ベトナム料理
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ベトナム料理(ベトナムりょうり)は、中国文化や植民地統治時代のフランス文化などの影響を受けてベトナム地方で形成されてきた料理であり、あまりクセがなく、マイルドな味付けである点を特徴としている。
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[編集] 特徴
ベトナムは古来から、中国の一部となるなどして、中国文化の影響を強く受けてきたため、ベトナム料理にも中華料理の影響が色濃く現れている。また、19世紀から20世紀にかけてフランスの植民地統治を受けていたため、他のインドシナの国々同様、フランスの食文化の影響も多く残されている(バゲットやコーヒー、プリンなどが日常の食生活の中に定着しているといったような点はその例である)。
ベトナム料理の一般的な特徴として、中国福建省や広東省の食文化とも通ずるが、小魚を塩漬けにして発酵させた魚醤(Nước mắm ニョクマム)などの発酵調味料を使うこと、基本的に米食文化であり、麺類や春巻の皮なども小麦ではなく米から作ること(このため、麺類は全般にあまりコシがない)などを挙げることができる。中国料理と異なるのは、料理の付け合せなどに野菜や香草類をふんだんに用いることで、味付けにも違いがある。ベトナム料理によく使われる調味料としては、上述のニョクマムのほかに、塩(Muối)、唐辛子(Ớt)、ライム(Chanh:酸味料として。なお、レモンティーのレモンもライムで代用する)、タマリンド(Me:酸味料として)、ニンニク入りのチリソース(Tương ớt)、コショウ(Tiêu)などを挙げることができる。
日本では馴染みが薄いが、ベトナムでは一般的な食材には、孵化前のアヒルの卵や、ネズミの肉などがある。
[編集] 地方ごとのバリエーション
ベトナムは南北に長い国であり、地方によって気候や食習慣が異なるため、食材や味付けなどにも地域ごとの差がある。ベトナムを大きく北部(ハノイなど)、中部(フエなど)及び南部(ホーチミンなど)の3つの地域に分けて見てみると、北部の料理は他の地方に比べ全体に塩やしょう油を使った塩辛い味付けとなっており、中部の料理は唐辛子などを使った辛い味付けのものが多い。また、南部料理は全体に甘い味付けで、ココナッツミルクなどの食材もよく用いる。なお、フエにはかつて阮(グエン)朝が置かれていたこともあるため、フエ料理には宮廷料理の影響も受けたメニューも多い。
[編集] 主な料理
ベトナム料理でポピュラーなメニューとしては、以下のようなものがある。
[編集] 主食・主菜類
- フォー(Phở)
- ベトナムで最もポピュラーな麺類の一つで、中華料理の平打ちライスヌードルの類。米麺に牛骨から取ったスープをかけ、牛肉をのせたものを「フォー・ボー」(Phở bò)、鶏スープをかけ鶏肉をのせたものを「フォー・ガー」(Phở gà)という。好みによってこれに香草やもやしを加えて食べる。日常的によく食べられているメニューだけに、社会生活の変化などから影響された、フォーに対する食のスタイルの広がりなども近年認められる(フォーを扱うファーストフード風のチェーン店が都市部に作られたり、またインスタント麺やカップ麺のフォーが売り出されたりしていることなどはその例といえる)。
- ブンボーフエ (Bún Bò Huế)
- ベトナム中部でポピュラーな麺。こちらもライスヌードルを用いるが、うどんほどの太麺を用い、レモングラスと赤唐辛子を効かせるのが特徴。牛肉や豚足からだしを取ったスープをかけ、香草やもやしなどの野菜を加えるのはフォーと同じ。このブンボーフエも中部だけではなくベトナム全域に広がっている。
- ブン・ティット・ヌォン(Bún thịt nướng)
- 麺料理の一つであり、米麺の上に甘辛いタレをつけて焼いた豚肉がのっている。フォーと異なり、こちらにはスープがかかっていない。付け合せのゆでたニンジンやモヤシなどを好みでどんぶりに入れ、ニョクマムにライムの汁、砂糖、にんにく、水などを加えた甘酸っぱいソース(ヌョクチャム Nứơc Cham)をふりかけて食べる。
- 揚げ春巻き(Chả giò)
- ひき肉やキクラゲ、カニ肉、春雨などを米から作った皮(ライスペーパー)に包み、揚げたもの。中華料理の春巻きよりかなり小ぶりで、親指大くらいの大きさである。ニョクマムに浸して食べる。
- 生春巻き(Gỏi cuốn)
- ゆでたエビ、ビーフン、生野菜などをライスペーパーで包んだもの。ニョクマムに浸して食べる。
- チャオ・ガー(Cháo gà)
- 鳥粥。人気のある朝食メニューの一つ。細長い揚げパン(中華料理の油条)をちぎり、これに入れて食べる。
- コム・ガー(Cơm gà)
- ベトナムの海南風チキンライス。東南アジアの他の中華文化圏同様、チキンライスはベトナムでも人気が高い。
- カイン・チュア・カー・ロック(Canh chua cá lóc)
