飛鳥II
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飛鳥II(あすかツー)とは、日本郵船の子会社、郵船クルーズが所有・運航している外航クルーズ客船。2006年2月に売船された「飛鳥」の後継船である。
1990年6月、「クリスタル・ハーモニー」(バハマ船籍)として竣工・就航。
2006年1月に郵船クルーズが本船を買い取り。日本市場向けの改装を施し、2月末よりの習熟航海を兼ねた日本各地でのお披露目を経て、3月17日に正式デビュー。
2006年12月時点で、日本籍では最大の客船である。
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[編集] 主要目
- 総トン数 - 50,142
- 全長 - 240.8m
- 全幅 - 29.6m
- 喫水 - 7.5m
- 客室数 - 462室(販売客室数 400室)
- 乗客数 - 720 ないしは 800名(最大940名)
- 乗組員数 - 約440名
- 主機関 - 電気推進 37,800kW×4基 2軸
- 航海速力 - 23ノット
- 船籍港 - 横浜
- コールサイン - 7JBI
- 船主 - 郵船クルーズ株式会社
- 運航 - 郵船クルーズ株式会社
- 造船所 - 三菱重工業長崎造船所
- 竣工 - 1990年6月
- 「飛鳥」の竣工は1991年10月であり、「飛鳥II」という名前でありながら、実は先代よりも一歳「おばあちゃん」(船は女性)である、という逆転現象が生じている。
[編集] 飛鳥II 誕生の経緯
1991年10月に就航した「飛鳥」は、1990年代中盤より順調にその集客を伸ばし、21世紀に入る頃には、特に夏場のハイシーズンにおいては満船の状態が続くようになり、「予約が取れない」と乗船希望客の不満が募るようになった。
運営する側としてもこれはビジネスチャンスを逃していることに他ならず、キャパシティの増大が必須命題となり、第二船の投入や、より大型の新造船の建造等が検討されたが、結果として、同じ日本郵船グループのクリスタルクルーズ社が運航する「クリスタル・ハーモニー」を日本向けに改装し、「飛鳥II」として代替投入、これに伴い「飛鳥」は売船されることとなった。[1]
これは当時、「クリスタル・セレニティ」の投入(2003年6月就航)により、3隻体制となったクリスタルクルーズ社の集客が伸び悩んでおり、減船(=日本郵船グループ内の船腹交換、飛鳥の売船)により体制を整える、という目的もあった。
(日本郵船の2006年度第一四半期決算によれば、客船事業部門の収支は前年同期比、大幅に改善されており、この船腹交換の効果が現れている、といえよう)
なお、日本郵船・草刈会長及び郵船クルーズ・松平社長は、第二船の投入については「現状、そこまでの市場の広がりがない」とし、また新造船の投入を見送った理由については、折からの海運好況で「船価が高止まりしていること」、並びに「造船所の船台が相当先まで埋まっており、その間お客様をお待たせさせてしまうことになる、ビジネスチャンスを逸する」旨、述べている。
[編集] クリスタル・ハーモニーから飛鳥IIへ
「クリスタル・ハーモニー」は2005年11月25日、ロスアンゼルスにてその運航を終了、同月末よりカナダの Victoria Shipyards にて改装工事にかかった。
12月下旬に出渠、年末年始にかけ太平洋を横断し、2006年1月5日に三菱重工業横浜製作所に入渠、更に改装工事を続けた。
なお、船舶登記上は1月5日までが「クリスタル・ハーモニー」、1月6日からが「飛鳥II」である。
2月11日には、売船準備のために「飛鳥」が同製作所に入渠、その後数日間、岸壁の両側に「飛鳥」と「飛鳥II」が並ぶ光景が見られた。[2]
改装工事を終えた「飛鳥II」は2月22日夕刻に横浜港大さん橋に着桟し、2月26日に命名記念式典が実施された。
生憎の雨天であったが、中田宏横浜市長らの出席の下、岸惠子がゴッドマザーとして本船を「飛鳥II」と命名した。[3]
その後、2月末から3月半ばにかけ、習熟航海を兼ねた、日本各地での「お披露目」を実施。3月17日に正式デビューとなった。
[編集] 横浜船籍
通常、船籍港は船主の本社所在地に置かれるものである。(便宜置籍船は除く)
実際、「飛鳥」の船籍港は郵船クルーズの本社所在地の東京であったが、「飛鳥II」の船籍港は横浜である。
