スーパーチャージャー
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スーパーチャージャーとは、過給器の方式のひとつ。本来は排気タービン式を含めた過給器全般を指す用語であったが、それらはターボチャージャーと呼ばれるようになったため、現在スーパーチャージャーと呼ぶ場合は、クランクシャフトからの動力によって過給器を駆動する方式のものを指すことが多い。圧縮機の種類により遠心式、ルーツ式、リショルム式等がある。
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[編集] 方式
[編集] 遠心式
自動車用にも使用されることもあるが主にレシプロ航空機用エンジンに使用された。第二次世界大戦の頃に発展を極め、二段過給方式のものも開発された。その中でもロールスロイス・マーリンエンジンは究極とされる。航空機用では、遠心式とターボ過給の組み合わせが普遍的であった。
[編集] ルーツ式
元々は産業用の送風機として開発された。1860年にルーツ兄弟が溶鉱炉の送風機として特許が取得された。その後、1900年にゴットリーブ・ダイムラーにより特許を取られたエンジンに過給器として使われた。ふたつのローターが噛み合い吸気を吐出することによって過給する。内部圧縮はなく高圧過給には向いていないが、かつては二段過給もレース用エンジンには使用された。旧来のものは断面が繭型の二葉式であり、加工が簡単なためにこれが多用された。現在はねじれた三葉式のものが用いられる。二葉式と三葉式では吸気、吐出部位が異なる。
[編集] リショルム式
ルーツ式と同じ様にふたつのローターを持つが、ルーツ式と異なり内部圧縮があり、高圧過給でも効率が落ちない。産業用にも広く用いられる。詳細はリショルム・コンプレッサ。
[編集] その他
ベーン式、スクロール式、プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー等があったが今は用いられない。
ターボチャージャーと組み合せて、低回転域をスーパーチャージャーで、高回転域をターボチャージャーで過給する方式を取る場合もあるが、高コストになるためこれも採用例は少ない。
[編集] 基本的な構成と特徴
エンジンの出力軸から直接ベルト等を介して圧縮機(コンプレッサ)を回転させ、空気を圧縮してエンジン内に送り込む。ターボチャージャーと比較してスロットル(アクセル)開度に対する反応が優れる、低回転域の過給効果が高いなどのメリットがあるが、常に圧縮機を回転させているためエンジンの効率が落ちる、高回転域の出力がターボチャージャーに比べ劣るなどのデメリットがある。また、機械的な構造を伴うため製造コストが高くなりやすく、重量も重くなる。これは、コンプレッサー本体によるものも大きいが、付随するインタークーラーとその配管類によるところが大きい。また、動力断続機構を持たないタイプのスーパーチャージャーはアイドリング状態でも常に過給圧がかかるので燃費はかなり悪化する。 その過給特性や構造から、オートマチックトランスミッション向きの過給システムである、ということがよく言われる。これを採用しているメーカーはダイムラークライスラーのメルセデス・ベンツであり、Cクラス、CLKクラス、SLKクラス、AMG 55シリーズの一部に搭載されている。フロント左右フェンダー及びトランクドアに「KOMPRESSOR」のエンブレムがついているものがそれであるが、一般道路を走行する場合に必ずしも恩恵を受けられる機構ではない。トヨタのそれに比べ、スロットルレスポンスが鈍く、いきなり、しかも「かなり」踏み込まないとコンプレッサーが動き始めない。高速道路の合流等でキックダウンと併用する場合等に恩恵にあずかることができるシステムといえるが、ストップアンドゴーが多く圧縮比の低いそのエンジンが日本の道路事情に向いているとは言い難い。
[編集] 日本車のスーパーチャージャー
日本においては、自動車用エンジンの過給器としては、ターボチャージャーと比較すると採用例が少ない。これは、多くの日本車のエンジンは排気量が小さい、つまりトルクが小さいことが一番の要因。出力に対してのメカニカルロスの割合が大きく、かえって効率を下げる結果になる。
ただし日本のスーパーチャージャーの製造技術が劣っているわけでは決してなく、海外のハイパフォーマンスカーや、プレジャーボート用エンジンにはIHIや小倉クラッチ製のスーパーチャージャーは、数多くの採用例がある。
