主任の大臣
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主任の大臣(しゅにんのだいじん)とは、日本の国務大臣(内閣総理大臣を含む。)のうち、国政上、一定の職責・権限を有する大臣の呼称である。内閣法第3条第1項に規定される正式な呼称であり、具体的には、内閣総理大臣及び各省大臣がこれに該当する。
なお、似た用語に「主務大臣」があるが概念・定義上は別のものである。また、対義語として「無任所大臣」があるがこちらは法的に正式な用語でなく広義・狭義があるため主任の大臣の概念・範囲と完全に対応するものではない。
日本の行政関係の名称・用語にあっては、法令文中で「○○の許可」のように表記されていても実務では「○○許可」のように助詞を省くことが多いが、この「主任の大臣」は「の」を省略しないこととなっており、法令中でもそのように表記される(似た実例として「特別の機関」がある)。ただし、大日本帝国憲法下での用語は「主任大臣」であったため、当時制定された文語体・片仮名書式の法令文中(その一部改正法を含む。)では「主任大臣」であり、またその影響が残っていた日本国憲法施行直後の5年間に、口語体・平仮名書式の法令でありながら「主任大臣」とした例が4例ほど確認される。
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[編集] 概要
内閣法の規定では、内閣総理大臣は閣議を主宰し、総理以外の国務大臣は総理に対して閣議を求めることができるとされており、理論上は全大臣が閣議請議できるものと解釈されるが、一方で政府は実務上、閣議請議は「主任の大臣が分担管理する行政事務について」行ってきているとしており、日本国憲法施行後(2006年11月10日現在まで)に行政事務を分担管理しない主任の大臣以外の大臣が当該事務について閣議請議を行った例はないとされる(参議院議員藤末健三君提出防衛庁パンフレット「防衛庁を省に」に関する質問に対する答弁書)。
主任の大臣は、内閣法第3条第1項に「各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。」と規定されている。ここでの「各大臣」には内閣総理大臣も含まれ、このように行政事務を分担管理する職責があることから、その不在時には正式な臨時代理を立てることが必要とされ(同法第9条及び第10条)、それぞれ「内閣総理大臣臨時代理」、「総務大臣臨時代理」等の職名により他の大臣が職務を行う。一方、主任の大臣以外の大臣は、同法第3条第2項に「前項の規定は、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げるものではない。」と規定されており、政策実施へ一定の関与はするものの「行政事務の分担管理」を最終責任者としては担っていないとみなされるため、不在時の臨時代理発令は法令上規定されておらず、慣例・内規等により「事務代理」(内閣総理大臣が自ら代理する場合のみ「事務取扱」)という職名(「国家公安委員会委員長事務代理」など)により他の大臣が職務を行うという違いがある。
[編集] 設置
前述の内閣法は、主任の大臣の制度と権限等を定めた総論的なものであり、どの大臣が主任の大臣とされるのかという各論的な条文は内閣法でなく内閣法制局設置法、安全保障会議設置法、内閣府設置法、国家行政組織法(各省の設置法ではない)等に規定される。ただし、内閣官房については、同列的な組織とされる内閣法制局とは異なり単独の法律(内閣官房設置法)がなく、内閣法自体において組織の設置が規定されているため、内閣官房の主任の大臣を内閣総理大臣とする旨の条文は内閣法の本則の最終条項である第23条に規定されている。また、後述する「内閣に設置される○○本部」の主任の大臣に関する条文は、当該本部を設置する根拠となる特定の法律において規定されることとなっている。
[編集] 職責
主任の大臣には、自らの所掌する省庁に関連のある法律及び政令の公布の際その末尾に連署する権限があり、また、所管する省庁の政策実施への関与のみならず人事・経理・組織運営等にも全般的な職責を有している。一方、主任の大臣でない大臣(2006年の例では国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣等)は、法律・政令への連署をする権限がなく、また、政策への関与権限はあるものの人事・経理・組織運営については限定的あるいはほとんど関与できないなど、「国家行政組織の責任者」という面では主任の大臣よりも狭い権限しか認められていない。つまり、その府省の組織と政策全般の責任者が「主任の大臣たる大臣」であり、それらの責任の一部を(上役である)主任の大臣に担ってもらっているやや格下的な大臣が「主任の大臣以外の大臣」ということになる。たとえば、内閣官房長官は、内閣総理大臣臨時代理就任第一順位の予定者として、また政府のスポークスマンとして主任の大臣である各省大臣に匹敵あるいはこれを凌駕する職責にあるとも言えるが、各省大臣が素の国務大臣としては内閣総理大臣の部下であるものの行政組織の責任者としてはいわゆる一国一城の主であるのに対し、内閣官房長官は素の国務大臣としても行政組織の責任者としても総理の部下であるため、主任の大臣とはされていない。
なお、主任の大臣以外の大臣であっても、前述の「○○大臣臨時代理」を命ぜられた場合は、その期間中は主任の大臣として法律・政令に連署をすることとなる。
[編集] 主任の大臣の実例
左は主任の大臣を、右はどの機関の主任の大臣であるかを表す。2006年12月現在。
- 内閣総理大臣 - 内閣官房、内閣法制局、安全保障会議、内閣府
- 総務大臣 - 総務省
- 法務大臣 - 法務省
- 外務大臣 - 外務省
- 財務大臣 - 財務省
- 文部科学大臣 - 文部科学省
- 厚生労働大臣 - 厚生労働省
- 農林水産大臣 - 農林水産省
- 経済産業大臣 - 経済産業省
- 国土交通大臣 - 国土交通省
- 環境大臣 - 環境省
このほか、特定の法律に基づいて内閣に「本部」のような組織を設置する場合(例:中央省庁等改革推進本部、司法制度改革本部、地球温暖化対策推進本部など)にも主任の大臣の規定が置かれ、内閣総理大臣はそれらの本部長となると同時に主任の大臣となる。