗜好の変化によって次第に合奏に用いられるようになる。管弦楽でヴァイオリンを用いた最初の例として、マレンツィオのシンフォニア(1589)やモンテヴェルディのオペラ「オルフェオ」(1607)が挙げられる。
17世紀には教会ソナタや室内ソナタの演奏に使われた。ソナタはマリーニやヴィターリ等の手によって発展し、コレッリのソナタ集(1700、「ラ・フォリア」もその一部)で集大成に至る。
また少し遅れて協奏曲の発展も見られるようになった。コレッリ等によって優れた合奏協奏曲が生み出されていたが、トレッリの合奏協奏曲集(1709)で独奏協奏曲の方向性が示され、ヴィヴァルディによる「調和の霊感」(1712)等の作品群で一形式を作り上げた。ヴィヴァルディの手法はJ.S.バッハ、ヘンデル、テレマン等にも影響を与えた。一方で協奏曲が持つ演奏家兼作曲家による名人芸の追求としての性格はロカテッリ、タルティーニ、プニャーニ等によって受け継がれ、技巧色を強めていった。またルクレールはこれらの流れとフランス宮廷音楽を融合させ、フランス音楽の基礎を築いた。
18世紀後半にはマンハイム楽派が多くの合奏曲を生み出す中でヴァイオリンを中心としたオーケストラ作りを行った。そしてハイドン、モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト等のウィーン古典派によって、室内楽・管弦楽におけるヴァイオリンの位置は決定的なものとなった。またトルテによる弓の改良は、より多彩な表現を可能にし、ヴィオッティとその弟子クロイツェル、バイヨ、ロードによって近代奏法が確立されていった。
19世紀になると名人芸的技巧がヴァイオリン曲の中心的要素とされ、高度な演奏テクニックを見せつける曲が多く出た。その極限がパガニーニである。一方でイタリアではオペラの流行とともにヴァイオリンの人気は少しずつ衰えていった。
19世紀中頃からはヴァイオリン音楽において、演奏家と作曲家の分離の傾向が強く見られるようになった。当時の名演奏家に曲が捧げられたり、あるいは協力して作曲することが多く、例えばメンデルスゾーンはダーフィト、ブラームスはヨアヒムといった演奏家の助言を得て協奏曲を作っている。またチャイコフスキーやドヴォルザーク、グリーグ等によって民族的要素と技巧的要素の結合が図られ、シベリウス、ハチャトゥリアン、カバレフスキー等に引き継がれている。
[編集] 構造
[編集] 本体
全長は約60cm。重さは楽器にもよるが、だいたい500g弱である。
木製だが、部位によって使われる木は異なる。一般的に表板は柔らかい木、側板と裏板には硬い木が好まれる。多くは前者に唐檜、後者に楓を用いる。指板は現在では黒檀が使われる。
表板の裏側には力木(ちからぎ)と呼ばれる部品が張りつけられる。これは表板を補強するとともに、特に低音の響きを強める役割を果たす。
ヴァイオリン内部は空洞となっており、内部には魂柱(こんちゅう)と呼ばれる木の柱が入れられている。魂柱は表板と裏板を支え、振動を伝え、音質を決定する大切な役割を果たす。力木、魂柱も多くは唐檜で作られる。
指板にはフレットが存在しない。
指板の先には弦の張力を調整する糸巻き(ペグ)がついている。先端の渦巻きは装飾で、この部分に別の彫刻(人、天使、ライオン等の顔)が施される場合もある。
ヴァイオリンには保護のためニスが塗られているが、これは楽器の光沢を増し見た目を美しくしている。なおニスと音質との関係については下部「ニスと音響」を参照。
[編集] 弦
4本の弦は緒止め板(テールピース)から駒の上を通り、指板の先にあるナットと呼ばれる部分に引っ掛けてその先の糸巻き(ペグ)に固定されている。正面から見て左が低音、右が高音の弦であり、高い音の弦から順に、E線、A線、D線、G線(えーせん、あーせん、でーせん、げーせん。ドイツ語読み)と呼ぶ。
もともとはガット(羊の腸)を用いていた。しかし標準ピッチが上昇するにつれ弦に高い張力が要求され、現在のガット弦は金属の巻線によって補強されている。金属だけのものや合成繊維(ナイロン弦)のものも多く用いられる。
[編集] ヴァイオリンの弓
弾力のある湾曲した木製の棒(スティック)に、馬の尾の毛が平たく張ってあり、この毛に松脂を塗って摩擦を強くし、これで弦の上をこする(滑らせる)。スティックは通常ペルナンブコという木(南米産)で作られるが、安い物にはブラジルウッドが使われる。また最近ではカーボンファイバーやグラスファイバー製のものもある。演奏しない時は、弓の毛は通常ゆるませておく。
[編集] 音響のしくみ
