麻枝准
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麻枝准(まえだじゅん、1975年1月1日 - )は、Key所属のシナリオライター、作詞家、作曲家。三重県出身。中京大学卒業。愛称はだーまえ。本名「前田純」。
創作家にはよくみられることだが、非常に繊細な心の持ち主なことも知られている。
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[編集] 生い立ち
[編集] 就職活動以前
小学生の時からオリジナルのゲームブックを創るなどの創作活動を始める。特に『暗黒城の魔術師』や『ドラゴンの洞窟』が面白かったとしている。[1]学校新聞を作っても必ず小説を掲載したという。高校生の時には作詞作曲活動を始める。ファンタジーにどっぷりつかっていたという。大学時代は角川書店のザ・スニーカー誌の小説コンテストや誌上トライアルコーナーにずっと応募するもいつも佳作止まりだった。 [2] また、卒業論文の共同執筆者から影響を受けテクノを聞き始める。[3]
[編集] 就職活動~scoop入社
大学時代は「ピコピコの前田」で名前が通っていたため、当初の就職活動もゲーム音楽を手がけることを希望しサウンドクリエーターとして入社選考を受けた。日本ファルコム、ナムコ、カプコンなどを志望するものの作品審査で選考落ち。唯一、それまで一本のゲームさえやったことのないTGLのみ面接に進むが、提出書類を忘れ、一次面接落ち。就職先が決まらないまま、夏休みを迎える。
一方、文章を書くことも好きであったため、シナリオライターへの転向を決意。当時コンシューマーはシナリオライターの未経験者採用をおこなっていなかったため、アダルトゲームの会社に狙いを絞る。一ヶ月で原稿用紙300枚もの長編を書き上げ、成人向けゲームメーカーで当時から大手だったチャンピオンソフト(アリスソフト)と当時CGのクオリティが高かったscoopに応募する。
紆余曲折あった末に、両社とも内定。応募時点ではアリスソフトが第一志望であったが、自分を育ててくれそうなscoopへ入社する。当時のアリスソフトでは、TADA開発主任(当時)が「1年経って芽が出なければ、切ります」と宣言しており、この一言にアリスソフトの企業内での生存競争の厳しさを知ったことが理由である。。麻枝はそれまでWindowsに触ったことのないズブの素人で、アリスソフト社内での生存競争に生き残れる自信がなく、また契約社員と正社員の差も大きかった。
scoopでは『カオスクィーン遼子』のシナリオを担当し、無事完成させた。しかしscoopの環境は結局肌に合わず、シナリオ完成直後に退社することとなる。
[編集] Tactics入社~KEY設立
scoop退社後、当時ではさらにマイナーメーカーであったネクストン傘下(Tactics (ブランド))に入社。『MOON.』、『ONE~輝く季節へ~』 のシナリオ・音楽を製作し、高い評価を得る。その後、。『MOON.』、『ONE~輝く季節へ~』開発チームのほとんどを引きつれTacticsを退社しビジュアルアーツへ移籍、新ブランドKeyを設立する(事実上の独立)。
Key移籍後は1999年に発売した第一作『Kanon』の大ヒットにより、久弥直樹とともに18禁PCゲームにおけるシナリオライターの代表的な存在に。このころから、作曲をKey名義で行うようになる。久弥退社後の2000年発売の第二作『AIR』以降はKey=麻枝となった感がある。2004年には4年の歳月をかけた大作『CLANNAD』を発売、その3/4ほどを手がける。『ヒビキのマホウ』では漫画原作に挑戦した。 『ヒビキのマホウ』はルーツとも呼べる物語だという。[4] 2006年現在は『リトルバスターズ』を制作中である。[5]
[編集] 作品の傾向
アダルトゲームの世界でもっとも著名かつ人気のあるシナリオライターのひとりであり、家族や絆をテーマとして取り上げることが多い。家族になる前の段階には興味がないと述べている。 [6] 家族の中でも母娘関係を取り上げることが多く、keyの実質上の処女作といえる『MOON.』では母娘の葛藤が描かれた。一方で父親は描かれることが少なく『AIR』は父性の欠如に対して苛立つ声も聞かれた。[7]麻枝自身は父親を描きたくないんですかとの問いに対して
だって、片親しか出さない設定で、秋子さん[8]がオヤジやったらイヤじゃないですか(笑)。単純に美少女ゲームでは出せる女性キャラがどうしても限られているわけで、父親と母親のどちらかだったら、母親を優先して出そう、ということですね。 と述べている。[6]
『CLANNAD』の幻想世界編のように幻想的な世界がしばしば登場することも特徴の一つである。