これは、横浜市が大さん橋客船ターミナルを抱え、多数の客船の寄港があるにもかかわらず、横浜を母港(船籍港)とする客船がなく、「飛鳥II」の就航に当たり、中田市長が自ら日本郵船に同船を横浜籍とするよう依頼、郵船側も「飛鳥」の発着港の多くが横浜港であったことや横浜市との関係に鑑みこれを受諾、2005年10月5日に合意・発表に至ったものである。[4][5][6]
[編集] 改装箇所
「クリスタル・ハーモニー」から「飛鳥II」への主な改装箇所は次の通り。
- グランドスパ(大浴場)
- 日本人向けの客船には必須の設備、ということで12デッキに新設された。
- リドガーデン
- 一斉に食事に来る、という日本人客の特性からは、「クリスタル・ハーモニー」の「リドカフェ」のキャパシティでは賄い切れない、として、11デッキの「ネプチューンプール」を廃し、「リドカフェ」と連なる形で作られた空間。
「ネプチューンプール」上部のスライディングルーフの部分に「グランドスパ」を新設、「リドガーデン」も閉鎖区画となったことから、本船の容積が増え、総トン数が「クリスタル・ハーモニー」時の 48,621 より 50,142 に増加した。
- 寿司「海彦」
- 11デッキの和食レストラン「KYOTO」を改装。寿司カウンターや水槽が新設された。
- プレゴ
- 改装はされていないが、イタリアンレストランとしての機能は停止された。
- 子供用プレールームであった11デッキの「ファンタジア」を和室「游仙」に改装。
- アトリウム
- 5、6デッキ吹抜け部分の、上部より水が流れる泉(但し「クリスタル・ハーモニー」運航末期は、故障により水を流していなかった)が、時間帯によって色が変わる自光式の構造物に置き換えられた。
- ただ一部の乗客より、これが「プラスチックで安っぽい」、「ラブホテルみたい」と不評の声が上がっている。
- スカイデッキに敷かれていた人工芝の色は緑であったが、鮮やかな青色のものに張り替えられた。
- 経年劣化による張替え自体はともかく、色については「飛鳥」でも緑であったので、青に変更された理由については、様々な憶測がなされている。
- 「飛鳥」の頃より、多数の乗客より導入希望が寄せられていたが、同船では技術的理由から不可能であり、「飛鳥II」で改装に合わせ導入された。
- ただ、この施行不良(配管ミス)がトラブルを招くこととなった。→ 初期トラブルと朝日新聞の記事
改装費用について、郵船クルーズ・松平社長は、2005年10月5日(=実際に改装に着手する前)の記者会見で、「概算で30~50億円」と発言している。
[編集] 設備
[編集] 料金
本船の料金(二名一室使用の一人一泊当り金額)設定は以下のとおり。(料金の内訳については「サービス」の節を参照のこと)
S (ロイヤルスイート) | 200,000 | 円/泊 |
A (アスカスイート) | 140,000 | |
C (スイート) | 108,000 | |
D (バルコニー付きステート、9デッキ) | 70,000 | |
E (同上 8デッキ) | 68,000 | |
F (ステート、7デッキ) | 60,000 | |
J (ステート、5デッキ) | 53,000 | |
K (※) | 48,000 | ※ステートの内、眺望の遮られる部屋 |
- 基本的には定価販売であり、外国客船に見られる「ラストミニッツセール」の類は実施していない。但し集客が伸び悩んだ際に、アスカクラブ会員(後述)に対し、若干の割引が提供されることがある。
- 季節料金制もとっていない。厳密にはお盆前後やクリスマスは上記よりも多少高い料金設定となっているが、その値差はわずかであり、他の宿泊施設に見られるような、季節による大幅な変動はない。この観点からは、本船の料金体系は宿泊施設よりは交通機関に近い。
- 一方、長期宿泊割引はあり、長期クルーズにおいては上記の 90%程度に泊単価が設定された上、更に「早期申込み割引」により10%強が値引かれ、都合 80%程度の料金となる。
- この他にも「熟年割引」といったキャンペーン的な割引が設けられるクルーズがある。
- 子供料金は基本的にはないが、夏休み期間中や年末年始に「ハッピーファミリークルーズ」の名前で 25%引きないしは半額の料金が設定されるクルーズもある。
- 日本郵船の株主優待として、本船の割引券(10%引き。但し他割引との併用不可)が配布されている。
なお、上記の他にもクルーズ毎による差異があるので、詳細は郵船クルーズないしは取扱い旅行代理店に当たられたい。
[編集] サービス
郵船クルーズは「飛鳥II」は「飛鳥」のサービスを継承する、としており、以下の説明も「飛鳥」の項とほぼ同じである。
- 客室の差以外は全て同等のサービスであり、食事の内容に差をつけたり、上級客室の乗客用の専用ラウンジなどは設けていない。(モノクラス)
