無線アクセス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
無線アクセス(むせん - )は信号を伝えるケーブルの代わりに無線(電波)を使うデータ通信サービスの総称。無線アクセスシステム。GHz帯を使うものが多い。
日本国内においては、無線LANとは異なり、無線局免許に基づく基地局からの、比較的高出力の空中線電力により、主に屋外等の比較的広い範囲をカバーするものである。制度的には無線LANの屋外等への利用開放(4.9~5.0GHz帯)に関係する物もある。
パソコンやPDA等のインターネット接続に利用されるものが多く、一部は、ブロードバンドインターネット接続が可能なものも出始めている。
目次 |
[編集] Fixed Wireless Access
FWAは、固定無線アクセス(こていむせん - )とも言う。基地局・端末等はそれぞれ1箇所に固定して利用される。移動には工事・調整等を要する場合がある。以前はWLL(Wireless Local Loop)と呼ばれることの方が多かったが、ITU-Rによる勧告化後はFWAの名称が一般に使われるようになった。
ブロードバンドの新規契約は2006年現在FTTHが主流であり、FWAの加入者数は2003年6月末の32,399契約をピークとして、急速に減っている。FWAアクセスが最も使われているのは、2006年6月末の時点で、北海道である。
光ケーブルやケーブルテレビ等のブロードバンドインターネット接続の固定回線の足回り(ラスト10メートル)として利用することもある(FTTxなど)。
ネットワーク構成としては、ポイントツーポイントで帯域を占有するものと、ポイントツーマルチポイントで帯域を共用するものとがある。
[編集] 日本での営業サービス
- Bフレッツ(NTT東日本・NTT西日本) ※営業中
- Arcstarエアアクセス(NTTコミュニケーションズ) ※営業中
- eoメガエア(ケイオプティコム) ※営業中
- スピードネット ※サービス終了
- KDDウィンスター ※不明
- bit-drive(ソニー) ※不明
- PSINet ※不明
- ODNエアリンク(日本テレコム) ※不明
[編集] PHS FWA
PHS FWAは、指向性アンテナを基地局・端末双方に用いPHS無線インターフェースで固定回線を設定するものである。見通し距離で5kmまで設定可能である。1.9GHz帯無線アクセスとも呼ばれる。
一部の中進国・発展途上国の電話回線が導入されていない地域の固定電話の代替、日本の需要の少ないもしくは強風・積雪による電線の障害の多い地域のアナログ固定電話・N-ISDNの取替え用などとして用いられている。
また、低速ではあるが光ケーブル固定回線の足回り(ラスト10メートル)としても利用されている(ケイ・オプティコムのeo64エア等)。
[編集] Nomadic Wireless Access
NWAは、端末等は1箇所に固定されず移動できるが、自動ハンドオーバーが行われないため、通信するためには静止状態になる必要がある。IEEE802.16-2004 (WiMAX) などが代表例。
FWAや光ケーブルで基地局間を接続するものと、NWAと同じ通信規格でメッシュ状に中継を行うものとがある。
主なサービス
- 公衆無線LAN
[編集] Mobile Wireless Access
MWAは、端末等は移動しながら通信でき、基地局間でハンドオーバー処理が行われる。
[編集] 無線WAN
無線WAN(WWAN:Wireless Wide Area Network)は、音声移動体通信(携帯電話・PHS)から発展したものである。サービスの面的展開を重視し、通信速度の低下を許容する場合の基地局あたりのサービスエリアが大きいものが多い。
[編集] 無線MAN
無線MAN(WMAN:Wireless Metropolitan Area Network)は、IPに特化した移動体向け高速無線パケット通信である。最高通信速度・周波数帯域利用効率重視で、基地局あたりのサービスエリアが小さいものが多い。
IEEE802.16/IEEE802.20シリーズが代表的なものである。一部にはIEEE802.11シリーズの技術改良したものも開発・実験などされている。
[編集] 各通信規格の比較
- 最高通信速度の欄は、上段はセル当たりの通信スループットの(平均値~)最高値、下段カッコ内はユーザスループット。スループットは静止状態か移動状態かによって、および基地局からの距離に比例して、変動する場合がある。またスループットおよび通信距離は見通しあり(LoS: Line of Sight)か見通しなし(nLoS:non LoS)かによって変動する場合がある。
- 最長通信距離は、環境の良い地点間で通信速度低下を許容する場合の値
- opt. = optional
[編集] 通信距離 (30~100km)