『MOON.』はジャンルを『鬼畜サイコ涙腺弛まし形ADV』とするなど [9] 泣きゲーが定着する以前から泣きに注目していたことが伺える。次に企画した『ONE~輝く季節へ~』は泣きゲーの始祖的存在として知られ、『秋桜の空に』(Marron 2001)等の後の作品に大きな影響を与えた。元長柾木はONEについて存在自体が奇跡でありコピーできるような代物ではないとしている。 [10] ONEは二つの世界が同時並行的に描かれるため、しばしば村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と比較されることがある。 『KANON』では久弥の企画の下、主に川澄舞シナリオと沢渡真琴を担当した。涼元悠一は『KANON』について世界観には穴があるが、その穴はあまりにも美しい。人為的にあけた穴ならばこの人たちは天才集団だと思った、としている(ただし、涼元が特に衝撃を受けたと語っているのは麻枝担当部分ではなく、久弥担当部分である)。[11]
なお、Keyに寡作傾向があるため筆が遅いと誤解されがちであるが、麻枝自身は決して遅筆ではない。
[編集] 作曲活動等
企画、シナリオの他に作詞、作曲も手がける。代表曲に鳥の詩(作詞を担当。AIRのオープニング曲)などがある。かつて存在した自身のウェブサイトをFlaming Juneと名付けるほどBTのFlaming Juneをこよなく愛し、えいえんのせかいはここから生まれたと述べるほど強い影響を受けている。 [6] 『MOON.』では企画、シナリオの他に久弥直樹とともにファンの間からは非常に評価の高いデモムービーを制作したがフォトショップの使用方法が分からず、ペイントで制作したという逸話が残っている。[3]
[編集] 主な著作
[編集] シナリオ
- MOON.(企画・脚本)
- ONE~輝く季節へ~(企画・脚本)
- Kanon(脚本)
- AIR(企画・脚本)
- CLANNAD(全年齢対象として発売)(企画・脚本)
- ヒビキのマホウ (漫画。原作担当)
- 智代アフター ~It's a Wonderful Life~ (企画・脚本)
- CLANNAD Official Another Story 光見守る坂道で
[編集] 作詞、作曲
- 陽のさす場所 (MOON. 作曲)
- Last regrets (Kanon OP 作詞、作曲)
- 夢の跡 (Kanon 作曲)
- 冬の花火 (Kanon 作曲)
- 残光 (Kanon 作曲)
- 風の辿り着く場所 (Kanon ED 作詞)
- 夏影-summer light-(AIR 作曲)
- 青空 (AIR 作詞、作曲)
- 夏影/nostalgia (Key+Lia 作詞、作曲)
- Birthday Song, Requiem/恋心 (Key+Lia 作詞、作曲)
- Spica/Hanabi/Moon (Key+Lia 作詞、作曲)
- 同じ高みへ(CLANNAD 作詞、作曲)
- 願いが叶う場所II(CLANNAD 作曲)
- カントリートレイン(CLANNAD 作曲)
- 小さなてのひら (CLANNAD 作詞、作曲)
- 遙かな年月(-piano-) (CLANNAD 作曲)
- Love Song (Key Sounds Label 作詞、作曲)
- hope(智代アフター 作曲)
- love song(智代アフター 作曲)
- morning glow(智代アフター 作曲)
- old summer days(智代アフター 作曲)
- memories(智代アフター 作曲)
- love song -piano-(智代アフター 作曲)
- Light colors(智代アフター OP 作詞)
- Life is like a Melody(智代アフター ED 作詞、作曲)
[編集] 註
- ↑ シナリオライターSPECIAL対談 『カラフルピュアガール』2004年7月号、 ビブロス、2004年
- ↑ 麻枝准インタビュー 「コンプエース」、vol.4、角川書店、2006年
- ↑ 3.0 3.1 『MOON.』おまけRPG内スタッフコメント
- ↑ 麻枝准・依澄れい『ヒビキのマホウ』第一巻、角川書店、2005年 ISBN 4-04713713-8 後書き
- ↑ 生い立ちに関しては「これであなたもゲームクリエイターになれる!」も参考にした
- ↑ 6.0 6.1 6.2 「keyシナリオスタッフロングインタビュー」 『カラフルピュアガール』2001年3月号、ビブロス、2001年
- ↑ ARM 「AIR雑記総括、前置き。~癒しという偽りの原風景と、喪失した父性~ 」2001年など
- ↑ 水瀬秋子。『Kanon』の登場人物の一人で、ヒロイン水瀬名雪の母親。
- ↑ 「MOON.企画書」『タクティクス設定原画集』コンパス、1998年 ISBN 4-87763-014-7
- ↑ 元長柾木 「回想-祭りが始まり、時代が終わった」脚注、『美少女ゲームの臨界点』東浩紀責任編集、自費出版、2004年
- ↑ 涼元悠一インタビュー Aria vol.1 FOX出版、2001年