Privacy Policy Cookie Policy Terms and Conditions 平均律 - Wikipedia

平均律

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Disambiguationこの項目では調律法の平均律について説明しています。バッハの作品については平均律クラヴィーア曲集をご覧ください。

平均律(へいきんりつ)とは、1オクターブなどの音程を均等な周波数比で分割した音律である。一般には十二平均律のことを指すことが多い。

目次

[編集] 十二平均律

十二平均律とは、一オクターブを12等分した音律である。隣り合う音の周波数比は\!\sqrt[12]{2}:1で、これは西洋音楽の半音にあたる。

一般的に、2音が単純な周波数比にある時、美しく響く状態になる。このような音程を純正音程と呼び、調律法ではこれを利用して音階を定める。例えば、ドとソの幅にあたる完全5度は、2:3(1.5倍)の周波数比である。また、1オクターブは1:2(2倍)となる。しかし、このような純正音程で通常の西洋音階は作成しようとすると矛盾がおこる。例えば、完全5度は12回上方に積み重ねると、12種類全ての音を経由して7オクターブ上の音程に到達する。しかし、周波数比の3/2は12乗しても2の7乗にはならない。このように、ある音程(例えば5度)を全て純正に保とうとすると、他の音程(例えばオクターブ)が純正にならないといった現象が避けられない(ピタゴラスコンマシントニックコンマ参照)。

こういった矛盾を解決するため、歴史上様々な調律法が試みられてきていて、その一つが十二平均律で、それに先行するのが純正律やウェル・テンペラメント(英語Well-Tempered、ドイツ語 wohltemperiert)などの古典調律である。

純正律は、多用する音程をなるべく多く、純正にしようとする調律法。

  • 一般には、調を決めてその調でよく使う音のみを純正音程から導く
  • 音程の幅が不定であり、例えばハ長調の純正音程の場合、ド - ミは純正音程による美しい響きになるが、ファ#-ラ#は周波数比が大きく崩れる。
  • 転調移調により、別の調を演奏するには調律し直さなければいけない。
  • 調律し直した場合、調の変更は基準ピッチの変更に等しく、全ての調が同じ響きになる。

ウェル・テンペラメントは、調によって純正にする音程を変えることで、純正律において特定の音程の響きが著しく悪くなるのを解決した調律法。

  • 一般には、シャープやフラットの少ない調では3度を純正音程に近く、シャープやフラットの多い調では5度を純正音程に近くする。
  • 音程の幅が不定であり、調によって和音の響きや旋律の表情が異なる。
  • 調律し直すことなく転調移調ができる。
  • 調の変更による響きやの変化を利用できる。

十二平均律は、12音全ての音を純正音程から均等にずらした調律法。

  • 各音の音程の幅が一定であり、どの音の間でも同じ音程なら同じ響きになる。
  • 全ての三度と五度の周波数の比が簡単な整数比からずれていてどの音程も一様に響きが悪くなる。
  • 調律し直すことなく転調移調ができる
  • 調の変更は基準ピッチの変更に等しく、調の変更による表情の変化は利用できない。
  • ギターなどのフレット付き弦楽器の製作が容易になる。

純正律では、二つの音を同時に出し、完全に響き合うように、またはうなりが消えるように調律できるのに対し、ウェルテンペラメントや十二平均律ではそれができず、機械的な手法か、耳を十分に慣らした上で調律する(一定時間内のうなりの回数を数えるなどという手法もある)といった方法がとられる。ゆえに、ピアノでは演奏家ではなく専門の調律師によってのみ調律されることとなった。

音程 十二平均律での周波数比 数値 純正律(参考)
完全一度   1 1.000000 1 = 1.000000 0.00%
短二度 \sqrt[12]{2^1} = \sqrt[12]{2} 1.059463 16/15 = 1.066667 -0.68%
長二度 \sqrt[12]{2^2} = \sqrt[6]{2} 1.122462 9/8 = 1.125000 -0.23%
短三度 \sqrt[12]{2^3} = \sqrt[4]{2} 1.189207 6/5 = 1.200000 -0.91%
長三度 \sqrt[12]{2^4} = \sqrt[3]{2} 1.259921 5/4 = 1.250000 +0.79%
完全四度 \sqrt[12]{2^5} = \sqrt[12]{32} 1.334840 4/3 = 1.333333 +0.11%
減五度 \sqrt[12]{2^6} = \sqrt{2} 1.414214 7/5 = 1.400000 +1.02%
完全五度 \sqrt[12]{2^7} = \sqrt[12]{128} 1.498307 3/2 = 1.500000 -0.11%
短六度 \sqrt[12]{2^8} = \sqrt[3]{4} 1.587401 8/5 = 1.600000 -0.79%
長六度 \sqrt[12]{2^9} = \sqrt[4]{8} 1.681793 5/3 = 1.666667 +0.90%
短七度 \sqrt[12]{2^{10}} = \sqrt[6]{32} 1.781797 16/9 = 1.777778 +0.23%
長七度 \sqrt[12]{2^{11}} = \sqrt[12]{2048} 1.887749 15/8 = 1.875000 +0.68%
完全八度 \sqrt[12]{2^{12}} = {2} 2.000000 2/1 = 2.000000 0.00%