規格名 | 帯域幅(MHz) | 最高通信速度(Mbps) | 最長通信距離(km) | 複信方式 | 多元接続方式 | 変調方式 | 特徴 | 用途 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
下り | 上り | 下り | 上り | |||||||
WiMAX (IEEE802.16d) | 1.25 | 48 | FDD TDD | OFDMA | 適応変調 64QAM ~ QPSK | Intelが開発(Worldwide Interoperability for Microwave Access) 指向性アンテナ | 固定ワイヤレス・ネットワーク | |||
20 | 74.81 | |||||||||
28 | 134.4 | |||||||||
CDMA450EV-DO Rev.A | 1.25 | 3.1 (~ 3.1) | 1.8 (~ 1.8) | 50 | FDD | 下りTDMA 上りCDMA |
64QAM ~ π/4 DQPSK | 8PSK ~ BPSK | CDMA2000の技術を450MHz帯で使い、2GHz帯の25倍のセルエリアとなっている。 | NMT450の置き換え。東欧・インド・アフリカ等 |
[編集] 通信距離 (3~30km)
規格名 | 帯域幅(MHz) | 最高通信速度(Mbps) | 最長通信距離(km) | 複信方式 | 多元接続方式 | 変調方式 | 特徴 | 用途 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
下り | 上り | 下り | 上り | |||||||
PDC (ARIB RCR STD-27) | .05 ( .025インタリーブ) | .042/3 (1x/.0096 ~ 3x/.0288) | 10 | FDD | TDMA | π/4 DQPSK | 日本の第二世代携帯電話 | |||
GPRS | .4 ( .2インタリーブ) | .270833/8 (1x/.0214 ~ 8x/.1712) | 10 | FDD | TDMA | GMSK | GSMの拡張 (General Packet Radio Services) | 第二・五世代携帯電話 | ||
EDGE EGPRS | .8125/8 (1x/.0592 ~ 8x/.4736) | 3π/8PSK GMSK | EDGE(Enhanced Data Rates for GSM Evolution)拡張GPRS | 第三世代携帯電話 | ||||||
CDMA2000 1x | 1.25 | ? ( .1536 .3072) | 10 | FDD | SCDMA | π/4 DQPSK | π/4 QPSK BPSK | 電力制御で一定通信速度を確保 | 米国・日本(au)の第三世代携帯電話 | |
CDMA2000 1xEV-DO | 2.4 ( .6 ~ 2.4) | ? ( .1536 .3072) | 下りTDMA 上りCDMA |
16QAM 8PSK π/4 DQPSK | 通信状態の良い端末にタイムスロットを優先割り当て。電力一定で通信状況により符号化・変調方式を動的に変更。ハイブリッドデータ自動再送要求。RAKE受信・ソフトハンドオーバーなし。音声通信と別帯域を使用 | |||||
CDMA2000 1xEV-DO Rev.A | 3.1 (~ 3.1) | 1.8 (~ 1.8) | 64QAM ~ π/4 DQPSK | 8PSK ~ BPSK | 米国・日本(au)の第三・五世代携帯電話 | |||||
W-CDMA | 5 | 2 ( .384 ~) | 2 ( .064 ~) | 10 | FDD | CDMA | QPSK | BPSK | 電力制御で一定通信速度を確保 | 欧州・日本の第三世代携帯電話 |
HSDPA | 14.4 (1.8 ~) | 3 | 16QAM π/4 DQPSK | 通信状態の良い端末にタイムスロットを優先割り当て。電力一定で通信状況により符号化・変調方式を動的に変更。ハイブリッドデータ自動再送要求。音声通信と帯域の共用が可能 | 欧州・日本の第三・五世代携帯電話 | |||||
HSUPA | 5.8 ( .9 ~) | ? | 8PSK ~ BPSK | |||||||
HSOPA | 40 | 20 | ? | OFCDMA | 無線インターフェースはIP | |||||
TD-CDMA HSDPA | 5 | 5.2 | .848 | 3.8 | TDD | TDMA & CDMA | 16QAM QPSK | QPSK | 音声はVoIP | サービス地域 : 日本(アイピーモバイル2007年春)予定 |
10 | 11 | 1.7 | ||||||||
22.1 | 2.64 | ? | ? | ? | ||||||
TD-SCDMA | 1.25 | 2.4 (? ~) | ? (? ~) | 11.3 | SCDMA | 16QAM ~ QPSK | 8PSK ~ QPSK | |||
