国鉄381系電車
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国鉄381系電車(こくてつ381けいでんしゃ)は、日本国有鉄道(国鉄)が設計・製造した振り子式の直流特急形車両。
現在、東海旅客鉄道(JR東海)・西日本旅客鉄道(JR西日本)が保有している。
目次 |
[編集] 製造の背景
日本の鉄道路線は、地形上の問題から勾配や急カーブが多く、出力の増大によるスピードアップには限界があった。
そこで国鉄は、1970年に振り子式電車591系を試作。その実績をもとに、営業列車用として1972年に本系列を開発し、中央西線特急「しなの」に投入した。その後、1978年に紀勢本線の特急「くろしお」、1982年に伯備線特急「やくも」に投入された。
[編集] 構造
※ここでは新製時の構造について述べる。
[編集] 車体
振り子車両に必要とされる軽量化と低重心化を図った車体構造となっている。
車体は軽量化のため、アルミニウム合金製構体となっている。前面形状は485系電車の同時期のモデルチェンジ車と同様、「電気釜」と呼ばれる形状(貫通形と非貫通形があり。後述)である。側面はグリーン車の窓を除き485系に似ているが、485系に比べて車体下部の裾絞りの形が異なる。また重心を下げるため、重量物である冷房装置は床下に設置しており、屋根上はパンタグラフなどの必要最小限の設置物がある程度で非常にすっきりしている。アルミ製車体だが外観は485系などの他の特急形電車と同様の色に塗装されている。
[編集] 製造年による違い
製造年度によって細部が異なる。1977年に製造された車輌からはクハ381形の貫通扉が廃止され100番台となっている。またモハ381、モハ380、サロ381には側面中央部付近の窓下に非常口を設けたが、1982年に製造された最終製造車では非常口は廃止された。
[編集] 台車・機器
台車は振り子装置(車体傾斜用コロ装置)を組み込むことから本系列専用の台車が新設計されており、形式は電動車用がDT42、制御車・付随車用がTR224となっている。
モハ381形に主制御器や主抵抗器などの主回路機器を、モハ380形にパンタグラフとコンプレッサなどの補機類を、クハ381形とサロ381形にサービス電源用の電動発電機を搭載している。後述する改造車についても種車に準じている。
屋根上にパンタグラフを直接載せているため、振り子を作動させた場合は架線の張り方を変える必要があり、実際に振り子装置を使用する区間は新規に電化された区間(中央西線・篠ノ井線・紀勢本線・伯備線と山陰本線の一部)と阪和線鳳駅~和歌山駅間に限られている。それ以外の区間(東海道本線・山陽本線・阪和線天王寺駅~鳳駅間・大阪環状線など)では振り子を停止して走行する。
[編集] 振り子装置
先述のように本系列では振り子装置を装備しており、これにより半径600mの曲線における通過速度は本則+25km/h(通常の列車の制限速度より25km/h高い速度)で走行することができ、急カーブが続く路線のスピードアップに貢献している。
本系列で使用されている振り子装置はコロ軸支持式の自然振り子装置である。これはカーブで生じる遠心力をコロにより伝達して車体を傾けるものである。しかしこの方式ではカーブでの遠心力がコロに伝わり車体を傾けるまでの間に時間差が生じてしまい、不自然な揺れを生じることにより乗り物酔いを起こす乗客が多く、乗り心地の面で問題が残った。車掌が酔客のために酔い止め薬を常備していた逸話が残っている。その対策としてヨーダンパを取り付けた車両も存在する。
「くろしお」では制御振り子の実験が行われた。また1985年11月26日に湖西線で行われた高速試験では179.5km/hを達成した。これは現在に至るまで、在来線の最高速度記録である。
現在では自然振り子式に比べて乗り心地が良く曲線通過速度もより高い制御付き自然振り子式を使用する車両の導入が進められており、自然振り子式は古い方式となっている。営業用電車で自然振り子式の車両はこの381系のみである。
[編集] 接客設備