日本の内燃機関技術、ターボチャージャー技術が極度に高く、ターボチャージャーのデメリットであり、スーパーチャージャーのメリットである以下の点が相殺されてしまっている為、スーパーチャージャーの採用実績が上がらなかった為である。
- 排気によってタービンが回りコンプレッサーが有効圧力を獲得するまでのいわゆる「ターボ・ラグ」の有無
- 前項と、過給器に対応する為の圧縮比引き下げを理由として生じる低回転域でのトルク不足
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- これらはターボ小形化によって、低回転域から過給が可能となり、スーパーチャージャーの利点とは言い難くなった
- タービンにおける排気温度低下による触媒での排ガス浄化効率の悪化
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- 日本の自動車メーカーは当初、出力低下を嫌って後処理装置である触媒に頼らない方法を開発した為、後になって補助的に採用したに過ぎない。
- 補機類の搭載による重量増
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- 小形ターボにおいてはウェスト・ゲートを用いないなど、補機類を簡略化、あるいは軽量化されている。
- 高温下で長時間晒される可動部品が追加されることによる信頼性・耐久性の低下、及び潤滑油の管理の厳密化。
[編集] トヨタ自動車
トヨタは一時期、ルーツブロアー式スーパーチャージャーにご執心で、MR2、レビン、トレノの4A-G、クラウン、マークIIの1G-G、エスティマの2TZに設定があった。
これらは、もともとトルク不足が指摘されていたものばかりであるが、4A-Gは熱と爆発圧力への耐性、2TZは床下配置によるインテークパイプの取り回しの難やタービン本体による熱害と、それぞれターボ化には踏み切れない理由があった。1G-Gに関してもツインターボ版が開発されていたが、低圧縮比化と段付き過給でドライバビリティーの改善は見られなかったことから、低速トルクが要求される車種についてはスーパーチャージャーが選択されることになった。
スーパーチャージャーへの動力伝達は電磁クラッチを介して行われ、車速やスロットル開度、エンジン回転数を検知して、スーパーチャージャーが抵抗になるような条件下では、電磁クラッチを切り、出力損失を抑える制御とされていた。
MR2、同クラウンおよびマークIIなどがある。これらに搭載されたエンジンは、もともと自然吸気のエンジン(4A-G,1G-G)であり、圧縮比を下げ、補機類のマウント位置・エンジンルーム内の部品配置を変更し、ルーツブロアー式スーパーチャージャーを組み付けたものである(4A-GZ,1G-GZ)。 アイドリング状態では電磁クラッチによりスーパーチャージャー本体への駆動力は伝達されていない。トヨタのスーパーチャージャー車は、スピードセンサーが走行状態を検知してはじめて過給を開始するようになっている。
走行時、アクセルペダルを踏み込むと、スロットルバタフライに取り付けられたセンサーがスロットル開度を読み込み、電磁クラッチのリレーをONにする。すると、機械的な回転音を伴ったエンジン回転数の上昇と共にトルクが増大する。クランク軸から動力を得る、という構造上、高回転を多用するにはあまり向かない(プーリー・ベルトを含む駆動系が抵抗になってしまい、レブリミット寸前で十数馬力のロスと言われる)。一般的なルーツブロアー式スーパーチャージャーの最大許容回転数は約9000回転/分である。高回転化改造をされたスーパーチャージャーエンジン搭載車は、ある程度以上の回転数になった場合に電磁クラッチによって動力を切断し、カムのプロファイルを変更して高回転向きにする等の高度な制御を必要とする。
[編集] 日産自動車
日産自動車では、スーパーチャージャーとターボを組み合わせた過給装置が初代マーチに搭載された。これは当時過給装置がまだ発展途上の時代であり、ターボだけではターボラグが大きく、スーパーチャージャーのみでは高回転時に過給不足になるためである。
[編集] 富士重工業の軽自動車
1986年、スバル・レックスのフルモデルチェンジ(ただし、そのスーパーチャージャー仕様は1988年の登場まで待たなければならなかった)で、それまでのターボに替えて採用した。トヨタの方式と異なり、吸気管内圧力を利用して開閉する、過給気バイパスバルブにより走行負荷状態に応じて過給をON,OFFする方式を採用している。電磁クラッチ制御方式よりもアクセル開閉に対するレスポンスが良く、クラッチ騒音も発生しないなどの特徴を有している。軽自動車は元々エンジンの定格回転数が高めに設定されている為、中小型車よりも相性が良い。1992年の軽自動車規格拡大(660cc旧)の際、SOHCでありながら「高回転域でも他社のターボに劣らなくなった」と言われている。その後、スバル・ヴィヴィオ、スバル・プレオと受け継がれた。
