東アジア共同体
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東アジア共同体(ひがしアジアきょうどうたい)とは、ヨーロッパにおいて第二次世界大戦の反省から作られた欧州共同体(および後身の欧州連合)と同様に、東アジアにおいて形成が構想されている共同体。
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[編集] 概要
賛同者の多くは、まずは東アジア共通の経済圏を目指しており、さらに、ユーロをモデルとした共通通貨「アセアナ」を導入しようとしている。それは、「ACU」として通貨バスケットを採用することから始まると予想されている。また、議会制民主主義・市場経済・漢字文化を共通の価値観に据えようとする意見もある。
日本では、外務省が実現に積極的とされ、自民党と民主党は、マニフェストで東アジア共同体の構築をともに掲げているが、とくに政党の中では、「アジアとの共生」を唱える民主党が意欲的である。国外では、韓国の保守政治家などが主に提唱している。
この構想は、ASEAN+3・インド・オーストラリア・ニュージーランドが参加する第1回東アジアサミットの会合において議題とされた。
[編集] 日本政府の基本的立場
- 開かれた地域主義 ASEAN+3を基礎としながらも、機能的アプローチを通じてインド、豪州、ニュージーランド、米国等とも連携する。
- 機能的アプローチ 地域の多様性を鑑み、当面は、FTA/EPAや、金融(チェンマイ・イニシアティブなど)、国境を越える問題(海賊、テロ、SARSやHIV等の感染症、津波等の大規模災害など)等の地域協力を優先させる。
- 普遍的価値の尊重 複数政党制民主主義、市場経済(WTOルールの遵守など)、人権の尊重。
参考文献 外務省「東アジア共同体に係る我が国の考え方」平成18年11月[1]
加盟数 | 名称・国名 | 人口 | GDP(MER) | 一人当りGDP(MER) |
---|---|---|---|---|
16 | 東アジア共同体 | 31.14億人 | 10.7兆㌦ | 3,476㌦ |
10(+1) | ASEAN | 5.50億人 | 8,619億㌦ | 1,079㌦ |
25 | EU | 4.56億人 | 12兆㌦ | 30,000㌦ |
5 | 南米共同市場 | 2.5億人 | 1兆㌦ | 4,000㌦ |
3 | NAFTA | 4.3億人 | 13兆㌦ | 29,942㌦ |
× | 中国 | 13.08億人 | 2.3兆㌦ | 1,702㌦ |
× | インド | 11.3億人 | 8,002億㌦ | 678㌦ |
[編集] 賛成する意見
賛成する意見としては、以下のようなものが挙げられている[1]。
[編集] 経済的メリット
- 通貨だけに限って言えば、アジア共通通貨の導入で為替相場の影響を抑えることができ、東アジア経済の長期的安定をもたらすと考えている。また世界でもドルとユーロと並ぶ存在になるとされ、アジアの国際的経済上の地位向上にも貢献すると主張する。
- 欧州連合・北米自由貿易協定などの世界的な地域統合が進む中、東アジア諸国が安定した経済成長を続けるには、東アジアにも同様の仕組みが必要である。
[編集] 地域の政治的安定・融和への期待
- 共同体によって経済的な交流が活発化することにより、各国間の政治的対立が徐々に取り除かれ、地域の安定に繋がると考えられる。また、中国の民主化を促進する影響もあると考えられる。
[編集] その他
- 日本が共同体に参加せず、中国を中心とした東アジア共同体が構築された場合、参加各国に対する中国の影響力が増大することが考えられる。中国への牽制として日本が主導的役割を果たす必要がある。
[編集] 反対する意見
反対意見は、大きく次のように分類できる[2]。
[編集] 価値観の相違
