孫子 (書物)
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孫武の子孫といわれる孫臏も兵法書を著しており、漢書芸文志では、孫武のものを『呉孫子』、孫臏のものを『斉孫子』として両書を明確に区別していた。しかし、片方が早くに散逸し、まるで別人の著作が入り混じりどれが誰の著作か解らなくなっていた。後漢・魏の曹操が分類しまとめ上げたもの(魏武帝註孫子)が現在に伝わっている。山東省銀雀山の前漢時代の墳墓から、竹簡孫子が発見され、両書が別の竹簡の写本として存在し、従来伝えられる『孫子』はいわゆる『呉孫子』の原型をほぼとどめたものであることが確認された。なお、現在では孫臏のものを『孫臏兵法』といい『孫子』と区別する。
戦略論としての評価は非常に高く、中国人はこれを「孫子以前に兵書無く、孫子以降に兵書無し」とまで評する。 クラウセヴィッツの戦争論と並び、東西の二大戦争書とも呼ばれる。 実際、古代の書物でありながら応用性の高さから現代でも(ビジネスなどの戦略においても)通用するとされ、研究書は数多く出版されている。
目次 |
[編集] 孫子の篇名
- 始計篇
- 作戦篇
- 謀攻篇
- 軍計篇
- 兵勢篇
- 虚実篇
- 軍争篇
- 九変篇
- 行軍篇
- 地形篇
- 九地篇
- 火攻篇
- 用間篇
以上の十三篇からなり、底本の違いによって順番やタイトルが僅かに違う。今の形式に分けたのは三国時代の英雄、曹操。 (前漢の武帝の墳墓から)ではなく 前漢の武帝の頃の墳墓から
[編集] 孫子の意義
『孫子』の成立は春秋時代であるが、それ以前の中国では戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かった。孫武は戦史研究の結果から、戦争には勝った理由、負けた理由があり得ることを分析したのである。孫武は呉に将軍として迎えられ、実践の場でその理論の有用性を示した。
『孫子』の思想は、
- 戦争をすることは多大な被害をもたらすので、他の方策を採れるならばそちらの方が良いと説く。
- 兵は国の大事にして、死生の地、存亡の地なり。察せざるべからず。
- 戦争は国家の大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。良く考えねばならない。
- 国を全くするを上となし、国を破るは之に継ぐ。(中略)是の故に百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり
- 自国に損害がないことが上策であり、敵国を破るのはその次である。それ故に百回戦って百回勝ったとしても、最善の策とはいえない。戦わないで敵を降服させることこそが、最善の策なのである
- 兵は国の大事にして、死生の地、存亡の地なり。察せざるべからず。
- そして戦争をするならば、その前段階の準備が大切であると説く。
- 算多きは勝つ
- 算は勝算のこと。この文の前に「廟算するに、勝つ者は、算を得ること多し」と書かれている。廟算とは開戦の前の軍議のことで、すなわち事前に周到な準備を行い、そこで勝っているものが勝つということである。
- 彼を知り己を知れば百戦殆うからず。彼を知らずして己を知るは一勝一敗す。彼を知らずして己を知らずは戦えば必ず破れる。
- 敵の実力などを知り、さらに自分の実力をきちんと把握することが大切と説いている。
- 勝兵はまず勝ちて後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求む
- 勝つ者は事前の準備ですでに勝つ体勢を整えた後に戦いを行い、負ける者は戦った後に勝つにはどうすれば良いかと考える。
- 算多きは勝つ
- 実際の戦闘に入った後は、相手の形をよく把握し、相手に自分の形を悟らせず戦い、速戦即決で戦略的目的を達成することが大切と説く。
- 戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ
- 敵と対峙するときは、「正」すなわち正規の作戦を採用し、敵を破るときは、「奇」すなわち奇襲作戦を採用する。
- 色は五に過ぎざるも、五色の変はあげて観るべからず
- 色は原色の組み合わせでしかないが組み合わせることで無限の色彩ができるように、戦略は正攻法と奇攻法の組み合わせによって無限のパターンが生まれると指摘している。
- 善く攻むる者には、敵、その守る所を知らず。善く守る者は、敵、其の攻むる所を知らず。
- 攻撃の巧みな者にかかると、敵はどこを守ってよいのかわからなくなる。守備の巧みな者にかかると敵はどこを攻めてよいのか解らなくなる。
- 兵は詭道なり
- 戦いは、騙し合いである
- その疾きこと風の如く、その徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し
- 疾風のように行動するかと思えば、林のように静まりかえる。燃えさかる火のように襲撃するかと思えば、山のごとく微動だにしない(俗に言う風林火山の元になったものである)
- 兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるをみざるなり
- 多少まずいやり方で短期決戦に出る事はあっても、長期戦に持ち込んで成功した例は知らない
- これは、戦争が国家に人的、物的に多大な損害を与えるので、長期戦になれば、たとえ勝利しても自国の疲弊は免れない為である
- 戦勝巧取してその功を修めざるは凶なり
- 敵を攻め破り、敵城を奪取しても、戦争目的を達成できなければ結果は失敗である
- 戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ
[編集] 孫子を学んだ偉人
- 曹操
- 武田信玄
- 毛利元就
- 吉備真備
- 北畠親房
- 毛沢東
- ホー・チ・ミン
- ヴィルヘルムII世
- 第一次世界大戦後に亡命先のロンドンで孫子を読み、「二十年前にこの書を読んでいたなら、あのような惨めな敗戦はまぬがれたであろう」と嘆いたという。
- その他、チェ・ゲバラ、フランクリン・ルーズベルトなど多くの偉人が孫子を学んだ。
[編集] 刊行書
- 岩波書店[岩波文庫]、金谷治訳。ISBN 4003320719
- 中央公論新社[中公文庫BIBLIO]、町田三郎訳。ISBN 4122039401
- 講談社[講談社学術文庫]、浅野裕一訳。ISBN 4061592831
[編集] 関連事項
[編集] 外部リンク
- N-gramモデルを利用して先秦文献の成書時期を探る『孫子』十三篇を事例として 山田 崇仁
- 孫子の世界
- 『魏武帝註孫子』原文平津館刊顧千里摸本
- 「孫子の兵法」名言集
- 錬平館 孫子十一家注孫子