[編集] 歴史

中国では、「十二律」という名前がすでに春秋時代に見られる。

編鐘は古代から伝わる音階の異なるをいくつも並べて吊るした楽器だが、湖北省随県の曽侯乙墓(戦国(前475~前221年)時代初期の曽国(南方姫姓諸侯国)の支配者の墓)から発掘された完全なセットの編鐘は一二の半音を演奏でき、事実上の十二平均律が既にその時代に存在していた事を窺わせる。

またその計算は漢代から論ぜられており、南北朝の宋の元嘉24年(447年)ころに、何承天(370年 - 447年)がほぼ十二平均律に近いものを算出している。の万暦24年(1596年)には、朱載堉(1573年 - 1619年)が『律呂精義』(1584年)において十二律の各音程を平均化して、現在の十二平均律とほとんど同様のものを発表しているが、実用化はされなかった。

朱の計算方法は、まずオクターブを平方根で2等分して増4度/減5度(3全音)を得、次いでそれを平方根で2等分して短3度(1全音と半音)を得、最後にこれを立方根で3等分して短2度(半音)を得るものだった。また朱はオクターブを9尺:4.5尺とした管長で平均律の各音を求めたが、その誤差は±0.3セント未満と、後述のステヴィン(1585年)よりも高い精度を得ている。なお、朱は古代からの十二律に用いられた三分損益法(ヨーロッパのピュタゴラス音律に相当)を補正して平均化するという発想から平均律を求めた。

日本では和算家の中根璋が「律原発揮(元禄5年、1692年)」において、1オクターブを12乗根に開き12平均律を作る方法を発表した。

インドでははっきりしないが、カルナータカ音楽(南インド古典音楽)の世界における17世紀の理論家ヴェーンカタマキーの72メーラカルタ理論は、オクターブを12半音に分ける考え方をとっている。

ヨーロッパではまずアリストクセノス(前4世紀ごろ)が数比に依拠するピュタゴラス派の音楽理論を批判して、音律は聴覚によって判断されなければならないとし、全音を12等分してテトラコルドの分割を説明した(12等分したのは、半音、4分音と3分音を記述するためだったと推定される)。アリストクセノスはオクターブを12等分するという意味での平均律は記述していないが、感覚的に「全音は半音2つ、全音2つと半音ひとつで完全4度」と規定した点は平均律の発想の祖といってよい。

平均律の理論的記述が始まるのは16世紀初頭からで、たとえばサリナス(1577年)はメソラビウムという器具を用いて幾何学的に中間比を求める方法で平均律を記述している。またヴィンチェンツォ・ガリレイ(1581年)は半音を17:18(99セント)としてリュートなどの調弦を行う方法を述べているが、これはじゅうぶん実用になる平均律とみなせる。

平均律を2の12乗根として最初に数学的に記述したのはステヴィン(1585年)で、彼はオクターブを10000:5000として整数比で平均律を記述した。ステヴィンの平均律の理論値からの誤差は±0.43セント未満である。後にマラン・メルセンヌ1588年 - 1648年)は「Harmonie universelle」(1636年)においてオクターブを2000000:1000000として、ほぼ完璧に平均律を記述した(従来はこのメルセンヌをもって平均律が確立されたとすることが多かった)。

また一般に平均律は19世紀半ばにピアノ調律に採用され、その後全楽器に広まったとされているが、上述の歴史をふまえるなら17世紀初頭には一定の精度で、また一定の範囲で実用化されていたと考えられる。G.フレスコバルディ(1583年 - 1643年)、J.J.フローベルガー(1616年 - 1667年)がすでに平均律を使用していたという説もある。