TD-SCDMA (MC) | 5 | 5.8 ( .768 ~) | ? (? ~) | 10? | MC(10) 16QAM ~ QPSK |
MC 8PSK ~ QPSK |
アダプティブアレイ。米Navini NetworksのMulti-carrier Synchronous Beamforming | |||
i-BURST (IEEE802.20) | 5 | 24.402 (3x / 1,061) | 7.959 (3x / .346) | 12.75 | TDD | TDMA MIMO(3) | MC(8) 24QAM ~ BPSK |
MC 8PSK ~ BPSK |
アダプティブアレイ(12)。米アレイコム・京セラが主導 | 60~70km/hで同等のモビリティ。サービス地域 : オーストラリア・南アフリカ共和国 |
Flash-OFDM (IEEE802.20) | 1.25 | 3 (1 ~ 1.5) | .9 ( .3 ~ .5) | 5 | FDD | OFDMA | 適応変調 | アダプティブアレイ。米フラリオンが開発 | 320km/h以下でのモビリティ | |
PHS FWA (ARIB RCR STD-28) | .288 | .384/8 (1x/.032 ~ 16x/.5) | 5 (opt. ~ 15) | TDD | TDMA SDMA | π/4 DQPSK | 指向性アンテナ(opt. ハイパワーアンプ) | 1.9GHz帯無線アクセス |
[編集] 通信距離 (0.1~3km)
規格名 | 帯域幅 (MHz) | 最高通信速度 (Mbps) | 最長通信距離 (km) | 複信方式 | 多元接続方式 | 変調方式 | 特徴 | 用途 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
下り | 上り | ||||||||||
特定小電力無線 (ARIB STD-T67) | .0125 | .0048 | .2 | 単信FDD | FDMA | 2値FSK | テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備 | ||||
PHS (ARIB RCR STD-28) | .288 | .384/8 (1x/.032 ~ 16x/.5) | .1 | TDD | TDMA | π/4 DQPSK | デジタルコードレス電話帯域併用、SDMA | サービス地域 :日本・台湾・タイ・ベトナム・中国。 | トランシーバー、デジタルコードレス電話 | ||
.5 (opt. ~ 5) | (opt. アダプティブアレイアンテナ)、 SDMA | 1.9GHz帯無線アクセス帯域併用 | |||||||||
高度化PHS (ARIB RCR STD-28) | 1.5/8 (1x/.128 ~ 16x/2) | 1 | 適応変調 256QAM ~ BPSK | アダプティブアレイアンテナ、SDMA | サービス地域 :日本 (W-OAM : 8PSK (1x/.051 ~ 8x/.408)) 。携帯型トランシーバー、デジタルコードレス電話 (規格上のみ) | ||||||
.884 | 6/8 (1x/.5 ~ 16x/8) | ||||||||||
次世代PHS | .288 | 2? | OFDMA TDMA MIMO | 適応変調 256QAM ~ BPSK | アダプティブアレイアンテナ、SDMA、MIMO | 高度化PHS帯域併用 | 2搬送波OFDM | ||||
.884 | 8? | 8搬送波OFDM | |||||||||
5 | 20 | 常時接続型システム | |||||||||
DECT | 1.782 | 1.152/24 (1x/.032 ~ 12x/.384) | .1 | TDD | TDMA | GMSK | 第三世代携帯電話欧州のデジタルコードレス電話 | ||||
WiBro | ? | 3 | 1 | ? | ? | ? | サービス地域 :韓国。60km/h以下でのモビリティ | ||||
Mobile WiMAX (IEEE802.16e) | 5 | 15 | 2 | FDD TDD | OFDMA | 適応変調 QPSK 16/64 QAM | 120km/h以下でのモビリティ | ||||
20 | 75 | ||||||||||
MBFDD (4x4 MIMO) (IEEE802.20) | 5 | 66 | 9.8 | 1 | FDD | MIMO | 適応変調 QPSK 8PSK 16/64 QAM | ||||
20 | 260 | 36 |
[編集] 通信距離 (~0.1km)
規格名 | 帯域幅(MHz) | 最高通信速度(Mbps) | 最長通信距離(km) | 複信方式 | 多元接続方式 | 変調方式 | 特徴 | 用途 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
