ミルチャ・エリアーデ
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ミルチャ・エリアーデ(Mircea Eliade,1907年3月9日 ブカレスト - 1986年4月22日 イリノイ州シカゴ)は、ルーマニアの宗教学者・宗教史家、作家(主に幻想小説および自伝的小説で有名)である。彼は8つの言語(ルーマニア語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、英語、ヘブライ語、ペルシア語、サンスクリット語)を流暢に使いこなした。
1928年、ブカレスト大学で彼はエミール・シオランやウジェーヌ・イヨネスコに出会い、3人は途中短い中断はあるものの、生涯の友人となった。1970年代以降、彼は自分が戦前鉄衛団(Garda de Fier、極右政治組織)に対して共感を抱いていたことを、自己批判してきた。しかしながら、彼の政治的見解は、インドのカルカッタ大学で長期間研究を続けたことに始まる彼の学問的業績には、何ら大きな影響を及ぼしてはいない。
カシムバザールのマハラジャがヨーロッパの研究者のために資金援助しているのを知ったエリアーデは、マハラジャの奨学金に応募し、カルカッタで4年間の研究を行うことを認められた。1928年、彼はサンスクリット語と哲学をスレンドラナート・ダスグプタ(インドの哲学者、1885年 - 1952年)の下で研究するために、カルカッタまで船に乗った。ダスグプタは、ケンブリッジ大学を卒業したカルカッタ大学のベンガル人教授であり、『インド哲学史』(全5巻)の著者であった。エリアーデはダスグプタ教授の娘マイトレイと恋に落ち、結婚を望んだが、ダスグプタに反対されこれは実現しなかった(この体験をもとに後に小説『マイトレイ』が書かれた)。
第二次世界大戦後、ドイツの作家のエルンスト・ユンガーと『アンタイオス』誌を共同編集・発行している。
宗教の歴史に関する業績では、彼はシャーマニズム、ヨーガ、宇宙論的神話に関する著作においてもっとも評価されている。
彼の思想は、ルドルフ・オットー、ヘラルドゥス・ファン・デル・レーウ、ナエ・イオネスク、伝統主義派(Traditionalist School)の業績に部分的な影響を受けている。ミルチャ・エリアーデは、ヨアン・ペトル・クリアーヌなど多くの学者たちに決定的な影響を与えてきた。ルーマニアでは、宗教歴史学の分野におけるエリアーデの遺産が、雑誌『アルカェウス』("Archaeus")[1]"(1997年創刊)に反映されている。
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[編集] 主な学問的業績
- La Yoga: Immortalité et Liberté, Paris: Payot, 1954(邦訳:堀一郎監修、立川武蔵訳、『エリアーデ著作集 第9巻:ヨーガ 1』、ISBN 4796700846;『エリアーデ著作集 第10巻:ヨーガ 2』、ISBN 4-7967-0087-0、せりか書房、1975年)
- Das Heilige und das Profane, Reinbeck: Rowohlt Taschenbuch, 1967(邦訳:風間敏夫訳、『聖と俗:宗教的なる物の本質について』、法政大学出版局、1969年、ISBN 4588000144)
- Histoire des croyances et des idees religieuses. (邦訳:荒木美智雄ほか訳、『世界宗教史』(全三巻)、筑摩書房、1991年、ISBN 4480340017)
- Le Mythe de l'éternel retour, Paris: Gallimard, 1949(邦訳:堀一郎訳、『永遠回帰の神話:祖形と反復』、未来社、1963年、ISBN 4624100026)
- La Chamanisme et les Techniques archaïques de l'extase, Paris: Payot, 1951(邦訳:堀一郎訳、『シャーマニズム:古代的エクスタシー技術』、冬樹社、1974年;『シャーマニズム 上・下』、ちくま学芸文庫、2004年、上:ISBN 4480088377、下:ISBN 4480088385)
- Primitives to Zen: A Thematic Sourcebook on the History of Religions, London, New York; Harper & Row, 1967 (『未開人から禅まで:宗教史に関する主題別原典史料集』).
なお、シカゴ大学神学部宗教史講座では、エリアーデのこの分野への広範な貢献を讃え、彼の名を冠した「ミルチャ・エリアーデ記念宗教史教授」 (Mircea Eliade Distinguished Service Professor of the History of Religions) の職を設置している。
[編集] 主な小説
- Maitreyi, Ed. Cultura Naţională, 1933(邦訳:住谷春也訳、『マイトレイ』、作品社、1999年、ISBN 4878933240)
- Pe strada Mântuleasa, Paris: Caietele Inorgului, 1968(邦訳:直野敦訳、『ムントゥリャサ通りで』、法政大学出版局、1977年、ISBN 4588490249)
[編集] その他
- 石井忠厚訳『エリアーデ日記-旅と思索と人-(上)』未來社、1984年、ISBN 4624100271
- 同上『同上(下)』未來社、1986年、ISBN 462410031X
[編集] 関連項目
- ルーマニアの文学
- ファンタジー作家の一覧
- 宗教哲学
- シカゴ学派
- エルンスト・ユンガー
- エミール・シオラン