また平均律の実用的なメリットについて、ツァルリーノGioseffo Zarlino(1517-1590)は《音楽的補足 Sopplimenti musicali》(1588)の中で、シシリーの聖マルティノ修道院長ジロラモ・ロセッリの言葉として以下のように述べている。

 「ディアパソンあるいはオクターブを12の均等な部分に分割する方法によって・・・歌手、楽器奏者、作曲家が以下のようなことが可能になるので、すべての困難が軽減される・・・すなわち12の音のうち、どこからでも『ドレミファソラ』と歌ったり楽器を奏したりできるようになり、すべての音を経過することができる(彼ロセッリはこれを円環音楽と呼ぶ)。このためにすべての楽器が調律を維持でき、ユニゾンで演奏でき、そして彼によればオルガンの音が高すぎることも、低すぎることもなくなる」(Lindley 1980)

 この記述では、まず広く知られているように平均律では1オクターブ内の12個のいずれの音を主音としても長短調を演奏できることが述べられているが、さらに重要なのは「平均律が合奏に適している」という指摘がなされている点である。弦楽器や管楽器は鍵盤楽器ほどには音律に関して固定されておらず、意図するにせよしないにせよ、音高は柔軟に変化する。フレットなしの弦楽器では、持続音の音高の変動はしばしば半音近くにまで達する。

 このような楽器と鍵盤楽器の合奏において、半音階が不均等な中全音律では、合奏する楽器によっては極めて不快な響きが生じる。このような場合には、むしろしばしば古典調律支持者がいうところの「平均律の没個性」が好ましいことになるだろう。「オルガンの音が高すぎることも低すぎることもない」という記述は、すべての調において音程が均質化される平均律の特性が、さまざまなピッチの管弦楽器と合奏する際に好都合であることを述べたものと解釈できる。

  しかしながら、多くの音楽家の見解は【確かに合理的かもしれないが、余りにも音楽の実践とかけ離れすぎた』この音律を積極的に用いることは避けていた模様である。

 いずれにせよ、一部の古典調律支持者や純正律支持者が主張する「平均律は19世紀の産物」という言説は誤解を招くものであり、慎重に検討されなければならない。

しばしば議論の対象となるヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685年 - 1750年)の『平均律クラヴィーア曲集』(原題 "Das wohltemperierte Clavier")Wohltemperierte Clavier I. IIについては、かつてはバッハが平均律を用いれば、オクターブの12の音を主音とする24の長短調で作曲できることを示したものとされていた。その後、20世紀後半に古楽研究が進むにつれて中全音律(ミーントーン)をはじめとする古典調律への関心が高まり、一部の研究者は「Wohltemperierteとは12平均律ではなく『よく調整された音律』である」と主張するようになり、これに伴って平均律バッシングとでも呼ぶべき現象が生じた。しかし、バッハが使用したとされる(確証はない)ヴェルクマイスター(ハ調ト調(白盤)ではミーントーンに、嬰ハ調(黒盤)では純五度でピタゴラス音律に近くなる)やキルンベルガーの調律法は本来の中全音律(アロンのミーントーン)に比べればはるかに平均律に近いものであり、転調範囲も広く、仮にバッハがそれらを用いたとしても、それは「平均律ではない音律」あるいは「中全音律に近い音律」としてではなく、「限りなく平均律に近い音律」として用いた可能性は否定できないし、バッハが平均律を用いていた可能性も依然として否定できない。この議論は歴史的事実に基づくというよりは19世紀的なものへの反動、合理主義的な音律への反動といった側面を考慮しつつ、現代的な演奏様式(平均律)と歴史的な演奏様式(古典調律)の対立の構図の中で批判的に考察されるべきだろう。

その他の楽器では、マリンバなどの有鍵打楽器も十二平均律に近い調律がなされている。また、電子オルガンシンセサイザーなどの電子鍵盤楽器も十二平均律を基準にしているものが多い。ただし、近年、古典調律、さらには自由な調律法に変更可能な機能を持つものが増えている。また、声楽はもちろん金管楽器擦弦楽器などでは、演奏時に奏者の様々な微調節が行われ、フレーズに応じた調律法がその都度選択されることが多い。ギターなどフレットを備えた撥弦楽器音孔を備えた木管楽器でも弦の押さえ方等奏法上のくふうである程度の調節がきく。

十二平均律は全ての音を均等に扱えることから「無調」の音楽や十二音技法に適すると考えられ、これらの音楽は十二平均律で演奏される事が多い。一方、古典的なローマ数字による和声法やポピュラー音楽のコードネーム・コード進行による和声理論と十二平均律の普及との間には因果関係は無く、様々な調律法による演奏が試みられている。

