アルシャード
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アルシャードは、2002年7月に「新世紀スタンダードTRPG」と銘打ってエンターブレインから出版されたテーブルトークRPG。著者は井上純弌、F.E.A.R.。2005年7月に改訂新版にあたる「アルシャード フォルティッシモ」(「アルシャードff」)がリリースされた。
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[編集] 概要
背景世界であるミッドガルドは、北欧神話をベースにした中世ファンタジー風世界であるが、テクノロジー信奉者の『真帝国』が悪役として配置され、伝統的なファンタジーの枠を超えたメカなどのSF風ガジェットも豊富である。この世界で、シャードと呼ばれる滅びた神々の欠片を手にしたプレイヤーキャラクター(クエスターと呼ばれる)が、世界の敵である奈落や真帝国と戦い、理想の世界アスガルドを目指して冒険する。
井上には、従来のテーブルトークRPGの世界設定が、コンピュータRPGなどと比べて保守的であるとの問題意識があり、二十一世紀にふさわしいファンタジーとして、バイク、銃器、飛空艇、アンドロイド、ライトセーバー、戦車、ハンドヘルドコンピュータ、巨大ロボット、近代的軍隊といった近代・未来風ガジェットの導入を図った。ファイナルファンタジーシリーズなどの日本製コンピュータRPGの多くとも共通項を持つこうした「新しいファンタジー」の世界設定を指して、「新世紀スタンダード」と詠ったのである。
システム面では、それまでの多くのテーブルトークRPGがプレイに長時間を要していたのに対し、短時間でプレイ可能でありながらもこれまでのテーブルトークRPGに劣らない満足感を得られることを主眼にデザインされている。このため、キャラクター作成の手間を省く「サンプルキャラ」、シナリオ導入簡略化のための「ハンドアウト」、シナリオ目的の明文化「クエスト」、ストーリー上またはゲーム上重要ではないの冗長な部分を省く「シーン制」、とにかく彼を倒せばシナリオ終了であるところの「BOSS」、など本作が初出の概念ではないが、プレイを円滑に進めることに効果があるとされるルールを導入している。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「ソード・ワールドRPG」の後継たらんとも読める刺激的なまえがき、「新世紀スタンダードTRPG」という惹句、豊富なサプリメント出版などにより、アルシャードのシリーズ展開は「冬の時代」後のRPGムーブメントの一つの流れを形成した。
[編集] アルシャードff
アルシャードは順調にサプリメントを発売していった結果、ゲームバランスの悪化やキャラクターメイキングに必要なデータがいくつもの本に分散するといった問題に直面するようになった。そこで、データ整理のために、今までの全てのデータをもう一度新しいルールフックと新しいサプリメントに再編集して出しなおすというバージョンアップを行ったのである。こうして2005年7月に発売されたのが、アルシャードの第2版(1.5版であるともいう)にあたる「アルシャード フォルティッシモ」(「アルシャードff」)である。
基本的なルール構成はそのままに全てのデータを見直したこのバージョンは、あらゆる意味で今までのアルシャードよりも優れているという意味でフォルティッシモ(より強く)というタイトルがつけられた。
今までゲームを買ってきたユーザーに、もう一度ほぼ同じ内容のものを買わせるというのは商業的な難しさがあると言えるが、ダンジョンズ&ドラゴンズの3.5版への版上げのような先例もあり、決断がなされた。実際にはほとんどのデータはバランスよく見直されていて、全く新しい追加要素もふんだんにあるため、ユーザーはこの判断を比較的好意的に受け入れているようである。
2006年10月の時点で、アルシャード(旧版)の要素のほとんどはアルシャードff(およびアルシャードガイア)により再現可能となっているが、まだ旧版にしかない要素も存在する。そのため、F.E.A.R.は公式サイトにて、旧版のデータをアルシャードffにコンバートするためのデータを無料で公開している。
[編集] アルシャードガイア
