PHS
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PHS(ピーエイチエス、Personal Handy-phone System)は、移動先で使用できる、携帯可能な小型電話機。また、同電話機による移動体通信サービスの事を言う。
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[編集] 概説
屋外では事業者の基地局に接続し移動先で電話として利用できる。そして、企業や家庭の内線ではコードレス電話の子機としても利用可能となっている。ただし、子機を親機やシステムに登録する必要がある。
開発当初からデジタル方式を採用し、第二世代携帯電話と無線アクセスとの間の中間的な性能を持つ。電波での無線通信を利用する。マルチチャネルアクセス無線技術の一種でもある。
PHSの端末(電話機)は、「ピッチ」と呼ばれることもある。当初より長らくストレートタイプが多かったが、2000年以降は携帯電話端末のように大画面化に有利な折りたたみ式が主流になって来ている。
日本では、携帯電話と同様に1999年11月から自動車・オートバイを運転中の使用が法律で禁止された(2004年11月から無条件・罰則対象となった)ため、運転者は停車中を除いては通話したり、電話機の表示画面を見てはならない(ハンズフリー通話等は対象外)。運転中に通話やボタン操作等を行うことは非常に危険である。また、自転車に乗ったり歩行中の際も、法律で禁止はされていないが、通話やメールに夢中になりすぎて交通事故に遭う事例も多く、注意が必要である。
また、2005年5月に、携帯電話不正利用防止法が施行され、携帯電話・PHSについて契約者の本人性確認の義務付けや、不正な譲渡の禁止等がなされた。
[編集] 主な特長
PHSの主な特長を列挙。
- 屋外でPHS事業者の基地局と接続し、移動体通信として利用。
- 音声の符号化方式として32kbpsのADPCMを採用し、無線条件が良好であれば固定電話並みの通話品質を提供できる。
- 家庭用のデジタルコードレス電話として、親機経由で固定電話に接続。また、事業所向けの内線電話として、自営基地局システムを設置して使用。
- いくつかの無線チャネルを束ねて無線アクセスに利用。第三世代携帯電話と比較して、低速ながらも安価で大容量の通信が可能。
- PHSの国際ローミング。日本国外では、GSMとPHSのデュアルモード通信端末も存在する。
- 端末同士の直接通話(トランシーバー、特定小電力無線の特定小電力10mW型の同等な利用法)が可能。
- (日本国外)需要の少ない地域においての公衆交換電話網の代替。(PHS WLL/FWA)
- デジタルツールとしての多機能化(ケータイ、携帯機器)
[編集] 日本の電話サービス
日本国内では、サービス上の料金制度として、月額基本料に無料通話分を含んだ、通話の状況に合わせたパック料金がある。なお、料金前払いのプリペイド式PHSも過去にはあった(「プチペイド」)。
日本の場合、特殊簡易公衆電話(いわゆるピンク電話)、および新幹線公衆電話からPHSに発信はできない。また、電報・コレクトコール・ダイヤルQ2・ナビダイヤル・テレドーム等は利用不可。また、フリーダイヤル等は掛ける先(着信)側での契約がされてないと掛けられない。
[編集] 音声定額制
2005年5月1日、ウィルコムにより、ウィルコム・ウィルコム沖縄のPHS同士の音声通話定額サービス「ウィルコム定額プラン」が開始された。このプランの加入者からウィルコム・ウィルコム沖縄のPHSに発信した場合(後にすべての070から始まる番号への発信に変更)は、通話ごとに最初の2時間45分までが無料となる。1回の通話がこの制限時間を超えた場合は、超過時間分が30秒10.5円の従量課金となるが、制限時間内にいったん切断してかけ直すことで、その時点から再び2時間45分までが無料となるため、事実上基本料金だけで話し放題の定額制として利用できる。
[編集] 日本の事業者
日本でのPHS事業は、2006年7月現在、以下の3グループによって行われていた。
- NTTドコモ(ドコモPHS): 新規契約受付停止。2007年第3四半期を目途にサービス自体を終了する予定。[1]
- アステルグループ : ほとんどの地方で撤退済み。
