水滸伝
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『水滸伝』(すいこでん、水滸傳)は、中国の明代に書かれた小説で、四大奇書の一つ。施耐庵あるいは羅貫中がそれまで講談として行われてきた北宋の徽宗期に起こった反乱を題材とする物語を集大成して創作されたとされる。「滸」は「ほとり」の意味。
北宋時代末期に、汚職官吏たちがはびこる世相のため世の中からはじき出された英雄好漢たちが梁山泊と呼ばれる自然の要害に集まって無法者の集団を形成し、やがて悪徳官吏を打倒し国を救う事を目指すという物語である。
目次 |
[編集] 水滸伝の来歴
水滸伝の物語は実話ではない。しかし14世紀の元代に編纂された歴史書『宋史』には、徽宗期の12世紀初めに宋江を首領とする三十六人が実在の梁山泊の近辺で反乱を起こしたことが記録されている。講談師たちは12世紀中頃に始まる南宋の頃には早くも宋江反乱の史実をもとに物語を膨らませていったと推定され、13世紀頃に書かれた説話集『大宋宣和遺事』には、宋江以下三十六人の名前と彼らを主人公とする物語が掲載されている。
15世紀頃にまとめられた水滸伝では、三十六人の豪傑は3倍の百八人に増やされた。また、荒唐無稽で暴力的な描写や登場人物の人物像を改め、梁山泊は朝廷への忠誠心にあふれる宋江を首領とし、反乱軍でありながらも宋の朝廷に帰順し忠義をつくすことを理想とする集団と設定されて、儒教道徳を兼ね備え知識人の読書にも耐えうる文学作品となった。とは言え、反乱軍を主人公とする水滸伝は儒教道徳を重んじる知識人にはあまり高く評価されず、もっぱら民衆の読む通俗小説として扱われた。その風潮の中で、明末の陽明学者で儒者の偽善を批判した李卓吾が水滸伝のような通俗小説を高く評価したことはよく知られている。逆に同じ時期に農民反乱を扇動する作品であるとして禁止令が出されている。
清代には京劇の題材にとられ、108人が皇帝に従うという展開が西太后などに好まれた。
逆に新中国成立後の文化大革命時には禁書処分を受ける事となった。
[編集] 『水滸伝』の原本
中国の通俗小説は「回」と呼ばれる講談の一話に相当するまとまりからなるが、施耐庵あるいは羅貫中がまとめたとされる水滸伝の初めの構成は百回から成っていた。百回のおおよその内訳は、梁山泊に百八人の豪傑が集うまでを描いた七十一回と、梁山泊と朝廷の奸臣たちが派遣した官軍との戦いを描く十回、百八人が朝廷の招安を受けて、北方の契丹人の王朝遼と戦う九回、江南で宋江たちと同じように方臘の乱を起こしていた方臘を官軍として討伐する中で梁山泊集団が壊滅してゆく過程を描いた十回からなる。
水滸伝が人気を博するようになると、16世紀頃に最後の方臘戦十回の前に田虎、王慶の反乱軍を鎮圧するそれぞれ十回が付け加えられた百二十回からなる版が生まれた。これを百二十回本と呼び、もともとの百回構成の版を百回本と呼ぶ。
17世紀の清代に、古典批評家の金聖嘆は百回本のうち物語が面白い部分は梁山泊に百八人が集う第七十一回までであると判断し、第七十二回以降を切り捨てた上で、第七十一回後半を書き改めて最終回とし、かつ回数を整えるため本来の第一回を前置きとし、第二回以下の回目をそれぞれ一回づつ繰り上げた七十回本を作り、出版した。遼との戦いを含む後半部分を、女真人による異民族王朝である清が忌避したためとする説もある。清代には七十回本が流行し、中国では20世紀に入るまで水滸伝と言えば七十回本を指した。中華人民共和国成立後、七十回本の体裁にならいつつ、回目を復旧した七十一回本も出版されている。
日本では中国と異なって百二十回本が一般的によく読まれ、百回本も読まれるが、七十回本はあまり入っていない。
[編集] 日本における『水滸伝』の受容
日本へは江戸時代に輸入され、1723(享保十三)年には岡島冠山により一部和訳され、1773(安永二)年には建部綾足『本朝水滸伝』が成立し、普及する。19世紀初めには翻訳、翻案が数多く作られ、浮世絵師の歌川国芳や葛飾北斎が読本の挿絵や錦絵に描いた。『水滸伝』ものとしては『新編水滸画伝』を著したこともある戯作家曲亭馬琴は特に水滸伝を日本を舞台とする物語に取り入れ、代表作となる『椿説弓張月』や『南総里見八犬伝』を書いた。また、パロディである『傾城水滸伝』も書いている。
明治時代以降も百二十回本や百回本を元とする『水滸伝』の翻訳や翻案が生み出された。原典に基づく翻訳としては吉川幸次郎・清水茂による百回本全訳と、駒田信二の百二十回本全訳、佐藤一郎の七十回本全訳、村上知行の七十一回本全訳がある。また、江戸時代後期の侠客である国定忠治の武勇伝はのちに『水滸伝』の影響を受けて脚色された。
