ジッポー
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ジッポー(Zippo)は、アメリカ合衆国のジッポー社(Zippo Manufacturing Company)が製造する金属製オイルライターの商標である。
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[編集] 概要
このライターは、長い歴史と世界的な普及率の高さからオイルライターの代名詞となっており、またコピー商品までもが大量に出まわっていることから、オイルライターの一般名称としても認識されている。ただし厳密に言えば米ジッポー社の製品以外のコピー商品はジッポーではなく、またジッポー社の製品でもおなじみの金属ケース耐風オイルライター以外の製品もジッポーではない。
高い耐久性・耐風性と永久修理保証を誇る。1932年の発売以来、基本構造にはほとんど変化がないが、外側のケースに様々な意匠を凝らすことで豊富なバリエーションが生じており、世界各国に多くの収集家が存在する。
[編集] 沿革
- 1932年 ジッポー・マニュファクチャリング・カンパニー(Zippo Manufacturing Company)設立(創設者 ジョージ・グラント・ブレイズデル)
- 1933年 初期型のジッポーを販売(約1500個生産)
- 1936年 ジッポーライターに関する最初の特許を取得
- 1937年 1937モデル生産開始
- 1941年 1941モデル生産開始
- 1960年 操業開始以来、通算1億個製造を達成
- 1988年9月24日 操業開始以来、通算2億個製造を達成
- 1996年4月15日 操業開始以来、通算3億個製造を達成
- 2003年9月3日 操業開始以来、通算4億個製造を達成 4億個目はアーマーと呼ばれるタイプ
同社の成立当初から企業のノベルティグッズとしての路線を開拓し積極的に商品提供をしてきたため、様々な企業名の入ったバリエーションも多数見られる。喫煙具としての性格から、タバコ関連のノベルティグッズとしてマルボロやキャメルのロゴを入れた製品群や、燃料の石油製品繋がりでケンドールやブリティッシュ・ペトロリアムのロゴの入ったものなどが有名である。
なおジッポー社は、かつて短期間だがガスライターを生産したこともある。
[編集] 起源
「ジッポー」の名称起源には諸説ある。
- 創設者ジョージ・G・ブレイズデルが、ジッポーと同じく同じペンシルバニア州で発明された「ジッパー(チャック)」をもじって「ジッポー」と名づけたとする説。
- ケースを開けて点火する際の擬音からの着想説 等
しかし、正確な起源は不明である。
ジッポー開発のきっかけは、ブレイスデルの友人のライターであったと言われる。この友人は伊達をもって鳴らす洒落者だったが、なぜか作りの如何にも粗雑なオーストリア製オイルライターを使用しており、その使いにくさに悪戦苦闘していた。「もっと良い物を使ったら?」とブレイスデルがいさめたが、当人曰く「点きゃいいんでしょ!もう…!」――しかしブレイスデルは大幅な改良によって「もっと良い」ライターを開発したのであった。このエピソードは、パッケージのケースにある「It works!」の文字に残されている。
ちなみにこの友人のライターは“CYKLON”なるオイルライターだったという記録が残っている。キャップ式の蓋を持つこのライターは、当時のライターとしては機能面で洗練され、構造的にも単純であるために機械的な故障も起き難く、また風防形状から見て、かなり風のある場所でも使用できたと見られる。しかし回転ドラムの支柱が脆弱な体裁であり、使用材質や板厚から見て、強度面での難が推測される。またキャップ部分は使用時に引きぬいて取り外すため、ジッポーのように片手で使用する事は困難である。原理としては「パーマネント・マッチ」に近い物であったようである。
[編集] 構造と特徴
インサイドユニットと呼ばれる部分と、それを収納するケースから成る。
インサイドユニットの内部に収められている綿球(レーヨンボール)にオイルを吸収させ、ウィックに毛細管現象によって吸い上げさせ揮発、気化させる。フリント(発火石)とフリントホイール(回転する発火ドラム)との摩擦から発せられる火花によって引火着火する。火はフタを閉めれば、酸欠によって即座に消える。インサイドユニットは全てのレギュラーサイズのジッポーライターに共通に使用できる。つまりインサイドユニットは全て同じものを使用しており、着火性能に関してはライターの販売価格による差はない。
