ゲシュタポ
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ゲシュタポ(独:Gestapo)とは 英語の secret state police に相当するドイツ語の Geheime Staatspolizei の略称(太字部分を読む)。いずれの国の警察においても右翼・左翼を問わずに過激な政治団体を監視する政治警察部門がある。戦前の日本では特別高等警察があった。現在は公安警察が存在する。ゲシュタポは政治警察機能を極端に肥大させ、反政府活動の弾圧組織にまで発展させたものである。
(ドイツ語の表記について:いくつもの日本語訳に混乱させられることがある。ここでは原語と訳語を併記する。ドイツ語は名詞の語頭を大文字で始め、スペースなしにいくつもの単語を連続して繋ぐ複合名詞がある。複合名詞は単語の区切りをハイフンで表記する)
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[編集] 沿革
ドイツでは憲法に基づき警察権は中央政府になく州政府に委ねられていた。1933年のナチス政権獲得後、ヘルマン・ゲーリングは、首都ベルリンの所在する国内最大の州であるプロイセン州内務大臣を任じられた。国会の最大野党である社民党の支配する赤い首都を掃除するためである。政治的敵性分子を掃除する道具としてプロイセン州警察の政治警察部門(Abteilung 1A)を1933年4月26日付通達でプロイセン州秘密警察局(Preussisches Geheimes Staats-polizei-amt)と改名した。これがゲシュタポの原点である。初代局長にルドルフ・ディールス(Rudolph Diels,在職期間:1933年-1934年)を任命した。この外、ゲーリングは、32人の現職警察署長のうち22人の首をナチス突撃隊員や親衛隊員に挿げ替えた。
1934年4月20日にゲーリングはヒムラーにゲシュタポを引き継いだ(Inspekteur des preussischen Geheimen Staatspolizeiamts)。この結果、ルドルフ・ディールス局長に代わり、ラインハルト・ハイドリッヒがプロイセン州秘密警察局長になった。
1936年6月、ヒムラーは全ドイツの警察長官(Chef der Deutschen Polizei)に任じられ、州政府の警察監督権は中央政府に移行した。ゲシュタポもプロイセン州に限らず、全ドイツを管轄することになる。ゲシュタポ(秘密警察局)はクリポ(刑事警察局)とともに保安警察(Amt Sicherheitspolizei, 略号:Sipo)に統合されてラインハルト・ハイドリヒ親衛隊大将の指揮下に入った。同じく親衛隊大将のクルト・ダリューゲは秩序警察(政治警察でない通常の警察)を指揮した。
1939年9月にラインハルト・ハイドリヒは、管轄分野を調整するために国家機関である保安警察を党機関である親衛隊の SD を新組織国家保安本部に統合し、SD は同本部の第III局(Amt III)、ゲシュタポは第IV局(Amt IV)、刑事警察は第V局(Amt V)に配置された。もはや国家機関と党機関の区別はなくなり、ナチ党が国家機関を飲み込んでしまった。
このようにゲシュタポは国家保安本部の一部局となり、ハインリッヒ・ミュラーが局長に任命された。第二次世界大戦中に、ゲシュタポは約45,000人に膨張した。かれらは、ドイツ本国ならびにヨーロッパ占領地域におけるレジスタンスの弾圧、スパイ摘発、ユダヤ人の狩り立て、反ヒトラー陰謀の捜査等に対して厳格な取扱いを行い、ヒトラードイツの暴力装置の代名詞としてヨーロッパ中を震え上がらせた。
第二次世界大戦でドイツの敗色が濃くなると次第にゲシュタポの勢力も衰退していった。ニュールンベルク裁判ではゲシュタポを含め、親衛隊の全組織は犯罪組織であると宣告された。しかし第二次世界大戦後の東ドイツでは残党はその経験や能力を買われてシュタージのメンバーとして生き残った。
ゲシュタポの本部はベルリンのプリンツ・アルブレヒト通りの旧美術学校に置かれており、空襲と市街戦で廃墟となっていたものを戦後取り壊した瓦礫の山が永らく放置されていたが、1990年代に整地され、「Topographie des Terrors」というオープンエアの展示施設が設けられている。
[編集] 階級
ゲシュタポは、先輩機関である国家刑事警察と同様な階級制を採用した。括弧内は対応する陸軍の階級である。
- Angestellter
- Kriminal-assistanten-anwärter(Unter-feldwebel)
- Kriminal-assistant im Vorbereitungsdienst(Feldwebel)
- Kriminal-assistant(Feldwebel)
- Kriminal-ober-assistant(Ober-feldwebel)
- Kriminal-sekretär(Stabs-feld-webel)
- Kriminal-ober-sekretär(Leutnant,少尉)
- Kriminal-inspektor(Ober-leutnant,中尉)
- Kriminal-kommissar(勤務年数4年以下Ober-leutnant,中尉, 4年以上Hauptmann,大尉)
- Kriminal-rat(勤務年数4年以下Hauptmann, 4年以上Major)
- Kriminal-direktor(Major)
- Regierungs-und Kriminalrat(Major,少佐)
- Ober-Regierungs-und Kriminalrat(Oberstleutnat,中佐)
- Regierungs-und Kriminal-direktor(Oberst)
- Reichs-kriminaldirektor(Oberst,大佐)
[編集] 編制
国家保安本部 第IV局(ゲシュタポ)
- IV A : マルクス主義者、共産主義者、反動主義者、自由主義者等、ナチズムの敵。サボタージュに対する措置及び総合保安措置。その構成下に6班を有した。
- IV B : カトリック及びプロテスタント教会の政治活動、その他宗教会派、ユダヤ人、フリーメーソン。5班に分かれた。アイヒマンはIV B4(第Ⅳ局B課4班)に所属。
- IV C : 強制収容。予防拘束。出版。党業務。ファイルの作成。カード。
- IV D : 占領地。在独外国人労働者
- IV E : 防諜課。6班
- IV E1 : 一般防諜及び工場施設における防諜
- IV E2 : 一般経済問題
- IV E3 : 西欧諸国
- IV E4 : 北欧諸国
- IV E5 : 東欧諸国
- IV E6 : 南欧諸国
- IV F : パスポート。身分証明。外国人監督警察
- IV G : 国境警察。
[編集] 文献
- Jacques Delarue(著)、片岡啓治(訳)、『ゲシュタポ;狂気の歴史』、サイマル出版会、1968年、ISBN 04-377-20020-8
- Roger Manvell(著)、渡辺修(訳)、『ゲシュタポ;恐怖の秘密警察とナチ親衛隊』、サンケイ新聞社出版局、1971年
- Edward Crankshaw(著)、西条信(訳)、『秘密警察;ヒトラー帝国の凶手』、図書出版社、1973年
- Rupart Butler(著)、田口未和(訳)、『ヒトラーの秘密警察 ゲシュタポ;恐怖と狂気の物語』、原書房、2006年、ISBN 04-562-03976-0