下り | 上り | ||||||||
IEEE802.11 | 20 | 1 | .1 | CSMA/CA DS-CDMA | DSSS、DBPSK | 指向性アンテナで更なる長距離通信が可能なものも存在する | 無線LAN | ||
2 | ? | DSSS、DQPSK | |||||||
IEEE802.11b | 5.5 | .1 | CSMA/CA DS-CDMA | 適応変調CCK、DBPSK | |||||
11 | ? | 適応変調CCK、DQPSK | |||||||
IEEE802.11a | 54 | .05 | CSMA/CA 52搬送波OFDM | OFDM 適応変調 64QAM | 日本国内では屋内の利用に限り免許不要 | ||||
IEEE802.11g | .08 | 指向性アンテナで更なる長距離通信が可能なものも存在する | |||||||
IEEE802.11j | .05 | ||||||||
IEEE802.11n | 104 | .08 | CSMA/CA MIMO 108搬送波OFDM | 更なる高速化も検討されている | |||||
UWB | 7500 | 50~480 | .02 | CSMA/CA MB-OFDM / CSMA/CA DS-CDMA | 消費電力200mW以下。広帯域を他の無線局の妨害とならない出力で共用する。 | Wireless USB | |||
Bluetooth 1.1 | 78 | .7232 | .0576 | .01 | TDMA DS-CDMA | 2値FSK(1次) | 省電力 | 携帯端末同士の無線接続 | |
Bluetooth 2.0+EDR | 2.1 | .0576 | π/4 QPSK、8DPSK | ||||||
ZigBee | 5 | .25 | .069 | CSMA/CA DS-CDMA | O-QPSK | 間欠動作による省電力化 | ワイヤレス・センサ・ネットワーク |
[編集] 周波数帯域の分類
周波数GHz | 無線局免許 | 用途 | 競合 | 特徴 | 日本におけるサービス |
---|---|---|---|---|---|
2.3~2.4 | 要 | 固定無線 | |||
2.4~2.5 | 不要 | 無線LAN(IEEE802.11 n.b.g) 無線PAN(Bluetooth) |
電子レンジ アマチュア無線 |
ISMバンドであり、屋外の広帯域無線アクセスとする場合、他用途との干渉など問題が多いとされる。 | 広域無線アクセス スピードネット・eoメガエア |
2.5~2.69 | 要 | IMT-2000 | 移動体向け衛星放送 | モバイルWiMAX、次世代PHSなど無線BB予定 | |
3.3~3.8 | 要 | 移動体向け無線アクセス | 放送伝送用システム | ||
3.8~4.9 | 固定無線 通信衛星 |
||||
4.9~5.0 | 固定無線(2007年まで) | ||||
5.03~5.091 | 要 | 移動体向け無線アクセス(2007年まで使用可能) | 衛星による航空機着陸支援 | ||
5.15~5.25 | 不要 | 無線LAN (IEEE802.11 n.a) |
屋内用の国際統一バンド | ||
5.25~5.35 | 気象レーダー | DFS/TPCを条件に屋内・屋外で利用可能 | |||
5.47~5.725 | DSF/TCPが必須の屋内・屋外用の国際統一バンド | ||||
5.25~5.85 | 要 | 移動体向け無線アクセス | 固定無線 | ||
22 | 要 | 準ミリ波帯無線アクセス | 固定無線 通信衛星 |
離島・山間部などの光ケーブル敷設がコストに見合わない地域の情報化の推進のために使用される。また、集合住宅での各戸への配信にも使用されている。 | |
23 | 一部のケーブルテレビ・インターネット接続 | ||||
26 | Bフレッツ | ||||
36 | 要 | ミリ波帯無線アクセス | |||
38 | |||||
40 |
[編集] 関連項目
- Fixed Mobile Convergence : 固定・移動体通信を統合した通信サービス
- Next Generation Network : Internet Protocol技術を利用する次世代電話網
- 移動体通信 : 音声通信を中心としたもの・課金方式・電話網構成
- 電波利用料 : 周波数帯を利用する無線局の利用料による政策的使用方法の誘導・周波数オークションなど
- ラストワンマイル
[編集] 外部リンク
- 総務省ワイヤレスブロードバンド推進研究会
- 無線インターネットの高速化に向けて― 「5GHzギガヘルツ帯無線アクセスシステムの技術的条件」を答申 ―
- 無線MAN標準化の狙いとIEEE802.16/802.20規格動向
カテゴリ: 無線 | コンピュータネットワーク | モバイルネットワーク | コンピュータ関連のスタブ項目