[編集] 批判

十二平均律に対しては、以下のような批判がある。

  • ジャン=ジャック・ルソーはその著作『近代音楽論究』で十二平均律を批判している。
  • 19世紀に十二平均律が導入されたとき、グスタフ・マーラーは、ミーントーンの調律がされなくなったことは西洋音楽にとって大きな損失だと嘆いた。
  • マックス・ヴェーバーは『音楽社会学』(1910年頃)で、ピアノで音感訓練を行なうようになった事で精微な聴覚が得られないことは明らかだと記述した。
  • ハリー・パーチ、ルー・ハリソン、ラ・モンテ・ヤングなど、現代音楽で十二平均律を使用しない試みがなされている。

[編集] 批判に対する反論

上の批判には、平均律が美しくないとは言えないという反論もある。

まず、和音の各音の周波数比が単純ならば和音が美しいということの根拠がないことである。確かに最も多く使われる長三和音は4:5:6の周波数比で作ることができるが、だからといって「周波数比が単純ならば和音が美しい」とはいえない。たとえば、長三和音と同じく多く使われる短三和音は、10:12:15であり、不協和音とされる減三和音(5:6:7など)より遙かに「複雑な」周波数比である。

ついで、4:5:6や20:24:30の周波数比が「美しい」からと言って、それからいくらかずれると「美しくない」とは言い切れないのである。たしかに大きくずれると「美しくなく」なるだろうが、平均律程度にずれたことによってそれを美しくないと感じるかどうか。仮に「美しくない」と感じる人がいたとしてもそうでない人もいるだろうということである。また、もしずれることが美しくないならば、なぜヴァイオリン属の楽器はヴィブラートをかけるのだろうかというのである。

さらには、たとえばピアノの場合、平均律に調律することによって、単純な周波数比からいくらかずれ、それによってうなりが生じる。それが程良いヴィブラートに感ずる、とする論もある。

[編集] その他の平均律

平均律は、1オクターブを12等分する十二平均律のみが存在するわけではない。理論的追求によって53平均律というものも存在する(ボーザンケット, R.H.M.Bosanquet(1876に53平均律を用いて1オクターブに53の鍵盤を持つ楽器を発表したが演奏が困難で実用されたとは言い難い)、田中正平(18621945 大正時代頃の音響学者。純正調リードオルガンを作製)など)。

現在のトルコ古典音楽では、8:9の音程比の全音つまり約203.910セントの音程を9等分する、という音程を最小の音程として使う。約203.910セントの全音を9等分した音程は約22.6セント、53平均律の1律は約22.642セントであり、これは事実上53平均律にかなり近い。

東南アジアインドネシアジャワ島バリ島のサロン・デムンには5平均律に調律されているものが若干ある。ただし1律に許される誤差が十二平均律より大きいので、十二平均律に慣れたわれわれの耳には正確な5平均律に聞こえないことが多い。東アフリカのウガンダで用いられる木琴も5平均律に調律されている。

タイ王国古典音楽で用いられる木琴ラナート・エークは7平均律に調律される。これは西洋音楽で言うところの、いわゆる移調の便宜をはかったためにこうなったものである。また、東南アフリカのモザンビークのチョピ族の木琴も7平均律に調律されている。

その他

[編集] 参考文献

  • 平凡社『音楽大事典』 1983.12 ISBN 458212500XC0573 - 「音律」項;小泉文夫、岸辺成雄、平野健次による執筆部分、白砂昭一による音律表、「インド」項;的場裕子による執筆部分
  • Lindley, Mark. 1980. "Temperament" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians. vol. 18, pp.660-674
  • 山本建郎.2001.「アリストクセノス『ハルモニア原論』の研究」.東海大学出版会.
  • 『響きの考古学 ―音律の世界史 はじめて音楽と出会う本』藤枝守、音楽之友社、ISBN 427633084x(1998年6月刊)
  • 『音の後進国日本―純正律のすすめ』玉木宏樹、文化創作出版、ISBN 4893871587(1998年1月刊)
  • アニタ・T.サリヴァン 岡田作彦 訳 『ピアノと平均律の謎』調律師が見た音の世界 白揚社 ISBN 4826901232
  • 平島達司 『ゼロ・ビートの再発見』「平均律」への疑問と「古典音律」をめぐって ショパン ISBN 4883641783

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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