KC-767 (航空機)
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概要 | |
分類 | 空中給油輸送機 |
乗員 | 3名(コックピット座席は4) |
製造者 | ボーイング |
寸法 | |
全長 | 48.51m |
全幅 | 47.57m |
全高 | 15.90m |
翼面積 | ? |
重量 | |
空虚重量 | -- |
最大輸送人員 | 192名~200名 |
最大燃料重量 | 91,627kg |
最大離陸重量 | 179,172kg |
機関 | |
エンジン | GE CF6-80C2B6F ×2 |
推力 | 272.3kN ×2 |
性能 | |
最大速度 | 468km/h(高度9144m) |
航続距離 | 14,075km |
実用上昇限度 | 13,137m |
武装 | なし |
初飛行 | 2005年5月21日 |
KC-767は、アメリカの航空機メーカー、ボーイング社が開発した空中給油・輸送機。開発母機はボーイング767。
目次 |
[編集] 開発経緯
ボーイングでは、これまで空中給油機としてKC-135と、それを母機にしたボーイング707の派生型KC-707を運用してきたが、707は性能の陳腐化から1991年に生産を終了した。また、アメリカを代表する空中給油機は他にマクドネル・ダグラス社のDC-10を改造したKC-10もあるが、マクドネル・ダグラスがボーイングに吸収されたため、後継機が開発されないままとなっていた。そこでボーイングは両機の後継として、自社のB767型を改造した空中給油輸送機、767T-T(767タンカー・トランスポート)を提案した。イタリア空軍と日本の航空自衛隊が最初の顧客となったが、B767は開発を日伊の企業がそれぞれ全体の15パーセント担当しているため、国内の理解も得られ易かったと言えるかもしれない。
米空軍へ約100機のリース契約も決定していたが、リースでは購入するよりも高額であることが明らかになったことと、採用をめぐって国防総省との裏取引疑惑が取り沙汰されたことから採用を取り消された(後述)。また、イタリア以外の欧州主要国は、自国企業が参加するエアバスの空中給油輸送機・A330MRTTを採用する見込みである。
[編集] 米国の採用見送り
アメリカでは、1996年に政府会計検査院が「将来的な戦力維持に問題がある」として、KC-135後継機KC-Xの研究開始を勧告した。2001年には空軍が「KC-135の運用経費が2001年から2040年の間に大幅に増加する」と発表、2040年には全機を退役させるべきとの見方を示し、そのためには遅くとも2012年までにKC-Xを実用化させる必要があるとした。
すでにボーイング767の軍事利用を研究していたボーイングは「KC-767が要求に最適」であるとして提案、軍の支出削減に応える為に、まず100機をリース契約することを提示した。国防総省も2003年5月23日に、このリース・プログラムについての発表を行い、前向きな姿勢を示した。発表によると、2006年から100機のKC-767を1億3100万ドルで借り入れ、リース契約特有の経費として1機当たり700万ドルが必要としているが、総経費は160億ドル以下に抑えられる。また、リース契約が終了する2017年に、全機を約44億ドルで購入する、とした。なお、この米軍向けのエンジンはイタリアや日本と異なり、プラット・アンド・ホイットニー製PW4000を装備するものであった。
空軍は7月14日に議会へリース案を通告した。しかし、議会から「最初からボーイング単独指名のような計画で進められたのはなぜか」と問い詰められ、また、会計検査院は経費が膨大になると試算した。検査院によると、100機のリース総額は200億から300億ドルとなる一方、現有のKC-135Eを近代化・延命改修してKC-135Rとする案の総額は36億ドル程度で、リースよりも約224億ドル節約できる。また、KC-767のために各基地に新しいインフラを建設しなければならず、その経費は約17億ドルで、それだけでKC-135Eを59機改修できる、とした。議論は長く続いたものの、結局リース案は白紙撤回され、2つの案が提示された。