また、スバル・プレオでは、低回転域でトルクを補う為の低圧過給を、日本車としてははじめて本格的に採用した(マイルドチャージ)。これと同じ概念の技術は他社でも開発されたが、いずれもターボチャージャーを用いる方式であった。トヨタ自動車のスポーツカーでの採用がなくなったため、現在日本車でスーパーチャージャー車というと富士重工の軽自動車が代名詞的な存在になっている。
エンジンの変遷はEK23(2気筒)→EN05(550cc4気筒)→EN07(660cc4気筒)。なお、三菱自動車工業の三菱・ミニキャブシリーズでも採用された事があったが、富士重工車ほど一般に認識されること無く、三菱・ミニカとの部品共通化によりターボへと変更され消滅している。
なお、2006年11月以前では64PS(軽自動車の出力上限)の出力を有するスーパーチャージャー搭載車がハイオク仕様となるケースが多かった(ただしトヨタのスポーツカー等と異なり、レギュラーを給油しても「性能は落ちるが実用上は問題ない」と打たれている)。しかし、2006年6月に発売開始したステラのスーパーチャージャー搭載グレードはレギュラー仕様でありながら64PSの出力を有する仕様であるほか、R1S、R2 Type Sがマイナーチェンジでレギュラー仕様に変更されたため、現在ではレギュラー仕様が標準となった(無論、以前にもレックス VXのような無鉛ガソリン仕様で64psを発生させる車種も存在した)。
また、サンバーのスーパーチャージャー搭載グレードはリアエンジンを採用しインタークーラーの装着が難しいことから、58PSに設定されている。5ナンバー軽1BOXの「ディアスワゴン スーパー チャージャー」は、他社のインタークーラー付ターボチャージャーを採用する軽1BOXの出力が概ね64PSであることから、カタログ・スペック面で水をあけられている状態となっている(ただし、このクラスで必要な低速トルクという点ではターボチャージャーよりスーパーチャージャーのほうが適している点は考慮されるべきである)。一方、軽トラックの「TC スーパーチャージャー」および「TC ハイルーフ・スーパーチャージャー」は、現行車種では唯一過給器を搭載した軽トラックとなっている。
[編集] 今後
現在、自動車の環境対策が叫ばれ、排ガス規制の関係からターボチャージャー搭載の乗用車がラインナップから日々減っていく中、アフターマーケット市場を含めたスーパーチャージャーの注目度が高くなってきている。 現在、複雑化するエンジンルーム内において、エキゾーストマニホールドを含めた排気管の取り回しは触媒の活性化のため「短く」、また騒音対策のため触媒以後は「細く長め」に設計されている。ターボチャージャーは触媒よりも前(エンジン側)、エキゾーストマニホールド直後におかれ、高温の排気ガスを受け数万回転/分という超高回転をする。希薄燃焼(リーンバーン)とエンジンと触媒の距離を近づけ触媒を活性化し、排ガス規制を乗り切っている自動車メーカーにとって、低コスト、低環境負荷という形態を維持したまま高出力化するのには、このターボチャージャーが大きな足かせとなる。排気ガスの熱分をタービンで受けてしまい、触媒まで熱が伝わりづらい。結果、触媒が活性化されず排ガスがクリーンでなくなる。しかし、スーパーチャージャーであれば(排気圧の増大・吸/排気温度の高温化対策を除いて)大きな変更を要さず、コンプレッサ-インタークーラー間の配管も短くできる。形状は必ずしもルーツブロアー(繭型)である必要はなく、ターボ車のタービンを流用した形状のもの(タービン側がベルト駆動用にプーリーになっており、コンプレッサーの形状が最適化されたもの)が(テスト段階ではあるが)登場してきている。車体の重心は高くなるが、車高を若干低くしたり、エンジンマウントや補機類の最適化によって改善できる部分である。 既存のエンジンをそのままベースにでき、電磁クラッチによる断続機構を備えたスーパーチャージャーは新時代の過給システムとして再び注目を集めている。
[編集] 関連項目
- リショルム・コンプレッサ
- プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー
- ツインチャージャー
- トヨタ・MR2(AW11)
- トヨタ・クラウン(S120系/S130系)
- 日産・マーチスーパーターボ(初代)
- MA09ERT
- スバル・サンバー