黄砂
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黄砂(こうさ、Yellow sand、Asian dust)とは中国大陸の砂漠の砂が砂嵐によって上空に巻き上げられ、偏西風に乗って飛来し、地上に降り注ぐ現象のことである。エアロゾルの一種とされる。
日本では気象庁により、大陸性の土壌粒子によって視程が10km以下になる現象と定義されている。主な発生源としては、東から黄土高原、ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠がある。
黄砂は、大気汚染物質などと一緒に大気中に長くとどまり、周辺の雲の色を茶色く変色させ、農作物への被害が指摘されている褐色雲をつくる事もある。大規模な黄砂が発生したときは、気象衛星などの画像に写り込むことがある。
黄砂の量は、発生地の天候に左右される。発生地で降水量が多いとその後の黄砂は減り、逆に降水量が少ないと、黄砂が増える。
大量の場合は視界が悪くなったり洗濯物が汚れたりといった被害も発生する。気候によっては冬場でも発生し、これが雪に混じると積雪が黄色く見えることもある。近年その発生が増加傾向にある。中国での過剰な放牧や耕地拡大などがその増加の原因の一つとの説もあり、環境問題としてとらえられる場合もある。
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[編集] 各国の黄砂
日本では、夏以外に観測されるが、特に春先(3月から5月)によく観測される。西日本や日本海側で観測されることが多い。日本では、2000年から2002年の黄砂観測日数が50日前後となり、20日程度だった平年値を大幅に上回った。日本で観測される黄砂は大気がかすみ、微量の砂が積もる程度で、大きな被害はほとんど報告されない。気象観測における天気としては煙霧に分類される。
韓国では、黄砂は「황사(ファンサ=黄砂)」とよばれる。2002年4月には、史上最大の2070マイクログラムの黄砂が降り注いだ。(ソウルにおける黄砂注意報発令基準は500マイクログラム、黄砂警報は1000マイクログラム。)「1~2キロほどしか見通しもきかず、呼吸ですら困難なほどであった。」と地元新聞は伝えている。2006年4月には2015マイクログラムが観測され、空の便も韓国国内便6便が欠航している。
中国では、黄砂は「黄砂(ファンシャ)」、黄砂によって起こる砂嵐は「沙塵暴」(簡体字で「沙尘暴」)と呼ばれる。特に東部で観測され、都市部では、最近の経済発展による大気汚染との相乗効果で、視程がかなり悪くなることがある。北京や天津などは発生地とされる砂漠に近く、近年はたびたび大規模な黄砂に襲われている。北京では、間近に迫った北京オリンピック開催に向けて、黄砂の影響が少ない大会開催を念頭に置いた研究が行われている。南方の台湾でも最高500マイクログラム程度の黄砂が春を中心に観測される。
資料がないため確認はできないが、衛星画像などで黄砂の通過が確認されるため、北朝鮮やロシアでも観測されている可能性が高い。
最も遠くで観測された例では、アメリカ合衆国のハワイ州やカリフォルニア州などがある。
[編集] 黄砂の成分
黄砂の成分は、その発生する地域と通過する地域により異なると考えられている。工業地域を通過した黄砂は一酸化炭素を含んでいたという調査結果もある。
2001年に中国で行われた黄砂の成分分析では、シリコンが24~32%、アルミニウムが5.9~7.4%、カルシウムが6.2~12%、微量の鉄などが検出された。
黄砂の粒の大きさは0.5μm(マイクロメートル)~5μm(=0.0005mm~0.005mm)くらいで、タバコの煙の粒子の直径(0.2~0.5μm )よりやや大きく、人間の赤血球の直径(6~8µm )よりやや小さいくらい。中国で観測されるものは粒の大きいものが多く、日本で観測されるものは粒の小さいものが多い。
韓国では、黄砂の中から硫酸塩などの化学物質や、病原菌なども検出されている。
[編集] 黄砂による影響
- 車や建物に降り注ぐ為の物理的被害
- 黄砂が降り注ぐために、農作物への被害や洗濯物を汚すなどの被害
- 農作物等のビニールハウスに黄砂が積もり、遮光障害を起こす等の被害
- 視界が悪くなるために航空機の飛行に障害を及ぼす
- 黄砂に大気汚染物質が吸着されて運ばれる被害
- 大気を覆うことによる気象観測を妨害する被害
- 黄砂は炭酸カルシウムを多く含むので、酸性雨を中和したりアルカリ性化する
- 大気中にとどまり太陽放射を遮ることによる寒冷化
- 氷雪や氷河上に落下し、太陽光線を吸収することによる温暖化
- 呼吸器官への被害(咳、痰、喘鳴、ただれ、鼻水、痒み)
- 黄砂による土壌や海洋へのミネラル供給
- 地上波放送などの電波が乱反射し、受信障害や異常伝播を引き起こす
[編集] 黄砂の歴史
中国では、BC1150年頃に「塵雨」と呼ばれていたことがわかっている。また、BC300年以後の黄砂の記録が残された書物もある。
朝鮮では、新羅時代の174年頃「ウートゥ(雨土)」として知られており、怒った神が雨や雪の代わりに降らせたものと信じられていた。644年頃には黄砂が混ざったと見られる赤い雪が降ったという記録も残っている。
日本では江戸時代頃から、書物に「泥雨」「紅雪」「黄雪」などの黄砂に関する記述が見られるようになった。
[編集] リンク
[編集] 関連書
- 岩坂泰信 『黄砂』その謎を追う 紀伊國屋書店 ISBN 4314010029