- 但し、上級客室の乗客に対しては、「ソーシャル・オフィサー」がコンシエルジェ的役目を果たしたり、ショーやイベントの際に優先席を設けるなど、それなりの便宜は図っている。
- 船内で提供される飲食物は基本的には無料であるが、寿司「海彦」とルームサービス、お酒と炭酸飲料は別料金である。
- 夕食は二回制。
これはメインダイニングの席数が乗客定員の半数強にとどまるため。
(乗客数がダイニングの席数を下回ると一回制となる) - 朝食・昼食はダイニングで和食が、リドカフェでビュッフェ形式の洋食が提供される。
お腹に余裕があれば、両方で食べることも可能である。 - 三食以外にも、午前中には「ザ・ビストロ」にてデニッシュやベーグル類が、午後には「リドガーデン」でハンバーガーやホットドッグ、ピザ類が、夕刻には「ビスタラウンジ」で軽食が提供され、また23時からは夜食もあり、その気になれば一日中ひたすら食べ続けることも可能である。
- 船内で上演されるショーや映画の観覧も無料である。
- ショーは食事の時間に合わせ、二回制で催される。
ラスベガス風のショーや、専属マジシャンによるマジックショーが中心であるが、クルーズによっては外部より芸能人、演奏家や落語家を招いてのイベントもある。
[編集] 乗客定員
主要目の通り、本船の乗客定員は940名であるが、パンフレットでは720名と謳われている。この理由は以下の二点である。
- 「飛鳥」がいくら満室状態が続いていたとはいえ、二倍近くの集客をなすことは難しい。(代替船投入の選択肢としての新造船建造では、750名程度の定員を前提していたらしい)
- 乗組員の雇用が追いつかない。
- 「クリスタル・ハーモニー」の乗組員(545名)をそのまま雇えばよさそうなものであるが、彼らは欧米向けには一流のサービスができても、日本人向けのサービスができるとは限らない。(逆に「飛鳥」の現役乗組員は、(希望者の)全員がそのまま継続雇用された)
「飛鳥」と同等のサービスを維持するための乗組員育成には多少の時間を要する、と。
(客船において一流のサービスを提供するには、一般的に乗客2人に対し乗組員1人以上の割合が必要、とされる。飛鳥II の就航当初には、一定レベルに達した乗組員を 440名しか調達できなかった、ということか。)
もちろん、郵船クルーズとしても空き部屋を遊ばせておくつもりは無く、集客が順調で且つ乗組員の雇用、教育が進めば、早い機会に乗客定員を増やしていきたい旨、明言している。
(実際、2006年の夏季には早速 800名近くが乗船したクルーズもあったようで、郵船クルーズのウェブサイトでも乗客定員が 720→800 に更新されている)
[編集] 乗組員構成
船内組織についてはクルーズ客船の同節を参照願う。
乗組員約440名中、3分の1弱が日本人、3分の2強が外国人の構成である。
外国人の大半はフィリピン人が占めるが、他にもアジアや欧米各国の出身者がおり、国籍数は20を超える。
外国人(特にフィリピン人)の起用はもっぱら人件費の安さを目的としたもので、男性は主としてレストラン・バーのウェイターや在庫部門で、女性は客室係といった末端で起用されている。
全員日本語の訓練を受けてはいるが、流暢に話せる者からおぼつかない者まで、そのレベルには差がある。
その一方、サービス部門の長たるホテルマネージャーや、クルーズディレクターといった要職にも外国人を起用している。これは日本人に客船サービスのプロフェッショナルが不足していること、及び外国客船のノウハウを吸収するために、客船経験者を雇用したものである。
[編集] 歴代船長
- 初代 小田武(おだ・たけし)← 飛鳥 6代目船長
- 2代目 末永守(すえなが・まもる)← 飛鳥 7代目船長
「何代目船長」と称しているが、実際には2名が3~4ヶ月毎に交代で乗船する形を取っている。
(小田船長と末永船長が交互に乗船する)
[編集] 大型化のデメリット
乗船する側のメリット(予約が取り易くなる)と運営する側のメリット(事業の拡大)が一致して、実現した大型化であるが、ここではデメリットについて述べてみる。
大型化のデメリットの最たるものは、喫水が深くなることにより、寄港できる港が制限されること、であろう。
例えば屋久島は、「飛鳥」では特に秋口には毎週のように寄港するほどの人気の寄港地であったが、「飛鳥II」では喫水オーバーにより、岸壁に接岸することができなくなった。
もちろん、接岸できない寄港地でも、本船付属の「テンダーボート」(救命艇を兼ねた渡し舟)により上陸できるのだが、その運航は天候の影響を受け易く、悪天候の場合は上陸不可→抜港に至る可能性が高くなる。
