Privacy Policy Cookie Policy Terms and Conditions ローエングリン - Wikipedia

ローエングリン

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Disambiguationこの項目ではオペラ作品のローエングリンについて説明しています。競走馬のローエングリンについてはローエングリン (競走馬)を、その他のローエングリンについてはローエングリン (曖昧さ回避)をご覧ください。
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ローエングリンLohengrin)は、リヒャルト・ワーグナーオペラ。台本も作曲者による。10世紀前半のアントワープを舞台とする。以降に作曲された楽劇(Musikdrama)に対し、ロマンティック・オペラと呼ばれる最後の作品。バイエルンルートヴィヒ2世が好んだことで知られる。第1幕、第3幕への各前奏曲や『婚礼の合唱』(結婚行進曲)など、独立して演奏される曲も人気の高いものが多い。

初演は1850年8月28日、ヴァイマル宮廷劇場。フランツ・リストの指揮による。演奏時間は約3時間40分。
日本初演は1942年11月23日、東京歌舞伎座での藤原歌劇団の公演。東京交響楽団(現在の東京フィルハーモニー交響楽団。同名の団体とは別)の管弦楽、マンフレート・グルリットの指揮、藤原義江のローエングリンによる。堀内敬三訳の日本語訳詞で歌われ、戦時中の時間制限(3時間を越える上演は禁止されていた)のため内容を縮小しての上演だった。


目次

[編集] 主な登場人物

  • ローエングリンテノール)白鳥の騎士。名前と氏素性は秘密だが、第三幕で明かされる。
  • エルザ・フォン・ブラバントソプラノ)ブラバント公国の皇女。
  • フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵バリトン)ブラバント公国の実権をねらう。
  • オルトルートメゾソプラノ)フリードリヒの妻。魔法使い。
  • ハインリヒ・デア・フォーグラーバス)ザクセン王ハインリヒ1世
  • ハインリヒ王の伝令(バス)
  • ゴットフリート(歌わない)エルザの弟。公国の世継ぎ。
  • ブラバントの貴族4(テノール2、バス2)
  • 小姓4(ソプラノ2、アルト2)


[編集] 構成とあらすじ


注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。


[編集] 第1幕

第1場 前奏曲。アントワープのシェルデ河畔。ハインリヒ王がハンガリーとの戦いのために兵を募る。そこへフリードリヒが現れ、ブラバント公国の世継ぎゴットフリートが行方不明になり、ゴットフリートの姉エルザに弟殺しの疑いがあるとして王に訴える。王はエルザを呼び出し、釈明を促す。

第2場 エルザは夢見心地の様子で、神に遣わされた騎士が自分の潔白を証明するために戦うと話す。王の伝令が騎士を呼び出す。すると、白鳥が曳く小舟に乗って騎士が登場する。

第3場 騎士は、エルザの夫となり、領地を守ること、そのために、自分の身元や名前を決して尋ねてはならない、と告げる。承諾するエルザ。「神明裁判」によって、フリードリヒと騎士は決闘し、騎士が勝利する。フリードリヒは命を助けられる。70分。

[編集] 第2幕

第1場 夜。アントワープ城内。庭の物陰で、フリードリヒは妻オルトルートに、決闘に敗れた自分が追放処分になること、エルザに弟殺しの罪を着せるようけしかけたのはオルトルートであることをもらして悪態をつく。オルトルートは、騎士が決闘に勝ったのは魔法を使ったためであり、名前と素性をいえと迫られるか、あるいは体の一部でも切り取れば魔法が解けるという。フリードリヒは気を取り直し、二人による『復讐の二重唱』となる。

第2場 バルコニーに現れたエルザに、オルトルートは嘆いて同情の念を誘い、さらに騎士への疑念を吹き込む。オルトルートは、キリスト教以前の神々として、のちの楽劇『ニーベルングの指環』のヴォータンの名を呼ぶ。