- 東北インテリジェント通信 (東北地方): 新潟県で119番に繋がらず、他県でも2005年11月より順次119番への接続が停止される(110/118番は可能)。2006年12月20日サービス終了予定。
- ケイ・オプティコム(関西地方) : データ通信のみ(eo64エア)
- エネルギア・コミュニケーションズ (中国地方): データ通信のみ(MEGA EGG 64)
- ウィルコム(ウィルコム・ウィルコム沖縄)
日本では、PHSや携帯電話の事業者は、当初地域ごとに別の会社でなければならなかった。その後DDIポケット(現ウィルコム)は、全国地域会社を統合している。詳細はウィルコムを参照。
[編集] 日本発のPHS
当初の開発名称を第二世代デジタルコードレス電話と言い、第三者が受信機で通話の内容を聞くことが難しいデジタル方式にし、企業や家庭で内線コードレス電話の子機として、屋外では簡易な基地局により公衆交換電話網に接続するという発想で日本で規格が作られた。
開発当初は Personal Handy Phone の略でPHPと呼ばれていたが、松下電器産業の関連会社・PHP研究所と紛らわしいことから、1994年4月22日にPHSに呼称を変更すると発表された。松下電器産業は、グループ傘下にPHP(=PHS)端末の開発メーカーも抱えていた。
PHPからPHSに呼称が変更された際にPHSを「ピーエイチエス」または簡略化して「フォス」と発声するという発表があったが、「ピーエイチエス」が事業者や報道関係でも広く知れ渡る一方で「フォス」は殆ど定着せず、1995年7月1日の本サービス開始時から程なくして「フォス」は消えることとなる。その後、若者を中心に「ピッチ」という呼び方が広がり始め、その影響を受けて1997年以降には事業者もCMやパンフレットなどで「ピッチ」という言葉を時々使うようになった。
また、当初は本来の用途からすると不適切な「簡易型携帯電話」が法令上の呼称であったが、1998年11月に、郵政省(当時)により「PHS」に改められた。
[編集] 国際展開
PHSは携帯電話と比べ、特に基地局が設置コストも含め大幅に安価なこと(日本の場合、1基地局につき、PHSは200万円程度、携帯電話は1億円超)、ユーザにとっても端末や料金の面で(日本と比較して)まだ大幅に安価なこと、更に競合関係にあると一般的には考えられている第三世代携帯電話(3G,IMT-2000)自体の世界的展開がまだまだ不透明で模索中であることなどもPHSのアドバンテージと考えられている。
そのため1990年代後半から、中国のほか台湾、タイ、ベトナムなどアジアの中進国各国でも一定の普及を見ている。(全世界では2006年10月現在、約1億台[2])更には全世界の中進国各国でもPHS事業立ち上げやフィールド試験が行われるなどの国際展開も見せている。現在導入又は検討中の国地域は三十数ヶ国に及ぶと言う(インド、バングラデシュ、ナイジェリア、マリ、タンザニア、ホンジュラスなど)。
また、一部の中進国・発展途上国の電話回線が導入されてない地域において、固定電話の代替としてPHSが普及したり、また無線による固定電話回線(PHS FWA、TDD-TDMAを採用)として導入されたりしている。
2003年4月にはDDIポケット(現ウィルコム)と台湾のPHS事業者「大衆電信」との間で相互ローミングサービスが開始された。後に、タイの「Asia Wireless Communication」との間でも開始された。
中国ではPHSが「小霊通」の名で一時は爆発的な普及を見せ(2006年8月末現在で9300万台)現在も拡大を続けている。安価な音声端末がほとんどであり、また固定電話会社の「中国電信」が主要PHS事業者としてPHSを固定電話の延長として展開している。
台湾ではGSMとのデュアル機を含め数多くの新型の音声端末が発売されている。日本には台湾での発売の後に音声端末の機種が日本向けとして言わば逆輸入されるなどの逆転現象も見られる。
これら「小霊通特需」を始めとするアジア展開のおかげで、国内PHS関連メーカーにおいても、PHSのベースバンドチップや基地局等、更にはPHS音声端末の製造開発までも強く底支えする事ができた。
また、PHS相当の移動体通信規格としては、米国、韓国などではPCS (Personal Communications Service) 、ヨーロッパではDECTが主流である。
[編集] 技術
携帯電話と比較した場合、以下のような特徴がある。
