松田正久

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松田正久（まつだまさひさ、弘化4年4月11日（1847年 5月25日）-大正3年（1914年）3月4日は、明治・大正期に活躍した旧小城藩出身の政治家。西園寺公望の親友であり、立憲政友会においてはその片腕として活躍した。衆議院議長・大蔵大臣・司法大臣・文部大臣を歴任する。男爵。号は牛州・江村など。

肥前国小城郡牛津（現在の佐賀県小城市（旧牛津町））の小城藩士である横尾只七・まちの次男として生まれた。幼名は猪吉郎と言った。13歳の時同僚の松田勇七の養子となる。松田家は藩士の中でも最下層級であり、副業である酒造業によって栄えていた。学問に優れていたため、東京（江戸より改称）昌平坂学問所に派遣されるが、間もなく同校が廃止されたために西周からフランス語を学んだ。西の推薦によって陸軍省に入った松田は明治5年（1872年）に兵学研究のためにフランス留学に赴いた。そこで彼は同じくフランスに留学中であった西園寺公望と出会う。松田と西園寺はこれからの日本には自由主義的な考えが必要だと言う事で意気投合して、将来の協力を誓い合った。松田は後にスイスのローザンヌでも学問を続けた。帰国後、松田は陸軍省を辞職した後に故郷へ戻って自由民権運動に参加するようになる。

明治12年（1879年）に長崎県（この頃、佐賀県は長崎県に編入されていた）の県議会議員となり、程なく議長となった。在任中に自由党に入り（後に九州改進党に移る）、西園寺公望とともに『東洋自由新聞』の創刊に参加した。だが、政府内には松田の才能を惜しむ意見があり、自由民権運動が衰退した明治20年（1887年）に時の司法大臣山田顕義の要請を受けて司法省に入って検事となり、翌年には第七高等学校の教頭として派遣された。

だが、明治23年（1890年）帝国議会が開かれると、第1回衆議院議員総選挙において地元佐賀から衆議院議員に選出された。当選後は立憲自由党に参加する。その頃の松田は民権派の中心人物と見られ、この年の9月には政府支持者による松田に対する暗殺未遂事件があったと言われている。翌年には衆議院予算委員長として第1次松方内閣が提出した予算案を廃案に追い込み、衆議院は解散に追い込まれた。ところがこれを受けて行われた第2回衆議院議員総選挙では、内務大臣品川弥二郎による選挙干渉事件に巻き込まれて落選。以後第6回衆議院議員総選挙（明治31年（1898年））まで、議席を回復する事は出来なかった。だが、この間党内の政策・事務に専念する一方で、伊藤博文と自由党の関係回復に努めた。伊藤の側近となっていた西園寺の仲介でその面識を得た松田は次第に伊藤からの信任を得るようになっていった。

明治31年、自由党と進歩党の合同によって憲政党が誕生すると、いわゆる「隈板内閣」が成立した。松田はこの内閣で大蔵大臣として入閣し、直後の第6回衆議院議員総選挙では、知名度を生かして衆議院議員に復帰した。だが、内閣そのものは憲政党の再分裂によって4ヶ月で崩壊する事となる。その後、憲政党（旧自由党系）に属した松田は星亨とともに、伊藤博文を新党首に擁立する運動を起こす。

明治33年（1900年）に伊藤を初代総裁として結党した立憲政友会において、松田は総務委員に任命されて党組織の編成にあたった。その功績により第4次伊藤内閣では文部大臣を務めた。

明治36年（1903年）に盟友・西園寺公望が第2代の政友会総裁となると、党務が不得手な西園寺に代わって政友会の党務を統括する立場に立った。明治37年（1904年）3月松田は衆議院議長に就任した（当時は現在と違い党籍離脱の慣習は無い）。折りしも日露戦争が始まると、松田は第1次桂内閣と議会との協力関係を確立する事に尽力した。

明治39年（1906年）1月、第1次西園寺内閣が成立すると、西園寺を助けるために衆議院議長を辞職して司法大臣として入閣する（後に大蔵大臣に転じる）。西園寺と松田、それに内務大臣となった原敬のトリオによって政友会と第1次西園寺内閣が運営される事となった。また、閣僚としても刑法改正や日露戦争後の財政再建問題等に取り組んだ。その後、第2次西園寺内閣では、再度司法大臣として入閣する事となった。だが、陸軍の2個師団増設要求をきっかけに西園寺内閣が倒れて第3次桂内閣が成立すると、政友会は憲政擁護運動へと動き出す。

松田は原敬とともに運動の中心的な役割を果たして、桂内閣を倒すと第1次山本内閣では政友会を代表する形で司法大臣として入閣した。ところが政友会では、政友会が大正天皇の詔勅を拒否した責任をとって西園寺が総裁の辞表を提出、後任に松田を推薦する。だが、憲政擁護運動の頃から体調を崩していた松田は大正2年（1913年）の終わり頃には病状が悪化して、司法大臣の職務にも差障りが生じるような状態となった。翌大正3年（1914年）に入ると、大正天皇から松田に対して見舞いの使者を出されて男爵が授けられたものの、遂に3月4日に病没したのである。

当時、河野広中・西郷従道と並んで「不得要領」（ぼんやりしている）と言われ、「狸親父」とも評されながらも、温厚篤実な人柄で人望を集めた。仕事上も西園寺や星亨、原敬と言った同志を前面に出して、自分は常に裏方に徹していた。その仕事ぶりをよく知っていた原は西園寺が松田を次の政友会総裁に推すのも当然な事だと考えており、逆に松田の急死によって、自分が後継総裁に就任する事になり驚きを隠せなかったという。
松田は長年の政治生活にも関らず清貧な生活を送り、スキャンダルとは無縁な存在であったが、逆に盟友の西園寺が呆れるほどの物惜しみをする事も少なくなかった。ある日松田が熱海温泉に別荘を建てたという話を聞いた記者が真相を確かめるべく取材に訪れると、庶民の住宅と間違えるほどの粗末な建物であった。そこにいた松田に事情を尋ねると、体調を崩して病院に診察に行ったところ、医師から温泉療養を勧められた。しかし温泉宿に泊まると費用がかかる。ならば、療養地に別荘を建てて温泉を引いて住んだ方が安く上がる、と言う具合なのであった。

衆議院議長

第11代: 1904 - 1906