第3場 夜が明け、王の伝令がフリードリヒの追放、騎士がエルザと結婚してブラバントの守護者となることを告げる。4人の貴族が東方出征への不満をもらしているところへフリードリヒが現れ、企てを話す。

第4場 婚礼の式のために礼拝堂へ向かうエルザ。『エルザの大聖堂への行進』の音楽。突然オルトルートが行列を阻み、エルザを罵り、素性の知れない騎士を非難する。

第5場 ハインリヒ王と騎士がやってくるところ、フリードリヒも群衆に向かって騎士が魔法を使っていると告発し、名前と素性を明かせと迫る。動揺するエルザ。騎士はフリードリヒらをエルザから引き離し、「自分に答えを要求できるのはエルザただひとり」だと答える。二人は礼拝堂へと入っていく。80分。

[編集] 第3幕

第1場 華々しい前奏曲のあと、『婚礼の合唱』(いわゆる「ワーグナーの結婚行進曲」)。

第2場 エルザと騎士は初めて二人きりになる。騎士はエルザに疑いの心を持たないように説く。しかし、エルザは次第に不安が募り、とうとう騎士の素性を問いつめる。困惑する騎士。そこへフリードリヒが仲間の貴族を率いて乱入する。騎士はフリードリヒを一撃で倒すと、エルザを着替えさせるよう命じる。

第3場 第1幕と同じシェルデ河畔。ハインリヒ王の前で、騎士は、自分はモンサルヴァート城で聖杯を守護する王パルツィヴァルの息子ローエングリンだと名乗る。白鳥が小舟を曳いて迎えにやってくる。オルトルートはあざ笑うが、ローエングリンが祈りを捧げると、白鳥は人間に姿を変える。白鳥は、オルトルートの魔法によって行方不明にされていたゴットフリートだった。叫び声を上げて倒れるオルトルート。ローエングリンが去り、エルザもまたゴットフリートの腕の中で息絶える。70分。

[編集] 作曲及び初演の経緯

  • ワーグナーの自伝『わが生涯』によれば、1839年から1842年にかけてワーグナーはパリに滞在し、クリスティアン・ルーカスの論文『ワルトブルクの歌合戦について』に触れて歌劇『タンホイザー』の着想を得る。このとき、論文の続きにローエングリンにまつわる叙事詩についての説明があり、これを読んだことが発端とされる。
  • 1843年、ヨハン・ヴィルヘルム・ヴォルフが編纂した『オランダ伝説集』が出版される。このなかにコンラート・フォン・ヴュルツブルクによる『白鳥の騎士』が含まれており、ワーグナーはこれを読んだと考えられている。また、ルートヴィヒ・ベヒシュタインのメルヘン集に「白鳥にされた子供たちの物語」があり、このモチーフもワーグナーは利用することになる。
  • 1845年6月、マリーエンバートに温泉治療のために滞在中、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩『ローエングリン』や同『ティトレル』、ヨーゼフ・ゲレスの序文の付いた作者不明のローエングリンの叙事詩を読んで歌劇の構想を固める。同時に、これらの知識は後の楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』や『パルジファル』の基盤ともなった。また、ヤーコプ・グリム『慣習法令集』や同『ドイツ伝説集』から、オルトルート像を創造したとされる。
  • 1845年8月、台本の散文スケッチ完成。このときのスケッチには、第3幕でゴットフリートの姿に戻る白鳥の歌も書かれていたが、後にこれは取り消される。
  • 1845年11月、前作『タンホイザー』のドレスデン初演。この直後に『ローエングリン』台本も完成する。同月、ワーグナーは友人たちを集めて『ローエングリン』の台本朗読会を開く。このとき同席した友人には、建築家のゴットフリート・ゼンパー、ピアニストのフェルディナント・ヒラー、作曲家のロベルト・シューマンらがいた。朗読は友人たちに感銘を与え、シューマンは、この台本が従来の番号付きオペラでは収まらないことを理解したという。
  • 1846年、春から作曲にかかる。3ヶ月でスケッチが完成し、9月からオーケストレーションにとりかかる。しかし、ドレスデン歌劇場の仕事のために中断を余儀なくされる。
  • 1847年、8月に全3幕のオーケストラ・スケッチが完成。
  • 1848年、1月から4月にかけて総譜を浄書。
  • 1849年、ゼンパーや無政府主義者ミハイル・バクーニンらとともにドレスデンの5月蜂起に参加。しかし、革命運動は失敗し、指名手配されたワーグナーはリストの助けを得てスイスチューリヒに亡命する。
  • 1850年、リストの尽力によって、『ローエングリン』がヴァイマルで初演の運びとなる。ワーグナーはなんとか初演を見たいと、潜入を画策するが、リストに制止されて断念。この前後、『ローエングリン』の初演をめぐって、ワーグナーとリストは頻繁に手紙を交わしている。
  • 1850年8月、ヴァイマル初演。