- 基地局の送信出力が携帯電話で最大25Wに対し、PHSは最大500mWと小さい。そのため、基地局を多数設置して、利用可能なエリアを確保する方法が取られる。
- 端末の出力も携帯電話で最大800mWに対し、PHSはバースト内平均電力で80mW(送信平均電力は10mW)。そのため、基地局側に高い利得のアンテナが要求される一方で、端末側の消費電力は抑えられている。そのため、待受け・通信(通話)時ともに電池はより長持ちするとされる(もっとも、電池容量の差と、高機能化による消費電力の増加などがあり一概には言えない。)
- 1995年のサービス開始当時において、当初主流の第二世代(PDC)方式との比較では、音質が良い、データの転送速度が速いとされた。
音声の符号化方式には32kbpsのADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)を使用する。周波数は1.9GHz帯を使用する。通話用キャリアは、同帯域内においてFDMである。1つの通話用キャリア上に、複信・多元接続方式としてTDD-TDMAを採用する。1フレームを5msとし、これを625μsのスロット8つに分割する。TDDとして、前半4つのスロットを下り(送信、基地局→端末)、後半4つを上り(受信、端末→基地局)、として独立して使用するので、多重数は4となる。また、8スロットの内2スロットは制御スロットとして使用するので、1つの周波数(1つの通話用キャリア)で同時に使用できるのは3通話となる。1通話スロットあたりのトラフィックチャネル(通話チャネル)のデータレートは32kbpsであるので、64kbpsのデータ通信を行う場合には、送受信スロットを2つずつ束ねて使用する。
PHSを利用したデータ通信に関しては、PIAFS仕様により、PIAFS1.0(全PHS事業者が採用)、PIAFS2.0(NTTドコモが採用)、PIAFS2.1(ウィルコムが採用)となっている。PIAFSは基本的に回線交換方式であり、「AIR-EDGE」のパケット通信についてはPIAFS策定事項に含まれていないが、2004年に国際展開を目的として同社がライセンス契約による仕様公開を行った。
[編集] 利用者端末
電話機は携帯電話と異なり、次の3つの基本動作モードがある。通常PHSという場合は「公衆モード」を指す。なお、最近発売された端末には「自営モード」「トランシーバーモード」の動作モードの一部または全部を持たない物も存在する。
- 公衆モード…PHS事業者の基地局を直接接続するモード。
- 自営モード…コードレス電話の子機として使用するモード。企業における内線電話システムとして多数の自営基地局を設置して使用する場合が多い。
- トランシーバーモード…予め登録された2台の電話機同士で基地局や親機を経由せずに直接通信のできるもの。いわゆるトランシーバーのように送話と受話を交互に行う単信方式ではなく、通常の電話と同じく、同時に送受話できる(復信方式)。
端末によっては、上記3モードのうちの一部または全部を同時に待ち受けできる物もある。
また、屋内で電波が微弱となった場合に、中継用の簡易型基地局(いわゆるホームアンテナなど)を窓際等に設置して利用することもある。中継用基地局は、端末からの無線接続を受け入れると同時に、公衆用基地局に対して無線接続を行い、電波の中継(再生中継方式)を行う。
[編集] 事業者ネットワーク
公衆モードのネットワークの基盤には、NTT東日本・NTT西日本のISDNを基盤にしている活用型(依存型)事業者と、独自に構築した接続型(独自型)事業者の2つがある。アステル北海道・東北・北陸・中部・四国が接続型であったが、その他の事業者は全て活用型である。
- ※なお、旧アステル関西・中国各地方の定額制PHSデータ通信サービス「eo64エア」・「MEGA EGG」はいずれも接続型により現在もサービス中である。アステル音声サービスの方は活用型によりサービスしていたがいずれもサービスを停止した。
活用型PHSではNTT地域会社の加入者電話交換機にPHS接続装置(PSM:PHS Subscriber Module)を接続し、PSMと基地局(CS)の間の通信にはISDN回線が使用される。乱暴な言い方をすれば、既存のISDN網の末端にPSMやCS等の設備を取り付けてシステムを構築したものである。自前のネットワークを構築するよりも短期間でサービスエリアを広げることが可能で初期の投資も抑えることができるが、回線やPSMの使用料が毎月発生する。