弦は弓でこすることで振動し、その振動は駒と魂柱を経て表板から裏板に伝わる。一方表板の振動は側板を通じても裏板に伝わり、全体で共鳴箱としての役割を発揮する。この時f字孔の存在によって音響はより効果的となる。音色は弦の種類や運弓法によって変わってくる。
音色は楽器ごとにも特色が出てくる。ただこれらの音の違いがどうして生み出されるのかは、音響学上はっきりしない点が多い。ストラディヴァリウスなどの名器がなぜ素晴らしい音を出すのかと言うと、元々の製作精度の高さと経年変化による恩恵が大きいとされている。
[編集] ニスと音響
ニスは本来楽器を保護するために表面に塗られるが、これが音質にどのような影響を及ぼすのかについては多くの議論がなされてきた。一般的にはニス自体が楽器の音質を良くするわけではないと言われている。
[編集] 分数楽器
通常の大きさ(4/4)の他に、子供向けにサイズを小さくしたヴァイオリンも作られている。1/16,1/10,1/8,1/4,1/2,3/4,7/8と呼ばれるサイズなどがあり、これらを分数楽器という。
- 分数楽器の数字は通常、大人用(4/4サイズ)に対する胴部の容積の比率を表していると説明される。しかし、計算してみると厳密には一致しないようで、数字そのものに取り立てて意味はないとも考えられる。すなわち、4/4より幾分小さいものが7/8で、それより小さいものが3/4、次が1/2....というふうにである。
[編集] 演奏のしかた
[編集] 基本姿勢
まず、左肩(鎖骨の上)にヴァイオリンを乗せて、顎当てに顎を乗せて挟み込む。左手で楽器を持ち、顎と肩だけでヴァイオリンを支える。演奏中は指板を持って楽器を支えると、左手で正確な音程を取ることができないので、顎と肩だけで支え、左手での支持は最小限にとどめる。
なお、これはヴァイオリンにブリッジ型の肩当てを使用している場合である。
左手の人差し指、中指、薬指、小指で弦を押さえ、右手で弓を操作する。左手の親指は音程を定める基準となる。右手による弓の操作をボウイング(bowing)と呼び、単純ながら熟練を必要とする。特にボウイングの際には手首と指の関節が滑らかに動くように注意して練習する必要がある。(運弓について詳しくはボウイングの項を参照)ボウイングは、ヴァイオリンから出る音色を大きく左右させるものであり、ヴァイオリンを弾く上で重要な事である。
ヴァイオリンは、弓の持ち方、演奏姿勢などが自己流に陥りやすく、独学は難しい。そのため、初心者は熟練者に指導をしてもらうことが望まれる。
[編集] 調弦
ペグを回すことで調弦を行うが、E線は細く切れやすいため、微調整はアジャスターと呼ばれる小さなネジをテールピースに取り付けて調弦する。子供用ヴァイオリンはフルサイズに比べ、ペグが回りにくい事などから、子供用ヴァイオリン用のテールピースには、調弦し易いようにアジャスターが全ての弦に付いているものもある。(弦に直接取り付けるタイプのものもある)
普通は音叉などでA線を440ないし442Hzに調弦し、A線とD線、D線とG線、A線とE線をそれぞれ同時に弾いて、完全五度の和音の特有の響きを聞いて調弦する。バロック音楽などを演奏する時には意図的に低ピッチにして、A線を430Hzほど、あるいはそれ以下にすることもある。
[編集] ポジショニング
各弦は、指で押さえない状態(開放弦)から一音高い状態を人差し指、順に中指、薬指、小指として、小指で押さえた状態が右となりの弦と同じ音になる。例えばE線では、何も押さえないとE(ミ)、人差し指で押さえるとF(ファ)となる。
この状態が第一ポジション(first position)であるが、ここから左手を少し手前に動かし、開放弦より二音高い状態(第一pos.より一音高い音)を人差し指で押さえるのが第二ポジション(second position)、三音高い状態を人差し指で押さえるのが第三ポジション(third position)である。一方で第一ポジションより半音低くした状態で押さえる半ポジション(half position)も存在する。
高ポジションを利用するのは基本的には第一ポジションではとることのできない高い音程を出すためであるが、音色を変化させるためあえて用いる時もある。E線の華やかな音を避けたり(A線を用いる)、G線の高ポジションにおける独特の美しさを出す場合である。G線上のアリア(J.S.バッハの管弦楽組曲の第3組曲第2曲をヴァイオリン独奏用に編曲したもの。移調され、全てが一番低音のG線のみで演奏されるため、単純ながら音の深みで奥の深い曲となっている)が好例。
ポジショニングは理論上はいくらでも高次の物があるが、特に高いポジションで弾きこなすには熟練を必要とする。