座席は他の特急形車両と同じく普通車が910mm間隔の簡易リクライニングシート、グリーン車が1160mm間隔のリクライニングシートである。最終製造の車両の普通車は、座席の背もたれにロックがかかるように改良されている。振り子式であり立っているときは不安定なため、座席の端部に取っ手を設けている。
本系列では窓の日よけがカーテンではなくベネシアンブラインドとなっている。
[編集] 製造費用
本形式は振り子装置を装備している上、車体材料にアルミ合金を使用しており、加えて低重心化と床下スペース確保のために冷房装置はじめとする多くの機器・部品が本系列専用のものであることから他の在来線車両に比較して製造費用は高価となっている。実際、「やくも」を電車化する際には費用対効果の面から振り子車の導入を見送り、上越新幹線の開業によって余剰となる183系1000番台の転用が検討されたほどである。
[編集] 形式
[編集] 新製形式
新製形式は以下の4形式277両からなる。
[編集] モハ381形(M)
主制御器などを搭載する中間電動車。定員を確保するため、便所・洗面所は省略されている。9両は運転台を取り付け、クモハ381形に改造された。
[編集] モハ380形(M')
パンタグラフ(2基)、電動空気圧縮機(CP)を搭載する中間電動車。モハ381形またはクモハ381形とユニットを組む。92ユニットが製造された。
500番台は「スーパーくろしお」の白浜駅における増解結の効率化のため、増結編成の新宮側編成端部に連結する車両として改造されたもので、3両が改造された。改造内容としては非ユニット側の貫通扉をふさぎ、自動解結装置を装備したことである。増結編成単独で運行することはなく、運転台は設けられていない。
- モハ380-34・36・43→モハ380-501~503
[編集] クハ381形(Tc,Tc')
電動発電機(MG)を搭載する制御車。「しなの」用として製造された貫通扉付きの0番台が18両、「くろしお」「やくも」用として製造された非貫通形の100番台が44両ある。0番台全車と100番台2両の20両がJR東海に、他の車両がJR西日本に承継された。
「くろしお」用の100番台の内5両がモハ380と同様、「スーパーくろしお」の増解結の効率化の為自動解結装置を装備する500番台に改造された。
現在、0番台は全て廃車となっており現存しない。
- クハ381-101・102・135・138・143→クハ381-501~505
[編集] サロ381形(Ts)
MGを搭載する中間付随車のグリーン車である。本形式は窓の形状が他の特急形電車のグリーン車と異なり、中間に柱を設けた2列ごとの大窓となっており、急行形電車のグリーン車に似た外観の窓である。座席は取っ手が付いていることを除けば他の特急形電車のグリーン車の座席と大差ない。
31両が製造されたが、「しなの」用の10両はすべてクロ381形に改造され、「くろしお」用の12両は5両がパノラマグリーン車クロ380形に改造、残り7両は普通車サハ381形に格下げ改造されており、「やくも」用の9両のうちパノラマグリーン車に改造された2両を除く7両のみが残っている。
現在サロ381形として残る車両のうち、サロ381-23はクロ380形(後述)と同じ1列2+2人掛けの座席に取り替えられており、定員は製造当初のままである。
[編集] 改造形式
※登場順に記す。
[編集] クモハ381形(Mc)
1986年11月1日のダイヤ改正で「やくも」を8両編成に短縮するためモハ381形を先頭車化改造した車両である。運転台ユニットは新製しており、多客期の増結を考慮して簡易構造の貫通扉が設置された。
現在「やくも」に使用している。
- モハ381-78・81・76・90・88・75・66・84・72→クモハ381-1~9
[編集] クロ381形(Tsc)
「しなの」「くろしお」用先頭グリーン車。0番台が7両、10番台が3両、50番台が5両、100番台が7両改造された。
0番台は「しなの」用で、1987年から実施された「しなの」の短編成化に伴ってサロ381形を先頭車化改造したものである。運転台はクモハ381形と同様、簡易構造の貫通扉が付いた「電気釜形」の運転台ユニットを新製して取り付けている。最初の車両(1・2)の落成日が国鉄最後の日である1987年3月31日で、国鉄最後の新形式となった。既に全車廃車となり現存しない。