このためか、2006年度の「飛鳥II」のスケジュールには屋久島の文字が見当たらない。
テンダーボートでの乗下船は、タラップやボーディングブリッジによる乗下船に比べ、どうしても時間を要することとなり、寄港地での時間の有効利用の点で劣ることとなる。
大型化により船内の移動距離が長くなったことが挙げられる。船首付近の客室に当った場合、船尾の施設に行く(あるいはその逆)には、かなり負担を感じることと思われる。。
[編集] 初期トラブルと朝日新聞の記事
2006年5月20日、朝日新聞(大阪版)の夕刊一面に『豪華客船ため息航路』の見出しで、本船上のトラブル(排水の逆流、自動ドアの不具合、大浴場の湯温が上がらない、エレベーターの不具合等)を報じる記事が掲載された。
しかしのちに、記事中で告発している男性は旅行業界では有名な「クレーマー」であり、他の乗客はそれほど問題としていなかったにもかかわらず、朝日新聞にタレ込んだところ、殊更に大きく取り上げられてしまったものである、ということが判明した。
ホテルや客船といった宿泊施設においては初期トラブルはつきものであり、「開業当初、就航当初の施設はあえて避ける」という利用客もいるほどである。
もちろん、トラブルがあってよい、ということではないが、これらの経緯に鑑み、果たして大新聞が一面で取り扱うべき内容であったのか、疑問が付されるところであるが、これも一種の「有名税」であろう。
(2月の「飛鳥」運航終了から3月の「飛鳥II」デビューの際のマスコミの取り上げ方は凄まじいものがあった。特に NHK での扱いは、これらが純然たる営利企業の船であることに鑑みれば、異例ともいえるものであろう)
ただ記事の発端にかかわらず、報じられた不具合は、いずれも事実は事実であり、4月からの世界一周クルーズでもこれらの不具合の一部は解消されず、またソフト面でも一定のレベルが確保できなかった、として、郵船クルーズは最終的に、客室単価の2泊分のクレジット(船内でのみ使用可)を「お詫び」として乗客に提供している。
[編集] アスカクラブ
アスカクラブは、「飛鳥」ないしは「飛鳥II」に一度でも乗船することにより入会資格を得られる、会員組織。
船名は漢字であるが、クラブ名はカタカナ。これは、「飛鳥」就航以前から既に「飛鳥クラブ」を名乗る団体との商標のバッティング等を回避するための措置と想像される。
客室にピンク色の入会申込用紙が置いてあり、これに必要事項を記入、レセプションに提出すると、事後に会員証が送付されてくる。
会員特典は次の通り。
- クラブ誌「飛鳥」(季刊)の送付。
- パーティー、懇親会、セミナーへの招待。
- クルーズ中のパーティーへの招待。
- 特定クルーズの割引。
- 「飛鳥」、「飛鳥II」の販売につき、郵船クルーズ及び取扱い旅行会社は、いわゆる「ラストミニッツセール」などの割引販売は実施していないが、集客の伸びないクルーズについては、アスカクラブ会員限定で若干の割引を提示し、集客を図ることがある。(上述のクラブ誌に同封されてくる)
- 累計泊数に応じた特典。
- 100泊単位で記念品や特典が贈呈されている模様。
会費は無料であり、また会員資格については特に有効期限は設けられていないが、3年間乗船しないと、休眠会員の扱いとなり、クラブ誌や各種招待状が送付されなくなる。
[編集] アルバトロス・ソサエティ
アルバトロス・ソサエティは、アスカクラブ会員の中でも、飛鳥、飛鳥II 通算で 300泊以上のヘビーリピーターを対象とした組織。
最多宿泊者は 1,000泊を超え、なお記録を更新中であるという。
ヘビーリピーターの暮らし振りは、2004年1月6日の朝日新聞朝刊にて紹介された。(asahi.com ~ 同記事の web 版)
[編集] ギャラリー
[編集] 脚注
- ↑ 2006年 春デビュー!「クリスタル・ハーモニー」が「飛鳥II」に生まれかわります (2005年3月31日プレスリリース)
- ↑ 横浜市港湾局 ~「飛鳥」、「飛鳥II」ドック風景
- ↑ 横浜市港湾局 ~「飛鳥II」命名式・市民見学会風景
- ↑ 横浜市港湾局 ~初の横浜港船籍客船「飛鳥II」
- ↑ 横浜市 市長定例記者会見(平成17年10月5日)
- ↑ 郵船クルーズ ~「飛鳥II」の母港が横浜に決定しました
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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