ホタル
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ホタル科 Lampyridae | ||||||||||||||
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ゲンジボタル Luciola cruciata |
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分類 | ||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||
Firefly |
ホタル(蛍、螢)は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル上科・ホタル科 (Lampyridae) に分類される昆虫の総称。 発光することで知られる昆虫である。
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[編集] 概要
おもに熱帯から温帯の多雨地域に分布し、世界にはおよそ2000種が生息しているとされる。
日本で「ホタル」といえば、本州以南の日本各地に分布し、5月から6月にかけて発生するゲンジボタル Luciola cruciata を指すことが多い。日本ではゲンジボタルがよく親しまれていて、これがすべてのホタルの代表であるかのように考えられるが、実際にははるかに多様な種がある。熱帯を主な分布域とするだけに、日本国内でも南西諸島にはより多くの種がある。
成虫の体長は1-3cmほどのものが多く、小型の昆虫である。体型は細長く、腹背に平たい。特に前胸は平らで、頭部を被うことが多い。よくある色合いは全体に黒っぽく、前胸だけが赤いというものである。オスとメスを比べるとメスのほうが大きい。メスは翅が退化して飛べない種類もあり、さらには幼虫のままのような外見をした種類もいる。
幼虫はやや扁平で細長い。胸部に短い三対の歩脚があり、腹部の後端に吸盤があって、シャクトリムシのように移動する。
発光することで有名だが、すべてが発光するわけではない。卵、幼虫、蛹時代にはほとんどのものが発光し、一種の警戒色の役割を果たしていると推測されている。成虫が発光する種は限られており、それらは配偶行動の交信に発光を用いる。そのため、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。そうではない種では光らなかったり、微弱にしか光らない種が多い。
また、ゲンジボタルの成虫は初夏に発生するため、日本ではホタルは夏の風物詩ととらえられているが、必ずしも夏だけに出現するものではない。たとえば朝鮮半島、中国、対馬に分布するアキマドボタル Pyrocoelia rufaは和名のとおり秋に成虫が発生する。西表島で発見されたイリオモテボタルは真冬に発光する。
[編集] 食性
多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってカタツムリやキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズ、ヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本にすむゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種の幼虫は淡水中にすんでモノアラガイやカワニナなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である。また、スジグロボタルの幼虫は普段は陸上で生活するが、摂食時のみ林内の小さな湧き水や細流の水中に潜り、カワニナを捕食していることが知られている。
成虫になると幼虫時代に蓄えた栄養素のみで活動、産卵し、水分を取るだけだが、海外の種の中には成虫となっても他の昆虫などを捕食する種類もいる。
[編集] 発光のメカニズム
発光するホタルの成虫は、腹部の後方の一定の体節に発光器を持つ。幼虫は、腹部末端付近の体節に発光器を持つものが多いが、より多くの体節に持っている場合もある。成虫が発光する種では蛹も発光するし、卵も発光能力を持つ。このように、極端な場合、生活史の全段階で発光するものがある。
成虫の発光は同種の異性個体との信号として使われるが、その発光パターンは種類によって異なる。一方の性のみが発光する種類もいる。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。オスがひとつの木に集まり一斉に同調して光る種類もいる。特に東南アジアのマングローブに集まって発光するものが有名であるが、ゲンジボタルも限定的ではあるが集団がシンクロ発光するのが見られる。
ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素とATPがはたらくことで発光する。発光は表皮近くの発光層でおこなわれ、発光層の下には光を反射する反射層もある。ホタルに限らず、生物の発光は電気による光源と比較すると効率が非常に高く、熱をほとんど出さない。このため「冷光」とよばれる。
そもそもホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫は毒をもっており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態、ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。
[編集] おもな種類
日本には40種類以上のホタルがいるといわれている。代表的なものを以下に紹介する。
- ゲンジボタル Luciola cruciata Motschulsky, 1854