- ※なお、その後全国的にNTTのISDN交換機へのPSM機能の統合がなされ、PSMの廃棄費用と引き替えにPSM使用料は無くなった。
接続型PHSは活用型PHSとは異なり、ISDN網ではなく地域系通信事業者の網を経由してNTTの市外系交換機(IC)または加入者交換機(GC)に接続する。NTTのネットワークを利用する部分が少なくて済み、またPSMも不要である。NTTへの依存コストは無い分、自前のネットワークの構築・維持コストが掛かる。また他の通信事業者とのローミングの整備も必要となる。
ウィルコムではVoIP対応交換機(ITX:Ip Transit eXchange)[3](PDF)を積極的に導入しており、Wireless IP Local Loopの構築がなされている。これにより、音声通話およびデータ通信のトラフィックを従来の公衆交換電話網から専用線(VoIP/IP網)に流す事によりNTT東西への接続料を削減し音声通話定額制を可能としている。
[編集] PHSの改良規格
- 高度化PHS
- 次世代PHS
- また、2005年9月にはウィルコムが、上記「高度化PHS」とは全く異なる、「次世代PHS」と呼ぶ規格につき実験局免許を申請した[4]。同社によるとOFDM技術(OFDMA:直交周波数分割多元接続)を利用し、下り20Mbpsでの通信が目標とすることを発表している。技術の詳細や実現の時期などについては明らかにされていない。
- 2005年11月、総務省はウィルコムに対し、次世代PHSの実験の予備免許を交付した[5]。ウィルコムは、現在のPHSで利用されている1.9GHz帯のほか、2GHz超の周波数帯でも利用可能な技術を目指すとしている。[6]
- 実験に使われる周波数は2.3GHz帯、帯域幅は5MHz分である。
- なお総務省は、次世代PHSをはじめとする、第三世代携帯電話を除いた無線ブロードバンド技術(無線アクセス)に対して、電波帯域として2.5GHz帯を割り当てる方針としている。[7]
- 2006年8月1日、ウィルコムは2.5GHz帯における実験免許を取得したと発表した。OFDM技術に、アダプティブアレイアンテナ技術、またはMIMO技術を適応させた場合の性能評価を行うとしている。[8]
- ターボPHS
- 日本国外ではデータ通信より通話がメインの利用者が多い為、日本とは方向性の違う高度化PHS規格である「ターボPHS」が提案され検討がなされている。主な変更点として新制御チャンネルの設定、SMSの容量拡大、音声コーデックにAMRを追加、端末出力の高出力化などがあげられる。
- ITmedia +D モバイル:中国の高度化PHS「Turbo PHS」とは?
[編集] 日本における歩み
- 1993年 - 札幌と東京で実験開始
- 1995年 - NTTパーソナル(現NTTドコモ)、DDIポケット(現ウィルコム)(共に7月1日)、アステル(10月1日)各グループが本サービス事業を開始
- 1997年4月1日 - PHS各事業者、PHSによる32Kbpsデータ通信サービスを開始
- 1998年12月1日 - NTTパーソナル、NTTドコモに営業譲渡
- 1999年1月1日午前2時 - 携帯電話とともに電話番号11桁化(050-XXX→070-5XXX・060-XXX→070-6XXXへ変更)
- 1999年~2000年 - アステル各社が清算され、電力系子会社への事業譲渡が行われる
- 2000年 - アステル、初のオープンインターネットサービス、ドットiのサービス開始。32kbpsによるモバイルデータ通信定額制も一部地方で、次のAIR-EDGE(AirH")に先行して開始。
- 2001年 - DDIポケット、定額制モバイルデータ通信サービス「AirH"」開始。同回線のMVNOも提供も開始(日本通信のb-mobile)
- 2003年 - アステル九州が事業を停止。アステルグループの一角の崩壊が始まる。
- 2004年 - アステル北海道・北陸、関西・中国(後2者は音声のみ)が事業を停止。全国ローミングも停止し、アステルグループはこの時点で事実上崩壊。DDIポケット、新会社へ移行されKDDIグループから離脱。
- 2005年
- 1月25日 - アステル沖縄、ウィルコム沖縄へ事業譲渡。
- 2月2日 - DDIポケットはウィルコムへ社名変更。AirH"もAIR-EDGEへ名称変更。