- 自由と民主主義という共通の価値観を有していない。共産主義国家である中国や北朝鮮では、今も事実上の一党独裁制が続いている。また逆に、この構想は、価値観を共有する台湾を排除している。なお、韓国は民主化しているが、北朝鮮や中国に接近し、日本や米国と対立するなど、自由や民主主義よりも民族主義を価値観として優先しがちである。
- 日本と中韓、また中国と韓国は、それぞれ歴史認識の隔たりが大きい。この点が、「二つの全体主義(ナチズムと共産主義)との闘い」という共通の歴史観を持っているヨーロッパ諸国とは異なる。
- EU諸国にはキリスト教という共通の宗教が存在している。これは、トルコのEU加盟が反対されるときの理由の一つである。対して、かつて東アジアで支配的であった儒教は、今日では共通の宗教とは言えない。
[編集] 領土・政治紛争
- 日韓の同盟国である米国の排除を目的としており、実際、米国はこの構想に不快感を示している。このため、米国は、オーストラリアなど盟友国の共同体への加盟を強く勧めている。
- 中華人民共和国の参加を見込んでいる時点で、中華民国(台湾)を独立主権国家として認めないことを前提とする。
- 覇権主義的な色彩を強めている中国と、反米色を強めてそれに接近する韓国のノ・ムヒョン政権の存在から、この構想が反米的であると懸念する者もいる。
- 中国・韓国での反日感情の激昂と、それに対する日本国内での反発から、共同体の可能性そのものを疑問視する声もある。
- 日本と韓国では竹島が、日本と中国では尖閣諸島の領有問題が、それぞれ未解決のままである。その他にも、中国と東南アジア諸国の間のスプラトリー(南沙)諸島の領土紛争を始めとして、多数の領土紛争が存在する。
[編集] 経済学的な理由
- 日本とそれ以外の国の経済レベルの格差が大きいため、質の低い労働者が日本へ大量に流入する。こうした社会的コストを考えても、2国間または多国間のFTA(自由貿易協定)で十分である。
- 共通通貨を導入すれば、金融政策や財政政策の主権を失うことになる。これにより、日本の市場に合わせた金融政策や財政政策が出来なくなってしまう。日本と他の東アジアは最適通貨圏ではなく、今後もそうなる可能性は低いので、それは経済を悪化させることになる。事実、ユーロに参加しなかったイギリスやスウェーデン、デンマークなどの経済が好調なのに対して、ユーロを導入したドイツやフランスは低迷を続けている。
- 日本の最も重要な貿易相手国の一つであるアメリカを排除しているのは不自然である。また、中国の最大の貿易相手国は米国である。
- 東アジアはこの構想に関係なく中国の経済圏、ひいては勢力圏に飲み込まれるとの予測がある。日本がその経済圏に飲み込まれ、弱体化してしまうことを防ぐためには、東アジア共同体ではなく北米自由貿易協定 (NAFTA) に加盟し、価値観の近い米国などと共同体を形成すべきだという意見がある。
[編集] その他
- かつて日本が提唱した大東亜共栄圏と同じではないかという見方がある。これに対して賛同者たちは、東アジア諸国が対等の立場で参加できる国際組織を作ろうとしている点が異なると主張している。さらに、反対者たちはこれに対し、国際政治の現実はパワーポリティクスであり、最初から「国家間の対等な立場」を信用することは根拠のない楽観であると考えている。
- 海洋国家である日本が大陸に深く干渉することは、戦前の大陸への深入りと同様、地政学的に望ましくない。これに対して、地政学自身が過去のものであり(そもそも域内国家は大陸国家だけではないが)、現在では根拠とならないとの反論が挙げられている。
[編集] 関連人物
[編集] 構想関係者
[編集] 批判者
[編集] 研究者
- 谷口誠 - 岩手県立大学第2代学長
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ↑ 谷口誠、「「東アジア共同体」推進を」、朝日新聞(東アジア共同体評議会)、2005年6月2日。
- ↑ 古森義久、「“外交弱小国”日本の安全保障を考える - 第13回 中国主導で徘徊する「東アジア共同体」という妖怪」、日経BPネット、2005年12月20日。