コミュニティ放送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コミュニティ放送(―ほうそう)とは、市区町村内の一部の地域において、地域に密着した情報を提供するための放送である。FM波が使われることから、俗に、コミュニティFM(―エフエム)とも呼ばれる。
目次 |
[編集] 概説
- 放送法施行規則では「一の市町村(特別区を含み、地方自治法第二百五十二条の十九に規定する指定都市にあつては区とする。以下同じ)の一部の区域(当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接する場合は、その区域を併せた区域を含む)における需要にこたえるための放送」と定義されている。これに基づき、放送対象地域は市町村単位(特別区及び政令指定都市は区単位)で割り当てられている。
- 一般のFM放送局に比べ空中線電力が小さいので「ミニFM」と混同されることがあるが、まったく別物である。具体的には、コミュニティ放送を行うには放送事業者として電波法による無線局免許が必要だが、「ミニFM」は、空中線電力が微弱であるためその必要がない。むしろ、ミニFMはかつて現在のコミュニティ放送並みの出力で放送していたところ、コミュニティ放送の制度の整備に伴って出力の上限が抑えられた、という因縁まである。
- 方式としては超短波帯を用いた放送(FMラジオ放送)で1992年に制度化され、同年の函館山ロープウェイによる「FMいるか」が第一号。
- 空中線電力は、市町村の一部ということで、20W(ワット)以下(ただし、実効輻射電力(アンテナの利得によって強められ放射される実際の電力)に関しては上限無し)とされており、放送するには技術責任者が第2級陸上無線技術士以上の資格保持者である事が必要となる。
- 通常のFMラジオ局では、都道府県内全域に毎日放送を行う義務があり、本局は500ワット~10キロワット、中継局では10~100ワット程度で放送を行っている。一方で、コミュニティ放送は、毎日放送を行う義務はなく(但し毎日放送を行っている局が多い)、放送を行う場所も、基本的に人が住んでいる「コミュニティ」のみをターゲットとして放送することができる。結果、聞こえる範囲は狭いが、放送が聞こえる場所には多くの人がいることから、通常のFMラジオ局と比べると、ある意味でコストパフォーマンスが良い。
- 経営体としては、地方自治体と民間の共同出資による第三セクター会社が多いが、中にはNPO法人が運営する放送局もある。(日本のNPO運営の放送局は2006年5月現在、コミュニティ放送のみ)
- というような規制があったが、1995年の阪神・淡路大震災以後、地域における非常用伝達手段の確保も兼ねて、その規制も一つの市区町村の開局上限が撤廃されたり、空中線電力が増強(1995年の改正では10wまでに規制緩和→1999年に現在の20wまでの増強が認められた)されるなど、大幅に規制が緩和されてきたことから開設が相次いだが、現在は新規開局の急激な増加はない。
- コミュニティFMの中には、東京のFM局J-WAVEや、TOKYO FMグループの衛星デジタルラジオ局ミュージックバードが配信する番組を再送信している放送局もあり、特に夜間において再送信する放送局が多い。また2004年10月からはKiroroが全国のコミュニティFM放送局を結んで交流を深める「hot pot Kiroro」という番組もスタートしてネットワークしている。かつてはエフエムアメリカという、JFLやMegaNet加盟局にも配信する会社の番組を受けていたところもあった。今日では一部、第一興商のスターデジオや、有線放送CANの配信を受けている局もある。
- 放送局のスタジオはその多くがサテライトスタジオ方式を採用しており、実際のスタジオ放送風景を自由に見学できるようになっている。人件費の関係上、番組の多くがパーソナリティが機器操作をしながら喋るワンマンDJスタイルである。(写真2はFM HANAKO(大阪府守口市)のスタジオ風景)
[編集] 特記
[編集] 札幌方式
