神流川の戦い
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神流川の戦い（かんながわのたたかい）は、天正10年6月16日(1582年7月5日)から6月19日(同7月8日)にかけて、織田信長が本能寺の変によって敗死した後、織田方の滝川一益と北条氏直が争った戦い。戦国時代を通じて関東地方でもっとも大きな野戦とも言われている。
(※以下の日付は､特に断りがある場合を除いて旧暦のものとする)
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[編集] 背景
[編集] 武田征伐
関東の戦国大名後北条氏は1580年頃から織田氏と同盟関係にあり、当主氏直と信長の息女の縁組も実現間近だった。織田が当時敵対していた武田勝頼の室は、北条家前当主北条氏政の妹に当たる。このため当初、氏政の政権は親武田を模索するが、上杉家の御館の乱における勝頼の裏切りによって第二次甲相同盟は破綻した。この後、北条は織田との同盟に家運を賭けて取り組んでおり対武田に大軍の動員態勢をとった。
天正10年(1582年)2月、織田信忠を大将とする織田軍は単独で電撃的に侵攻した（武田征伐）。結果的に北条軍や信長の本隊が進む以前に武田家はあっけなく崩壊する。この際、焦った北条から織田に対して侵攻の機をみるために戦況をうかがった記録が残っている。こうした記録により、織田家は表面上の友好関係で糊塗しながら戦後の利権などを有利とするために情報封鎖を敢行したのだと考えられている。
北条軍は戦意旺盛ながらも東海道から駿河方面への進出と甲州街道から甲斐国郡内、あるいは上野方面への方針が定まらず、旧領の駿河東部の武田の勢力を駆逐するなど一定の成果を挙げたものの、戦略的には右往左往する。こうして大きな戦果を遂げられなかった北条家に領土の加増は無かった。しかし、北条による織田への不信感は表面化せずに両家の友好関係は継続した。
[編集] 本能寺の変前夜
武田征伐終了後、織田からは一益が上野国と信濃の小県郡・佐久郡を封じられ、織田に従った関東諸侯を与力とした。一益は厩橋城を拠点として駐留し、一説には関東管領を自称したとも言う（書物によっては「東国の儀御取次」「関八州御警固」と書いてあるものもある）。
滝川家中では北条氏の勢力を「南方」と呼び、友好関係が保たれた。厩橋城には上野・信濃はもちろんのこと下野や武蔵らの城主が相次いで挨拶に押しかけていた。また、北条と近しい里見義頼、伊達輝宗、葦名盛隆らも接触を図ってきた。5月上旬には関東諸侯を招いての茶会も開かれ、友好ムードは一層高まっていた。
しかし、その一方で北条側に不利な決定を下すこともあり、織田との同盟に家運を賭けているとはいえ、関東管領の座を従前から志向する北条としても内心穏やかならざる状況でもあった。特に、上野が織田直轄領の観を呈してくると、北条にも焦りや織田に対する不信感が少しずつ出てくるようになった。しかし、それでも不信感は表面化しなかった。「その日」が来るまでは。
[編集] 北条軍の上野侵攻
本能寺の変は、滝川及び北条の陣営に相前後して伝わった。当初北条から滝川へは友好関係を保ち至急の上洛を応援する姿勢が示された。しかし、信長と信忠の死が確実な状況となると、これに乗じた上野侵攻が企画された。武田攻めの被害が僅少であった北条軍は即時動員を行い、北条氏直・北条氏邦勢5万6千が上野に侵攻した。上野を治めてまだ3ヶ月しかたっておらず、軍の統制が十分に取れていない一益は「弔い合戦のため」と称し、2万弱の兵を率い北条と対決することとなった。
[編集] 神流川の戦い
氏直勢は6月16日に倉賀野を攻め襲い、一益勢はこれに応戦すべく金窪（武蔵国児玉郡上里周辺）で迎え撃った。主要な戦いは2回にわたって繰り広げられた。
[編集] 第一次合戦
6月18日の第一次合戦では、一益勢が寡兵ながらも氏邦の鉢形衆300あまりや氏直の近侍衆を討ち取るなど、北条の先遣部隊を追い落とした。
[編集] 第二次合戦
6月19日の第二次合戦でも緒戦では一益勢が優勢であったが、北条勢を深追いし軍勢が著しく縦長となり、退くと見せて反転攻勢に出た北条勢に取り囲まれる。一益勢は総崩れとなり、4000人近くも討ち取られる惨敗を喫した。一益は一旦厩橋城に遁走するも、やがて碓氷峠から小諸を経て本拠地の伊勢長島城に逃げ帰った。
[編集] 影響
一益は遁走の際、配下であった関東諸侯の人質解放を無条件で行うなどして高潔な面を見せ、関東諸侯は一益との別離を泣いて惜しんだと言われるが、結局は北条に降った。
一益はこの敗戦のために“敵前逃亡”のレッテルを羽柴秀吉に張られ、清洲会議に出席もできなかった。織田家における一益の地位は急落した。この後、小牧・長久手の戦いでは徳川家康、織田信雄側の軍勢と戦うも降伏。越前大野に流され、そこで不遇なまま一生を終えた。
北条の大軍はこのまま上野を通過して信濃に入り、傘下に降った真田氏、依田氏などの国人を足掛かりにして信濃国の小諸城に進出し、同国の領有をめぐって徳川家康、上杉景勝と三つ巴の対立が始まった。
[編集] 参考文献
- 谷口克広『信長軍の司令官』中央公論新社中公新書1782、2005年:ISBN 4-12-101782-X
- 斎藤慎一『戦国時代の終焉』中央公論新社中公文庫1809、2005年:ISBN 4-12-101809-5
