MEMS
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MEMS (メムス、Micro Electro Mechanical Systems) は、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路を一つのシリコン基板上に集積化したデバイスを指す。プロセス上の制約や材料の違いなどにより、機械構造と電子回路が別なチップになる場合があるが、このようなハイブリッドの場合もMEMSという。 主要部分は半導体集積回路作製技術を用いて作製されるが、半導体集積回路が平面を加工するプロセスで作製されるのに対し、立体形状を形成する必要があり、半導体集積回路の作製には使われない犠牲層エッチングと呼ばれる可動構造を作製するプロセスが含まれる。
現在、製品として市販されている物としては、インクジェットプリンタのヘッド、圧力センサ、加速度センサー、ジャイロスコープ、DMD(プロジェクター)などがある。
市場規模も拡大しつつあり、応用分野も多岐にわたるため期待される市場は大きい。そのため第二のDRAMとも言われている。
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[編集] 歴史
歴史的には古くから機械構造を半導体製作技術で作製する方法が行われてきた。
1951年にはRCA社によりシャドーマスクが製作され、1963年には既に豊田中研により半導体圧力センサが発表されている。 1970年頃にはスタンフォード大学でNASAの委託研究でガスクロマトグラフがシリコンウエハー上に作成された。
このような微細な機械構造が注目を集めるきっかけとなったのは1987年のTransducers'87で発表されたマイクロギアやタービンである。 その後、マイクロモータ、櫛歯型アクチュエータなどの発明により脚光を浴びる。
初期の段階では動くだけで良かったが最近では応用を見据えたデバイスが主流である。
プロセスの見地では、最近までサーフェイスマイクロマシニングが主流であったが、ICP-RIEによる深堀りエッチングやウエハ接合、LIGAプロセス技術の発展によりバルクマイクロマシニングが主流となってきている。
[編集] 代表的なMEMSデバイス
市販されている代表的なデバイス
- プリンターヘッド: 特にインクジェットプリンタ用
- 圧力センサ
- 加速度センサー
- ジャイロスコープ
- 光スキャナ
- AFM用カンチレバー
- 流路モジュール
- デジタルミラーデバイス(DMD)
- HDDのヘッド
- DNAチップ
- 光スイッチ
- ボロメータ型赤外線撮像素子
- 波長可変レーザー
[編集] 主な応用先
研究段階の物や期待される応用分野
[編集] 高周波応用
主に微小な高周波スイッチや共振器を実現する。
機械的な高周波スイッチの場合、半導体の高周波スイッチ動作速度は遅いものの、低損失のスイッチが実現できる。
共振器は小型で高いQ値を持つものが作製可能である。水晶を用いても高いQ値を実現できるが、シリコンで作製できるため集積回路との集積化が容易である。
[編集] 光応用
- 光通信用光スイッチ
- 光スキャナ
- 投射型ディスプレイ
- 電子ペーパー
- ヘッドマウントディスプレイ
[編集] 流体応用
- マイクロバルブ
- マイクロ流路
[編集] 生化学応用
- DNA分析チップ
- 蛋白質分析チップ
[編集] 医療応用
- 血液検査チップ
- 能動カテーテル
- ドラッグデリバリーシステム
[編集] センサ
[編集] 宇宙応用
- マイクロスラスタ
[編集] MEMSにおける特徴的なプロセス技術
集積回路作製技術以外にMEMSで用いられる技術
[編集] 大きな分類
- バルクマイクロマシニング(Bulk Micromachining)
- サーフェイスマイクロマシニング(Surface Micromachinig)
[編集] エッチング技術
- 犠牲層エッチング
- 深堀りエッチング
- 異方性エッチング
- ICP-RIE
- 多段エッチング
[編集] リソグラフィ技術
- フォトリソグラフィ
- LIGA
- 3次元リソグラフィ
- 電子線直描
- 厚膜レジスト
[編集] 接合技術
- 直接接合
- 陽極接合
[編集] MEMSに用いられるアクチュエータ
[編集] 静電力を用いたもの
構造が簡単で小型化に向いている。発生力は他の方法に比べて小さい。MEMSでは最も使われる駆動原理
- 平行平板型静電アクチュエータ
- 櫛歯型静電アクチュエータ
- スクラッチドライブアクチュエータ(Scratch Drive Actuator:SDA)
- 静電マイクロモータ
[編集] 電磁力を用いたもの
コイルや磁石が必要になるため、静電型に比べ構造が複雑で大きいが、大きな力を発生することができる。ヒステリシスやドリフトを伴うこともある。
- 電磁力アクチュエータ
- 磁歪アクチュエータ
[編集] 圧電効果を用いたもの
大きな力を発生できるが、変位が小さい。
- 圧電型アクチュエータ
- 圧電バイモルフ
[編集] 熱歪みを用いたもの
構造が簡単で、大きな力を発生できるが、ドリフトなどの不安定要素がある
- 熱バイモルフアクチュエータ
- 熱膨張型
[編集] その他
- 圧縮気体を用いたもの
- 電気分解を用いたもの
[編集] 関連項目
- 江刺正喜
- マイクロマシン
- マイクロファブリケーション
- Transducers
- NEMS
- micro-TAS
- スマートダスト(Smart dust)ja:MEMS