10番台は「しなの」用で、1988年にサロ381形を先頭車化改造して製作されたパノラマ車。前部約1/3は展望室で、前頭部は前面展望を考慮し傾斜した構造となり、側面窓も拡大されている。展望室内には1列2人+2人掛けのフリーストップリクライニングシートを3列配置し、床高さも従来より150mmかさ上げされた。後位は従来のグリーン室のままである。展望室の後方に車掌室を設け、展望室と従来のグリーン室を区切る形で車両中央部にデッキと出入口を設けている。先頭の運転台部分のみ、鋼製となっている。1988年3月13日のダイヤ改正で使用開始された。
50番台は「しなの」用で、10番台と同様、1988年の改正にあわせて準備された車両である。クハ381形0番台を改造したもので、座席は10番台の展望室と同様の1列2人+2人掛けのフリーストップリクライニングシートとしている。既に全車廃車となり現存しない。
100番台は「くろしお」用でクハ381形100番台からの格上げ改造車である。1998年から実施されたリニューアルにより登場した。座席は1列1人+2人掛けとなっている。番号は改造元となったクハ381形の番号を踏襲している。
- サロ381-8・9・5・3・1・2・4→クロ381-1~7
- サロ381-6・7・20→クロ381-11~13
- クハ381-7・13・11・17・5→クロ381-51~55
- クハ381-104・106・110・114・120・124・126→クロ381-104・106・110・114・120・124・126
[編集] クロ380形(Tsc')
「スーパーくろしお」「スーパーやくも」用の展望車(パノラマグリーン車)。サロ381形の先頭車化改造車である。前面展望を考慮し、傾斜した構造の前頭部が取り付けられている。座席は1列2人+2人掛けのフリーストップリクライニングシートに取り替えられており、座席の枕の部分が少し小さくなっているのが特徴である。床高さは100mmかさ上げされた。
1989年に「スーパーくろしお」用の5両(1~5)、1994年に「スーパーやくも」用の2両(6・7)が登場した。1~5と6・7は室内設備が違っている。
現在は「スーパーやくも」は廃止されたため6・7は「やくも」に使用されている。
- サロ381-10・14・18・21・15・26・27→クロ380-1~7
[編集] サハ381形(T)
「くろしお」用でサロ381形を格下げした車両。1998年から実施されたリニューアルにより登場した。番号はサロ381形時代のままである。
- サロ381-11・12・13・16・17・19・22→サハ381-11・12・13・16・17・19・22
[編集] 運用
製造以来、基本的に「しなの」「くろしお」「やくも」のみで使用されている。国鉄末期に「やくも」の短編成化が実施され、一部の中間車は先頭車に改造された。
国鉄分割民営化後は「しなの」を受け持つJR東海と「くろしお」「やくも」を受け持つJR西日本が承継した。以下は主に民営化後の情勢を記す。
[編集] JR東海
JR東海には「しなの」用として神領電車区(海シン)に配置されていた88両が承継された。民営化前後にグリーン車はすべて先頭車に改造されている。
1996年以降、383系(ワイドビューしなの)への置き換えにより定期運用を失う。長野オリンピックでの波動輸送の終了後から大規模な廃車が進み、6両編成2本のみが残されるが、2006年に1編成が廃車になり、6両編成1本が残るのみとなった。現在は臨時特急「しなの」や臨時急行「ちくま」などの繁忙期の不定期運用に使用されるのみとなっている。オリジナルタイプの貫通形の先頭車は「しなの」用のみに存在したが、既に廃車され、現在残る編成は片側が非貫通の後期製造車、グリーン車がパノラマ車となっている。
381系使用の列車は時刻表上で「ワイドビュー」の表記が無いため使用列車の判別が可能である。
[編集] JR西日本
