キリスト教根本主義
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キリスト教根本主義(キリストきょうこんぽんしゅぎ)は、キリスト教のプロテスタントの中の福音派右派の思想。キリスト教の運動である狭義のファンダメンタリズム(Fundamentalism)を表す、丁寧な、というより冗長で一般性に欠ける訳語。一般にはキリスト教原理主義(キリストきょうげんりしゅぎ)、キリスト教内部では単に根本主義と呼ばれる、宗教的原理主義運動の嚆矢。
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[編集] 特徴
聖書を文字通り一字一句が真実で、誤謬・矛盾は決してないものと考える。字義的解釈が明らかに不可能な際は必要に応じて「柔軟な」解釈を行うが、可能な限り例え話や抽象的な表現だとは考えない。創世記の物語もそのまま、世界の歴史そのものと捉えている。そのため、創世記の記述と直接一致しない科学、特に進化論を受け入れる余地は全くない。アメリカでは、南部を中心に公教育にこうした傾向が反映した時期があり、進化論裁判と呼ばれる一連の裁判で、創造論を学校教育にもちこむ是非が問われた。合衆国州政府では進化論を歴史教科書から削除するところも出て来ている。
世俗的には、妊娠中絶禁止や同性愛禁止など「アメリカ的生活様式の復活」を主張し、共和党の重要な支持母体として台頭しつつある。
この立場の教会は自ら「福音派」(Evangelicals)と自称する。但し、全ての福音派がファンダメンタリストではなく、この事に関しては福音派内部にも混同される事を嫌う批判的意見がある。日本における福音派の連合体である日本福音同盟(JEA)に所属する教団や教会は総じて保守的な「福音主義」に立つとはいえるものの、その信仰をすべて根本主義であると言い切る事は出来ない。但し、福音派は根本主義を包含しているのは事実で、福音派は根本主義ではないという事もまた妥当ではない。
[編集] 教勢分布
キリスト教原理主義と言えばアメリカに局在するプロテスタント右派を指すと一般には捉えられているが、実際は英語圏およびそこからの伝道が行われた他国にもかなりな数のファンダメンタルな立場のプロテスタント信者がいる。日本や韓国もまた同様である。
[編集] 用語「根本主義」と「キリスト教原理主義」
キリスト教のファンダメンタリズムはファンダメンタリズム運動の元祖であるため、英語では形容詞を伴わずFundamentalismという。 日本のキリスト教の現場では、この運動に戦前より一貫して「根本主義」(最も古い使用例は植村正久の『宣言若しくは信条』(1924))の訳語を充てる。訳語「原理主義」は「イスラム原理主義」の出現によって新しく再定義された、主として報道と社会学の用語であり、キリスト教界ではキリスト教の運動を指すものとしては用いられない。「聖書根本主義」の訳語を用いその立場を一見判りやすく言い表わした一般向書籍もあるが、却って「聖書を根本とする主義」であるかのような誤解を招くその造語も教会で用いられる事はない。
但し、キリスト教界においても「原理主義」を全て「根本主義」と言い換えているわけではなく、「イスラム根本主義」などという用法はない。報道や社会学の用語法と同様に、無冠の「原理主義」は根源的思想を限定しない広義のファンダメンタリズムに充て、それぞれの運動を指すには「イスラム原理主義」「ヒンドゥー原理主義」など思想・宗教の別を示して用いる。その意味で「キリスト教原理主義」という表現に特に反対している訳ではないが、単に、報道が無関心だった頃からそれに言及する必要に応じて用いられ、充分通用している用語「根本主義」を、わざわざ新しく耳慣れない上に長い「キリスト教原理主義」に言い換える事はしなかったにすぎない。
[編集] 歴史
[編集] アメリカ史
19世紀のアメリカで、福音派キリスト教の保守一派から興った。 1878年のナイアガラ・バイブル会議が、最初の定式化であるとされるが、このときはまだファンダメンタリズムという呼称は興っていない。 ファンダメンタリストの語は、1910年から1915年の間に刊行された自由主義神学を論駁する12巻の伝道文書シリーズ「ザ・ファンダメンタルズ」に直接由来しており、「ファンダメンタルズの守護者」の意で1920年に初めて使用された。「ファンダメンタルズ」はファンダメンタリスト自身の命名であり、元来侮蔑的意味はなかった。
[編集] 5つの原理
- 聖書の無誤謬性。(Inerrancy of the Bible)
- イエス・キリストが処女から生まれたことおよび神性。(The virgin birth and deity of Jesus Christ)
- 贖いの教義。(The doctrine of atonement)
- イエス・キリストの復活。(The bodily resurrection of Jesus Christ)
- イエス・キリスト再臨。(The bodily second coming of Jesus Christ )
- 1910年、北長老教会(米国)の総会での表明より。
[編集] 参考書籍
- 宇田進「福音主義キリスト教と福音派」(いのちのことば社)
- A.マクグラス「キリスト教の将来と福音主義」(いのちのことば社)
- J.G.メイチェン「キリスト教とは何か-リベラリズムとの対決-」(いのちのことば社)
- ジェームス・バー「ファンダメンタリズム――その聖書解釈と教理」(ヨルダン社)
- R.メール他「プロテスタント 過去と未来」(ヨルダン社)
- G.ハルセル「核戦争を待望する人びと―聖書根本主義派潜入記」(朝日新聞社 朝日選書)