DOHC
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DOHC (ディーオーエィチシー) とは、Double OverHead Camshaft (ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)の略で、4ストロークサイクルのプロセスを採用した内燃機関における吸排気弁機構の形式の一つ。
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[編集] 特徴
シリンダー頭部の排気側と吸気側にそれぞれ独立したカム軸を持つ構造となっている。吸気弁と排気弁が別々のカムシャフトによって駆動されるためカムシャフトの負荷が分散され、さらにロッカーアームが不要になるため高回転化・高出力化が可能であり、また、吸気弁と排気弁が対向したレイアウトで、吸排気効率の良い「クロスフロー」形となること、燃焼室形状が理想的になることなど、利点が多数あることから高性能エンジンの多くに採用されている。
欠点としては部品点数が増える、カムシャフトが2本になるためエンジン上部が大型化するなどの問題がある。
[編集] 歴史
1912年に、エルネスト・アンリがフランスのプジョーのレーシングカーのために開発したのが最初であるとされるが、スペインのイスパノ・スイザ社の設計者マルク・ビルキヒトによる着想を剽窃したという説もある。
部品点数が多く機構が複雑であることと、一般車両はさほどの高性能化が必要でなかったことから、1950年代以前はレーシングカーや高級スポーツカーに限定された技術であった。
第二次世界大戦後、戦前からDOHCエンジンを積極的に手掛けてきたアルファ・ロメオ社が量産志向に転じたほか、ヨーロッパや日本の大手自動車メーカーは、従来の量産エンジンを元にヘッド部分をDOHC形に改造した高性能エンジンを開発、スポーツモデルに搭載して市場に送り出した。
日本で初めてDOHCエンジンを搭載した市販4輪自動車は、1963年に発表された軽トラックのホンダ・T360である。T360がDOHCを採用したことには、要求性能という観点からは特に意味はなく、創立者の本田宗一郎氏が「ホンダの車には最高のエンジンを積め」と命じたせいである、とされている。国産のオートバイでは1965年にホンダCB450KO、1972年にはカワサキの輸出専用車種Z900(翌年には排気量を750ccに変更した国内向けモデル750RSが登場している)などがDOHCエンジンを搭載した。
もっぱらスポーツモデル向けの機構と見なされてきたDOHCであるが、トヨタ自動車は吸排気効率を高めつつ理想的な燃焼室形状を確保できる特性に着目、省燃費化・低公害化の手段として実用車向けの量産(普及)型DOHCエンジン(ハイメカツインカム)を開発し、1986年以降、同社のカムリ・ビスタを皮切りに、カローラなどをはじめとするガソリンエンジン乗用車のほとんどに搭載するようになった。また、軽自動車の分野では2001年以降には実用車、商用車などにかかわらず、スズキの全ての軽自動車がDOHCエンジンを搭載するようになった。
以来、量産型DOHCエンジンは世界の多くのメーカーに普及し、数値的な高性能がさほど求められないであろう車種にも盛んに搭載されるまでになっている。
更に、ディーゼルエンジンにもDOHCを採用する例(三菱・パジェロ(2005年現在はディーゼルエンジン搭載車はカタログ落ちしている)、三菱ふそう・キャンター、ローザ、エアロミディ、日産・シビリアン=4M50(T5)、いすゞ・ビッグホーン、いすゞ・ウィザード=4JX1(2005年現在は生産終了)も散見される。
[編集] ツインカム
- 一般ユーザー向けのキャッチフレーズ的なニュアンスで、「ツインカム(TWINCAM)」と呼ばれることもある。四輪ではトヨタ(但し、2T-G系などが主力の時代はDOHCと称している)と日産(但し、FJ20系しかDOHCエンジンが無かった時代にはDOHCと称している)、スズキ、ダイハツが、二輪ではカワサキがこの呼称を採用している。
- 但し厳密にはDOHC=ツインカムではない。これはV型や水平対向などシリンダーヘッドを2つ持つエンジンの場合、SOHCでカムシャフトが2本(2-OHC)になるため。もっとも、これをツインカムと称する例はまず無いものと思われる。トヨタはシリンダーヘッドがふたつになるV型のDOHCエンジンに関しては「FOUR CAM(4-OHC)」と称していた。
- 例外的にハーレーダビッドソンは自社のカムシャフトが2本のV型2気筒OHVエンジンをTWINCAMと称している。これは自社の従来のエンジンのカムシャフトが1本だったことから、それらと区別するためにTWINCAMと呼称している。
- 表記はトヨタが「TWINCAM24」など、日産は「TWINCAM24VALVE」となる。