ケースは、インサイドユニットを収納するボトムケースとリッドと呼ばれるフタより構成され、ヒンジ(蝶番)で結合されている。リッドの内側には板が取り付けられている。この板とインサイドユニットに取り付けられたカムが接触することによりスムーズな開閉を実現すると共に、ジッポーライター独特の金属的な開閉音を響かせる。
ケースの材質は真鍮が基本で、デザイン性、意匠性を高めるため表面にクロムメッキなどが施される。またケースの材質には真鍮以外に、金、銀(Sterling Silver)、銅(Copper)、チタン(Solid Titanium)等が使われるモデルも存在する。また過去には、鉄、ニッケルなどで製造されたモデルも存在する。
ケースの底面には、一部のモデルを除き、1950年代後半よりイヤーコードと呼ばれる記号が刻印されており、これにより製造年が判別できる。1986年からはA~Lの12文字で現された製造月も刻印されている。
[編集] アメリカ軍との関係
ジッポーライターの普及には、アメリカ軍が大きく関わっている。 第二次世界大戦中、「どこでも、どんな状況でも点火できる器具」が求められ、ジッポーが注目された。ジッポーは耐風性が高く頑丈で、かつ必要最小限の構成ゆえ部品も少なく、修理も容易だった。また戦場では、燃料としてガソリンが入手できたのである。
アメリカ軍は製造元であるZippo Manufacturing Companyに軍へのライター納入を依頼した。納入された正確な数は戦闘部隊数が知られてしまうため極秘とされており不明であるが、相当の数が納入されたようである。
当時は戦時体制下で、ジッポー本来の材質である真鍮は、弾丸の薬莢用に優先して回されていた。この資材不足対策として、軍用ライターのケースの材料には鉄を使い、その上に錆止めの塗装を施した。通称「Black Crackle」というモデルである。これには後に「戦場では、光る物は反射で自分の位置を知らせてしまうので、敢えて反射止めに黒く塗ったのだ」とするもっともらしい俗説が付いた。ただ関係者筋に拠れば「苦肉の策だった」ことが明かされている。
このライターは兵士達に大変好評で「GIの友」とまで呼ばれ、PX(基地内の売店)に入荷するや基地内の兵士の間では取り合いになったという。大戦中、アメリカ軍の名将として知られ、ノルマンディー上陸作戦を指揮したドワイト・D・アイゼンハワーも「私の持っているライターの中でどんな時でも火がつくのはこれだけだ」と賞賛した。
当時は市販品製造より軍納入分の生産を優先したため、ジッポー不足は著しかった。戦地に赴く恋人のために、ある女性一市民がラジオ放送を通じ、ジッポーを譲ってくれる人を募集したというエピソードもある。
戦地で実証された耐久性の評判は、アメリカ軍兵士を通じて一般国民や諸外国にも広まり、戦後に至って世界的なヒット商品となった。日本でも第二次世界大戦以降から朝鮮戦争の好景気に沸いた時代に日本国内の米軍兵士が持っていたものの一部が伝わっており、1980年代よりはビンテージ・ジッポーの人気も上昇、1990年代頃よりは盛んにジッポー関係のムック本もワールドフォトプレスなどから出版されている。
なお、ジッポーはアメリカ合衆国軍に正式採用されたことはない。軍に供給されたジッポーライターは、全量がアメリカ軍PXでの販売用である。アメリカ軍は、戦中、国外の基地内PXで、兵士の士気を維持するために、特にアメリカ的とされる製品を多く並べた。
[編集] 取扱方法
基本的に「オイル(ナフサ)とフリントさえ切らさなければ、いつでもどこでも」使う事ができる。
ガソリンを燃料としてもナフサと同じように使うことはできるが、ナフサに比してガソリンは独特の臭気があり、煙草の香りを損なうため、喫煙用ライターの燃料としてはあまり適切ではない。第二次世界大戦中やベトナム戦争時、米国陸軍の兵士たちは、いくらでも身の回りにあったガソリンをライターの燃料に流用したという。彼らは時として、ガソリン缶にインサイドユニットを放り込んでから引き上げるという荒っぽいやり方でライターの燃料を補給していた。