2006年8月、アルシャードffとほぼ同一のシステムを使用した現代ファンタジーRPG「アルシャードガイア」(菊池たけしとの共著)が文庫にて発売された。こちらの舞台はブルースフィアと呼ばれる現代地球で、クエスターは奈落に汚染された敵と戦い、日常の平和を守る。
アルシャードフォルティッシモとの互換性は高く、双方のクラスやデータを混ぜて遊ぶことが可能となっている。この共通システムはガイア発売時に「スタンダードRPGシステム」と名付けられた。
アルシャードガイアもまた「スタンダード現代魔法ファンタジー」を謡い、ファンタジー以上に保守的であったTRPGの「現代もの」というジャンルに風穴を開けるべき様々な要素の導入を行っている。 「魔法や超能力や剣術の使い手が現代の闇に潜む魑魅魍魎を狩る退魔もの」という旧来からのスタンダードな現代伝奇やロー・ファンタジーのコンセプトを受け継ぎつつも、戦闘魔法少女や装着ヒーローなどのSFアニメ的ガジェットや、パラレルワールドやタイムトラベルが強くからむセカイ系の世界観などの、近年のライトノベルやノベルゲームなどによく見られるような「新しい伝奇SF」の流れをふんだんに取り入れており、これを井上は「スタンダード現代魔法ファンタジー」と名付けたのである。
[編集] システム
判定方式には、日本では比較的オーソドックスな2D6による上方判定、つまり出目が大きいほど良いとする方式が使われている。キャラクターについては、レベル制で、自由度の高いマルチクラス方式(組み合わせ方の制限はほぼ存在しない)を採っている。
サプリメントによる頻度の高いデータ追加によって、ゲームバランスが変動していくことを肯定しているゲーム性は、多くの国産RPGよりも、D&Dなどの海外製RPGのパワーゲーム志向に近い。実際、国産ゲームの中ではデータ量やサプリメントが群を抜いて多い。
[編集] 設定
[編集] 各種用語
- シャード
- 太古の神々の滅んだ肉体の欠片。宝石の形をしている。大量の魔力(マナ)を有しており、所持者に莫大な力を与える。シャードの中には神々の意思の残滓が残っており、所持者を理想郷アスガルドへ導く
- クエスター
- シャードに選ばれた存在。シャードの所持者。このゲームのPCは全てクエスターである。シャードの導き(クエスト)を受け取ることができ、クエスターはさまざまな冒険を体験することになる。
- クエスト
- シャードがクエスターに与える導きのこと。シャードは所持者の運命に干渉することができ、クエスターは必ず与えられたクエストが示す事件に関わることになる。クエストはクエスターの意志と無関係に与えられるため、シャードは祝福であると同時に呪いであるとも言われる。シャードがなぜクエストをクエスターに与えるのかは謎であり、クエストの内容も千差万別でそこに共通点は見出せない。一説に理想郷アスガルドへクエスターを導くための試練(成長の糧)としてクエストが与えられるのだとも言われている。
- ゲーム的にはクエストはシナリオの目的としてGMから与えられ、達成することで経験点となる。そしてクエストをいくつも達成していき、経験点をためて成長していき、アスガルドを目指すのである。
- 世界のどこかにあるという理想郷。そこに行けばあらゆる願いが叶い、世界は自分の思ったとおりの姿に変革するといわれている。しかし、それがどこにあるのかは誰も知らず、まだたどり着けた者もいないとされる。
- 全てのシャードは自分のクエスターをアスガルドへたどり着かせるように導きを与え続ける。アスガルドへの到達はこのゲームの究極目的である。
- 奈落
- 全ての世界を飲み込もうとする無そのもの。『はてしない物語』にでてくる"虚無"に近い。人の心にとりつき、魔なる者に変ぜさせるのと引き換えに大いなる力を与えることもある。
- このゲームの代表的な敵役の一つである。
- 幾多の次元をつらぬきはえる宇宙樹。全ての次元はユグドラシルの枝であり葉であるとされる。アスガルドはユグドラシルのどこかにあるとされる。現在、奈落の侵食を受けており、多くの「枝」や「葉」が奈落により枯れ果てている。
- ユグドラシルに連なる「枝」にあたる世界の一つ。『アルシャードff』の舞台。いわゆる「剣と魔法のファンタジー世界」だが、中世ヨーロッパ風のイメージに固着しておらず、近代的な機械技術を持つ軍事帝国や、南方の樹海の蛮族、日本風のサムライ、モンゴル風の格闘文化など、多様なイメージを背景にもつ文化が混在している世界であり、ルーンクエストやルナルサーガなどとも共通する「ごった煮ファンタジー」となっている。
