マルタ騎士団
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マルタ騎士団(マルタきしだん―Sovereign Military Order of Malta)は、カトリックの騎士修道会であり、国際連合にオブザーバーとして参加する主権実体(sovereign entity)である。十字軍時代のパレスチナに発祥した聖ヨハネ騎士団が現在まで存続したもので、正式名称はロードスおよびマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会(伊:Sovrano Militare Ordine Ospedaliero di San Giovanni di Gerusalemme di Rhodi e di Malta, 英:Sovereign Military Hospitaller Order of St. John of Jerusalem of Rhodes and of Malta)という。
第1回十字軍の後、1100年ごろ、巡礼保護を目的としてエルサレムで設立された。正式名称から明らかなように病院をもち、ことに病気になった巡礼の保護に務めた。十字軍勢力がパレスチナから追われた後はロードス島を根拠とし、聖地巡礼をするキリスト教徒の重要な経由地の守護者、ムスリム(イスラム教徒)に対する聖戦の実行者として活躍したが、1522年、オスマン帝国のスレイマン1世によりロードス島は陥落。本拠をマルタ島に移して、マルタ騎士団と呼ばれるようになった。しかし1798年、ナポレオン・ボナパルトの侵攻によりマルタ島を奪われ、領土を失う。
領土を失った後も、マルタ騎士団は伝統的に独立国家と同様の主権を有しているとされるが、正確な性質は不明瞭である。本部として、ローマに建物一棟を保有し、バチカンのようにイタリアから独立領土として承認されてはいないものの、建物内はイタリアから治外法権を認められた領域である。従って、これを一種の大使館と見なすこともできる。しかしその建物はあくまでイタリアの主権範囲であり、治外法権が認められただけであるため、領土とは呼べず、実質領土のない国である。(国家と見なして、マルタ騎士団国と日本語で呼ばれることもある)。
国連は、マルタ騎士団を「非加盟国」としてではなく、「オブザーバーとして参加するために招待を受ける実体(entity)あるいは国際組織」のひとつとして扱っており、国としては認めていない。マルタ騎士団は世界の約94か国と外交関係を持ち、在外公館を保有しているが、2006年現在、日本はマルタ騎士団を国として承認しておらず、外交関係も持たない。
医療などの慈善活動を行っており、独自のコインや切手を発行している。また、イタリア入国とは別に入境に際して許可の取得が必要である。
騎士団総長はカトリック教会の修道会の総長として、伝統的に枢機卿の任命を受けているが、枢機卿のほとんどが聖職者である現代においては、あくまで名誉的なものである。
アマチュア無線の世界では、一部の領有権紛争対象地と同様の“帰属地未定区域”を表す国籍符号(1A)が特別に割り当てられており、クラブ局(局名:1A0KM―Knights of Maltaの略)も存在する。しかし、自らの希少性を保つため無線局の運用を意図的に制限しているとしばしば噂され、偽物が登場することも少なくない。また、アマチュア無線の世界でのentity資格に対し疑問を呈する意見があることも事実である。