JR西日本には「くろしお」用として日根野電車区(大ヒネ)に配置されていた126両と、「やくも」用として出雲電車区(米イモ)に配置されていた63両が承継されている。以下、民営化前後の特筆すべき改造を実施順に記す。
[編集] 「やくも」編成指定席車両のグレードアップ工事
「やくも」編成は国鉄最末期の1987年から普通車指定席の座席が従来の座席を改造したバケットシートとなった。リクライニング機構はそのままであるが、座席モケットの色はピンク色と赤紫の2色となり、座席背面に大形テーブルが設けられた。その後、民営化直後から1990年代初頭にかけて、指定席車両のみリクライニングシートに交換するなどして自由席と指定席の格差を付けた特急列車が多く登場したが、その先鞭をつけたのがこの「やくも」編成である。このときは色は国鉄色のままであった。
その後、後述するリニューアル工事により、座席はそのままで座席前後間隔(シートピッチ)の拡大が実施され、塗色も変更された。
[編集] 「スーパーくろしお」編成改造工事
1989年7月22日より「スーパーくろしお」を運行開始するのにあたり、一部の車両に対して実施された改造工事である。普通車では座席が従来品の改造ながらバケット式、フリーストップタイプのリクライニングシートとなり、座席背面には大形テーブルも設けられ、485系グレードアップ改造車の新品のリクライニングシートと遜色ないものになった。グリーン車はパノラマグリーン車クロ380形(後述)となっている。塗装は白地にオレンジ色、赤の帯に改められた。
その後、後述するリニューアル工事により、座席はそのままで座席前後間隔(シートピッチ)の拡大が実施され、塗色も再度変更され、「スーパーくろしお」化工事のされていなかった編成と塗装が統一された。
[編集] 「スーパーやくも」編成改造工事
1994年12月3日の「スーパーやくも」運行開始に伴って改造されたもの。仕様は塗装以外は「スーパーくろしお」編成に準じる。塗装は薄紫色地に青紫・白・赤紫の帯となっている。パノラマグリーン車クロ380形も登場したが、従来のサロ381形をパノラマグリーン車と同じ座席に取り替えた編成もある。
その後、座席はそのままで座席前後間隔(シートピッチ)の拡大が実施された。また2006年(平成18年)3月ダイヤ改正で「スーパーやくも」の名称を「やくも」に統一したのに伴い、これまで「スーパーやくも」に充当されていた車両に表記されていた英称「SUPER YAKUMO」から「SUPER」という表記が消された。
[編集] リニューアル改造車
1996年、紀勢本線(きのくに線)の特急「くろしお」系統に283系(オーシャンアロー)が投入された。これは制御付き自然振り子式を使用し、最高速度も381系を上回るものであり、この形式を増備して「くろしお」だけでなく「やくも」も含めてJR西日本の381系を全て283系に置き換える予定だったが、283系は故障が頻発したため追加製造が中止された。そのためまだ当分は381系を使用することになったことから急遽381系(日根野所属車の一部を除く)に大規模なリニューアル工事が実施された。
改造内容は普通車のシートピッチ拡大、グリーン車の3人掛け座席化、塗色変更などである。普通車ではシートピッチを広げたため一部の席で側壁の冷房立上り管と競合するようになり、その部分の席は片側一人掛け席に変更されている。また、便所にあった小窓が埋められている。塗装は「くろしお」編成は283系に似た白地にエメラルドグリーン・青色の帯となり、「スーパーくろしお」編成も同一塗装になっている。「やくも」編成は灰色地に緑色・黄色の帯となった。こちらは「スーパーやくも」とは別塗装のままであったが、先述のように「スーパーやくも」が廃止されたため現在では混用されている。塗装の統一は現在でもされていない。
現在のところ「くろしお」「やくも」に新車の追加投入の予定はなく、依然として本形式が主力として使用されている。
日根野区に残る国鉄色6連4本はホームライナー「はんわライナー」「やまとじライナー」に運用されている。
[編集] 関連項目
- 日本国有鉄道の直流用新性能電車 (■JRを含む全一覧 / ■カテゴリ) ■Template ■ノート
- 振り子式車両
- JR東海383系電車
- JR西日本283系電車