- 真帝国
- ミッドガルドを席巻する強大な機械帝国。『アルシャードff』における代表的な敵役の一つであるが、絶対悪というわけではない。PCが帝国側のキャラクターになってプレイするためのデータも用意されている。
- 軍部が強い力を持つ軍事大国であるが、同時に機械の神デウス・エクス・マキナを奉ずる政教一致の宗教国家でもあり、軍と教会の間で対立が起こることもしばしばある。
- ブルースフィア
- ユグドラシルに連なる「枝」にあたる世界の一つ。『アルシャードガイア』の舞台。我々の住む地球のことである。魔法が存在はするが隠蔽されており、多くの人々は魔法や奈落の存在を知らずに日々を過ごしている。この世界の平和な日常を守るために、人々にばれないように奈落を退治するのが『アルシャードガイア』の基本的なゲームスタイルである。『ナイトウィザード』と世界観のコンセプトが酷似しているが、これはゲームデザインに菊池たけしが関わっているからであり、菊池自身も「『アルシャードガイア』はナイトウィザードのコンセプトを後継するものとして作った」と明言している。
[編集] キャラクタークラスと加護
- すべてのPCはキャラクタークラスに応じた「加護」と呼ばれる強力な力を持つ。これはトーキョーN◎VAの「神業」や、ブレイド・オブ・アルカナの「奇跡」などと同様、セッション中の膠着状況を打破する切り札として機能する。基本的にPCだけの持つ能力だが、一部のNPCも同じ力を有する。「加護」の名称は北欧神話を中心とする神格から取られている。各クラスの持つ加護は、クラス名の後ろに括弧で示した。その実際の神話・伝承については、リンク先を参照のこと。
- 基本クラス(ff・ガイア共通)
- サブクラス(アルシャードff)
- アウトロウ(ヘルモード) - 裏社会を生きる無法者。暗黒街での資金調達や情報収集、ダーティーな戦闘スタイルに長ける
- ヴァグランツ (ブラギ)- 放浪者、旅人、吟遊詩人。ファミリア(使い魔)や支援系の特技をもつ
- ウィザード(バルドル) - 空に浮かぶ学院・アカデミーの賢者(エリート魔術師)。魔法が強化される
- エイリアス(フレイ) - 機械神の加護によって生まれたクローン。司教たちの私兵や隠密、要人の従僕を勤める
- エージェント(エーギル) - 企業の工作員。会社から支給される特殊武装で戦う
- エレメンタラー(ニョルド) - 世界の敵・奈落を憎悪する精霊と契約し、感情喪失・肉体の変貌を代償に戦う
- オラクル(フレイ) - 巫女。帝国の公敵。神々の欠片シャードを通して神の声を聞く。支援系魔法の使い手
- キャバルリー(フォルセティ) - レアミューと呼ばれるトリウマに騎鳥し、名誉を重んじる古典的騎士
- サムライ(タケミカヅチ) - 東方の島国ヤシマの戦士。刀に代表されるサムライ装備、二刀流などで戦う
- ジャーヘッド(ネルガル) - マスクと防塵服に全身を包み、拳銃やマシンガンなど火器を用いる砂漠の傭兵
- ソーサラー(オーディン) - 帝国の魔導機械技術「カバラ」の技術者。コンピュータ「セフィロト」によって魔導プログラムを操る技術魔法使い
- ゾルダード(トール) - 帝国の正規兵。カバラ兵器やカバラによる肉体改造を受けている
- ダークワン(ヘル) - 奈落に汚染された生物を表す。アンデッド、オーク、ガイスト、ターマイト、フォモールを再現する
- ニンジャ(ツクヨミ) - 東方の島国ヤシマの密偵。ニンジャ装備や忍法と呼ばれる魔法を用いる
- バーバリアン(イドゥン) - 帝国南方のジャングルに住む蛮族。身体に入れ墨のように刻まれた紋章の力で戦う
- ハンター(ティール) - ギルド等に所属する賞金稼ぎなど。魔物を退治し、仲間を守る能力に優れる
- パンツァーリッター(ヘルモード) - 帝国製の二輪車両に跨る装甲騎兵。バイクに乗った中世騎士のイメージ
- ブライト・ナイト(シャヘル) - アームドギアと呼ばれる巨大人型機動兵器のパイロット
- ミッショナール(イドゥン) - 帝国神教の巡回伝道師や従軍神父。宗教プロパガンダや教会の諜報活動に従事する
- サブクラス(アルシャードガイア)
- アーティスト(ミューズ) - ミュージックデバイスという楽器を操り、音楽により魔法を使う