- ギターやヴィオール族と違って指をおさえる位置を示すフレットが無いため、正確な音程をとるためには何度も練習して正しい位置を覚える必要がある。このことが初心演奏者にとって一つの壁となる。他方、このことは平均律に拠らない音階や微分音を用いた演奏の可能性をもたらすものでもある。
[編集] ヴァイオリンの奏法
[編集] ビブラート
ビブラートはよく使われる演奏技術であり、指を震わせて音を、低音と高音側に素早く振動させ、深みを与えるものである。左腕を動かすことによってその動きを指先に伝える方法、左手の手首から先を震わせる方法、指のみを震わせる、などの方法がある。 ヴァイオリンは高音へ行くほど音は細くなり響きが変わってしまうため、そこでの強いビブラートを敬遠する奏者も多い。
[編集] 重音(奏法)
歴史的な擦弦楽器では、弓は張力を小指で調整していたため、張力をゆるめることで3または4つの弦に同時にふれさせることができた。現代のヴァイオリンはその構造上、完全な和音は2音が限界である。3, 4つの音の和音を出すには、弓で最初低音の2弦をひき、素早く高音の2弦に移す。
バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータでは4音同時の和音が多く要求され、しかもそれがポリフォニックに書かれているため、これを正確に現代楽器で表現するため、弓の木が極端に曲がったバッハ弓と呼ばれるものが存在する。
[編集] フラジオレット
本来、指で弦を押さえる時は、指板に指を押さえつける。しかし軽く弦に触れる程度にすると、倍音を出すことが出来る。この奏法をフラジオレット(ハーモニクス)と呼ぶ。 例えば、A線の弦を二分する部分に指で触れ、音を出すと、2倍音(1オクターブ上の音,この例ではAの音程)が出、三分するような点に触れて音を出すと3倍音(1オクターブ+五度上の音,この例ではEの音程)がでるといった具合である。 このようにして出した音は、通常の音と比べ特色があり、高く、透明で美しい音になる。フラジオレット奏法の記号は、○で、これを音符の上に書く。
[編集] 自然フラジオレット
既述のように、開放弦の2等分点、3等分点、4等分点(のうち、2等分点と重なるところを除く)(並びに、希に5等分点)に軽く触れて出すフラジオレットを自然フラジオレットという。
- 2等分点 - 開放弦の第2倍音、すなわち開放弦の1オクターブ上の音が出る。触れるところは、強く押さえると開放弦の1オクターブ上の音が出る部分である。(実際には軽く触れるだけため、指の位置が駒の方に若干移動する。以下同じ)
- 3等分点 - 開放弦の第3倍音、すなわち開放弦の1オクターブと完全5度上の音が出る。触れるところは、強く押さえると開放弦の1オクターブと完全5度上の音が出る部分、または開放弦の完全5度上の音が出る部分である。後者の場合、楽譜では完全5度上の音に相当する音を◇で表示する(実際に出る音は書かない)。
- 4等分点 - 開放弦の第4倍音、すなわち開放弦の2オクターブ上の音が出る。触れるところは、強く押さえると開放弦の2オクターブ上の音が出る部分、または開放弦の完全4度上の音が出る部分である。後者の場合、楽譜では完全4度上の音に相当する音を◇で表示する(実際に出る音は書かない)。
- 5等分点 - あまり使われない。開放弦の第5倍音、すなわち開放弦の2オクターブと長3度上の音が出る。触れるところは、強く押さえると開放弦の2オクターブと長3度上の音が出る部分、または開放弦の長3度上の音が出る部分である。理論上、他にも2点あるが、使うことは滅多にない。
[編集] 人工フラジオレット
開放弦ではなく、指を押さえた上で、余った指で弦の4等分点に触れる奏法を人工フラジオレットと呼ぶ。普通、(左手の)人差し指で弦を強く押さえ、強く押さえればその完全4度上の音が出る部分に、小指で軽く触れる。出る音は、強く押さえた指の音の2オクターブ上の音である。楽譜では、強く押さえる音を普通の音符で書き、その完全4度上の音に相当する音を◇で表示する(実際に出る音は書かない)。
まれに、弦の3等分点に触れる奏法が用いられる。完全5度上に軽く触れることで1オクターブと完全5度上の音が出る。
[編集] ピチカート
ピチカートは弦を弓で弾かずに、指で弾(はじ)く奏法。楽譜には pizz. と書かれる。 はじき方は決まっておらず、右手人差し指や中指を使うことがほとんどであるが、左手で行う奏法もある。通常は、ヴァイオリン本体を顎に乗せ、弓を持ったまま指で弾く(とある楽章全てがpizzだけで構成されているときなど、弓を持つ必要の無い場合は弓を置いて行うこともある)が、ギターのように腰のあたりにヴァイオリン本体を抱えて弾く方法もある。