- 2月28日 - NTTドコモ、ドコモPHS事業の将来的なサービス停止、及び2005年4月30日に新規加入申し込みを終了することを正式発表。
- 4月20日 - 鷹山(アステル東京)、新規受付を終了
- 5月1日 - ウィルコム・ウィルコム沖縄、音声通話定額制サービス「ウィルコム定額プラン」を開始。
- 5月26日 - アステル四国が事業を停止。
- 5月27日 - アステル中部が事業を停止。
- 7月28日 - アステル東北が新規受付終了。アステルグループの新規受付はすべて終了。
- 10月27日 - J:COMが2006年3月(予定)からウィルコムと提携して、MVNOとしてPHS事業に参入すると発表。
- 11月30日 - アステル東京が音声サービスを停止。
- 2006年
[編集] 創業期
PHSが開始された当初の売りは、携帯電話が使えない地下鉄駅や地下街でも使え、基本料金や通話料金が安いという点であった。
1994年に、携帯電話に旧デジタルホン(現ソフトバンクモバイル)とツーカーグループの新規参入があって携帯電話間で激しいシェア争いや価格競争が始まったもののまだ高額であった。それに対してPHSは本体価格・基本料金・市内通話料金が携帯電話に比べて格段に安いことから、初年度の1995年度には総計で150万台に達した。
その後、通話エリアの拡大や本体機能の充実、本体及び新規手数料を無料とした契約促進キャンペーンや販促用景品やクイズなどの賞品への利用なども頻繁に使われたためにPHS加入者は急激に増加し、1996年末には総計600万台を突破する。
[編集] 携帯電話との競争激化
しかしサービス開始当時は価格競争による値下げで普及し始めた携帯電話との相互通話が不可能な問題を抱えていた他、携帯電話に比べて利用可能なエリアが狭い、切れやすいという問題が生じていた。
通話エリアの狭さや電波が途切れる現象に関しては、基地局の設置が電話の普及拡大になかなか追いつかないために地域格差が広がった。特に途切れやすいという状況は、通話エリア拡大が通話エリア高密度化よりも優先されていたことや、ハンドオーバー処理の改良が遅れたために改善されるまでにかなりの期間を要した。
携帯電話との接続もようやく1996年10月に、接続センターを介する暫定接続の形でPHS←→携帯電話の相互通話が可能になったものの、接続センターを介するため、特殊なダイヤル操作が必要であり、また料金が5.5秒10円プラス1通話あたり20円と高額であった。
それでも料金の安さや手頃感から契約増加が見込まれたものの、1997年始めから携帯電話の本体価格や料金の値下げが急激に進んでPHSとの価格差が縮まり、しかも通話エリアの広さでは携帯電話と勝負にならないPHSは解約が相次いだ。その結果、PHSの契約数は1997年9月の総計約710万台を最高点として、それ以降は減少することとなる。
[編集] 音声通話の改良
対応策として、1998年のPHS←→携帯電話の直接接続の開始による通話料金の値下げや、各PHS事業者による基地局の増設(各事業社とも1~2年間で基地局を2~3倍に増加)による通話エリアの拡大と高密度変化を行うと共に、携帯電話に比較した音質の良さや、従来の弱点であったハンドオーバー処理の高速化などの改良(また開始当初は電話交換局を跨ぐハンドオーバーができなかったが、1999年2月頃に各事業者とも対応した。)をアピールして対抗したものの、全く功を奏さず、加入者の解約数増加に歯止めをかけることはできなかった。
その結果、PHS各社は黒字転換ができず、旧NTTパーソナルグループはNTTドコモへの事業譲渡、DDIポケットは親会社の旧DDI(現KDDI)による財務支援を受け、アステル各社は出資元の電力系通信事業者へ吸収(関東地方は、さらに電力系とは全く無関係な企業へ再売却され、最終的に撤退)されるなどの救済策がとられた。
またこの頃、PHSによる世界初の移動体電話上のテレビ電話や、文字電話と言う手書き文字による通信端末など、意欲的な試みもなされたが、いずれも普及しなかった。
[編集] データ通信への特化
音声端末低迷への抜本的な打開策として、高速な通信速度を生かしたデータ通信を前面に打ち出し、携帯電話(第2世代PDC式)との差別化を図る方針に切り替えた。
1997年4月、各社がPIAFS回線交換方式により、最大通信速度(理論値)32Kbps(実効理論値29.2Kbps)で開始。続いてその後、各社とも64Kbps(PIAFS、実効理論値58.4Kbps)サービスを開始した。