1つは、ボーイングあるいは海外メーカー(実質エアバス)の機体をKC-Xに改造するもの。2つ目は中古機(実質DC-10)を購入して改造すると共に、KC-135Eを改修するもの。また、大型「給油機」と小型「戦術給油機」を調達し、混合して運用する案も提示されている。1案の中でKC-767の生きる道は残されたが、空軍は2005年8月に「KC-10のような大型給油機を装備するのが最適」として、エアバスA330、ボーイング777、ボーイングC-17 グローブマスターIIIのどれかをベースとするものとした。このうち、C-17は2007年に調達を完了する事となっており、生産ラインも閉じられる為、実質はボーイングかエアバスの旅客機を採用する。
KC-767は外されたようにも見えるが、性能と運用コストの点で777改造機やA330MRTTは未知数である。ボーイングは未だ777と767のどちらを提案するとも発表していないが、状況によってはKC-767が再提案される可能性もある。
[編集] 機体
種機は767の中でも機体の短い767-200ERの貨物タイプで、機体は小さいが航続距離が長いことが利点である。これは、長胴タイプでは離陸時に尾部のブームが、接地する恐れがあったためである。
なお、空中給油装備以外に、キャビンを輸送スペースとして利用でき、C-130を上回る航続距離と搭載量を有している。積荷は機首後方左側の入り口から搬入するようになる。キャビンは貨物用・人員輸送用・貨客混載の3タイプあるが、この転換作業は少人数でも数時間で終えることができるようになっている。人員なら200名、車輌も小型トラックなら4台を格納できる。
エンジンは、ゼネラル・エレクトリック製のCF6-80C2か、プラット・アンド・ホイットニー製PW4000を選択できる。イタリアと日本は共にGE製である。
[編集] KC-767A
KC-767の最初の顧客はイタリア空軍で、2001年6月にKC-767A の採用を発表し、2002年12月に正式な契約に至った。プローブ・ドローグ方式とアメリカ空軍式のフライング・ブーム方式の両方の装置を備えている。初号機は2005年2月24日にカンザス州ウィチタでロールアウト(式典で初公開)、5月21日に初飛行した。6月にはパリ航空ショーで展示された。
[編集] KC-767J
二番目の顧客として、日本の航空自衛隊が2001年(平成13)12月に採用を決定し、こちらはKC-767Jとなっている。2003年(平成15)3月に初号機の購入契約を交わした。
自衛隊の要求は、フライングブーム式の給油装置で、1個の給油ポイントで最大8機に給油可能であること、輸送人員は200名程度、パレット化は貨物6枚、小型トラックは4台が搭載できること、航続距離は貨物搭載量30トンのときに6,500km以上であることであった。
J型はアメリカ空軍式のフライング・ブームのみを採用している。空中給油を受ける機体はF-15J/DJ、F-2A/B、F-4EJ改であるが、E-767早期警戒管制機も配管などの準備が施されている。空中給油機の獲得によって、滞空時間延長がなされ、作戦機の効率的な運用が可能となるとされている。また空中給油をすることで、離着陸回数が削減されることから、基地周辺の騒音低下にもつながると期待されている。また、KC-767は航続距離は貨物32トンで9,260km、45トンで14,075kmであり、航空自衛隊の戦術輸送機では最大となり、こちらも様々な活躍が期待されている。
調達購入は中期防衛力整備計画(平成13年度~17年度対象)の平成14年度(2002年)予算から決まり、1年に1機ずつ計4機を調達することになった。1号機は2007年(平成19年)の2月に納入の予定。2号機は平成19年前半での受領が期待されている。各機は技術実用試験を経て配備となる。拠点基地は小牧基地となる予定で、機体の配備と同時に、運用する給油・輸送部隊(第404飛行隊)が新設される。
自衛隊では迅速な作戦遂行のために12機、少なくとも8機を獲得しようと考えているが、追加購入調達については、予算削減を受けた新防衛大綱及び平成17度~21年度対象の中期防で、C-X次期輸送機を同時に獲得するため、またKC-767は高額なため、すでに平成17年度予算で計上された4号機で取得を中断し、あとは運用結果を踏まえて検討することになった。
アメリカ海軍・海兵隊式のプローブ・ドローグ方式は採用されてはいないが、こちらも運用結果を踏まえて追加装備するか検討している。