- ライギョ(カー・ロック)入りのスープ。ベトナムではライギョはポピュラーな食材であり、このほかにもライギョの煮付けなどいろいろな料理がある。
- バインセオ(Bánh xèo)
- ベトナム風お好み焼き。米粉とココナッツミルクを混ぜてパリッと焼いた皮の中に、豚肉、エビ、モヤシなどが入っている。これを一口大にちぎって、香草などと一緒に韓国の焼肉料理でよく使われるサンチュに似た葉に包み、ニョクマムに浸して食べる。ホーチミン市などにはバインセオの専門店がある。
[編集] 軽食・デザート類、飲料
- バインミー(Bánh mì)
- 切り込みを入れてマーガリンやレバーペーストを塗ったバゲットにサラミやハム類、野菜などをはさみ、ニョクマムをふりかけたベトナム風サンドウィッチ。屋台などでよく売られている。
- バインフラ(Bánh flan)
- 濃厚な風味のカスタードプリン。最もポピュラーなデザートのひとつであり、街の食堂などでは、食後特にオーダーしなくても持って来ることがある。
- コーヒー(Cà phê)
- アルミのフィルターで淹れるベトナム式コーヒーは、近年日本でも広く知られるようになってきた。紙のフィルターと異なり、お湯がなかなかフィルターから落ちず抽出に時間がかかるため、出来上がりはかなり濃い味になる。ミルクコーヒーにする場合には牛乳ではなくコンデンスミルクを用いるのも大きな特徴(カップの底にコンデンスミルクを入れ、その上からコーヒーを注いだ状態で持ってくる。それをスプーンでかき混ぜて好みの濃さに調整する)。路上のカフェなどでコーヒーを頼むと、これに大体ポット入りのジャスミン茶がついてくる。
- ホビロン(Hột vịt lộn)
- 別名バロット。孵化前のアヒルの卵を茹でたもの。エッグスタンドに立てて頂上部の殻を割り、穴を開けて中のスープを飲んだ後、そこに塩・胡椒を加えてスプーンでかき混ぜ、液状にして食べる(生えかけの羽毛やくちばしなどが混ざってくることがあるが、これは食べない)。おやつとして人気があり、路上の屋台などで売られている。
[編集] 文献
- 有元葉子『わたしのベトナム料理』柴田書店、1996年7月、ISBN 4388057800
- 石鍋裕『ヴェトナム・アリスのアジアン・エスニック』講談社、2004年6月14日、ISBN 4062715732
- 伊藤忍、福井隆也(共著)『ベトナムめし楽食大図鑑』情報センター出版局、2006年7月、ISBN 4795832536
- 伊藤忍、福井隆也(共著)『ベトナムめしの旅』情報センター出版局、2004年12月、ISBN 4795828334
- 植月縁(構成・文)、渡辺文彦(撮影)『食を追ってベトナムへ』文化出版局、1997年4月、ISBN 4579205685
- 岡村ゆかり『ベトナムごはんまるごと案内』晶文社、1998年11月、ISBN 4794963750
- 鈴木珠美『ベトナム葉っぱごはん おうちで楽しむエスニックレシピ+ガイド』文化出版局、2003年6月、ISBN 4579208641
- チュウ・シー・チェ、マルセル・アイザック(共著)『アジア食文化紀行 ベトナム料理 自然豊かな癒しの国の食をきわめる』チャールズ・イー・タトル出版ペリプラス事業部、2002年10月、ISBN 4887782209
- 塚尾智子、大矢かおり『ベトナムおやつの誘惑』旭屋出版、2001年2月、ISBN 4751102486
- P.T. トウェン『ベトナムの料理とデザート』PARCO出版、2001年7月、ISBN 4891946334
- 日本放送出版協会(編)『ヌクマムの香りパパイヤの味 ベトナム食紀行』日本放送出版協会、2002年2月、ISBN 4140806656
- 浜井幸子『たっぷりうれしいベトナムへ! ベトナムおいしい旅ガイド』徳間書店、2003年4月、ISBN 4198616701
- 平松洋子『タイとベトナムのごはん おいしいものいっぱい』マガジンハウス、1999年11月、ISBN 483878242X
- 平松洋子(文・構成)、湯浅哲夫(撮影)『とっておきのベトナム家庭料理』マガジンハウス、1995年9月、ISBN 4838706391
- 平松洋子『ベトナムとタイ 毎日のごはん』集英社、2005年5月、ISBN 4086500892
- 三浦行義、大野尚子(共著)『ベトナム家庭料理入門 台所にあがりこんで教えてもらった味』農山漁村文化協会、1996年10月、ISBN 4540960547
- 三浦行義、大野尚子『うまいぞ!ベトナム』たる出版、1996年1月、ISBN 4924713422
- 山原美和『タイ&ベトナムおいしい屋台料理』文化出版局、2003年6月、ISBN 457920865X
- ゑゐ文社編集部『エスニック食の達人 タイ・ベトナム料理の指南書』ゑゐ文社、1996年1月、ISBN 479520926X
- Andre Nguyen、Yukiko Moriyama(共著)『ベトナム料理―人気のヘルシーメニューがいっぱい!!』ブティック社、2001年10月、ISBN 4834717739