弦を親指と人差し指でつまんで指板に叩きつけ、破裂音を出すバルトーク・ピチカートと呼ばれる奏法もある。ベラ・バルトークによって発案された。
[編集] コル・レーニョ
コル・レーニョ(・バットゥート)とは、弓の木の部分で弦を叩く音である。固く打楽器的な破裂音が鳴るが、単独の楽器では音量が小さいためめったに用いられない。しかし複数の合奏、特にオーケストラで演奏する場合にはきわめて効果的である。詳しくは該当項目を参照。
[編集] スル・ポンティチェロ、スル・タスト
スル・ポンティチェロsul ponticello(駒の上で)とは、駒のごく近くの部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音が多く含まれる音を出し、軋んだような感覚を得る奏法である。ごく近くを指定するときは、アルト・スル・ポンティチェロalto sul ponticello(高い駒の上で)と言う。代表的な例では、ヴィヴァルディの有名なヴァイオリン協奏曲集四季の、「冬」の第2楽章に用いられる。
スル・タストsul tasto(指板の上で)とは、指板の上の部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音を含まない音を出し、くぐもったような、あるいは柔らかく鈍いような感覚を得る奏法である。
どちらも現代音楽では普及された語法として多く用いられる。
[編集] 関連する著名人
[編集] 奏者(ヴァイオリニスト)
クラシック音楽についてはクラシック音楽の演奏家一覧を参照のこと。
[編集] 製作者
- アンドレア・アマティ(1505頃-1577)
史上最初にバイオリンを作った可能性のある製作家の一人。ジョバンニ・レオナルド・ダ・マルティネンゴの弟子。一説にはゴッタルドの弟子という説もある。
- ガスパロ・ディ・ベルトロッティ
最初にバイオリンを作ったうちの一人と思われる。サロ湖畔に住んでいたので、ガスパロ・ダ・サロと呼ばれる。ビオラが特に有名。
- ジョバンニ・パオロ・マッジーニ (1581頃 - 1632頃)
ブレシアの製作者。ガスパロ・ダ・サロの弟子。非常に優れた楽器を作った。
- ニコロ・アマティ (1596-1684)
アンドレア・アマティの孫でジェローラモ・Ⅰ・アマティの子供。多くの弟子を育て、クレモナがバイオリンの一大生産地となる基礎を築き上げた。弟子にはアントニオ・ストラディバリを始めとしてアンドレア・ガルネリ、フランチェスコ・ルジェーリ、ジョバンニ・バティスタ・ロジェーリ等がいた。
- ヤコプ・シュタイナー (1617頃生)
ドイツの天才的製作家。素晴らしいバイオリンを作った。ただし偽物がたくさん作られ、また後世にオリジナルも数多くが改造を受けてだめにされてしまった。それで良い楽器があまり残っておらず、現在ではあまり評価は高くない。色の薄い(黄色っぽい)ニスの色が特徴。工作精度に置いてはストラディヴァリを上回るとも言われ、過去(古典派の時代)においては非常に評価が高かった。
- アントニオ・ストラディヴァリ
- バルトロメオ・ジュゼッペ・ガルネリ(通称デルジェス) (1698-1744)
ストラディバリと並ぶ天才的製作家。華やかな音のストラディバリに対して、彼のバイオリンは音は渋く、より音量がある。製作数が少なく、希少である。
[編集] 指導者・研究者
奏者としてのほうが有名な人物は除外。
- ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ
- ルイ・シュポーア
- レオポルト・アウアー
- オタカル・シェフチーク (1852-1934)
- セヴシックとも。テクニック向上に大きく貢献
- カール・フレッシュ (1873-1944)
- 20世紀の演奏・指導法に多大な影響を与えた
- ルイス・パーシンガー
- イラン出身。アメリカで多くの奏者を育てる
[編集] 関連項目
- 弦
- ヴァイオリン族
- ヴィオール族
- フィドル - 民俗ヴァイオリン。
- シュトローヴァイオリン(Stroh Violin): アコースティック録音時代の録音用特殊ヴァイオリン
- エレクトリックヴァイオリン(弦の振動をピックアップで拾い、電気信号に変換して出力するヴァイオリン。共鳴のための胴体がない。)
- 弱音器
- ヴァイオリンソナタ
- ヴァイオリン協奏曲
- スズキ・メソード
[編集] 関連書
- 『楽器の事典 ヴァイオリン』東京音楽社 ISBN 4885642523
- 『誰がヴァイオリンを殺したか』石井宏 新潮社 ISBN 4103903023
- 『ヴァイオリン演奏のコツ』ハーバート ホーン 音楽之友社 ISBN 427614454X