現在、北海道札幌市において、災害時に備えて、2005年現在、同市内に5社あるコミュニティーFM放送局のうち、4局が協力しあい、共通同一の放送をするという企画が、同市の協力の元に立ち上げられた。札幌方式と命名された。
この札幌方式による放送は、2004年より何度か試験的に行われ、この試験段階では成功を収めている。 札幌方式での放送は2005年4月から、毎週金曜日15:00から放送中。
[編集] 三遠南信のコミュニティ放送局
愛知県豊橋市のエフエム豊橋と静岡県浜松市の浜松エフエム放送と長野県飯田市の飯田エフエム放送は、もっと!三遠南信情報局という番組を共同制作し各局で放送している。
また年に一回程、三局のパーソナリティやスタッフが共同で公開生放送を行う「もっと!三遠南信放送局スペシャル」という番組の放送も行っている(その他、三局間の協力関係などは三遠南信のコミュニティ放送局の項目を参照のこと)。
[編集] 現在の課題
- 南関東の大都市圏では、山岳障壁がないことで周波数の余裕がなく(局相互の保護に必要なガードバンドが取れない これがないと占有帯域の端同士で混信する)、申請しても却下された局が多い。ただ、デジタルテレビ放送への移行に伴い、2011年7月25日以降86MHz以上の周波数が利用可能になるので、これを境に局が増える可能性がある。
- 開設にあたっては、自治体個々の熱意によるところが大きく、北海道石狩支庁、新潟県、東京都、神奈川県、静岡県、兵庫県など局数が多い都県もあれば、栃木県、佐賀県のように局数が0の県や、山梨県、鳥取県、島根県、徳島県、愛媛県、高知県、大分県のように1局しか開局されていない県・開局していても県庁所在地にしかない県もあり、一種の地域格差を生んでいる。
- 開局が実現したとしても、実際には地域に定着しつつ聴取率を確保し、経営を安定させるのが困難であるとして厳しい経営を強いられている放送局は多い。CBCラジオやZIP-FMといった県域放送のラジオ媒体を退け、エリア内における聴取率一位を実現し、地域密着も完了したかに見える老舗のエフエム豊橋でさえも、経営が完全に黒字転換しているわけではない(2003年現在)。エフエム豊橋の翌年に開局した浜松エフエム放送も、J-WAVEの番組配信を行うまでは経営が黒字転換することはなかったといわれている。だが、この豊橋と浜松の両局はコミュニティ放送では非常に限られた「勝ち組」と称しても過言ではない存在である。他の多く放送局は聴取率も経営も非常に厳しい状況に置かれているのが現状だ。その理由として、必ずしも番組表が新聞に載るとは限らないという事情も見逃せない。
- エリアを一自治体域のみとする放送法上の建前にも疑問の声があり、東京都三多摩全域をカバーするFM局開設を目指しているEgg Projectのような活動も存在する。「県域」か「一自治体」かの二者択一ではなく、良好聴取可能なFM局の数が少ない等、条件にかなった地域を対象に1つの経済・行政圏を構成する複数の自治体域(例えば、三重県南勢、岡山県美作地方等)を放送区域とする県域放送とコミュニティ放送の中間ともいえる新たなカテゴリーのFM局新設を認可すべきと思われ、可聴エリアが広大なエフエム豊橋(エリア:愛知県東三河・静岡県西部&愛知県西三河の一部)、浜松エフエム放送(エリア:静岡県西部・愛知県東三河の一部)、レディオBINGOのような、県庁所在地でない地域経済拠点の中核市にあるコミュニティ局も上記の新たなカテゴリーのFM局に容易に転換できるようにすべきだろう。
- 一方で「平成の大合併」により市町村の面積が拡がってしまい、20Wの出力を持ってしても全域がエリアと出来なくなってしまった局(Hits FM(岐阜県高山市)など)も存在し、コミュニティFM設置の大義名分の一つであった緊急時の防災放送協定の相手方がコミュニティFMから県域ラジオ局へと替わってしまった自治体もある。浜松エフエム放送はこの問題をアクトタワーに送信所を設置する"荒技"で解消したが、これは極めて稀な一例であり、豊橋市内で最も高い建造物であるホリデイタワーを送信所としているエフエム豊橋のような局では不可能な手段である。現実的な解決法としては、FMいるかのように中継局を設けたり、送信所を標高の高い山への移設、あるいは送信出力の上限をさらに緩和(50w程度)することが求められるだろう。