2000年に入り、定額制モバイルデータ通信サービスとして、旧アステルグループの各サービス(北海道「定額ダイヤルアップ接続サービス」、北陸・四国「ねっとホーダイ」、東北「おトーク・どっと・ネット」、関西「eo64エア」、中国「MEGA EGG 64」)、さらにDDIポケットの「Air H"(現 AIR-EDGE)」やNTTドコモの「@FreeD」、といったサービスが各事業者・会社にて開始され、モバイル通信分野での利用がより増加した。また、音声端末単体でもインターネット接続可能な端末が、アステルのドットiを皮切りに、NTTドコモの「ブラウザホン」、DDIポケットの「Air H" フォン(現 AIR-EDGE PHONE)」など登場した。
DDIポケットについては、他社へのPHS網の再販事業(仮想移動体通信事業者=MVNO)に乗り出し、日本通信など他社にデータ通信用として自社PHS網を再販した。
それでもなお、音声通話ユーザによる解約を主としたPHS全体契約数の減少には太刀打ちできず、2004年中に総数500万台を割ることになった。
[編集] PHSの今後
2007年中には、PHSサービスを提供する国内事業者は、ウィルコム(旧DDIポケット)・ウィルコム沖縄と、同社からPHS網の提供を受けるMVNO、他、旧アステルグループの定額制データ通信専用PHS(前出の「eo64エア」・「MEGA EGG 64」)のみとなる見込みである。
アステルグループは既に、北海道・北陸・中部・四国・九州で事業を停止、関東・中国・関西が音声PHSサービスを停止、東北も2006年11月10日付けで2006年12月20日に音声PHSサービスを終了すると発表、沖縄はウィルコム子会社(ウィルコム沖縄)へ事業継承など、アステルグループとしては消滅し、音声サービスは2006年内に全て停止されることとなった。
また、NTTパーソナルを引き継いだNTTドコモも、データ通信に特化して事業を継続する方針を打ち出していたが、2005年4月30日限りでPHSの新規加入申し込みを終了、2007年第3四半期を目途にPHS事業自体を終了する予定。[9] しかし、ポケベルと異なり、加入者が減らないと終了時期を延長する可能性は残されている。
一方、ウィルコムは親会社であるKDDIグループから離れて独自展開にのりだした。
ウィルコムでは2005年5月1日から、音声定額制「ウィルコム定額プラン」の導入により、PHS音声サービスで攻勢に出ており、ボーダフォンも携帯電話サービスで追随した。データ通信分野では公衆無線LANと比べて市中の広いエリアで利用できることもあって根強い人気があり、国外でも幾つかの国では「ラスト・ワン・マイルを繋ぐ手頃な無線技術」として注目されている。 また、基地局からの通話可能範囲が狭い事を逆手に取って、端末所持者の高精度な現在位置を確認できるようにした「位置情報確認サービス」(NTTドコモの「いまどこサービス」、ウィルコム(旧DDIポケット)の「位置情報サービス」)の提供や、安価で高速なデータ通信を利用して自動販売機などの販売機器や監視システムを遠隔管理可能する「テレメトリング」など、PHSの安価・小型・簡単なシステムを活用した運用がなされている。 また、PHS無線通信部分を切手サイズにまとめたW-SIMにより無線通信技術を持たない会社の新規参入が容易になった為、固定電話機型端末やへぇボタン型端末など多種多様な端末が登場する可能性がある。
現在の日本では、PHS(AIR-EDGE)は安価な定額通話、手軽で機動性に富んだデータ通信手段として契約者数は再び増加に転じており、今後は国際展開や高速化(高度化PHS、次世代PHS)などが注目される。本文各章を参照のこと。
[編集] PHS端末開発メーカー
- 現行メーカー
- 過去にPHS端末を製造したメーカー
[編集] PHS基地局開発メーカー
- 京セラ
- 三洋電機
- 住友電気工業
[編集] 関連項目
- 高度化PHS
- 移動体通信 : 技術・方式間比較・電話網構成・課金方式など
- 携帯電話 : 社会への影響など
- 携帯機器 : デジタルツールとしての携帯端末の多機能化など
- デジタル変調 : 変調方式など
- マルチチャネルアクセス無線 : チャネルアクセス制御方式など
- DECT : ヨーロッパ等における類似規格