突然変異
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突然変異(とつぜんへんい)は生物学の用語で、DNAあるいはRNA上の塩基配列に物理的変化が生じることをいい、その結果遺伝情報にも変化が表れる。単に変異とも言う。このような変異の生じた細胞または個体を突然変異体(ミュータント,mutant)と呼び、変異を起こす物理的・化学的な要因を変異原という。英語やドイツ語ではmutationと呼び、この語は「変化」を意味するラテン語に由来する。個体レベルでは発ガンや機能不全などの原因となり、長い目で見ると進化の原動力ともなっている。多細胞生物の場合は生殖細胞に変異が起こらないと進化には影響しない。
突然変異を発見し、命名したのはオランダの生物学者ユーゴー・ド・フリースである(1901年)。ここから進化が突然変異によっておこるという突然変異説を提唱した。突然変異が人為的に誘発できることを実験的に証明したのはハーマン・J・マラーである。彼はショウジョウバエにX線を照射し、次世代の致死率を測ることにより理論値から推測した。以降、生物学(遺伝学)では人為的に突然変異を誘導する変異導入により突然変異体を得て、その表現型を観察することで、遺伝子の機能を解析してきた。
突然変異は、DNA複製の際のエラーや化学物質・放射線照射、トランスポゾンの転移などによって引き起こされる。突然変異には、一つのヌクレオチドが変わる点変異や、一つから複数のヌクレオチドが挿入または欠失するものもある。また染色体の広い領域が入れ替わったり、欠失したりすることもある(染色体異常)。染色体数が整数倍になる場合を倍数性、数が細かく変化する場合を異数性という。
突然変異の多くは、遺伝子の機能に影響がなく、サイレント変異と呼ばれる。遺伝子をコードする領域以外の変異や、遺伝子内でもアミノ酸配列や転写量を変化させない場合はサイレント変異となる。機能に影響がある点変異は、別のアミノ酸にコドンが変化する非同義変異、アミノ酸のコドンが終止コドンに変わるナンセンス変異、終止コドンがアミノ酸のコドンに変わる読み過ごし変異がある。3つのヌクレオチドで1つのアミノ酸をコードするため、挿入・欠失したヌクレオチドが3の倍数だとアミノ酸の挿入・欠失が起こり、そうでないときはコドンの読み枠がずれアミノ酸配列が大きく変わるフレームシフトなどが起こる。
なお、体細胞の突然変異は腫瘍の発症につながることがある。詳しくは悪性腫瘍#がん発生の機序(メカニズム)、発癌性などを参照のこと。
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