国鉄キハ40000形気動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

キハ40000形は、昭和時代初期に日本国有鉄道の前身である鉄道省が開発したガソリン動車である。

[編集] 概要

本形式に先立って製造されたキハ41000形は、地方ローカル線の短距離区間に投入すべく、当時の車両メーカー各社が試行錯誤を繰り返した末にようやく実用的な車両が製作できるようになりつつあった地方鉄道向け気動車、特に日本初の120人乗り18m級大型ガソリンカーとなった、日本車輌製造設計による江若鉄道キニ4形などを参考として国鉄が開発した軽量構造のガソリン動車であり、使用実績も好調であった。

そこで、キハ41000形の車体長を4m短縮して11.5mとすることで車体をさらに軽量化して動力に余裕を持たせ、その余力で15t級貨車1両を牽引、あるいは勾配線区で運用させようとして開発されたのが本形式である。この方式は軽便鉄道などの地方鉄道で気動車が貨車を牽引していたのを取り入れたものであり、ハードウェア設計のみならず運用ノウハウまでも私鉄での先行事例に追従するものであった。

[編集] 車体

設計は1933年度発注のキハ41000形41036以降を基本とし、車体長を15.5mから11.5mに車体長を短縮、これに併せて定員も109名から75名に減少している。

窓配置は1D(1)8(1)D1（D：客用扉、(1)：戸袋窓）で、戸袋窓部をロングシートとしたセミクロスシート車であることも共通している。

また、屋根には雨樋が無く扉部のみ水切りが配されていることも共通で、前照灯は当時標準のLP42を幕板部前面中央に1灯装着していた。

竣工当時の本形式を印象づけた部品に、ラジエーターがある。

これはコンパクトな床下吊り下げ型ラジエーターをファンによって強制冷却するのではなく、巨大なラジエーターパネルを車体前後の前照灯直上に装着して、走行中の対向風によって自然冷却しようというもので、キハニ5000形の構想を一部継承するものでもあった。

これは一見、エンジンパワーを無駄にせずに済んで合理的に見える方式であるが、勾配線区や貨車牽引時には高発熱を伴う全負荷運転を強いられるにもかかわらず、速度が低く冷却効率が著しく低下する、という開発当初には想定されなかった深刻な問題^[1]があり、トラブルを多発する結果となった。このため、本形式については後にキハ41000形と同じ強制水冷式に変更され、また勾配線区や貨車牽引といった機関の連続全負荷運転を強いる用途での使用が事実上断念されている。

塗装は竣工時は客車や電車と同じくぶどう色に等級を示す赤帯で、その後塗装規定変更で気動車の標準色として制定された黄褐色と紺色のツートンカラーに変更された。更に、戦後キサハ04に編入された一部は昭和30年代からは新標準色となった上半クリーム色、下半朱色の2色塗り分けに変更された。

[編集] 主要機器

[編集] 機関・変速機・逆転機

車体と同様に、駆動系もキハ41000形のそれが基本とされた。

このため、機関台枠上に搭載されたエンジン（GMF13）および変速機については1933年度以降発注のキハ41000形と完全な互換性があり、検査時等には相互間で使い回しが可能な設計であった。

ただし、こちらはその使途の相違から逆転機に設計変更が加えられ、逆転機内の大歯車の歯数（43枚→50枚）変更で逆転機内での減速比が3.489から4.057に変更されて定格速度が低く抑えられた代わりに、低速域での牽引力が向上^[2]した。

[編集] 台車

逆転機の歯数比変更で台車に装架される逆転機のケーシング形状が変更され、この関係で動力台車についてはトランサム周りの構造を従来のものと変更せざるを得なくなった。それゆえ、キハ41000形のTR26（軸距1800mm）を基本に軸距を短縮したTR27（軸距1600mm：動力台車）およびTR28（軸距1600mm：付随台車）が新たに設計され、装着された。

[編集] 運用

1934年 3月に日本車輌製造本店（キハ40000~40014）と川崎車両（キハ40015~40029）で製造が開始され、一部は竣工直後に、当時部分電化工事中の山陽本線で区間列車として運用された。

その後は本来の投入各線に配置されたが、上述の通り冷却系に難があり、また十分な走行性能も得られなかったことから生産は早期に打ち切られ、上記30両（40000～40029）が製造されたにとどまった。

また、全体の半数に当たるキハ40007，40016～0029は戦時中に特別廃車となり、国鉄工場で標準軌に改造の上で中国大陸に送られ、華中鉄道で使用された。そのほかの車両は順次私鉄へ譲渡され、戦後は国鉄に5両が残されていたが、1949年に3両が廃車となり、残る2両（キハ40004・40005）も1950年に付随車であるキサハ40800形（キサハ40800・40801）に改造された。

[編集] 私鉄払い下げ車

以下の10両が戦後私鉄に払い下げられた。

キハ40000・40001→一畑電鉄立久恵線キハ3・2
キハ40003→常総筑波鉄道筑波線キハ311
キハ40008・40012・40013→宮崎交通チハ101~103
キハ40006→南部鉄道キハ40001
キハ40010→岩手開発鉄道キハ40001
キハ40011→南部鉄道キハ40002
キハ40014→北陸鉄道能登線キハ5151

[編集] 脚注

↑ この教訓があったにもかかわらず、戦後国鉄技術陣はキハ91系試作大出力気動車の試作時に3度自然放熱式のラジエーターを屋根に搭載するという愚を犯し、これの量産車に当たるキハ181系でも基本的に同じシステムを採用した。その結果これらはいずれも勾配線区でトラブル続出となり、補助送風機搭載などのオーバーヒート対策に追われる結果となった。
↑ 鉄道趣味者の間では、本形式が牽引力向上を図って2軸駆動方式としていたとする説が古くから存在するが、これは誤りである。

[編集] 関連事項

日本の気動車史

日本国有鉄道（鉄道省）の気動車
蒸気動車
キハ6400形
鉄道省制式気動車
キハニ5000形・キハニ36450形・キハ40000形・キハ41000形・キハ42000形・キハ43000形
機械式一般形気動車
キハ04形・キハ07形
電気式一般形気動車
キハ44000系
液体式一般形気動車
キハ44500形・キハ10系・キハ20系・キハ31形・キハ32形・キハ54形
機械式レールバス
キハ01系
客車改造液体式一般形気動車
キハ08系
液体式近郊形気動車
キハ45系・キハ66系・キハ40系II
液体式通勤形気動車
キハ35系・キハ37形・キハ38形
液体式準急形気動車
キハ55系・キハ60系
液体式急行形気動車
キハ56系・キハ57系・キハ58系・キハ65形・キハ90系
液体式特急形気動車
キハ80系・キハ181系・キハ183系・キハ185系
試作車／事業用車／試験車
キワ90形・キヤ92形・キヤ191系・キハ391系