- 体長15mm前後で、日本では大型の種類。成虫の前胸部中央には十字架形の黒い模様がある。幼虫は川の中流域にすみ、カワニナを捕食する。初夏の風物詩として人気が高く、保全への試みが日本各地で行われているが、遺伝的に異なる特性を持った他地域のホタルの増殖・放流が問題になってもいる。
- ヘイケボタル Luciola lateralis Motschulsky, 1860
- 体長8mm前後で、ゲンジボタルより小さい。おもに細流や水田などの止水域で発生する。幼虫はカワニナだけでなくモノアラガイやタニシなど様々な淡水生巻貝類を幅広く捕食し、やや富栄養化した環境にも適応する。また時にはに干上がる水田のような環境でも、鰓呼吸だけではなく空気呼吸を併用し、泥に潜って生き延びる。成虫の出現期間は長く、5月から9月頃まで発光が見られる。
- ヒメボタル Hotaria parvula Kiesenwetter, 1874
- 体長は7mm前後で、ヘイケボタルより更に小型の陸棲のホタルである。西日本の林地や草地に分布する。幼虫は林床にすみ、マイマイやキセルガイなどを捕食する。5-6月に羽化し、かなり強く発光するが、川辺などの開けた場所ではなく森林内などの人目につきにくい場所で光るのであまり知られていない。名古屋城の堀の中に広がる草地には、都市部では珍しい大規模な生息地があることが知られている。メスは飛行できないため分布地の移動性は小さく、地域により遺伝的特性や体長の差などが著しい。
- マドボタル
- マドボタル属(Pyrocoelia属)のホタルの総称で、多くの種類がある。和名はオスの胸部に窓のような2つの透明部があることに由来する。メスは翅が退化していて、幼虫そのままのような外見をしている。幼虫は陸生で、主に小型のカタツムリ類を捕食し、夜には活発に光りながら草や低木にもよじ登るので、よく目立つ。成虫は光るものも光らないものもある。本州東部には中型種のクロマドボタル、本州西部と四国、九州には中型種のオオマドボタル、対馬には大型種のアキマドボタルが生息し、南西諸島では何種もの大型種が島ごとに種分化している。
- オバボタル Lucidina biplagiata Motschulsky, 1866
- 体長10mm前後。体は黒色で平たく、前胸に2つの赤い斑点があり、尾部も赤い。他のホタルと同じような体色だが、あまり発光しない。幼虫は森林の土壌中で、小型のミミズを捕食している。
なお、ベニボタルは和名に「ホタル」とあるが、ホタル科ではなく、同じホタル上科のベニボタル科(Lycidae)の昆虫である。
[編集] 文化
夜に発光しながら活動するホタル類、特にゲンジボタルは古来から日本で人気のある昆虫の一つで、ホタルを題材とした文化も数多い。
ホタル鑑賞のことを特に「ホタル狩り」という。都会ではホテルなどがホタルを放してホタル祭りを催す例もある。近年では自然保護の気運も高まり、自然回復や河川の浄化を含めて、自治体などの取り組みとしてゲンジボタルの保護や放流が行われるようになっている。
ただし、ホタルをめぐってのトラブルも各地で発生しており、解決すべき課題も多い。
- ホタルを放流したはいいが、川辺の護岸や植生により定着できない
- ホタル狩りの観光客がライトを点灯させ、ホタルの活動が妨げられた
- ホタル狩りの観光客が道を塞ぎ、地域住民の交通に支障を来たした
- 川を汚さないようにと、子供たちの川遊びまでも禁止された
- ホタルとコイを同じ水域に放流した
また、他地域のゲンジボタル、または幼虫の餌となるカワニナを放流することで遺伝子汚染などの問題も発生しており、生態系を破壊しないための配慮もまた必要である。
[編集] 慣用句
- 蛍二十日に蝉三日 : 旬の時期が短いことの喩え。
- 蛍雪、蛍の光 窓の雪 : 「夏はホタルの光で、冬は雪明りで勉強する」という意味で、苦学することの喩え。
- 蛍火 :
[編集] 俳句・短歌
- ゆく蛍 雲の上までいぬべくは 秋風吹くと雁に告げこせ(伊勢物語45段、後撰集252、在原業平)
- 夕されば 蛍よりけに燃ゆれども 光見ねばや人のつれなき(古今集562、紀友則)
- こゑはせで身をのみこがす蛍こそ いふよりまさる思なるらめ(源氏物語第二十五帖 蛍の巻)
- 音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ 鳴く虫よりもあはれなりけれ(後拾遺集216、源重之)
- 物思へば 沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞ見る(後拾遺集1164、和泉式部)
- 奥山にたぎりて落つる瀧の瀬の 玉ちるばかりものな思ひそ(後拾遺集1165、貴船の明神)
- 我が恋は 水に燃えたつ蛍々 物言はで笑止の蛍 (閑吟集)
- 己が火を木々に蛍や花の宿(松尾芭蕉)
[編集] 楽曲
- 蛍の光(唱歌の定番の一つ)
[編集] ホタルの名所
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[編集] 「蛍」の付く地名
[編集] 関連項目
- ホタルガ - マダラガ科のガで、毒を持つ。翅に白帯模様があるという違いがあるが、体はホタルと同じ赤と黒の配色で、ミューラー擬態の一例として挙げられる。
- 蛍光灯
- 蛍石 - ほたるいし・fluorite(フローライト)。
- 第二次世界大戦のアメリカの戦車M-4に英国軍が17ポンド砲を換装・搭載した戦車をファイアフライ(ホタル)と名付けた。
- 「仮面ライダー555」に登場するライダーの一人、仮面ライダーファイズは、闇夜に浮かぶ大きな黄色い目と赤いラインというその個性的なシルエットから、ホタルをモチーフとする説があった(後に否定された)。
- ホタルイカ - 発光器を持つイカ。富山湾の名物。
- ウミホタル - 小型の甲殻類。
- 火垂るの墓 - 野坂昭如の小説。
[編集] 外部リンク
- 東京にそだつホタル - ホタルの生態と生息環境の詳細な解説
- ホタル百科事典
- ホタルと里山の写真集 - ゲンジボタルの生態写真
- 日本ホタルの会