オイルの注入とフリントの交換は、インサイドユニットを引き抜いて行い、オイル注入後は乾いた布で良く拭いてから使用する。オイル注入の際はオイル垂れによって周囲を汚す事があるので注意を要する。オイル垂れを放置したまま点火すると、引火など思わぬ事故に発展する事がある。
[編集] フリント(火打石)
ジッポーのフリントとウィック(芯)は、オーストリアのIMCO(イムコ)社互換品である。これはジッポー創業当時、オイルライターの分野では事実上、IMCOが世界標準規格になっていたことに起因するという。現在ではフリント、ウィックとオイルはジッポー純正品が用意されている。日本でも、コンビニエンスストアやキヨスク、煙草販売店や雑貨商等で普遍的に取り扱われており、全国各地で比較的容易に購入可能である。IMCO社製交換パーツを流用することもできるが、現在では推奨されていない。他社がIMCO規格に追従した製品(場合に拠ってはコピー商品)を製造しており、それらをジッポーに利用している使用者もいる。
フリントは発火ドラムがスムーズに回らなくなったら換え時だが、フリント押さえバネの取り外し・取り付けにコインまたはマイナスドライバー等が必要である。ネジ頭部のスリットはアメリカの1セント硬貨がジャストフィットするように作られている。次の交換の際、コインが無いと緩められないほど締め付ける必要はなく、軽く締める程度で十分である。
[編集] 修理
ジッポーは一般の人々から「非常に丈夫である」というイメージを持たれている。その堅牢な構造は、第二次世界大戦やベトナム戦争のアメリカ軍により実証されており、中には「金槌の代用品」や「簡易懐炉」として使われた例もあるが、これはさすがに乱暴な逸脱利用法である。バネ部分の金属疲労や、溶接部分やヒンジへの無理な負荷、フリントホイールへの長時間の焼き戻しなどは破損の原因になる。
ジッポーは文字通りの「永久保証」を実践していることでも有名である。アメリカ本社、またはジッポーサーヴィス(日本のみ)に故障品を郵送で送れば無償修理を受けられ、修理不能の場合は同等品と交換される。ロードローラーに轢き潰され平たくなってしまったジッポーや、粉々になったジッポーなどが試すように送られて来た時も、全て「修理不能」扱いで交換されたという。
日本国内のジッポーライター修理のサービス拠点宛先は、国内販売代理店などのサイト等を参照のこと。
[編集] 逸話と伝説
ジッポー社は、自社製ライターの強靭性などを説明するために、しばしば広告を作成した。これらのうちいくつかは都市伝説化しているが、次の逸話は、ジッポー社がライターの宣伝に実際に使ったもので、事実と考えられている。
- 第二次世界大戦中、ベルギー戦線である兵士がドイツ軍に狙撃されたが、銃弾は胸ポケットに入れていたジッポーライターに当たり、兵士は一命をとりとめた。ライターはへこんだが、オイルを入れれば今でも火がつく。
- 第二次世界大戦中、アメリカ軍艦キャボットが、乗組員に目的地を告げずに航海を続けていた。若い兵士が、著名な従軍記者のアーニー・パイルに、艦の目的地を訪ねた。パイルは兵士のジッポーライターの底に何か文字を刻み、命令があるまで見てはいけないと命じた。命令に注意するようにという合図があったときに、兵士がライターの底を見ると、「TOKYO」という文字が刻まれていた。
ただし、第二次世界大戦中に製造された黒塗りのモデルが、反射を抑えて敵に見つかるのを防ぐためだ、という逸話は、事実と異なる俗説である。実際にはこれは錆止めであった。
[編集] 関連項目
- これらも軍用でその利便性が知れ渡って普及している。ジッポー・オイルライターとセットになったパッケージも発売されている。
- ハンディウォーマーと呼ばれる白金触媒式カイロをマルカイがジッポーブランドで販売している。
- ジッポーハンディウォーマー
[編集] 外部リンク
- http://www.zippo.com/ Zippo Manufacturing Company - 米国本社(英語)
- http://www.zippo-japan.com/ ZIPPO JAPAN - 日本サイト
- http://www.marukai.co.jp/zippo/ マルカイコーポレーション - 西日本地区代理店
- http://aleph.que.ne.jp/zippo/ Aleph's Zippo Database(コレクターサイト)
- http://webooo.csidenet.com/okzippo/ OKZIPPO(コレクターサイト)