[編集] オペラ中のよく知られる曲

[編集] 第1幕への前奏曲

イ長調。8分割されたヴァイオリンが奏する縹渺とした和音から始まり、聖杯を象徴する旋律が奏される。旋律は柔らかな管楽器に受け継がれ、次第に音程が低く、厚くなっていく。やがて啓示的なフォルティッシモの爆発に高まるが、再びもとの天空に戻っていくかのように消えていく。1853年にワーグナー自身が書いた解説によれば、この前奏曲は、天使の群れによって運ばれてきた聖杯が、まばゆいばかりの高みから降臨してくる印象である。

この前奏曲は、オペラ中でもとくに名高く、独立して演奏されることも多い。1951年にリストが発表した論文には「虹色の雲に反射する紺碧の波」と書かれている。1860年にパリでこの前奏曲を聴いたエクトル・ベルリオーズは「どの観点からしても驚嘆に値する。」と述べた。また、1871年にはピョートル・チャイコフスキーも「おそらくワーグナーの手による最も成功した、かつ最も霊感に満ちた作品」としている。下って1918年にはトーマス・マンが「存在するすべての音楽のうち、最もロマンティックな恩寵にあふれた前奏曲」だと述べている。マンは1949年にもこの前奏曲について触れ、「青と銀で輝く」と表現した。これらのうち、リストやマンが「青色」について言及している点は、イ長調の調性と色彩のイメージとの関連で興味深い。

[編集] 『エルザの大聖堂への行進』

木管の祈りにも似た清楚な旋律が次第に高揚していく。吹奏楽編曲による演奏がよく知られる。原曲は合唱が加わり、クライマックスでオルトルートの邪魔が入るが、演奏会では無事に明るく終わる。

[編集] 第3幕への前奏曲

三部形式。壮麗で演奏効果の高いこの曲は、『ヴァルキューレの騎行』などとともにワーグナーの代表的なオーケストラ・ピースとして独立してよく演奏される。またこの曲も吹奏楽編曲による演奏がよく行われる。演奏会用の場合、原曲の最後に「禁問の動機」が付け加えて奏されることも多く、あるいは『婚礼の合唱』が続けられることもある。

[編集] 『婚礼の合唱』

三部形式。いわゆる「ワーグナーの結婚行進曲」として、フェリックス・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』(『真夏の夜の夢』から)と並んで名高い。しかし、オルガンなどに編曲されるのが一般的であるため、原曲が管弦楽付きの合唱で歌われることはあまり知られていない。