翻案では吉川英治の遺作となった『新・水滸伝』、横山光輝の漫画作品『水滸伝』や森下翠、正子公也の『絵巻水滸伝』、北方謙三の小説『水滸伝』、吉岡平の『妖世紀水滸伝』などが知られる。また居酒屋チェーンに「酔虎伝」という屋号が存在するなど、広く人口に膾炙している。
[編集] 登場人物
水滸伝には数々の豪傑たちが登場する。それぞれ天傷星、天狐星など、百八の魔星の生まれ変わりである。百八とは仏教で言う煩悩の数でもあり、除夜の鐘で突かれる数でもある。
梁山泊
詳しくは水滸伝百八星一覧表を参照。
- 天魁星 宋江(そうこう) 梁山泊二代目首領。
- 天傷星 武松(ぶしょう) 拳法の達人。
- 天狐星 魯智深(ろちしん) 大力無双の破戒僧。
- 天暗星 楊志(ようし) 顔に青痣を持つ剣士。
- 天雄星 林冲(りんちゅう) 槍の名手。中国で「教頭」といえばこの人のこと。
- 天機星 呉用(ごよう) 梁山泊の軍師。
- 天英星 花榮(かえい) 弓の名手。宋江無二の親友。
- 天殺星 李逵(りき) 二丁板斧の使い手。斬り込み隊長。
- 天間星 公孫勝(こうそんしょう) 仙術使い。
- 天貴星 柴進(さいしん) 後周皇帝の子孫。
- 天寿星 李俊(りしゅん) 水軍の総帥。
- 天巧星 燕靑(えんせい) あらゆる事に通じる美青年。
- 守護神 晁蓋(ちょうがい) 梁山泊初代首領。
官軍
- 高俅(こうきゅう) 太尉。元幇間。蹴鞠、棒術などに通じるが、心のねじけた悪漢。
- 童貫(どうかん) 枢密使。宦官で禁軍の総帥。帝に媚び売る奸物。
- 蔡京(さいけい) 宰相。朝廷の最高権力者で花石綱や収賄で私腹を肥やす。
- 慕容彦達(ぼようげんたつ) 青州の長官。帝の妃を妹に持ちそれを傘に好き放題をしている。
- 梁世傑(りょうせけつ) 北京の長官。蔡京の婿で収賄に精を出す。
- 高廉(こうれん) 高唐州の長官。高俅の従弟にして強力な妖術使い。
- 宿元景(しゅくげんけい) 太尉筆頭。数少ない清廉な人物。
- 徽宗(きそう) 皇帝。政治に関心が無く奸臣に朝廷を牛耳られている。
盗賊・市井の人々等
- 田虎(でんこ) 河北を荒らしまわる盗賊の首領。
- 王慶(おうけい) 淮南の反乱軍の総帥。軽薄な色男。
- 方臘(ほうろう) 花石綱に不満を持つ民衆と喫菜事魔を利用し江南で反乱を起こした。
- 王倫(おうりん) 旧梁山泊の首領。落第書生で偏狭な人物。
- 祝朝奉(しゅくちょうほう)祝家荘の庄屋。三人の息子とともに梁山泊を潰そうと企む。
- 曾弄(そうろう)曾頭市の長。女真族で名を上げるため梁山泊を狙う。
- 潘金蓮(はんきんれん)武松の兄嫁で絶世の美女。二次創作小説金瓶梅の主人公。
- 羅真人(らしんじん)公孫勝の師で強大な法力を持つ仙人。
[編集] 備考
- 水滸伝で登場人物の身長を表す際つかわれている単位は当然尺である。水滸伝の舞台となる宋代の一尺は約30,9cmまたは約32,9cmであるが、これをこのまま当てはめると身の丈八尺、九尺という人物が多い好漢達はみな身長が250cm以上の巨人ということになり小柄とされる七尺の宋江や燕青でさえ180cmの長身の持ち主になってしまい流石に無理がある。実際作中では当時講談や物語上の単位として一般的に流布していた三国時代の一尺(約24cm)が基準になっているようである。
[編集] 関連項目
- 水滸伝 - 横山光輝のコミック版。少年誌連載の都合上、残虐なシーンなどがカットされ、武松などは外伝しか登場しない。
- 絵巻水滸伝 -1998年からWEB上で無料公開されている新釈水滸伝。製作はキノトロープ。イラストは正子公也、テキストは森下翠が担当している。絵巻という方式を用い、フルカラーのイラストがふんだんに盛り込まれている。内容は原典の設定を踏襲しつつ、独自の解釈を加えることによって、現代日本人にも共感できるよう工夫されている。2006年、魁星出版より全十巻の刊行が始まった。
- 北方謙三 水滸伝 - 北方謙三が集英社の『小説すばる』に連載した長編小説。全19巻。梁山泊を国に見立てて北宋と戦い、革命・アナーキー的要素が強い、一〇八星が揃う前に死ぬ好漢が登場するなど、内容が原作から大幅に変わっている。現在、『小説すばる』にて『続・水滸楊令伝』が連載中。
- 水滸伝 (テレビドラマ) - 中村敦夫主演。1973年10月~1974年3月日本テレビ系で放送されたテレビドラマ。
- 水滸伝 (ゲーム) - 天命の誓い、天導一〇八星 光栄から発売された、『水滸伝』を元にしたシミュレーションゲーム。
- 幻想水滸伝シリーズ - 『水滸伝』をファンタジーに翻案したロールプレイングゲーム。
- 水辺物語 『水滸伝』のファンタジー漫画化作品
- 妖世紀水滸伝 - 『水滸伝』のファンタジー小説化作品もしくはアニメ化作品。
- 水滸後伝 - 靖康の変、李俊の後日譚を敷衍し生き残った百八星が再び集結する過程を描いた小説。