- アルケミスト(ヘル) - 機械仕掛けの魔法杖チャンバースタッフを操り、魔法を強化する
- オーヴァーランダー(マリーシ) - 異世界を行き来する世界間移動者。他の世界の力や特徴を有する
- ガンスリンガー(フレイヤ) - 銃器のエキスパート。さまざまな銃を用いた戦闘技術を習得している
- サイキック(ニョルド) - 念動力や透視能力などを扱う超能力者
- サモナー(ブラギ) - カードや呪符による召喚魔法を扱う符術師。サジッタ社のトレーディングカードゲームから力に目覚める者もいる
- ソードマスター(タケミカヅチ) - 魔器と呼ばれる魔法の武器の使い手。剣や杖など魔器自身をキャラクターとすることもできる
- ホムンクルス(ネルガル) - 人工生命体。バイオウェポンという身体変異武器を扱う
- ミスティック(アカラナータ) - 祈りの力で神秘を操る退魔師やエクソシスト。様々な宗教に属する
- リターナー(バルドル) - 時間を超えてやって来た未来人。光線銃などの未来装備や時間操作系の能力で戦う
- ルーンナイト(フレイ) - ルーンメタルという超合金製の鎧を纏って戦う戦士
- レジェンド(ガイア) - 運命を切り開き、伝説を打ち立てる英雄や勇者、あるいはその候補生
- 異種族クラス(アルシャードff)
- アルフ(フレイ) - かつて神をも作ったという古代種族。レーザーソードに代表される遺失テクノロジを操る
- ヴァーハナ(ブラギ) - 天空の島シュメルにすむ小さな種族。リスやネズミに似た愛らしい外見を持つ
- ヴァルキリー(フレイヤ) - アルフの作り出した重武装戦闘用アンドロイド。多くは女性形態を取る
- オウガ(ネルガル) - 額から角の生えた大型種族。3メートルを超す身長のものもいる。放浪する戦闘種族である
- ザウルス(ティアマトー) - いわゆるリザードマン。多くは傭兵やマフィアとして生き、ドラゴンになることを目指す
- シリウス(フェンリル) - 狗頭の獣人。遊牧民であり、独自の拳法・天狼拳の使い手
- ドヴェルグ(イーヴァルディ) - いわゆるドワーフ。空賊であり、ロック(音楽)と酒を愛する種族
- フェアリー(バルドル) - トンボや蝶のような羽を持つ小妖精。本来、妖精郷という異世界の住人である。好奇心旺盛かつ臆病
- メロウ(エーギル) - いわゆる人魚。彼らの国家ヴァナヘイムは真帝国の法人として登録された「王政の企業」である
- リンクス(ウル) - 猫の瞳と耳と尻尾をもった異種族。優秀な狩人で魔法を弓に乗せて飛ばすこともできる
- 異種族クラス(アルシャードガイア)
- その他の加護
[編集] 製品一覧
[編集] アルシャード
- アルシャード (基本ルールブック)
- アール・ヴァル・アルダ (上級ルールブック)
- クイーン・オブ・グレイス (帝国ソースブック)
- オン・ユア・マインド (プレイングガイダンス集)
- ブライト・ナイト (キャンペーンシナリオ集1)
- アメージング・ワールド (ワールドデータブック1)
- ティル・ナ・ノグ (ワールドデータブック2)
- フライハイ 漂流学園 (キャンペーンシナリオ集2)
- アルシャードSSS vol.1~17 (短編シナリオ集)
[編集] アルシャードff
- アルシャードff (基本ルールブック。旧版『アルシャード』の増補、再編集)
- オーディンの槍 (リプレイ集)
- アール・ヴァル・アルダff (上級ルールブック。旧版『アール・ヴァル・アルダ』の増補、再編集)
- オーバー・ザ・レインボー (キャンペーンシナリオ集1)
- ヴァーレスライヒ (帝国ソースブック。旧版『クイーン・オブ・グレイス』の増補、再編集)
- ウィンカスター・フォーチュンサービス (GMアクセサリー集)
- ブライト・ナイトff (キャンペーンシナリオ集2。旧版『ブライト・ナイト』とクロスオーバーをしている)
- ミッドガルド (ワールドデータブック。旧版『アメージング・ワールド』『ティル・ナ・ノグ』の増補、再編集)
- 高レベル追加データ集(仮題) (2007.初旬予定)
[編集] アルシャードガイア
- アルシャードガイアRPGルールブック (基本ルールブック)
- 明日(みらい)へのプロファイル (リプレイ集)
- アルシャードガイアRPG上級ルールブック (上級ルールブック)
- ロストレクイエム(シナリオ集 2006.12予定)