[編集] 結末について

最後には主な登場人物のほとんどが去り、あるいは死んでしまうという悲劇的な展開は、当初から議論があった。とくに、ローエングリンが去り、エルザが死ぬという結末については、1845年11月の友人たちを集めた朗読会でもすでに異論が出され、初演後の1851年にもアードルフ・シュタールによって批判を受けた。ワーグナーもこの点には葛藤があったらしく、批判を受けて、ローエングリンが去らずにエルザと結ばれる「ハッピーエンド」や、エルザもローエングリンとともに去る、といった案を検討したとされる。しかし、結局どの案も採用には至らず、批判へのリストの反論もあって、結末が変わることはなかった。このことについて、のちにワーグナーはギリシア神話の「セメレゼウス」を引き合いに出して釈明している。ギリシア神話で人間の女であるセメレは、恋人ゼウスに対し神としての真の姿を見たいと願ったために、その願いを叶えたゼウスの雷に打たれて焼け死んでしまうのである。

[編集] ワーグナーとリスト

リストは1848年からヴァイマル宮廷楽団の楽長の座にあった。ワーグナーより2歳年長のリストは、ワーグナーの音楽の紹介に努め、1849年5月に『タンホイザー』をヴァイマルで上演していた。同月にドレスデンの革命蜂起が起こるが失敗し、これに荷担していたワーグナーの逮捕状が出ると、リストはワーグナーのスイスへの出国に手を貸し、チューリヒでの亡命生活にも援助を惜しまなかった。

リストがヴァイマルで『ローエングリン』を初演指揮した直後、1850年9月2日付けのワーグナー宛の手紙には、「君のローエングリンは始めから終わりまで崇高な作品だ。少なくないところで私は心底から涙を流したほどだ。」と書いている。

二人の交友関係は、リストの弟子であったハンス・フォン・ビューローと結婚した娘コジマが、1870年、不倫関係の末にビューローと別れてワーグナーと結婚したことでいったん絶縁状態となるが、1872年にはワーグナー夫妻の熱心な招きに応じたリストがバイロイトを訪問し、和解している。

[編集] 革命運動とワーグナー

『ローエングリン』の作曲当時、ワーグナーは革命運動に身を投じている。その理由には大きく二つ考えられている。ひとつは自作『さまよえるオランダ人』や『タンホイザー』がおざなりにしか受け容れられず、自分の音楽が理解されないことへの不満、もうひとつはドレスデン歌劇場の仕事への不満からくる当時の体制への批判である。しかし、ワーグナーには政治的な革命思想はなく、のちにルートヴィヒ2世の庇護を受けたことからも明らかなように、むしろ王権の権威などについては積極的な支持者であった。このため、革命運動のさなかに、主導者たちと袂を分かって逃亡したともされる。このような経験がローエングリンの姿に投影されていると考えられている。


[編集] ローエングリンに魅せられた人物

『ローエングリン』は、ワーグナーのオペラの中でも人気が高く、もっとも演奏機会の多い作品となっている。

1858年にミュンヘンで上演された『ローエングリン』を観て魅了されたのが、当時15歳だったバイエルン王国の皇太子ルートヴィヒ2世である。ルートヴィヒ2世は、1864年に王位に就くと、ワーグナーを招聘し、ワーグナーの負債のすべてを肩代わりするとともに、高額の援助金を支給した。ルートヴィヒ2世は、リンダーホーフ城内に『タンホイザー』ゆかりの「ヴェヌスの洞窟」を作らせ、そこで楽士にオペラのさわりを演奏させ、自身はローエングリンの扮装をして船遊びを楽しんだ。また、多額の国費を投じて建設したノイシュヴァンシュタイン城の名は、「新白鳥城」である。

アドルフ・ヒトラーもまた『ローエングリン』の熱狂的な愛好者だった。ヒトラー率いるナチス・ドイツは、ワーグナーの音楽を最大限に利用したが、とくに『ローエングリン』の第3幕でハインリヒ王による「ドイツの国土のためにドイツの剣をとれ!」との演説は、ドイツとゲルマン民族の国威発揚のためにあらゆる機会に利用された。このことがあってか、チャップリンによる映画作品、『独裁者』において主人公が地球儀をもて遊ぶ場面において第1幕への前奏曲が使われている。

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